「どうせあんたも私のこと迷惑だって思ってるんでしょ。」
そう吐き捨てたのは、ひなこ——見るからに怖い不良の娘だった。俺の名はシンゴ、代々続く農家を継いだ二十歳の男だ。高校を卒業してからずっと畑仕事に明け暮れてきた。注文は多くて多忙な毎日を送っている。だが、田舎暮らしで周りに若者はほとんどいない。元々寝屋らだった俺は女性慣れもしておらず、彼女ができたこともなかった。
仕事には熱い気持ちを持っている。それでも、このままでいいのだろうかと考える夜があった。
ある日、いつものように畑で作業していると、近くをひなこが歩いていた。彼女は十年ほど前にこの町に引っ越してきた不良で、周囲から恐れられていた。目が合った瞬間、絡まれた。
「おい、何見てんだよ。」
「いや、別に見てないけど…。」
これまで不良とは無縁だった俺は、正直彼女が怖かった。危なそうだから関わらないようにしよう——そう思っていた。
だが、そんなある日、近所に住むおばさんから突然相談を持ちかけられた。
「いきなりで申し訳ないんだけど、うちのひなこをシンゴ君のところで働かせてやってくれないかな。」
「え、僕のところでですか? でも、なんで急に?」
「実はね、あの子最近学校をやめちゃったのよ。それで早く仕事をしたいんだって。でも、あんな態度じゃなかなか仕事も見つからないし。あの子の将来のためにも、人との関わり方を知っておいた方がいいと思うの。シンゴ君ならあの子と年齢も近いし、よかったらお願いできないかな。」
「なるほどね…。」
ひなこは怖いけど、野菜の取り方さえ教えれば、そんなに話す必要もないだろう。最近は人手が足りなくて困っていたから、ちょうどいいかもしれない。
「わかりました。ちょっと不安ではありますが、やってみましょう。」
こうして、俺はひなこと一緒に働くことになった。
後日、ひなこが畑にやってきた。
「ひなこちゃん、おはよう。今日からよろしくお願いします。」
反応がない。
「ひなこちゃん、どうしたの? 今日からよろしくね。」
「はい。よろしく。」
目も合わせてくれないし、態度もそっけない。いきなり気まずい雰囲気になってしまった。だが、早く仕事を覚えてほしかったので、俺はそのまま進めることにした。
「じゃあ、僕が実際にやってみるから、ちょっと見ていて。ここではいろんな野菜を育ててるんだけど、今日はトマトの世話をしてみようか。」
俺は作業を見せて、彼女にもやってもらおうとした。
「じゃあ、一回やってみようか。」
「いや…。」
「え、ごめん、ちょっと聞こえなかった。」
「やっぱり私、やめとく。」
「え?」
来た時からあんな態度だったから、何かあるのかとは思っていたけど、いきなり仕事を拒否するとは思っていなかった。
「ど、どうして? 何か気に入らないことでもあった?」
「特にない。」
「じゃあ、なんで…。」
「しつこいな。やらないって言ったらやらないの。そもそも私は工場とかで一人でできる仕事を探してたの。それなのに、おばさんが勝手にあんたと約束したんでしょ。だから今日だけ仕方なく来てあげたの。それだけ。」
「そ、そうだったんだ。でも、おばさんも言ってたよ。ひなこちゃんの将来のためにも、人との関わり方を知っておいた方がいいって。」
「うるさいな。大きなお世話だよ。どうせあんたも私のこと迷惑だって思ってるんでしょ。」
「『あんたも』って、どういうことだろう…。」
何か人と関わりたくない理由でもあるのか。俺は彼女の返答に若干の違和感を覚えた。すると、ひなこは続けた。
「別に黙ってないで、本当のこと言ったらいいのに。大体最初から畑仕事なんてやりたくなかったんだよね。服も髪も汚れる仕事して何が楽しいの? 意味わかんないんだけど。」
俺は考えるのをやめて、ひなこと向き合った。
「ひなこちゃん、そんな言い方したらダメだと思うな。」
「な、なんだよ。突然そんな真剣な顔してさ。」
「俺のことはどんな風に言ってもらっても構わない。でもね、農業とか野菜のことを悪く言うのは、黙ってられない。」
「別に何を言ったって私の勝手だろう。」
「確かに、ひなこちゃんの言う通りかもしれない。でも、ひなこちゃんは今まで野菜を食べたことがあるでしょ?」
