「もう家に着いたわ。子供たちの面倒、よろしくね」——義姉からの突然の電話に、私は耳を疑った。ハワイに行くから、今すぐ子供たちを世話しろという。あと五分で搭乗だと言う。いつも義母に子育てを丸投げして遊び歩いているくせに、都合が悪くなれば他人の私に押し付ける。私は小さく息を吐き、事実を告げることにした。「残念ですが、お世話はできません。私、昨日離婚したので」。受話器の向こうで義姉が黙り込む。背後…

「もう家に着いたわ。子供たちの面倒、よろしくね」——義姉からの突然の電話に、私は耳を疑った。ハワイに行くから、今すぐ子供たちを世話しろという。あと五分で搭乗だと言う。いつも義母に子育てを丸投げして遊び歩いているくせに、都合が悪くなれば他人の私に押し付ける。私は小さく息を吐き、事実を告げることにした。「残念ですが、お世話はできません。私、昨日離婚したので」。受話器の向こうで義姉が黙り込む。背後...

もう家に着いたわ。子供たちの面倒、よろしくね。

突然かかってきた義姉からの電話に、私は言葉を失った。え、どういうことですか?

だから言ってるでしょ。今から私たちはハワイに行くの。あんたが来るついでに、うちの子供たちの面倒を見てって言ってるのよ。あと5分で搭乗しないといけないんだから。何度も言わせないで。

義姉が何を言っているのか理解できず、呆けて口が塞がらなかった。この人たちはいつも自分勝手だ。子育ては義母に任せ切りで、自分たちはいつも出歩いて遊んでいる。そんな義母に感謝もせず、義母が頼れないと分かったら、今度は他人の私に擦り寄ってくる。

とにかく子供たちは家であんたを待ってるんだから、責任持って世話しなさいよね。

私は小さくため息をつき、ありのままの事実を伝えることにした。

残念ですが、お世話はできませんよ。だって私……

え、なんで?

私、昨日離婚したので。

私の一言に義姉は黙り込んだ。彼女の後ろからはハワイ行きの飛行機の最終搭乗アナウンスが聞こえてくる。

――あれは、つい数週間前のことだ。

私は三十二歳の専業主婦。夫の正さんは四歳年上の三十六歳で、結婚して五年になる。私たちは会社で出会った。私が経理で、正さんが営業。営業部ではよく経費伝票のミスがあり、私は書類を届けに足を運んでいた。いつも丁寧に処理していただき、ありがとうございます。

私たちに対して冷たい態度を取る人も多い中、正さんはいつもそんな風に優しい言葉をかけてくれた。誰に対しても分け隔てなく、優しく気を遣える人。好きになるのに時間はかからなかった。

そこから私は積極的にアプローチをした。車内でアピールを重ね、なんとか営業部の人と飲み会をセッティング。そして無事に二人きりのデートにこぎつけ、告白をした。

ここまで積極的に来てくれた子は初めてだよ。

そう照れくさそうに笑い、交際をOKしてくれた。それからは順調に進み、プロポーズをされ、結婚。毎日忙しい正さんの希望もあり、私は仕事を辞めて専業主婦となった。

ほら、け太、早く支度しなさいよ。今日はおばあちゃんちに行くんだから。

はーい。

返事はするものの、ソファーに座ったままの息子はまだ寝ぼけているのか、目がほとんど開いていない。この子は私の三歳の息子、け太だ。け太は寝起きが悪く、いつもこんな調子で準備に時間がかかってしまう。

ほとんど動かない息子をなんとか着替えさせ、家を出た。正さんの実家は私たちの家から一駅先にある。そこには七十歳になるお母さんと、正さんの兄夫婦が住んでいる。義父が早くに亡くなっており、一人にさせておくのは心配だと話し合いの結果、長男夫婦が一緒に住むことになったのだ。

