「お前の相手は絶対無能だろうな」
その言葉を聞いた瞬間、俺は自分の耳を疑った。結婚すると報告しただけなのに、なぜそんなことを言われなければならないのか。
俺の名前は何条豊か。32歳。ゲームクリエイターとして10年間、この会社で働いてきた。大学在学中に作ったゲームがコンテストで優勝し、それがきっかけで今の会社にスカウトされたのだ。社長は俺の才能を買ってくれて、中退してでも来てほしいと言ってくれた。
それから俺はがむしゃらに働き続けた。20歳で入社して10年が過ぎた頃、会社は社長の娘である小江さんが継ぐことになった。41歳の美人で、切れ者という印象の女性だ。小江さんは俺のことを実の弟のように可愛がってくれた。
だが1年前から雲行きが怪しくなった。俺のいるゲーム開発部に新しい部長が就任したのだ。大山かずというその部長は、子会社からやって来たらしく、本社のことはあまり知らないようだった。しかも、なぜか俺のことを目の敵にしていた。
ある日、部長は突然こう言ってきた。
「お前、高卒なんだってな」
俺は大学を中退しているので、確かに高卒ではある。
「そうですけど」
そう答えると、部長は嘲笑うように言い放った。
「なんだ、無能がいたんじゃ業務に影響するだろう」
これまで一度もそんなことを言われたことがなかった俺は、ただただ驚くしかなかった。なぜそんなことを言われなければならないのか。
そして今、結婚報告をした時のことだ。
「ほう、そうか。お前の相手は絶対無能だろうな」
俺はきっぱりと言い返した。
「彼女のことを部長は何も知りませんよね。彼女を侮辱しないでください」
すると部長はにやりと笑って言った。
「だってそうじゃないか。最初は似たもの同士がくっつくもんだ」
その時、その場にどよめきが起こった。何が起きたのか、俺はすぐに理解できなかった。だが、そのどよめきの理由を知った時、俺は部長のある秘密を知ることになるのだった。



