出張から予定より3時間早く帰宅した私は、車の中に男と女がいるのを見つけた。私は車内に潜み、二人の会話を聞いた。
「ああ、君は本当に最高だよ。妻とは大違いだ。」
「もう、高さんったら。奥さんが泣いちゃいますよ。」
「泣かせておけばいいんだ。妻とはもう終わりだ。結婚したのが間違いだったんだよ。」
そこまで聞いた私は、無言で車を出て、物置からガレージのシャッターを塞ぐための角材を取り出した。実は私は、夫の浮気をずっと前から疑っていた。だから、この瞬間も冷静でいられた。もう夫への愛情なんて、これっぽっちも残っていない。
私はガレージの出入り口を角材で塞ぎ、ブレーカーを落としてシャッターが開かないようにした。1時間後、私は夫に電話をかけた。
「もしもし、あなた。出張が早く終わったから、今から帰るわね。」
「ああ、悪い。俺も今から急に出張が入ったんだ。これから家を出るよ。今日は帰らないから。」
普通、浮気の最中に妻から早く帰ると連絡があれば、少しは動揺するものだ。しかし夫は冷静そのものだった。最近、夫はよく「急な出張」という言葉を使っていたからだ。
私は怒りを抑えて返事をした。
「そうなんだ。最近、出張が多くて大変ね。気をつけて行ってきてね。」
数分後、夫から折り返しの電話がかかってきた。
「もしもし。ガレージのシャッターが開かなくなって、閉じ込められてしまったんだ。何か原因が分かるか?」
夫はひどく慌てていた。もちろん、これは私の仕業だ。私は知らないふりを装った。
「え、どうしちゃったのかしら? ブレーカーでも落ちたのかな。私が今から見てみるわ。」
「お前も疲れてるだろうから、急がなくていいよ。」
「大丈夫よ。心配しないで。もうガレージの前にいるから。」
「は? なんでいるんだ? さっき出張先から帰るって電話があったばかりじゃないか。」
「ああ、ごめんなさい。今から家に帰るね、って電話だったのよ。見てみたら、やっぱりブレーカーが落ちていたわ。戻したから、もう大丈夫だと思う。今シャッターを開けるわね。」
「いや、待て! 今はまだいい!」
私がシャッターを開けようとすると、夫は予想通り慌てて止めてきた。
「どうして? 早く開けないと、支度ができないんじゃないの?」
「いや、まだ時間は大丈夫だ。先に部屋に入って休んでいてくれ。後で自分で開けるから。」
浮気相手を隠す暇がないので、夫は適当な嘘をついている。私はあえて夫を心配するふりをして、シャッターを開けようとした。夫の必死な様子が面白くて仕方ない。
「開けるわよ。」
「いいから、余計なことはするな! さっさと部屋に戻れ!」
夫が怒鳴り始めたところで、私は夫に伝えた。
「実はね、今、私一人じゃないの。ある人たちと一緒にいるのよ。この電話はスピーカーにしてあるから、その人たちにも全部聞こえているわよ。」
「ある人って誰だ。どうせロクでもない奴らだろ。さっさと家に戻れよ!」
すると、電話越しに別の声が聞こえた。
「高志、その口の聞き方は何だ? 今すぐシャッターを開けたら、まずいことでもあるのか?」
「え? お父さん? なんでここに?」
私が呼んだ「ある人たち」とは、夫の両親、つまり私の義両親だった。夫は義父には頭が上がらない。義父は夫の実家の社長でもある。
夫は必死に言い訳を始める。
「いや、父さん、違うんです。ただ、この車の調子がおかしくて…」
「さっきの話を聞いていたら、お前はいつも妻にこんな態度なのか?」
私は黙って夫のスマホに動画を送信した。
「今、あなたのスマホに動画を送ったから、通話しながらでも見られるでしょう。」
夫が衝撃を受けたのが電話越しでも分かった。私が送った動画は、さっきまでの夫と浮気相手の愛撫の様子を撮影したものだった。
「私はもう全部知っているのよ。さっきまでガレージに行って撮影していたからね。だから、今さらどこを隠したって無駄よ。浮気しているんでしょ。そして今、あなたの隣に女がいるんでしょ。」
義両親も夫を問い詰める。
「高志、本当なのか?」
「フェイク動画ですよ! 私がこんなことをするわけがないでしょう!」
夫は白を切ろうとした。
「最近仕事が忙しくて、妻が怒って嫌がらせをしているんです。」
「妻はそんな人じゃないだろう。この動画に映っているのは、どう見たってお前の車とお前のガレージだ。」
義両親は私の味方をしてくれた。私は義両親から実の娘のように可愛がってもらっている。義実家は私たちの家から歩いて5分の場所にあり、私はよく義母と世間話をしていた。
夫はしつこく言い訳を続ける。私はもう一つ動画を送った。
「あなたがこんなに認めないから、監視カメラの映像を見せてあげるわ。」