「は? それが何だってんだよ。」
「ひなこちゃんの食卓に届くまでに、それらの野菜はかなりの手間暇をかけてるんだよ。みんなは当たり前のように食べているものかもしれないけど、裏では大勢の人たちがすごい努力をして届けられているんだ。確かに農業は髪も服も汚れる仕事だし、面倒だって思うかもしれない。でも、その分やりがいもたくさんあるんだ。ひなこちゃんはまだ仕事のことを深く知らないのに、頑張っている人や仕事のことを悪く言うのは良くないと思うな。」
「そ、そんなこと言われても…。」
「ひなこちゃんが本当に働くのが嫌なら、無理に仕事をさせるつもりはないよ。ただ、ひなこちゃんがこの先他の仕事をしたとしても、さっきみたいな発言は絶対にしちゃだめだ。それだけは分かってほしいな。」
ああ、やっちゃった。ついつい仕事のことで熱くなってしまった。
「もういいや。帰るわ。」
「ちょ、ちょっと…。」
俺が動揺しているうちに、ひなこは帰ってしまった。正しいことを言ったとはいえ、まだ学生の彼女には言いすぎたかもしれない。それに、帰る直前のひなこの顔は、反省しているようにも見えた。
よし。俺はあることをひらめき、急いで仕事を終わらせた。
夜になり、俺は準備をしてひなこの家に向かった。
「あら、シンゴ君、突然どうしたの?」
「いきなりすみません。実は今日、ひなこちゃんに強く言ってしまって…。」
俺は昼間の出来事をおばさんに伝えた。おばさんもどうやら知っていたようだった。
「なんかこちらこそごめんね。シンゴ君には迷惑かけちゃったわよね。」
「いえ、僕は大丈夫なんですけど、一度引き受けたからには責任を持ってちゃんとやり遂げたいなって。ひなこちゃんのことも心配ですし。だから、もう一回ひなこちゃんと話したいなって思いました。今、お家にいますか?」
「いるにはいるんだけど、部屋に引きこもっちゃって出てこないのよ。あの子の家庭ってちょっと複雑でね。」
「ああ、おばさん、全部言わなくて大丈夫です。僕も何かあるんだろうなって、なんとなく気づいているので。ひなこちゃんとは、そういうプライベートなことまで聞けるような仲になりたいんですよね。」
「分かったわ。シンゴ君ありがとね。玄関で話すのもあれだから、上がっていって。私はひなこを呼んでくるわね。」
そう言っておばさんは二階へ行き、俺はキッチンを借りて持ってきた鍋を温めることにした。
しばらくすると、ひなこがリビングに降りてきた。
「ああ、ひなこちゃん、いきなりごめんね。お腹空いてない? よかったら、たらこのスープ食べてみてくれないかな? このスープはね、うちの畑で取れた新鮮な野菜がたくさん使われているんだ。本当に美味しいから、一緒に食べない?」
スープのいい香りにそそのかされたのか、ひなこのお腹が「グーッ」と鳴った。
「ちょ、ちょっとだけ食べてみようかな。」
俺はスープをよそって、彼女に差し出した。
「お、おいしい…。」
「でしょ。これが僕の自慢の野菜たちだよ。」
「シンゴさん、今日はあんなひどいことを言ってごめんなさい。私、どうしたらいいかわからなくなっちゃって…。」
ひなこは涙を流しながらそう言った。やっぱり、ちゃんと反省してたんだ。
「大丈夫だよ。もう気にしなくていい。僕もちょっと言いすぎちゃったよね。ごめんね。ただ、一つだけ分かってほしいのは、農業っていう仕事はこうやって食べる人に笑顔を届ける仕事なんだ。今日一緒に作業しようとしたトマトの栽培だって、その笑顔につながってる。」
「すごいねえ。本当にすごいと思う。こんな美味しい野菜、私初めて食べた。だから、私も笑顔を届けられるようになりたい。頑張ってみたい。」
その表情から、すぐに彼女の本気さが伝わってきた。仲直りするだけでも十分だと思っていたが、仕事に対して前向きになったひなこを見て、俺も嬉しくなった。
「よし、じゃあそろそろ帰ろうかな。ひなこちゃん、また明日。畑でね。」
「はい、よろしくお願いします。」
そう言ってひなこは俺に頭を下げた。おばさんが言っていた通り、本当は悪い子じゃないんだ。
翌日から、ひなこは約束通り仕事に来るようになった。だが、彼女は少し不器用なところがあって、最初のうちは何度も失敗を続けた。
