「敵材書だ。そうじゃないか。」
同期にそう言い放たれた瞬間、俺は拳を握りしめた。後悔と怒りと悲しみが一気に押し寄せてきた。
俺の名前は西辺。38歳。自然豊かな田舎で生まれ、高校を卒業すると同時に就職した。進学しなかったのは、いわゆる家庭の事情というやつだ。都会の食品メーカーに就職し、営業部に配属された。
学歴もコネもなかったが、足と口で成果を出し続けた。気がつけば企画開発部に異動していた。「お前には適正がある」と上司が推薦してくれたのだ。
だが、頭を悩ませる存在がいた。同期の江藤だ。
江藤は最初から企画開発部に配属されていた。俺が営業部にいた頃は仲が良かった。お互いに頑張ろうな、と笑い合ったものだ。今は違う。
俺が一生懸命仕事をすればするほど、江藤は俺を見下した。仕事でもわざと足を引っ張ろうとする。資料を隠したり、連絡ミスを仕掛けたり、まるで子供じみた嫌がらせだった。
江藤のやり方は次第にエスカレートしていった。俺の小さなミスは積み重なり、上司の目は厳しくなっていった。
そんなある日、事件が起きた。
重要な会議の場で、俺は大きなミスを犯した。配布した資料が、その取引先のものではなく、別の取引先のものだったのだ。直前まで確認していたはずなのに。
「相手との契約に関わるデータを出すなんて、どうかしてるぞ」
上司にそう言われた時、俺は生きた心地がしなかった。
事件の後、俺は異動を命じられた。山奥の村にある小さな支社。事実上の左遷だ。
「なんでこんなことに」と頭を抱えていると、俺はある人物に呼び出された。江藤だ。
「人のいない場所で言ってやる。今までお前が目障りで仕方なかった。お前が左遷されるだけでなく、異動先まで決まるなんてな。今の俺は嬉しくて仕方ないよ」
江藤はそう告げた。
「ひょっとして、あの会議の件もお前が……」
俺の問いに、江藤は鼻で笑った。
「そうだよ。俺がやった。でも感謝しろよ。俺が口添えしてやったんだぜ。きっとお前は何も気づいていなかっただろうな」
俺は何も言えなかった。ただ、拳を握りしめるのが精一杯だった。
その後、俺は山奥の小さな支社に移った。静かな村で、目の前には川が流れている。仕事は少なく、時間はあった。
ある日、支社の窓から外を見ていると、川の辺りに人影が見えた。目を凝らすと、それは江藤だった。何かを引っ張り回しながら、あちこちの人に挨拶をしている。困惑した様子だが、江藤は最近、笑顔が増えたように思う。
俺はそんな江藤の様子を見て、ほっと息をついた。
(俺はこの村で、何かを変えるつもりだ。江藤に負けたままでは終わらない。)