私が送った動画には、ついさっきまで夫がガレージで浮気相手とじゃれ合っている姿が映っていた。私はガレージに監視カメラを設置していたのだ。
「あなたがあまりにも認めないから、少し乱暴な手段に出たわ。あなたが言い訳をしている間、隣にずっと浮気相手がいるのを知っているのよ。」
夫が言葉を失った。私は義両親と顔を見合わせ、シャッターを開けてガレージに踏み込んだ。そこには、服を着た状態で顔面蒼白になった夫と浮気相手がいた。
「思った通りね。とりあえず車から降りなさいよ。」
二人は黙って車から降りた。義父が夫に問い詰める。
「もう言い訳はしないよな。浮気しているんだろう。」
夫はチラッと浮気相手の方を見てから、しぶしぶ説明を始めた。
「会社の後継ぎとしてのプレッシャーがすごくて…。いつまで経っても普通の社員以上になれなくて、大きなストレスを抱えていたんだ。浮気をしたことは悪かったと思っている。でも、仕方なかったんだ。」
「例えどんな理由があっても、家族を裏切っていいわけがないだろう。いい大人が。」
「お父さんの言う通りよ。そんな悩みを抱えていたなら、なぜ相談してくれなかったの? 私がいたでしょうに。」
夫は私に謝った。
「妻、本当に悪かった。今回だけは許してくれ。これっきりにするから。」
「一回切り? そんなわけないでしょう。さっきも言ったでしょ。私は全て知っているって。」
私は夫の浮気相手に話を向けた。
「ところで、お父さん。彼女に見覚えはありませんか?」
義父は浮気相手の顔をまじまじと見て、気づいた。
「もしかして、取引先の社長の娘さんか?」
「そうです。私は夫の浮気相手についても調査していたんです。すると、驚くべきことが分かりました。彼女もちゃんと事情を知っていましたよ。夫は彼女が誰だか知らなかったみたいですね。」
夫は驚いた顔をした。どうやら夫は、浮気相手が義父の取引先の社長の娘だということを知らなかったらしい。
「もう十分すぎるくらいの証拠が集まったから、そろそろ終わりにしようと思って、今日このタイミングであなたのご両親を呼んだのよ。」
「最低だな、お前は。」
「どの口が言っているの? それに、彼女はあなたのことが好きなんじゃなくて、会社の利益のためにあなたに近づいたみたいよ。」
浮気相手がビクッと動いた。夫は彼女を見るが、彼女は気まずそうに俯いている。
「お前、どういうことだよ! 俺に言った言葉は嘘だったのか!」
私は続ける。
「あなたたちの出会いは、彼女からのナンパだったのでしょう。彼女はあなたから会社の情報を聞き出していたのよ。あなたは何でも話していたから、簡単だったのでしょうね。」
私はボイスレコーダーを再生した。そこには、夫が浮気相手に仕事の内容を詳しく話している音声が録音されていた。
「まさか、車にボイスレコーダーを仕掛けていたのか?」
「そのまさかよ。あなたが今日浮気をするだろうな、という日だけね。予想は100発100中だったわ。」
ここでようやく浮気相手が口を開いた。
「うるさい! 俺様はお前を騙してたんだ! プライバシーの侵害だわ!」
「騙される方が悪いのでしょ。」
浮気相手は私への謝罪どころか、夫への悪態を吐いた。すると義父が怒り出した。
「お前の勝手な行動で、一つの家族が壊されているんだぞ。しっかり償ってもらわなくては困る。」
すると突然、浮気相手が車に飛び乗り、エンジンをかけた。そして、半開きのシャッターに何度も車を衝突させて、外に出ようとしたのだ。騒ぎを聞いて近所の人たちが駆けつけ、私は警察に通報した。
大騒動の末、警察が来て浮気相手は車から引きずり下ろされた。幸い誰にも怪我はなかったが、車は廃車になった。そこに、浮気相手の父親も登場した。私は事前に彼に連絡し、浮気の証拠も送ってあったのだ。
浮気相手の父は娘に激怒し、皆に謝罪した。
「皆さん、この度は娘が本当に申し訳ありません。慰謝料、修理代は私が責任を持って支払います。」
私は呆然としている夫に、とどめの一撃を与えた。
「あなたはこれだけの人を巻き込んで迷惑をかけたのよ。慰謝料をきっちり払ってもらって、離婚するからね。」
夫は泣きながら土下座を続けた。その後、私は夫と離婚した。夫は会社も首になり、義両親にも縁を切られた。浮気相手も父に見放され、家を追い出された。私は二人に慰謝料をきっちり請求し、一括で受け取った。その後、夫と浮気相手はお互いに責任をなすりつけ合い、結局別れたらしい。
離婚してしばらく経った頃、義両親が改めて私に謝罪に来た。
「本当に申し訳なかった。息子のために厳しく育ててきたが、どうやら間違っていたのかもしれない。」
「顔を上げてください、お父さん。私はお二人のことは恨んでいません。私は新しい人生を始めます。」
こうして私は、新たな一歩を踏み出した。