「ああ、また今日もダメだった…。」
「大丈夫、大丈夫。僕も最初はできなかった。ひなこちゃんよりもひどかったと思うよ。」
「本当?」
「そうだよ。でも、できないなりに努力はしたんだ。みんな失敗するし苦労もする。ひなこちゃんは真剣にやってるし、昨日よりも成長してるんだから、気にすることないよ。」
「そうかな。それならよかった。ありがとう。」
俺は失敗して落ち込んでいるひなこを励まし続けた。それもあってか、少しずつひなこが俺に話しかけてくれるようになった。
そんなある日の休憩中、俺は以前から気になっていたことを彼女に聞いてみた。
「ひなこちゃんは、どうしてここに引っ越してきたの?」
「うちは元々複雑な家庭でさ、お母さんも私が小さい頃に病気で亡くなったの。」
「そうだったんだね。変なこと聞いてごめんね。無理やり話さなくてもいいから。」
「うん。大丈夫だよ。シンゴさんにはいつか話そうと思ってたから。」
俺は彼女の言葉を聞いて、真剣に話を聞くことにした。
「お母さんが亡くなってから、私は親戚に引き取られることになったんだけど、心よく引き受けてくれる人は誰もいなかった。だからずっと点々としてたんだ。そんな時に偶然、遠い親戚のおばさんに出会って、引き取ってもらえることになったの。だからここに引っ越してきたんだ。」
「それが、おばさんだったんだ。」
「うん。おばさんには本当に感謝してるの。でも、他の親戚に迷惑がられたこととか、学校で家のことを馬鹿にされたことが重なって、人のことを信じるのが嫌になったんだ。それで私は一人で生きていこうと思って、自然と壁を作るようになったの。どうせ見放されるなら、最初から仲良くならなくてもいいやって思った。」
「なるほどね。だから、周りの人にも高圧的な態度でいたんだね。」
「うん。知らない人と話すのは緊張もするし、警戒もしてしまうから。シンゴさんにもあんな態度を取っちゃったんだ。本当にごめんなさい。」
「謝らなくてもいいよ。だって、今はこうして話してくれてるでしょ。」
「ありがとう。今更こんなことを言うのは卑怯かもしれないけど、私、シンゴさんと一緒に働けて本当に良かったって思ってる。仕事にやりがいも感じてるし、前よりは人を信じられるようになってきたしね。」
「そんな風に言ってもらえると、僕も嬉しいな。これからも一緒に頑張ろう。」
この日をきっかけに、俺たちの絆はさらに深まった。ひなこが自分の過去を話してくれたことが、ただただ嬉しかった。だからこそ、彼女に仕事を教える立場としてもっとしっかりしようと、気持ちが引き締まった。
ひなこが仕事に来てから一ヶ月も経つと、彼女も仕事に慣れてきて、笑顔を見せる頻度が増えた。
自然な笑顔が一番可愛いな。
俺にも少しずつ気持ちの変化が起こり、ひなこを見てはそんなことを思うようになった。いつの間にか、楽しく働いているひなこのことを目で追うようになっていた。
「ひなこちゃん、はい。これ、野菜スープ。」
「ありがとう。いただきます。…ああ、やっぱり美味しい。食べても、シンゴさんの作る野菜が世界一だ。」
「はは、ありがとう。自慢の野菜たちだからね。今日もたくさん食べてね。」
いつもひなこは俺の作った野菜料理を、眩しい笑顔でたくさん食べてくれる。そんな姿にも、自然と惹かれていった。
そんなある日、畑の仕事が終わり、いつも通り帰り支度をしていると、ひなこが突然声をかけてきた。
「ねえ、シンゴさん、次の休みの日なんだけど、なんか予定ある?」
「次の休みか。えっと、この日は出荷もないから、特に予定はないかな。」
すると、彼女からは意外な言葉が返ってきた。
「一緒にどこか出かけない?」
「え? 僕と二人で?」
「ああ、嫌なら別にいいんだけど…。おばさんからたまには遊んできたらって言われたし、どうせならシンゴさんも一緒にどうかなって。」
「全然嫌じゃないよ。ちょっと驚いただけ。誘ってくれてありがとうね。じゃあ、せっかくだし一緒にお出かけするか。」
「やった! じゃあ、海に行きたい!」
「海か。いいね。畑にいるから、たまには海でリフレッシュでもしようか。」
