「利益も出せない無能は不要。激安の外注で十分だろう。」…

「利益も出せない無能は不要。激安の外注で十分だろう。」...

「利益も出せない無能は不要。激安の外注で十分だろう。」

俺を無能と決めつけたのは、我が社の新社長だ。俺はこの社長が原因でこの会社に転職してきたのに、本人は自覚がないらしい。ここまで言われてさすがに黙ってはいられず、退職届を提出した。ところが5日後、誰も予想していなかったとんでもない大事件が起こり、新社長は身を滅ぼすはめとなった。

俺の名前は横井、38歳。会社で暇を持て余していたところ、高校時代の同級生である安藤から連絡が入った。

「ちょっと飲みに行かないか。」

仲のいい相手の誘いを断る理由もなかったので了承したが、居酒屋に現れた安藤はかなりやつれていた。

「どうしたんだ?」

「うちの会社、ちょっとまずい状況になっててさ。俺が部長やってる情報システム部もかなりやばいんだ。社員数が少なくて、全然手が足りていないんだよ。」

今にも倒れそうな安藤を見て、考えるより先に言葉が出ていた。

「俺が手伝ってやるよ。」

「え?」

「お前の会社に転職する。求人情報サイトに出てたから応募しておくよ。」

安藤は最初、俺の発言を冗談だと思っていたらしい。しかし1ヶ月後、採用試験を突破し情報システム部に配属になり、ようやく俺が本気だったと分かったようだ。

「俺のためにそこまでしてくれたのか。」

「それもあるけど、前の会社でやることがなくなってさ。難しい仕事の方がやりがいがあるだろう。」

そう言って笑うと、安藤も柔らかい表情を浮かべた。

「お前が来てくれたら100人力だよ。」

「任せてくれ。」

こうして俺は安藤と共に働くことになった。

情報システム部は社内インフラの管理が主な仕事だ。サーバーやネットワークを構築し、外部からの攻撃やウイルスに対して保守作業も行う。パソコントラブルやIT機器の設置といった業務も担当していた。仕事量は多いが、社員数は俺を入れてわずか4名。安藤はシステム部のトップとして毎日目が回りそうなほど忙しくしていた。

「前の社長の時はまだマシだったよ。新社長の木田さんになってからひどくなったんだ。」

昼休み、安藤がため息混じりに語る。木田社長は営業出身でコミュニケーション能力は抜群だが、根性論で無理な経営をしており、社員の離職が相次いでいた。情報システム部も何人か辞めてしまい、そのしわ寄せが安藤に来ているというわけだ。

「増員は1名しか認められなかった。社長は昔、技術屋と争ったことがあるんだよ。当時営業だった社長が技術部に無理な納期を押し付けて、結局間に合わず大混乱になった。技術部が木田社長の責任だと会社に訴えた結果、当時決まっていた役員への昇進が白紙になったんだ。以来、社長は情報システム部を含む技術屋を憎んでるんだよ。」

安藤は頭を抱えながらさらに衝撃の事実を明かした。

「新社長として功績を出すために、今期中にコストを15%削減すると取締役会に約束したらしい。で、目をつけられたのが情報システム部だ。今うちの部署はとんでもないピンチに陥ってるんだよ。お前が転職する前に言っておけばよかったな。」

まさか俺が本気で転職するとは、安藤は想像していなかった。悪いのは安藤ではなく木田社長だ。

「情報システム部は社員数が社内最小。俺は部署の中で最年長だ。目をつけられやすい部署だったんだよ。存在感が薄いし、弱い部署だと思ってる人たちも多い。」

「俺が思っていたより大変な状況なんだな。」

「俺のために転職してくれたお前には本当に申し訳ない。」

深々と頭を下げる安藤に手を振って答える。

「転職を決めたのは俺だ。まあ、どうにかやっていくさ。」

安藤は心配そうな顔で俺を見ている。その顔は疲労の色が濃く、なんとかしてこいつを助けてやらなければという気持ちが強くなった。しかし、ことはそううまくは進まない。着任して間もなく、俺は社内の不審なメールの動向に気づいた。