お母さんはとても優しく、いつも本当の娘のように私に接してくれる。け太もそんなお母さんが大好きで、家が近いこともあり、こうしてよく遊びに行くのだ。

おばあちゃん、来たよ。

ちょっとけ太、まずは手洗いうがいしなさい。

玄関を開けるや廊下に飛び出していくけ太の背中に向かって叫ぶと、奥の扉からお母さんがニコニコしながら顔を覗かせた。

あらあら、元気がいっぱいでいいわね。けん君、いらっしゃい。

お母さん、お邪魔してます。いつもすみません。

いいのよ。子供は元気が一番なんだから。お茶を入れてあるから、まいさんも早くいらっしゃい。

そう言ってけ太とお母さんはリビングに向かう。私も手洗いを済ませて部屋に入ると、長男夫婦の子供たちがおもちゃを散らかしながら遊んでいた。

母さん、またえみこさんはお出かけですか?

ええ、どうしても買いたいものがあるらしくってね。

ニコニコ答えながらお茶を注ぐお母さん。またか、と思った。長男夫婦のお嫁さん、えみこさんはいつもこんな調子だ。夫婦には四歳と二歳の子供がいるのだが、いつも日中はお母さんに面倒を任せて、どこかに出かけてしまっている。いくら同じ家に住んでいるとはいえ、そんなに頻繁に出かけるなんて。お母さんが負担になっていないといいけど。

心の中でため息をつく。何度かこのことを正さんに伝えても、母さんなら大丈夫だの一点張りで取り合ってくれなかった。確かに長男夫婦とお母さんの問題なのだから、私が口を出すべきではないのだろう。それでも、あの優しいお母さんが我慢していないだろうかと気になってしまう。

そんなことを考えていると、家の電話が鳴った。お母さんがパタパタと電話に向かい、受話器を取る。

あら、どうしたの? うん、うん……あら、そうなの。分かったわ。すぐに出るわね。

お母さん、どうしましたか?

たけやが忘れ物をしたらしくてね。今から駅まで届けに行ってくるから、留守番をお願いしてもいいかしら?

分かりました。もちろんです。

そう返事すると、たけやさんが申し訳なさそうな顔をして、忘れ物を取りに二階へ向かっていった。たけやさんはお母さんの長男であり、えみこさんの夫だ。忘れ物くらい、自分で取りにくればいいのに。心の中で悪態をついた。なぜなら義実家は駅から歩いて数分なのだ。それなのに、たけやさんは何かある度にわざわざお母さんを駅まで呼びつける。こうして忘れ物を届けに行くのも、私が見ているだけでも三度目だ。

こういったことが起きる前から、正直あまり長男夫婦とは気が合わないと感じていた。ただ、直接関わることも少ないし、所詮は他人。そう思い、あまり気にしすぎないように気をつけていた。

翌週のある日、け太がおばあちゃんに会いたいと何度もせがむので、私たちはまた義実家に向かっていた。お母さんはたくさん孫に会えて幸せだわと、快く迎え入れてくれた。

うわ、またえみこさんいないじゃない。

リビングに入ると、先週と同じように子供たちが遊んでいる。そこにえみこさんの姿はない。こんなに頻繁にお母さんに面倒を見させて、遊びに出かけているのか。同じ親として呆れてしまった。

そしてふとお母さんの方を見ると、なんだかフラフラしている。違和感を覚えた私は声をかけた。

お母さん、大丈夫ですか? 少しふらついてるように見えますけど。

まいさん、ありがとうね。大したことはないと思うんだけど、昨日から目まいが止まらなくて……少し休ませてもらえないかしら。

そう話す義母の顔は真っ白で、明らかに体調が悪そうだった。とっさに額に手を当てると、とても熱くなっている。熱もかなり高い。なんだか嫌な予感がする。

寝たら治るから、というお母さんをなんとか説得し、私は近くの病院に連れて行った。お母さんは座っているのも辛そうだったが、幸いすぐに診察の順番が回ってきて、二人で一緒に診察室に入った。

うん、おそらく過労でしょうね。

過労ですか?

