「お前なんて次あった時ボコボコにしてやる。私にそんな態度取ったんだから。それぐらいされて当然よ。このバカ女が。」
勝ち誇った表情で私にそう言い放ったゆきさん。こんな状況になっても私を馬鹿にし続けるなんて、どれだけプライドが高いのか。私は隣に立つ夫を見つめた。
「お前、その発言で俺を怒らせたけどいいのか?決めた。お前らにはきっちり報復してやらないとな。」
夫が告げた報復の内容に、ゆきさんはさっきまでとは真逆の顔面蒼白な表情になっていく。まさかこの後、ゆきさんがあんなことになるなんて、私も想像していなかった。
——
私は恵、31歳の専業主婦。夫のゆう太郎さんと、その間に生まれた息子と、慌ただしくも楽しい毎日を送っている。ゆう太郎さんは子育てに協力的で、いつも息子の面倒も見てくれる優しい人だ。そんな夫に支えられながら、なんとか息子を育てていた。
ある日、私はママ友が主催するランチ会に参加していた。雑誌にも載るほど有名な和食料理店で、私は他のママ友たちとゆったりとした時間を過ごしていた。
「こういう時間って、子供といる時はなかなかできないから、ママ友会があって嬉しいよね。」
私の言葉に、一緒にいたママ友は頷いてくれた。子育てをしていると、時間はあっという間に過ぎていくものだ。
私たちが寛いでいると、隣の席から大きな声が響き渡った。
「酒足りないんだけど。もっと持ってきなさいよ。この店のスタッフは使えないわね。」
声の主は、息子の保育園で有名なボスママ、ゆきさんだった。顔を真っ赤にして楽しそうに酔っているようで、周りは気まずそうな顔をしている。ゆきさんはお酒の入ったグラスを持ちながら、下品な声で大笑いしながら次のお酒を待っていた。
「ゆきさん、ここの店にずっと行ってみたかったらしいから、いつもよりテンションが上がってるみたいなんだよね。」
ゆきさんは周りから恐れられるほどお酒が大好きだと有名だったため、こんな高級なお店でお酒が飲めることが本当に嬉しいのかもしれないと思っていた。
すると、私たちの視線に気づいたのか、ゆきさんがこちらに近づいてきた。
「おい、お前何見てんだよ。ボスママである私と一緒にお酒が飲みたいってこと?」
隣の席でゆきさんのことを話していたのが聞こえていたのか、ゆきさんは鋭い目つきで私たちを睨んできた。いつもなら見下しつつも笑ったような言い方で話しかけてくるのに、今は酒に酔って気性が荒くなっているのか、ちょっと怖くなっていた。
私たちはゆきさんに突然声をかけられたことに驚いて、誰も声を出すことができなかった。それがゆきさんには、声をかけたのに無視されたと勘違いしてしまったのだろう。ゆきさんはむすっとした顔で、一番近くにいた私を見つめながら、注文した味噌汁を持っていた。そして次の瞬間、衝撃的な行動をしてきたのだ。
「せっかく話しかけてあげたのになんで無視するんだよ。」
そう言いながら、ゆきさんは熱々の味噌汁を私の顔面にぶっかけてきたのだ。
「いきなり何するのよ。熱いじゃない。」
私は服が濡れてしまうほど味噌汁を浴びてしまった。幸い厚手の服を着ていたため火傷にはならなかったが、肌はまだヒリヒリしていた。慌ててゆきさんの方を見つめると、彼女は鬼のような形相で私を睨みつけていた。
「私のありがたい言葉をあんたらが無視したのが悪いんだから。何その鬱陶しい態度は?」
足で貧乏ゆすりをしながら腕を組んでいるゆきさんの姿に、他のママ友たちは恐怖に怯えていた。
味噌汁をぶっかけられた私は、ようやく口を開いて抗議した。
「いきなり声をかけられて反応が遅れただけですよ。それだけでお酒をかけてくるなんて、どこまで自分勝手なんですか?」
ゆきさんは今までも自分勝手な言動をしてくることがあった。自分の思った通りにならないと、いつも癇癪を起こしていたので、みんなは嫌でもゆきさんの言うことを聞いていた。しかし今回のことは本当に理不尽すぎて、私は我慢できずに抗議したのだ。
私がそう言うと、他のママ友たちも怯えながらゆきさんの行動に不満を感じているようだった。まさか反発されると思っていなかったゆきさんは、大きく目を見開いて怒鳴り出したのだ。