特定のパターンのフィッシングメールが繰り返し届いているのだ。

「このメール、誰かが触ったら危ないかもしれない。社内に注意喚起しておいた方がいいと思うぞ。」

俺の提案に安藤が頷いて返す。

「分かった。報告書を作って提出しておくよ。」

ところが上層部からはこんな回答が送られてきた。

「メールを開かなければいい。そんな細かいことをいちいち報告するな。」

「だってさ。」

安藤が深いため息と共に上層部から送られてきた通知を俺に渡した。

「社長のサインが書かれているな。あの人は現場のことを何も理解していないんだ。」

木田社長とはまだ顔を合わせていないが、どうやら相当厄介な人のようだ。結局注意喚起は見送られた。

「ことが起こってからでは遅いぞ。」

と危惧していたところ、1週間後に早速事件が起こった。

「アンチウイルスに感染している。感染源はどこだ?」

「社長室のパソコンだ。」

「ネットワークから切り離して感染拡大を防ぐぞ。」

俺が即座に対応したおかげでウイルス拡散の防止に成功した。ところが数十分後に情報システム部にやってきた木田社長は、一方的に俺たちに文句を言ってきた。

「ネットが切れたぞ。今すぐ直せ。」

「社長のパソコンからウイルス感染をしていたようで。」

「そんなの知らん。俺のパソコンは正常だ。」

社長の罵声を回避しつつ話を聞いたところ、怪しいメールを開き、URLをクリックしていたことが判明した。やはり感染源は社長だったのだ。しかし、いくら説明してもこちらの話を一切聞かない。

「早く直せ。さもないとお前ら全員首だ。」

そう言い捨て、情報システム部を後にした。

「ウイルスは完全に封じ込められたかわからない。ログを見たら怪しい挙動がいくつか見つかった。このままネットワークを切断して詳しい調査をした方がいいぞ。」

「でも復旧しないとうちの部署はさらにピンチになる。ネットを復旧させよう。社長命令さ。仕方ない。」

俺の言葉に安藤は疲れた様子で答えた。

社長はネットワークの突然の切断を相当腹に据えかねていたらしい。役員会で情報システム部のセキュリティ管理に問題があったと報告した。木田社長の言葉を信じた役員会はうちの部署に注意を実施。部署の評価が一気に下がってしまった。

「来年のボーナスは期待できないな。」

安藤が力のない笑みでつぶやく。心労が重なってしまったのだろう。ある日、安藤が仕事中に倒れてしまった。緊急搬送された病院で診断を受けた結果、過労が原因だと告げられる。同行した俺に医者が入院が必要だと付け加えた。

「実は社長のパソコンのウイルス対策のためにずっと残業続けていたんだ。作業はまだ残ってる。お前に任せてもいいか?」

「ああ、やっておくよ。」

ベッドでぐったりしている安藤と約束する。安藤が残した仕事以外にもやるべきことがある。このまま黙っていればまた同じことが繰り返されるだろう。次に倒れるのは安藤とは限らない。社長に直接ぶつかってでも現場の実情を分からせてやる。俺は決意を固めると安藤の病室を後にした。

翌日、俺が向かったのは社長室だ。安藤が倒れた原因を根本から改善しなければ同じことが繰り返されてしまう。それに親友を酷使したことに腹を立てていたので、社長に直訴するという選択をしたのだ。

「社長、失礼します。」

「なんだ、お前は。」

「先日転職してきました。情報システム部の横井です。社長にお話があります。」

軽蔑な顔をする社長に、俺はハキハキとした声で言い放った。

「安藤部長が倒れたのは、社長のパソコンのウイルス対応のため連日徹夜していたからです。改めて怪しいメールは開かないようにと社内に注意喚起をお願いします。」

すると見る見るうちに木田社長の顔色が真っ赤になった。その表情には抑えきれない怒りが滲んでいる。

「転職してきたばかりの新人が偉そうに。お前に構っている暇なんかないんだよ。うちの経営は今、少々危機的な状況にある。俺は社長として責任を持ってこの事態に取り組まなければならない。弱い部署の新人とは背負っているものが違うんだよ。」

社長はどこか追い詰められている様子だ。この人がトップになってから会社は悪い方向へ進んでいる。そんな自分に苛立ちや焦りを抱いていたのだろう。俺は最悪のタイミングで社長に意見してしまったのだ。

