結婚記念日に夫から贈られたブランドバッグ。それが、夫の不倫相手とお揃いだと気づいた瞬間、私の人生は大きく変わった。「お前だけは特別だ」と言い訳する夫を、私は二度と信じることはできなかった。離婚を決意した私は、夫から慰謝料を取ったのはもちろん、あのバッグを売ってちょっとしたボーナスまで手に入れた。新しい恋愛に備えて美容に力を入れようと決めた矢先、今度は自分の妹の結婚式で、まさかの大事件が起こっ…
離婚を決意した瞬間、私は夫の顔を見て、これまで積み重ねてきた信用が全て崩れ去る音を聞いた。夫は私に、不倫相手と同じバッグを、よりによって結婚記念日のプレゼントとして贈ってきたのだ。私を馬鹿にしているとしか思えなかった。 夫は言い訳を始めた。「お前だけは特別だ」と。でも、散々嘘をついて騙してきた男の言葉を、もう信じることはできなかった。彼は私の仕事の成功を「自分が支えたからだ」と主張したが、私は自分の力で掴んだものだと知っている。 夫の両親も息子の言葉を疑っていた。義父は「お前が田舎育ちにコンプレックスを持っていることは知っている」と夫を窘めた。実の親から信用されていないことが、夫には何より堪えたようだった。 でも、最終的に決めるのは私だ。私は夫に言った。「あなたみたいに他人を頼って利用して出世しようとする人とは、もう家族でいたくない。離婚させていただきます」 夫は全てを諦めたようだった。その日、疲れきった夫は彼の両親に連れられて実家に帰っていった。彼が私たちの家に戻ってくることは二度となかった。 私は夫の不倫を関わった女性たち全員に伝えた。すると、夫は私だけでなく、不倫していた女性全員から訴えられることになった。慰謝料を支払いきれず、夫は借金を背負い、会社も実質的に首になった。今は小さな工場で働きながら、地道に借金を返しているそうだ。 夫からの慰謝料はもちろん貰った。そして、あの不倫相手とお揃いのバッグは、ほとんど使っていなかったので売ることにした。新品同様だったので、驚くほど良い値段で売れた。ちょっとしたボーナスをもらったみたいで嬉しい。 別れてから、改めて結婚って何だろう、人生に大事なものって何だろうと考えた。私にとって一番大事なものは、今も昔も変わらず仕事かもしれない。でも、家族を持つことに夢がないわけでもない。バッグを売ったお金で、新しい恋愛に備えて美容に力を入れてみようかと考えたりしながら、私は今日も仕事に向かうのだった。 ある日、妹のなるから電話がかかってきた。「お兄ちゃん、結婚が決まったの。結婚式に来てもらえる?」 嬉しい報告だった。もちろん出席の返事をした。すると、なるが切り出した。「それと、バージンロードを一緒に歩いて欲しいんだけど」 俺の名前はたく。俺は両親と妹の4人家族だったが、高校3年の時に父が事故で亡くなった。突然の出来事に、残された俺たちは愕然とした。専業主婦だった母は仕事を探しても見つからず、母の実家に引っ越すことになった。 俺は高校卒業まであと半年というところで中退した。母は申し訳なく思っているようだったが、俺にはどうでもよかった。学歴で差別する人はいるが、ある意味それはフィルターになって、そういった人物とは関わらずに済む。世の中、学歴だけではない。現に、今は友人と立ち上げた会社が軌道に乗っている。 以前、実家に立ち寄った時に妹の婚約者には一度だけ会ったことがある。頭が良さそうな好青年という印象だった。妹とは高校の同級生で、確か父親か親戚かが議員だと言っていた。 結婚式の1ヶ月ほど前、俺は出張のついでに実家に顔を出すと、妹の婚約者もいて驚いた。彼は「お兄さんが来ると聞いて、是非挨拶させてください」と、サプライズを仕掛けてきたのだった。彼から高そうなお酒をもらって、その日はつい話しすぎてしまったかもしれない。 結婚式当日、俺は緊張しながら会場に入った。バージンロードを歩くんだ。父の代わりなんて勤まるのかと悩んだが、俺と歩きたいと言ってくれた妹のためにも、きちんと務めようと心に決めた。 会場で母に新郎の両親を紹介された。俺が挨拶をすると、義父は自己紹介を始めた。「うちの家系は議員が多くてね。私もそうだし、当然息子もゆくゆくはそうなる予定だ。