「おい、橋本さん。何言ってるんですか?俺を怒鳴るとか頭おかしいでしょ」
取引先との打ち合わせから戻ったばかりの俺、橋本直樹48歳に、石山弘樹は見下したような笑みを浮かべながら言い放った。こいつは石山部長の息子で、去年入社してきたばかりなのに、全く仕事ができない。基礎知識もなければ、雑用すらまともにこなせない。それなのに「高学歴で部長の息子」という肩書きだけで、周りに圧をかけて思い通りにさせている。
社員たちはこいつを煙たがりながらも、権力には逆らえずヘコヘコするしかない。俺は会社の秩序を守るために何度も注意してきたが、効果はないどころか悪化するばかり。部長も息子には甘く、「俺の息子に口出しするな」と言い放つ始末だ。
最近では毎日寝坊や体調不良を理由に17時に出社するようになった。9時出社のルールはどこへやら。しかも1時間後には帰宅する。そんな奴のどこが真面目に仕事をしていると言えるのか。
「さすがにいい加減にしろ。どれだけ遅刻したら気が済むんだ」
そう俺が怒ると、こいつは言い放った。
「俺が社内売上1位ですよ。文句言えないぐらいの働きをしているんだから、口出さないでもらえますか?」
確かにこいつは2ヶ月前から成績表の一番上に名前が並ぶようになった。今まで1位だった坂本君との差も驚くほどだ。だが、こいつの仕事ぶりを見ている限り、到底信じられる数字ではない。時間を守らないのに売上だけは上がる。そんな妙な話があるだろうか。
「売上が良ければ何してもいいってわけじゃない。取引先に会いに行ってるわけでもないんだろう?」
そう言ってもこいつはまったく懲りる様子がない。
「俺は成果を残してるんだからいいでしょ。従約出勤がダメならやめるからな」
手に負えない。嫌な予感がして、俺は坂本君に直接話を聞くことにした。最近の弘樹の成績の急上昇について、何か知っているかどうかを。
最初はなかなか口を割らなかった坂本君だが、「絶対に誰にも言わない」と約束すると、ようやく重い口を開いた。その内容を聞いた瞬間、俺は背筋が凍る思いがした。
「そんなの出たらめだ。俺に嫉妬して適当なことを言ってるだけだろう。俺は少ない時間で仕事してるだけで、他人から何も奪っちゃいない」
弘樹に真実を突きつけて責めても、こいつは認めようとしない。ここで引き下がるわけにはいかない。俺はこの件をちゃんと明らかにして、こいつを本当の意味で追い詰めるつもりだ。