「利益も出せない無能は不要だ。社内システムなんて激安の外注で十分だろう。底辺技術屋が偉そうな口を聞くな。」

その瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。

「そうですか。わかりました。」

俺は一礼を返し、自分の部署へ戻る。

「おい、どこに行く?」

社長の制止を振り切り、部署へ戻ると手早く退職届を作り、再び社長室へ向かった。

「こんな会社には2度と戻りません。」

木田社長の目が真上に吊り上がる。

「はいはい。勝手にすればいいさ。後から泣きついても知らないからな。」

社長は余裕の態度で退職届を受け取った。

「では失礼します。」

情報システム部へ戻ると社員たちに事情を話す。入院中の安藤にも電話をかけ、会社を辞める旨を伝えた。

「そうか。分かった。仕方ないな。すまない。結局役に立てなかった。」

「いや、いいんだ。」

「横井、俺の話を聞いてくれるか?実はずっと考えてたんだ。お前が転職してきたから、俺もやっと本音で仕事の話ができる相手ができた。このまま会社にしがみついてもいずれ共倒れになる。俺も退職しようと思う。お前と同じタイミングで。」

予想外の言葉に俺は目を丸くした。

「お前まで巻き込む気はなかったんだが。」

「巻き込まれたわけじゃない。お前が来てくれて、初めて自分の腕を信じてもいいと思えたんだ。転職先を一緒に探そう。」

病室のベッドの上で、安藤は久しぶりに晴れやかな顔をしていた。

それから5日後、退職届は無事に受理され、1ヶ月後に会社を去ることが決まった。残りの期間は引き継ぎ業務の予定だ。しかしこの日は朝から社内が慌ただしい空気で、部署に行くと慌てた様子の社員に呼ばれた。

「何があったんだ?」

「会社のシステムが完全にロックされたんです。全て暗号化されているんですよ。」

画面には身代金要求のメッセージが表示されている。要求額は3億円。とんでもない数字に俺は目を丸くした。

「ランサムウェアか。」

そうと同時に先日の件を思い出す。ログに残されていた怪しい挙動だ。退職決定のドタバタで、安藤から任された社長のパソコンのウイルス対策業務は止まっていた。おそらく最初のウイルス感染で潜伏していた爆弾が、この期間中に爆発したのだろう。

「おい、一体どうなってる?」

木田社長と複数の人間が情報システム部に押しかけてきた。システムの停止に気づいたのだろう。

「現在分かっている情報を説明します。」

俺の説明に木田社長の顔色が徐々に青くなっていく。全員が冷めた目で社長を見ていた。

「横井、お前が何とかしろ。」

俺は少し考えた。本当のことを言えば、やろうと思えばできる。しかし俺はすでに退職届を出した身だ。無能と切り捨てた人間に、今更頭を下げて助けを乞う。その虫の良さに付き合ってやる義理はない。

「俺の手には負えません。相手は我が社のシステムを全て掌握しています。サイバーセキュリティ会社に依頼するしかありませんね。」

俺の提言に木田社長は渋々動く。高額のサイバーセキュリティ会社に連絡を入れ、その日の午後には担当の人がやってくると知らせが入った。作業はうちの部署と共同で行うことになっている。午後になりセキュリティ会社の担当者を待っていると、予想外の人物が姿を表した。

「あれ、森じゃないか。森先輩。こんなところで何をしてるんですか?」

「ランサムウェアに感染したからなんとかしてくれって依頼が来たんだよ。もしかして、お前ここで働いているのか?」

森先輩の後ろから顔を出した木田社長が、混乱した様子で俺に問いかけてくる。

「知り合いなのか?」

疑問に答えたのは森先輩だ。

「横井は前の職場の後輩です。社長さん、横井がいるなら、こいつにランサムウェア対策を任せていればよかったのに。そうしたら身代金要求なんてされませんでしたよ。」

「は?あ、な、なんでこんな新人に?」

「知らないんですか?横井は凄腕のホワイトハッカーですよ。」

木田社長が目を丸くして俺を見る。そう、俺はこの会社に来るまでホワイトハッカーとして働いていた。前の会社では仕事中毒気味で、依頼があれば片っ端から解決し続け、とうとうやることがなくなってしまったのだ。暇を持て余していたところに安藤から連絡が来て、今に至る。