「うん、嬉しい! じゃあ、また連絡するね。」
ひなこは目を輝かせながら、嬉しそうに帰っていった。あれだけ顔が赤かったということは、それだけ恥ずかしかったんだろう。それでも勇気を出して誘ってくれたんだ。
それにしても驚いたな。まさかひなこがプライベートでも俺に会おうとしてくれるなんて。これは、一応デートってことになるのかな。
こうして俺は生まれて初めて、女性と二人で遊びに行くことになった。
当日、俺は身だしなみを整え、ひなこを迎えに行った。
「ひなこちゃん、お待たせ。軽トラなんかで来ちゃってごめんね。」
「うん、全然待ってないよ。こちらこそ、迎えに来てくれてありがとう。それに軽トラだって、荷物たくさん乗るし最高じゃない。」
「ありがとう。じゃあ、早速行きますか。」
私服姿のひなこを見るのも初めてだ。これもこれでまた可愛いな。俺はいつもと違うひなこを見ることができて、早くも浮かれていた。
だが、それだけではなかった。海に着くと、ひなこは突然水着に着替え始めた。てっきり海を眺めるだけかと思っていたのだが、彼女は海に入る気満々だったらしい。仕事中では決して見ることのできない格好と、彼女のスタイルの良さに、俺はついついドキドキしてしまった。
「早く行こうよ!」
この日はとても天気が良く、海水浴場には大勢の人がいた。せっかくなので俺も水着を買ってきて、ひなこと一緒に海に入った。浮き輪も買い、一つの浮き輪で二人で海に浮かんでいたのだが、とにかく距離が近い。女性慣れしていない俺には、刺激の強すぎるイベントだった。
それでも時間が経つにつれ緊張もなくなっていき、俺はひなことの二人きりの時間を全力で楽しんだ。
「ああ、楽しかった。今日は連れてきてくれてありがとう。また一緒に海に行こうね。」
「そうだね。僕も楽しかったよ。今日はたくさん泳いで疲れただろうから、ゆっくり休んでね。明日からはまた仕事を頑張ろう。」
「うん。じゃあ、また明日。」
こうしてひなことの初デートが幕を閉じた。今までは一人だけで仕事をして、休日もだらけて過ごすことが多かった。その頃に比べると、最近は毎日が楽しくて仕方がない。これもひなこのおかげだ。彼女に出会えて本当に良かった。
一人で帰りながら、俺は素直にそう思った。今のこの生活が、自分にとって本当に幸せだと感じたのだ。
しかし、そんな幸せな日常にトラブルが発生した。
ある夏の日のこと。予報によると、大型の台風がこの地域に接近すると言っていた。この地域は比較的台風が多い方だったが、今回は見事に直撃しそうだった。農家にとってはかなりの損害につながる恐れがある。
台風はこの日の晩に上陸予定で、俺たちは朝から必死で対策をした。初めてのせいか、ひなこは明らかに不安そうな表情をしていた。
「このトマトたち、大丈夫かな? シンゴさんと一緒に育てて、ようやくここまで大きくなったのに…。なんとかこの子たちを守ってあげたいけど、何か対策はないかな?」
「ひなこちゃん、それは僕も同じ気持ちだよ。ただ、場所を移動するわけにはいかないから、支柱を調整することしかできないね。できるだけ低くしておけば、風の影響も最小限に抑えられるんだ。ひなこちゃん、そっちを抑えてもらってもいいかな?」
ひなこは心配そうな顔をしていたが、なんとか作業が終わったので、俺は彼女を家まで送り届けた。
しかし、俺はもっと早くひなこの気持ちに気づいてあげるべきだった。
帰宅した俺がじっと窓の外を眺めていると、雨がすごくなってきた。
「想像していたよりもひどくなりそうだ。」
そんなことを思っていると、突然ひなこのおばさんから連絡が入った。
「シンゴ君、ひなこってそっちにいる?」
「え? こっちにはいませんけど…。」
「そうなの? 私の知らないうちに、こんな雨の中また出かけたみたいなの。それでまだ帰ってこないから、心配になっちゃって。」
「え、そうなんですか。こんな雨風の強い中、また出て行ってしまったのか…。それにしても、どこに行ったんだろう。」
「もう一度、ひなこに連絡してみるわね。」
「わかりました。僕も今から探してきます。」
「ありがとう。でも、お気をつけてちょうだいね。」