「あんたのノリが悪いんだよ。こんな冗談でピーピー怒るなんて見たもんじゃないわ。そういう女はすぐに男に捨てられるわよ。」
どういう論理で「男に捨てられる」という考えに至ったのか、私にはゆきさんの思考回路がよくわからなかった。他のママ友たちはゆきさんの鬼のような威圧感に怖くなったのか、他の席に移動してしまった。心配してくれるママ友がいなくなり、今は私と味噌汁をぶっかけてきたゆきさんとの一対一の言い合いに変わっていった。
私は今までの怒りがどんどん湧いてきて、ゆきさんにこう言ったのだ。
「ゆきさんがしてきたことは、大人ではなく子供がやるようなことです。子供を持つ大人なら、もう少し大人しく飲んでください。ここの店の雰囲気が合わない大きな声でお酒を飲むのはマナー違反って分かりませんか?」
ゆきさんはまた鬼のような形相になっていたが、しかし無言だった。私はこのタイミングしかないと思い、追い打ちをかけることにした。
「私は今、ゆきさんに謝って欲しい気持ちです。お味噌汁がもっと熱かったら病院に行かないといけないくらいだったんですよ。」
私がそう言うと、ゆきさんは鼻で笑って見下してきた。
「ふん。なんで私が底辺ママに謝らないといけないの?こんなことで謝罪を要求してくるなんて、心が狭い女ね。」
ゆきさんの言葉に私の怒りは頂点に達した。
「わかりました。なら私もゆきさんに仕返ししないと気が済みません。」
そう言って私は近くにあった水を思いっきりゆきさんにぶっかけたのだ。
「お前何すんだよ。」
水を頭からかぶったゆきさんは、なんと私の髪の毛を掴んで振り回そうとしてきたのだ。顔を真っ赤にして怒っているゆきさんは、私を雑に振り回していく。
「やめてよ。私がしたことをゆきさんもしてきたのよ。」
私の言葉をゆきさんは全く聞かずに髪を引っ張り続ける。私とゆきさんの戦いが終わらないことに気づいた他のママ友たちの協力で、なんとか私はゆきさんから離れることができた。それでも私のゆきさんへの怒りが収まることはなかった。
「何でもかんでも自分の思い通りに行くとは思わないでくださいね。」
私がそう言うと、ゆきさんは睨みながら私のことをビンタしてきた。それに我慢できなかった私は、また返すようにビンタをした。私がビンタし返してくるとは思っていなかったゆきさんは、叩かれた場所を手で抑えながらまた怒鳴ってきた。
「なんで全部やり返すんだよ。気持ち悪いな。」
ゆきさんの威圧感に他のママ友は怯えていたが、私はため息をついて反論した。
「全員がゆきさんの言うことを聞くとでも思った?今まで私がしてきたことは十分な正当防衛だから。」
私の言葉にゆきさんは畳み掛けるように言い返してくる。
「私はボスママなんだから、暴力を振っても許される存在なの。あんたみたいに底辺ママは私に逆らうなんて100年早いんだから。」
ゆきさんは、自分が怒れば誰でも言うことを聞いてくれるとでも思っているのか、子供のように怒ってきた。同じ年齢の子供がいる親なのに、序列が作られていることに私はそもそも納得していなかった。私は小さくため息をついてゆきさんに質問した。
「ゆきさんはどれだけ偉い存在だと思っているんですか?私たちは子供がいるママ同士です。そこまで立場が変わることがまずおかしいんですよ。」
私の言葉にゆきさんは眉間にしわを寄せていた。そして偉そうに座ると、衝撃の言葉を言い始めたのだ。
「だって私の夫は松葉組に所属しているヤクザだもん。その妻が一番偉いに決まってるじゃん。」
なんとゆきさんの夫はヤクザだったのだ。だからといって自分が偉そうな態度を取っていいというのはおかしいと思ったが、ゆきさんはまだ何か話したそうだったので聞くことにした。
「私の夫は気性が荒くて、そこら辺のヤクザなら私を見るだけでも怯えて逃げちゃうからね。私とあんたが同じ立場に立っていいわけがないでしょう。」
ゆきさんの話を聞いた他のママ友たちはすっかり怯えている様子だった。しかし私にとっては全く怖くなることはなかったからか、無言でゆきさんのことを見つめていた。私が反応していないことに不満げのゆきさんは、私を見下すように笑ってきた。