「こいつは俺より優秀です。後輩に抜かれるのが嫌で、俺は転職したんですよ。」

「そんな嘘だろう。」

木田社長の絶叫と同時に着信音が鳴る。

「あと、とりあえず後は任せた。」

社長は困惑したまま俺たちの前から立ち去った。

翌日、俺と森先輩は緊急対策会議に出席していた。会議室には多数の幹部や役員も集まっている。

「まずはこちらをご覧ください。」

森先輩がスクリーンに映しながら調査結果を報告し始めた。昨日、俺と森先輩で夜遅くまでかけてまとめたものだ。

「ランサムウェアの感染経路を特定しました。社長のパソコンで間違いありません。」

森先輩に続き、俺は幹部と役員に説明をする。

「俺が着任して間もなく、社内の不審なメールの動向に気づいたため、安藤部長を通じ、全社への注意喚起をお願いしました。しかし社長からの返答は『そんな細かいことをいちいち報告するな』というものでした。その後ほどなくして社長のパソコンからウイルス感染を確認し、ネットワークを遮断しましたが、社長は『ネットを元に戻さないと首だ』と脅され、仕方なく復旧しました。さらに社長はうちのセキュリティ管理に問題があったと報告し、注意を実施。騒動の後、安藤部長が過労で倒れました。」

「あ、あ、違う。俺のせいじゃない。」

「それはどれについての発言ですか?安藤部長が倒れたことでしょうか?それともランサムウェアに関することですか?」

俺は鋭い言葉で返す。

「仮に安藤部長が倒れていなかったら、ランサムウェアの潜伏を検知できていたかもしれません。」

俺の言葉に森先輩が頷く。

「依頼費用、身代金の3億円、その他諸々。社長の経営判断の過失が招いた損害はかなりの金額になります。社長、以前俺におっしゃってましたよね。『利益も出せない無能は不要』だと。情報システム部をないがしろにした結果がこれです。」

木田社長は頭を抱え、ブツブツとつぶやくばかりだった。

「身代金を払うか、犯人と交渉するか、どちらかです。」

森先輩の宣言を最後に、会議は波乱のまま幕を閉じた。

退職の日、荷物をまとめていると木田社長が姿を表した。

「横井、頼む。残ってくれ。俺が悪かった。」

深々と頭を下げる弱々しい姿だった。安藤がボロボロになるまで働かされたあの日々を思い出すと、今更の謝罪などかけらも響かない。

「俺には関係ない話ですね。」

「お願いだ。これからは心を入れ替える。」

「もう遅いです。誰もあなたの言葉を聞きません。社長の器じゃなかったんですよ、あなたは。」

背後から社長のすすり泣きが聞こえてきたが、一度も振り返らなかった。

それから1ヶ月後、転職先で試用期間を終えた俺は、馴染みの居酒屋で安藤と乾杯していた。

「お疲れ様。転職おめでとう。」

「ありがとな。」

すっかり顔色が良くなった安藤が笑顔を浮かべる。俺が会社を去った翌日、安藤は無事に退職した。現在は俺と同じように転職先で働いている。

「あの時の約束、ちゃんと果たせたな。」

「ああ、お互いな。」

「そういえば、木田社長、解任が正式に公表されたらしいぞ。会社に残ってる知り合いから教えてもらったんだ。」

安藤によると、会社側はまだ犯人と交渉中らしい。かなりの損害で、会社は社長を訴える準備を進めているとのこと。仮に訴えられたら、社長は多額の損害賠償を支払うはめになる。

「無駄に高い高級車に乗ってたし。あれを売れば少しは足しになるかもな。」

俺の発言に安藤は苦笑いを浮かべながら、あることを教えてくれた。

「それが、社長の奥さんが離婚を突きつけて、財産分与で車を持っていったらしいぞ。」

「え、マジで?」

「まあ、自業自得だな。」

家族も会社も、誰も木田社長を助けようとしない。あの人に待っているのは暗い未来だけだ。一方、俺は転職先でうまくやっている。今までの経験と知識をフル活用して会社に貢献していた。平社員スタートだが、来年には昇進できるだろうと上司から言われている。他の元情報システム部の社員たちも転職先で順調なスタートを切ったようだ。今度は全員で集まり、飲み会でも開催しようかと考えている。

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