妹さんには全力でサポートしてもらわないとな」 その話し方で嫌な予感がした。案の定、お決まりの質問が飛んでくる。「お兄さんはどこの大学を出てるんだ?」 俺はため息を堪えて答えた。「僕は高校を中退しています。高校の時に父が亡くなりまして」 すると、義父は俺の言葉を遮った。「中卒ってことか」 「ええ、まあ、そうなりますね」 次の瞬間、義父は俺を見下したように鼻で笑い、「そうか。まあ、今日はよろしく頼むよ」と言って背を向けた。義母もその後を追って行ってしまった。 俺は学歴で人を見るタイプとは関わらないようにしてきたが、どうやら遠い親戚になってしまうようだ。とりあえず今日は当たり障りなく過ごそう。 妹の花嫁姿は、普段の妹からは想像できないほど綺麗だった。幸せそうに笑う妹を見て安心した。母は式が始まると号泣していて、なだめるのが大変だった。この時は、この後に起こる事件のことなんて考えもしなかった。 披露宴が始まり会場に入ると、どこかで見たことがあるような顔が並んでいる。あっちも議員、こっちも議員。親族の席以外にもそういった招待客が多い。その中の一人と目が合い、その人物に俺は驚いたが、披露宴が始まるというアナウンスが入り、そのままになってしまった。 新郎の父のスピーチが始まった。それは校長先生の話かっていうくらい退屈で、ついついお酒に手が伸びてしまう。新郎がどれだけできた息子かという話はまだいい。気がつくと、話は義父自身の自慢話になっている。 そろそろ飽きてきたなと思っていると、いきなり話題が転換され、招待客の目がこちらに向いた。「まさか我が家の嫁のお兄さんが高校すら卒業していないなんて、私は思っても見なかった」 義父はお酒が入っているのもあるだろうけど、笑いながら俺を見る。俺は戸惑った。どうしてこんな形で注目を浴びなければいけないんだ。「君のような中卒は一族の恥になるだけだ」と義父は言った。 こういうことを言われるのには慣れていたが、まさか妹の結婚式で、その義父になる人がそんなことを言うなんて誰が想像するだろう。俺自身が言われたことよりも、妹の結婚式を台無しにしている義父に怒りが湧いた。でも、まさか言い返すわけにもいかない。 困惑している母に俺は一旦退場することを伝えた。すると、次の瞬間、会場に声が響き渡った。マイクを手にした妹が、「兄が誰なのかご存知ですか?」と言ったのだ。 妹が激怒しているのが分かった。俺は「おいおい」と思いながら妹を見るが、義父を睨みつけている妹は俺のことなんて視界に入っていないようだ。「お前が怒ってどうする?今日の主役だぞ。俺なんかのために自分の立場を悪くするんじゃない」と心の中で思った。 妹は俺を気にせず話を続けた。「兄は父が亡くなった時に高校を中退してまで、何もできなかった母と私を支えてくれたんです。学歴がないわけではありません。高校でも成績は上位でした。何も知らないのに人を学歴だけで見るのは最低です」 俺は慌てて止めに入ろうとするが、それを止めたのは新郎だった。妹が持っていたマイクを新郎が受け取り、今度は新郎が話し始める。「父さん、俺はお兄さんのことを尊敬しています。若いのに会社を起こして成功している。俺はなるさんと結婚するけど、お兄さんと親戚になれることを誇りに思います」 それを聞いて俺は仰天した。いくらなんでもそれは言いすぎだと思ったが、俺が口を挟む余地がないというか、新郎の引き込まれる演説のおかげで、俺のことなんて誰も気にしていない。新郎は親戚である議員の秘書をやっているらしいが、そういう人が議員だったら、ついつい話を聞いてしまうだろうなと思える話だった。 新郎はまだ話を続ける。「人を傷つける話しかできない父さんは、そろそろ下がってください。皆様、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」そう言って頭を下げた。 すると義父は「お前は実の親より中卒の味方をするのか。お前なんて勘当だ」とんでもないことを言い出した。結婚式の席で勘当なんて言うもんじゃない。 俺という存在がこんなことを引き起こしてしまったかと思うと、つい大きな声が出た。