「何?怖くないの?私のことを怒らせるってことは、組を怒らせるっていう意味になるのよ。松葉組があんたに報復しに来るけどそれでいいのね。」
正直なところ、いきなり自分の夫がヤクザであると言われて信じる方が難しかった。それでもここまではっきり言われると、私だって言い返したくなる。
「それだけ偉い方なら、是非お会いしたいです。今回のことも相談すれば、ゆきさんが悪いって思ってくれるかもしれませんしね。」
私の言葉にゆきさんはニヤニヤした表情でスマホをいじり出した。
「ふん。大口叩けるのは今のうちよ。あんたが会いたいって言ったんだから、後悔しないようにね。」
こうなれば私も最終手段を選ぶしかなかった。私は自分のスマホを探しながら、見守ってくれていたママ友たちにこう言った。
「ここはもう大丈夫だから、皆さんも帰って大丈夫だよ。」
私の言葉に皆、不安そうな表情を浮かべていた。それでも私が大丈夫だと何度も伝えたため、他のママ友たちは心配そうな表情のまま家に帰って行った。私は夫に連絡をして、勝ち誇った様子のゆきさんにある提案をした。
「ゆきさんの旦那さんはヤクザなんですよね。せっかくなんで私の夫もここに呼んでご挨拶してもいいですか?」
私がそう言うと、ゆきさんは目を見開いて驚き、そして大きな声で笑い出した。
「マジで言ってんの?ヤクザの夫にあんたのところのバカ夫が勝てるとでも思ってるのかしら?いいわよ。呼べばいいじゃない。夫婦揃ってボコボコにしてあげる。」
ゆきさんは私の夫のことを全く知らない。それなのによくそこまで言えたもんだな。私はそう思いながら、夫のゆう太郎さんに連絡を送った。
互いに連絡して5分が経った頃、先に到着したのはゆきさんの旦那さんだった。
「夫は近くの公園にいるみたい。こんな店だと暴れられないし。ちょうどいいわね。」
ゆきさんはそう言うと、スタスタと店から出ていった。私はゆきさんの背中を追うように店から出ていく。公園には、いかにも柄の悪い男性が立っていた。
「ケンタ、もう遅いんだから。」
柄の悪い男性とは、ゆきさんの夫の健太さんだった。健太さんは見るからにヤクザのような見た目をしており、私のことを冷たく睨みつけていた。ゆきさんは健太さんが来たことに安心しているのか、偉そうに腕を組んで私のことを指差してきた。
「この底辺ママが私に水をかけてきたの。あんたの手でボコボコにしてちょうだい。」
ゆきさんの言葉に健太さんは大きく頷くと、指の関節をポキポキと鳴らし始めた。
「あんたが俺の妻に水をかけたバカか。ヤクザの妻にそんなことするなんて、それなりに度胸のある女じゃないか。」
健太さんがそう言うと、追い打ちをかけるようにゆきさんが告げ口をする。
「それに健太がヤクザだって言っても全然怖がらなかったの。ヤクザの恐ろしさを教えてあげてよ。」
ゆきさんの言葉に健太さんは大きく目を見開いてきた。
「一般人にはヤクザの怖さが理解できないようだな。俺がしっかりと拳と体でお前に教え込んでやるよ。覚悟しな。」
健太さんが私に殴りかかろうとしたその時。
「悪い、遅れた。」
公園の別の入り口から入ってきたのは、私の夫のゆう太郎さんだった。ゆう太郎さんは汗をかきながら息を切らしていた。
「わざわざ走ってきたの?大丈夫?」
ゆう太郎さんは呼吸を整えるとにっこりと笑ってくれた。
「近くで仕事してたのが終わってコンビニに行ってたんだ。ちょっと遠かったから走ったんだけど、この感じだと間に合ったのかな?」
ゆう太郎さんはそう言うと、目の前にいた健太さんのことを鋭く睨んでいた。すると、私に殴りかかろうとしていた健太さんが、石像のように固まり始めたのだ。突然動かなくなった健太さんに、ゆきさんは不思議な表情を浮かべていた。
「ケンタ、どうして固まってるの?早く底辺ママとどん臭い旦那をぶん殴ってよ。」
ゆきさんの言葉で我に返った健太さんは、拳を下ろしてゆう太郎さんに深々とお辞儀をし始めた。
「米長組の若頭、ゆう太郎さん。先ほどは大変失礼しました。」
さっきまで私を睨んでいた健太さんが、私の夫を見た瞬間、性格や態度が180度変わったのだ。これには私もゆきさんも驚いていた。