気が休まる時間がないとか、何か大きなストレスを抱えていないですか?

お医者さんの問いかけに、お母さんは黙り込んでしまう。口には出せないが、やはり子供たちの世話が負担になっているのだろう。そう確信した。

すぐに入院しなければいけないというわけではないらしい。だがかなり疲れが溜まっており、危ない状態なので、なるべく静かな場所でゆっくり過ごすようにとのことだった。

お母さんを支えながらなんとか家に帰ると、そこにはえみこさんの姿があった。おそらく私たちが病院へ出かけている間に帰ってきたのだろう。ちょうど良かったと思い、お母さんのことを伝えようとすると、えみこさんの口から信じられない言葉が飛び出した。

あんた、子供たちを置いてどこに行ってたの?

え? お母さんの体調が悪そうだったので、病院に。

そう言うと、えみこさんは大きくため息をついた。

ちょっと体調が悪いくらいで大げさな。その間に子供たちに何かあったらどうするの?

家の目の前の病院ですし、三十分くらいで帰れると思ったので。そんな言い方はないんじゃないですか?

まいさん、いいのよ。

私を止めようとするお母さん。だが、子供を置いて出かけていたのはえみこさんの方じゃないか。自分のことを棚に上げてお母さんを責める彼女に、ふつふつと怒りが湧いてくる。

えみこさん、お母さん、過労でかなり危ない状態なんです。

ふん。それで?

それでって……えみこさんの子供たちの面倒が、お母さんの負担になっているんじゃないですか。

まいさん、もういいのよ。ありがとう。えみこ、相談もせず勝手に留守にしてごめんなさいね。

弱々しい声で話すお母さんを見て、私はぐっと言葉を飲み込んだ。いまはお母さんを休ませることが優先だ。ここで口論をしている場合じゃない。

えみこさん、なるべく安静にさせてあげてくださいね。

そう伝えた後、お母さんを二階へ連れて行き、け太を連れて家を後にした。

お母さん、大丈夫かしら。今日、正さんに相談してみよう。

家への帰り道でそう決意し、正さんの帰宅を待った。だが、零時を過ぎても帰ってくる気配はなく、朝六時頃にやっと玄関のドアがガチャリと開いた。

お母さんが大変な時に朝帰りなんて。そんな思いをこらえ、眠たい目をこすりながら玄関へ向かう。

まさん、お帰りなさい。朝になるなら連絡をくれたらよかったのに。

ああ、取引の人が盛り上がってね。大変だったんだよ。

私の方を少しも見ずに靴ひもを解きながら話す正さん。

着替えて落ち着いたら、お母さんのことで少し話したいんだけど。昨日、お母さんの体調が悪くて病院に連れて行ったの。

それ、今じゃなきゃだめか。こっちは朝まで飲みに付き合わされて、眠いし疲れてるんだよ。また今度にしてくれ。

ちょ、ちょっと。

引き止めようとする私をよそに、正さんはどんどん寝室に向かっていき、そのまま扉をバタンと閉めてしまった。いくら疲れているとはいえ、実の母親が心配ではないのだろうか。私はその場にぽつんと取り残されてしまった。

そこから数日、正さんと話すタイミングを伺っていたが、毎日零時を過ぎても帰ってこず、休日は急ぎの仕事だからと朝早く出勤することが増え、なかなか話せずにいた。

いつもけ太と一緒に寝ちゃうから気づかなかったけど、こんなに毎日遅いなんて。結婚した当時は遅くても二十時には帰宅していたし、零時を超えるようなら前もって連絡をしてくれていた。それが今や、連絡すらなく、ほとんど家にいない状態だ。心の中にモヤモヤとした気持ちがどんどん膨らんでいたが、きっと仕事が忙しいのだろうと思い込むことにした。