「こんなこと言わないでください」 俺が声をあげると、また招待客から一斉に注目を浴びる。でも今はそんなことは関係ない。「一時の感情に任せて軽々しく勘当なんて言うもんじゃないですよ」 そう言うと、義父は俺を睨みつけた。「うるさい。中卒は黙ってろ」 この後に及んでまだそんなことを言うのか。普段は中卒だと言ってくる人とまともに向き合うことはしないけど、この場で引いてしまえば母を悲しませたままになるし、せっかく声をあげてくれた妹や新郎に申し訳ない。俺は俺自身のためではなく、俺の家族の名誉のために言った。 「確かに僕は中卒です。あなたのようにそれを悪く言う人もいます。でも世の中には様々な理由で中卒や高卒の人がいるんです。それを分からずに議員と名乗るのはどうなんでしょうか?少なくとも僕はそんな人に上に立って欲しいとは思いません」 そう言い切ると、会場からはまばらな拍手が起こり、次第に大きな拍手となった。拍手を浴びるのは恥ずかしかったけど、少なくとも俺の家族の名誉は守られたと思う。 これで終わりにできると思ったが、義父は引っ込みがつかないのか、俺のところまで歩いてきた。「中卒は中卒なんだ。事実を言って何が悪い?会社をやってるなんて言うけど、どうせ大したものじゃないんだろう」 多分この人には話が通じない。何を言っても分かり合えない人に、どう言ったらこの場を納められるのだろうか。俺はそればかり考えていたが、うまい言葉が出てこない。 すると、新郎の招待客の一人が立ち上がり、新郎を制してこちらに向かってくるのが見えた。それは先ほど俺が目が合った人だ。その人は義父に向かっていった。「君は本当に恥知らずだな」 義父は驚いて振り返る。「先生」 先生と呼ばれたその人は国会議員の一人だ。彼は続ける。「たく君は優秀な取引先だぞ。君にたく君を蔑する権利はない」 義父は驚いた顔をして俺の顔を見てくる。俺はこんなところで会うと思っていなかったし、それをわざわざ義父に言うつもりなんてなかった。でも、こうなってしまっては言うしかない。 「先生の事務所のインターネットや通信関係は全部うちの会社で管理させてもらっています」俺は淡々と事実だけを述べた。 俺が友人と立ち上げたのは通信関係の会社で、ホームページの制作やインターネットの通信環境の整備など、小さなことから大きなことまで受け負っている。今ではメディアの取材もよく受けるし、世間的には名前が知られている。先生と出会ったのは会社を立ち上げて3年目の時で、そこからの付き合いなので、かれこれ10年ほどになるだろう。 義父の表情を見る限り、先生との上下関係ははっきりしているのだろう。義父の顔色が青くなっていく。 俺は義父に向かって言った。「先生は俺の学歴を知っていても、『それが何だ』と言ってくださいました。学歴なんかで人を判断するような人物は、学歴しか自分が誇れるものがないのだと思えばいい。そう言ってもらった時から俺の考えが変わりました」 義父の先ほどまでの勢いはどこへやら。そんな義父をしっかりと見て、俺は続けた。「俺の学歴を知って見下すのは構いませんが、俺の母を巻き込まないでください。それと俺の会社は大きな会社ではありませんが、先生のような方にもご依頼いただいているので、勝手に判断して馬鹿にするのはやめてください」 義父の目は泳ぎだし、どうしていいか分からないといった表情だ。そんな中、先生が義父に言った。「君がそんな考えを持っているとは思わなかった。御曹司がどうして君の秘書についていないのか疑問だったが、どうやら御曹司の方がしっかりしていそうだな。今後君との付き合いは考えさせてもらう」 義父は青い顔で立っている。俺はとにかくこの場を早く納めたかった。先生に頭を下げ、義父に向かって口を開いた。「今日は新郎新婦のための結婚式です。あなたの自慢話をする場でもなければ、あなたが気に入らない人間を見下すような場でもありません。式の途中でこのようになってしまったことを新郎新婦にきちんと謝ってください」 会場の全員が義父に注目した。先生も俺の言葉に頷いてくれている。主役であるはずの新郎新婦は文句も言わずに見守ってくれた。俺はこの二人のために、義父にはどうしても頭を下げてもらいたかった。 … Read more