俺は家の近くを探してみるが、この台風の中を歩いている人は誰もいない。次第に雨風は強くなっていく。
どこに行っちゃったんだろう? ひなこが行きそうな場所…。もしかして。
俺は慌てて畑に向かった。トマト畑に行ってみると、予想した通り、雨具を着たひなこが必死になってトマトを守っていた。
「ひなこちゃん、何してるの? こんなところにいたら危険だ。一緒に帰ろう。」
「でも、この子たちが心配で、放っておけないよ!」
「今回の台風は、この後もまだ強くなる。」
「そんなこと分かってる! でも、シンゴさんと作ったこの子たちは、私にとってとても大事なの。それなのに、このままだと台風でダメになっちゃう。そんなの私、嫌だ!」
ひなこは涙を流しながらトマトを守っていた。状況は分かっているが、いても立ってもいられなかったのだろう。俺はひなこの肩に手をポンと置いた。
「ひなこちゃん、ありがとう。ひなこちゃんの気持ちは嬉しいし、僕も同じことを思ってる。でも、さすがにここにい続けるのは危険だ。ひなこちゃんに何かあってからでは遅いだろう。」
俺は泣いているひなこの手を引き、車に乗せた。そして、びしょ濡れのひなこにタオルを渡した。
「ひなこちゃん、台風からトマトたちを守ってくれてありがとうね。でも、こんな危険なことをしちゃだめだ。僕もおばさんもすごく心配したんだよ。」
「ごめんなさい…。どうしても、放っておけなくて…。」
「そうだよね。ひなこちゃんの気持ちもよくわかる。でも、僕たちはできることはやった。だから、今は信じて待つことにしよう。」
こうして俺は再び彼女を家に届けた。
翌朝、台風は去っていて天気も回復していた。俺とひなこは畑に向かう。台風の勢力はすごかったが、被害はそこまで受けていないようだった。トマトもなんとか無事だった。
「シンゴさん、どうやってこの子たちを?」
「一番は、ひなこちゃんが雨の中から守ってくれたからだよ。僕がしたこととしては、ひなこちゃんが他の作業をしてくれてる間にネットをかけたり、数を減らしたりして台風の対策をしただけだよ。」
「そうなんだ…。」
「トマトを守りたいのは僕も一緒って言ったでしょ。多少ダメになっちゃった子たちもいるけど、全て無駎になることはないんだ。」
「よかった…。」
ひなこはようやく安心したのか、その場にしゃがみ込んだ。
「ひなこちゃん、大丈夫?」
「うん。安心したら、力が抜けちゃった。」
「そうだよね。命をかけて守ってくれてありがとう。」
「私、失敗してばっかりだったから、この子たちまでダメにしちゃったら、もうここに入れないと思ったの。」
「ひなこちゃん…。」
「なんか、泣いてばっかりでごめんね。シンゴさんにかっこ悪いところばっか見せちゃってるな。」
彼女は泣きながらも笑って見せた。そんな彼女を見た俺は、思っていたことが自然と口から出てしまった。
「格好悪くなんかないよ。それに、ひなこちゃんはうちの畑に必要な人材だよ。…あと、君は僕にとっても、必要な存在なんだ。だから、ずっとそばにいてほしい。」
「え、シンゴさん、それって…。」
「僕はひなこちゃんのことが好きになった。不器用ながらも一生懸命働くひなこちゃんも、無邪気に笑うひなこちゃんも、野菜を愛してくれるひなこちゃんも、全部が好きなんだ。だから、これからは僕の彼女として一緒にいてくれないかな。」
「私も…。私も前から、シンゴさんのことが好きだった。こんな私に真剣に向き合ってくれて、ちゃんと叱ってくれた。だから私は変わったし、毎日が楽しくなった。全部、シンゴさんのおかげだと思ってる。こんな私でよかったら、お願いします。」
こうして、俺たちの交際が始まった。
その後、一緒に育てたトマトは収穫され、その味は格別だった。俺とひなこは、その感動や嬉しさを分かち合った。俺一人じゃ、ここまで素晴らしいトマトには育っていなかっただろう。
その後、ひなこは農業高校に通うようになり、無事卒業した。そして、そのタイミングで俺たちは結婚して、今でも幸せな生活を送っている。俺たちの結婚には、おばさんや近所の人たちもとても喜んでくれた。
俺はこれからも、ひなこと共にこの農場を守っていこうと思っている。