「お前は松葉組のやつだな。さっきのことはしっかりと覚えているようで安心したよ。」
ゆう太郎さんは笑顔で挨拶し返していたが、目の奥は笑っていなかった。きっとヤクザの仕事モードに入っているのだろう。
ゆきさんは何もわかっていない様子で私に問い詰めてくる。
「ちょっとどういうこと?走ってくるようなバカが、どうして健太に偉そうな態度取れるのよ?」
ゆきさんの言葉に、深々とお辞儀をしていた健太さんは鋭く睨んで怒り出した。
「この方は俺らよりも大きくて強い組の若頭さんだぞ。失礼な態度を取るんじゃねえ。」
健太さんの言葉に、ゆきさんは理解できていない様子だった。私はゆきさんに私の夫について話してあげることにした。
「言うのが遅れたけど、私の夫もヤクザなんだ。米長組という組の組長で、半年後には若頭になる予定なの。ヤクザの妻だから挨拶しようって思ったんだよね。」
私の言葉にゆきさんは目をまんまるにしていた。そして健太さんの肩を掴んで不安そうな声で質問していた。
「この人、本当に偉い人なの?健太がお辞儀しないといけないほどってありえないんだけど。」
ゆきさんがそう言うと、健太さんは気まずそうな表情で返答する。
「米長組に比べたら松葉組なんて底辺ヤクザに決まってる。俺たちはさっきまで、この方からしっかりと報復を受けていたんだ。」
健太さんの言葉に私も驚いた。そして隣で静かにゆきさんたちを見つめているゆう太郎さんに、何があったのか聞いてみることにした。
「その組と何かあったの?」
私がそう聞くと、ゆう太郎さんは大きなため息をつきながら話してくれた。
「俺たち米長組がお世話になってる店で、松葉組の連中が大暴れしたみたいでな。店が止めようとして揉み合いになり、店を休止してるって連絡が来たんだ。」
松葉組がお世話になっている店は、私も何度も足を運んでいた。一般人がやってる店でヤクザが暴れるなんて、ひどすぎる。
「それで俺がしっかりと松葉組に話をつけてきたってわけだ。十分に反省してるって感じがしたんだけどな。」
ゆう太郎さんの言葉に、健太さんは冷や汗をかきながら首を振った。
「もちろん反省していますよ。店で暴れるなんてもうしません。」
健太さんの言葉に、ゆう太郎さんはニヤリと笑うと腕を組んで頷いていた。
「そうだよな。次、米長組に迷惑をかけたら組を潰すって約束だから、反省してるよな。」
そして、ゆう太郎さんは健太さんに問いかけた。
「で、さっきまで若頭の妻を殴ろうとしていたのは、どうするつもりだ?」
ゆう太郎さんは、健太さんが私を殴ろうとしていたのを見ていたらしい。健太さんは顔面蒼白になると、ゆきさんを呼び出してこう言ってきた。
「それは、ことの発端は全部こいつのせいなんです。米長組は関係ないのでどうかお許しを。お前も謝るんだ。」
健太さんがそう言っていたが、ゆきさんは不服そうな顔で私を見てくる。そしてため息をついて、謝らないと言い出したのだ。
「こんな奴に謝りたくないんだけど。だって今まで底辺ママってバカにしてきた人に媚を売るなんて、私のプライドが許さないわ。」
ゆきさんの言葉に、健太さんの怒りは頂点に達した。
「お前がいつもいろんな人に喧嘩売ってるのが悪いんだ。しかも今回は俺より強い組の人に喧嘩売るなんて、もう少し大人しくできないのか。」
健太さんの言葉に、ゆきさんはイラッと来たのか言い返していた。
「私は何も悪くないの。あんたがこいつらを殴れないなら、私が殴ってあげるわ。」
そう言うとゆきさんは私を殴ろうとしてきた。しかし、ゆう太郎さんが私とゆきさんの間に入って止めてくれたのだ。
「あんたはとても気性が荒い方だ。これ以上、うちの妻には近づかないでもらえるかな。」
ゆう太郎さんの威圧感に、ゆきさんはなんとか拳を下げてくれた。しかし、怒りが収まっていないのか、とんでもないことを言い出したのだ。
それが最初の言葉に繋がる。
「お前なんて次あった時ボコボコにしてやる。私にそんな態度取ったんだから。それぐらいされて当然よ。このバカ女が。」
ゆう太郎さんを無視して、ゆきさんは私にこう言ってきた。おそらく今はゆう太郎さんがいるから何もできないけれど、いつかの機会で私だけの時にボコボコにすると言いたかったのだろう。これにはさすがの私も怖い気持ちになった。