それからしばらくが経ったクリスマスの日。私は家でけ太の好きなチョコレートケーキを食べていた。

ケーキ、美味しい。ご飯が毎日ケーキだったらいいのに。

でも、け太。ケーキばかり食べてたら甘くて虫歯になっちゃうよ。

いやだ。

そう言って唇を尖らせるけ太。正さんは仕事でいないが、楽しい家族団らんの時間だ。

二人でゆっくりしていると、突然スマホが鳴った。発信元を確認すると、えみこさんからの電話だった。せっかくのクリスマスだ。正直、け太との楽しい時間を邪魔されたくない。そう思いながらも、仕方なく電話に出た。

もしもし、えみこさん。

ああ、もしもし。まいさん、突然ごめんね。

大丈夫です。どうしたんですか?

さっきね、お母さんが倒れたから救急車を呼んだんだけど。

き、救急車?

えみこさんの突然の言葉に、驚きを隠せない。それにお母さんが倒れた? 一体何があったのだろうか。不安で心拍が早くなる私をよそに、えみこさんは淡々と話を続ける。

そうそう。それで今、病院にいるらしいんだけど、まいさん行ってきてくれない? 誰か身内がいないと、色々手続きできないらしいんだよね。

わ、私は大丈夫ですけど。

本当? 助かる。ほら、今日クリスマスだから、子供たちとケーキを食べたくてさ。じゃ、後はよろしくね。

じゃ、ちょっと混乱している私をよそに、えみこさんはすぐに電話を切ってしまった。お母さんが倒れたっていうのに、心配じゃないの? それにケーキを食べたいって、そんな状況じゃないじゃない。彼女の非常識さと身勝手さに腹が立つ。でも、今はえみこさんを責めている場合じゃない。とにかく病院に向かわないと。

なんとか気持ちを落ち着かせて、け太をベッドまで連れて行き、病院へ向かった。病室に着くと、ベッドの上のお母さんが目を閉じて寝ているようだった。無事だったことに一安心したのも束の間、すぐにお医者さんと看護師さんがやってきた。倒れた原因は、やはり過労だそうだ。症状や体の状態から、ほとんど寝ていなかったのではないかとのことだった。そしてお母さんが高齢ということもあり、しばらく安静入院が必要だと説明された。

お母さんを病院に連れて行った時から、きっと何も状況が変わっていなかったんだ。なぜ気づくことができなかったのか。そう自分を責めると同時に、ますますえみこさんへの苛立ちが大きくなっていった。

このままお母さんを放っておけない。どうにかしないと。私はスマホを開き、電話をかけた。

もしもし、大輔さんですか?

ああ、まいさん、久しぶりだね。

お久しぶりです。こんな時間に突然すみません。

いやいや、大丈夫だよ。年寄り二人でテレビを見ていただけだからね。ははは。

優しい笑い声が聞こえる。大輔さんはえみこさんのお父さんだ。私とけ太がお母さんの家にお邪魔している時に、たまたま大輔さんもえみこさんに会いに来ており、そこで知り合った。実は大輔さんも近所に住んでおり、もし何か必要になったら遠慮なく言うようにと連絡先を交換していたのだ。

それで、どうしたんだい?

実はお母さんとえみこさんのことで、相談があって。

私は、普段えみこさんがお母さんに育児を任せて頻繁に出かけていること。その負担でお母さんが過労になり、病院に連れて行ったこと。そしてついに倒れてしまい、入院していることを伝えた。大輔さんは優しい声で相づちを打ちながらも、だんだんと呆れたような声に変わっていき、苛立ちが伝わってきた。

うちの娘が迷惑をおかけしたね。申し訳なかった。あとは私たちに任せてくれ。教えてくれて、ありがとう。

大輔さんが優しい声でそう言うと、電話が切れた。なんだか告げ口をしているみたいで気が引けたが、誰よりも家族を大切にする大輔さんに動いてもらえるなら安心だ。入院の手続きを一通り終えて、その日は病院を後にした。