言ってやったとばかりのゆきさんと、隣で顔面蒼白の健太さん。表情が真逆の2人に、ゆう太郎さんは大きな声で笑っていた。
「お前、その発言で俺を怒らせたけどいいのか?決めた。お前らにはきっちり報復してやらないとな。」
ゆう太郎さんの言葉に、健太さんは目を見開いていた。
「本来なら松葉組のこいつだけ報復して終わらせたかったんだけど。奥さんも俺らの組の報復を受けてもらうわ。」
ゆう太郎さんの言葉に、ゆきさんは納得していない様子だ。
「なんで私が?そういうのは組だけで何とかしなさいよ。一般人には関係ないでしょ。」
ゆきさんがまだ何か言いたそうにしていたが、健太さんが慌てて口を抑えていた。
「俺だってそうしたかったさ。でも目の前で大切な人が脅迫されていたら、無視できないだろう。あと、今回のことは松葉組にもしっかりと報復を受けてもらうからな。」
ゆう太郎さんの言葉に、健太さんは泣きそうな表情をしていた。
「今回のことは松葉組には内密にしてください。俺たちの命が危なくなります。」
健太さんは土下座して頼み込んだが、ゆう太郎さんの怒りが収まることはなかった。
「松葉組が米長組にまた迷惑をかけたらどうなるか、わかってるよな。ヤクザの妻なら許されると思ったら大間違いだ。松葉組も潰してやるから。お前ら2人とも地獄に落ちろ。」
ゆう太郎さんの剣幕に、ゆきさんたちはすっかり怯えていた。
「ちょっと待って。松葉組を解体する必要はないと思うわ。私もそこまでのことを望んでないし。」
私もゆう太郎さんにそこまでしてもらうつもりはなかったのだ。しかし、ゆう太郎さんの考えはしっかりとしていた。
「こういう奴らはここで許すと、また繰り返すんだ。若頭の家族が大変な目にあったのに何もしなかったという事実が他の組に知られると、米長は大変なことになる。それにあいつの奥さんは本当に危険だ。自分の言動に責任があることを知って、しっかりと反省してもらう必要がある。」
確かに納得できる部分があった。ヤクザの妻であるということは、自分の言動が組の未来に直結するかもしれないことを理解しておく必要がある。
「いやよ。私が松葉組が解体される原因だってバレたらどうなるかわかってるの?」
ゆきさんがゆう太郎さんにそう聞くと、ゆう太郎さんは不敵な笑みを浮かべていた。
「それはもちろん、解体された松葉組の連中がお前に報復に来るよ。自分が今までやってきたことが悪いんだからな。」
ゆう太郎さんの言葉に、ゆきさんは大きな声を出しながら泣いていた。隣で呆然としている健太さんは、これから行われる米長組の報復に怯えて言葉も出ないといった様子だ。
「さて、部下が来てくれるし、こいつら連れて俺らは事務所に戻るわ。松葉組の組長も呼んであるし、こいつらはおしまいだよ。」
ゆう太郎さんがそう言うと、大泣きのゆきさんと固まっている健太さんを部下が車に運んでいった。数時間前のゆきさんは勝ち誇った顔をしていたのに、今となってはすっかり被害者の顔をしている。
ゆきさんたちを見送った後、自宅に帰ると、一緒にランチ会に参加していたママ友から連絡が来ていた。どうやらヤクザと聞いて警察に通報しようと計画していたらしい。そうなってしまうと私の夫も色々危なくなってしまう。私は慌てて全ての真実を話した。この話をすれば私のことも怖がられてしまうと思ったが、それもヤクザの妻としての役割なのかもしれない。そう思っていたが、ママ友から帰ってきた言葉は予想外の言葉だった。
「ゆきさんと違って恵さんは優しいもの。これからも仲良くさせてね。」
ママ友の言葉に私は泣きそうになったが、ぐっとこらえて心配してくれたお礼を言った。
数日後、ゆきさんたちはどこかに引っ越していった。幸いゆきさんの子供は祖父母に預けられて安全とのことだった。きっと今頃、ゆきさんが原因で解体された松葉組の残党に報復されるのを恐れて逃げているのだろう。ヤクザの妻は毎日命がけだ。
ゆきさんがいなくなった。今、私たちは再び穏やかな生活を送っている。真実を話しても仲良くしてくれるママ友と一緒に、子供の成長を見守っていこうと私は思ったのだった。