その翌日、大輔さんから電話があり、報告を受けた。どうやらえみこさんに相当怒ってくれたらしく、今度同じようなことをしたらただでは置かないと釘をさしてくれたみたいだ。そして病院からも連絡があり、お母さんは一週間の入院が必要になり、退院予定日は一月二日となった。

それから私は毎日病院に足を運んだ。ただ心配だったということもあるが、おそらくあの息子夫婦はお母さんのお世話をしないだろうと思っていたのだ。そして予想通り、息子夫婦は一度もお見舞いに来なかった。

ほら、私、クリスマスに倒れちゃったでしょ? きっとみんなでゆっくり過ごしたかったのね。あまり会いに来てくれないし、嫌われちゃったかしらね。

お母さん、そんなことないですよ。

入院中、お母さんは度々そんなことを漏らすようになった。息子や孫に会えず寂しい思いをさせてしまっていると感じた私は、耐えられなくなり、正さんになんとか時間を作って顔を見せてあげられないかと相談した。だが、正さんは仕事が忙しいの一点張りだった。

十分でもいいから、顔を見せてあげてほしいの。どうにかならないの?

だから何度も言ってるだろう。仕事に穴を開けられないんだ。

仕事、仕事って……実の母親が入院してるのよ。前にお母さんが倒れた時も、俺は疲れているからって。そんなことばっかり。ほとんど家にも帰ってこないし、休日も仕事ばかり。最後にけ太と遊んだの、いつか覚えてる?

働いていないお前に、何が分かるんだ。

そんな言い方……。

まさか正さんの口からそんな言葉が出るとは思ってもみなかった。誰にでも優しさを忘れない。そんなところを愛していたのに。もう、私が好きだった彼はいなくなってしまった。そう思った。

そして年が開けた一月二日、朝ご飯の片付けを終えてのんびりしていると、スマホが鳴った。発信元はえみこさんだった。

あ、もしもし。まいさん?

何の用ですか?

何? 冷たい。怖いんだけど。

相変わらずの調子だ。もう慣れてしまったのか、呆れきっているのか、怒る気にもなれない。だが次の瞬間、えみこさんから衝撃的な言葉が飛び出してきた。

もう家についてるでしょ? 私と旦那で今からハワイ行くから、ついでに子供たちの面倒を見ておいてね。

え? どういうことですか?

もう時間ないんだから、何度も言わせないでよ。あと五分で搭乗しなきゃいけないの。

呆気に取られ、開いた口が塞がらない。この人たちはどこまで自分勝手なのだろう。いつも私の想像を超えてくる非常識さだ。私は小さくため息をつき、ありのままの事実を伝えることにした。

私、お世話しませんよ。

あ、なんで?

だって私、昨日離婚したので、もうあの家に行くことはありませんから。

き、昨日……どういうこと?

電話口のえみこさんは混乱しているようだ。わざわざ全てを言う必要もないかと思ったが、お兄さんも一緒にいるみたいだし、この際だ。私は全てを話すことにした。

正さん、浮気してたんです。だいぶ前から連絡もなく、家にもほとんど帰ってこないことが続いていたので、怪しいとは思ってたんです。なので探偵を雇ったら、案の定、真っ黒でした。なので昨日、証拠を突きつけて離婚しました。なので、お世話もしませんし、あなたたちの子供の面倒は見れません。正さんも、どうせ浮気相手の家にいるんじゃないですかね。旅行をキャンセルするなりして、どうにかしてください。

いいわよ。

え?

別にいいわよ。あんたを当てにした私がバカだった。そういえば、お母さん、今日退院って言ってたわよね。なら、お母さんに任せるわよ。

ちょっと、自分が何を言ってるのか分かってますか? 退院したての人が、小さい子供の面倒なんて見れるわけないでしょ。

まいさんにはもう関係ないでしょ。じゃあね。

えみこさん、一方的に電話が切れた。あの二人のことだ。おそらくそのまま飛行機に乗り、ハワイへ向かったのだろう。このままではお母さんだけでなく、子供たちまで危ないかもしれない。私はいても立ってもいられず、ある場所に連絡することにした。

そして一週間後、えみこさんからものすごい剣幕で電話がかかってきた。

ちょっと、どういうことか説明しなさいよ。

説明も何も、私はするべきことをしただけです。

あんたのするべきことが、児童相談所に通報するってことなの? 私たち、虐待なんかしてないじゃない?

家に着くと子供たちがおらず、児童相談所から連絡が来たことに驚いたのだろう。かなりパニックになっているようで、電話越しに大きな声が聞こえ続けている。

二人がハワイに旅立った後、私は児童相談所に虐待の疑いで連絡を入れていたのだ。というのも、病院からお母さんの入院が延びるという連絡があり、お母さんはまだ病院にいた。とてもじゃないが子供たちを見れる状態ではなく、このままでは子供二人が危ないと思い、児童相談所と大輔さんに連絡を入れ、引き取ってもらうことにした。

お母さんの証言もあり、えみこさんたちの行動は虐待認定され、子供たちは大輔さんの家で保護されることになったというわけだ。

子供たちとはもう二度と会えないでしょうね。でも、これがあなたたちが自分勝手に行動し続けた結果よ。あと、あなたのお父さんにも連絡しているから。相当怒っていて、あなたを勘当して、自分たちが孫を責任を持って育てると言っていたわ。

勘当……

だんだんと言葉が少なくなるえみこさん。まさかこんな大事になるとは思ってもみなかったようだ。自分勝手な行動を続けた結果、全てを失ってしまった彼女を哀れに思った。

じゃあ、あとはお好きにどうぞ。もう連絡してこないでください。

そう言い残し、私は電話を切った。それからしばらくが経ち、大輔さんからお詫びも兼ねて近況報告をしてもらった。旦那のたけやさんは今回の件が会社に広まり、周囲からの視線に耐えられず自主退職したらしい。会社をすぐ辞めたとはいえ、失った社会的信用を取り戻すには、相当な時間がかかるだろう。そしてたけやさんの退職をきっかけに、えみこさんとたけやさんは喧嘩が多くなり、すぐに離婚したそうだ。

パパ、助けてって、えみこからしょっちゅう連絡が来るんだよ。えみこは一人で生活したことがなかったから、きっと苦労しているんだろう。アルバイトもしているみたいだけど、お金が厳しいみたいでさ。

そうなんですね。

まあ、勘当したから連絡はほとんど無視してるんだけどね。親である私たちの責任だけど、気にしないで欲しいかな。とにかく、まいさんにもたくさん迷惑をかけてしまって、すまなかったね。

いえいえ。お孫さんたちが無事で、本当に良かったです。

まいさんも、何かあったらすぐ連絡してきなさいね。女手一つじゃ、大変なことも多いだろうし。

ありがとうございます。助かります。じゃあ、また。

そう言って大輔さんが電話を切る。正さんとも離婚したのに、それでも私のことを気にかけてくれるなんて。どうしてあんなに素敵な人から、あんなに非常識な子供が生まれたのかと考えてしまう。

お母さんも、えみこさんと離れたことで無事に体調が回復し、元気にやっているらしい。たまに連絡を取って、会うこともあるくらいだ。

そして私も、離婚してしばらくが立ち、今は両親の家で暮らしている。両親は孫が毎日見れて幸せだと、快く受け入れてくれた。

け太、靴下がない。

もういつもの引き出しに入ってるでしょ。

やはり一人は大変だし、辛いこともある。それでも、この小さな怪獣と一緒なら、楽しくやっていけるだろう。そう思えるのだった。

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