夫が突然、高級香水をつけ始め、週末も「休日出勤」と嘘をついて家を出るようになった。10年連れ添った夫の変化に不信感を抱き、彼のスマホを開いた瞬間、画面に映ったのは愛人とのハワイ挙式の計画だった。しかも、彼は私に内緒で義父から数千万円もの金を借りていた。私は決意した。彼女たちの結婚式に、サプライズで出席してやろうと。「その結婚に異議を申し立てるわ」——私が教会の扉を開けたとき、夫の顔色は真っ青…

夫が突然、高級香水をつけ始め、週末も「休日出勤」と嘘をついて家を出るようになった。10年連れ添った夫の変化に不信感を抱き、彼のスマホを開いた瞬間、画面に映ったのは愛人とのハワイ挙式の計画だった。しかも、彼は私に内緒で義父から数千万円もの金を借りていた。私は決意した。彼女たちの結婚式に、サプライズで出席してやろうと。「その結婚に異議を申し立てるわ」——私が教会の扉を開けたとき、夫の顔色は真っ青...

もうすぐ妻とは離婚します。結婚10年目を迎えた頃、夫の直光に怪しい行動が見られるようになった。役職が上がったと連日帰りが遅くなり、週末であっても休日出勤だと言っては出かけていく。
それまで見た目に無頓着だった直光が急に高級な香水をつけ始め、鏡の前で入念にチェックしている様子は異常にしか見えない。直光は浮気しているのかもしれない。私の中に疑念が湧き起こり、直光のスマホを覗き見た私は愕然とした。彼は愛人とハワイで挙式をあげる計画を立てていたのだ。
数日後、直光は韓国出張に行くと荷造りを始めた。そして迎えた出発日、彼は「韓国のり買ってくるぜ」と張り切って家を出た。空港のロビーでは直光が若い女性と共に飛行機への搭乗を待っている。女性は直光の肩に頭を預け、固く手をつないでいる様子は恋人にしか見えない。
私は怒りを抑えながら彼らに見つからないように搭乗手続きを済ませ、父が手配してくれたチャーター機に乗り込んだ。直光が誓いの言葉を言おうとした瞬間、私は教会の扉を開いた。

私は園田あゆみ。34歳。パート事務として働きながら夫の直光と一緒に暮らしている。直光と出会ったのは私がまだ学生時代のことだ。
当時アルバイトをしていたカフェの先輩で、出会った頃からお互いに惹かれ合い交際を始めた。お互いに一人暮らしをしながらバイト帰りはどちらかの家で一緒に過ごし、学校に行っている時間以外のほとんどの時間を私たちは一緒にいたのだ。直光とは価値観も同じで、一緒に過ごす時間は穏やかなものだった。
交際を始めて2年が経った頃、直光は就職活動の末、大手企業の内定をもらうことができた。「仕事も決まったし、落ち着いたら結婚しよう。」直光のプロポーズがとても嬉しく、私は結婚の日を楽しみにしていたのである。
それから1年後、直光と私は入籍し、一緒に暮らし始めた。お互いの両親とも仲が良く、私たちの結婚生活は順風満帆だったのだ。結婚した翌年には娘の美咲も生まれ、私たちは幸せな日々に包まれていた。直光は仕事で忙しくしているにも関わらず、家事や育児も協力的で、休日になると料理を作ってくれることもあった。
直光と結婚してよかった。私は心から幸せを感じていたのである。しかし美咲が生まれて2年が経った頃、直光が部署の主任を任されるようになると、彼は一層多忙を極めるようになり、家に帰っても疲れた顔を見せるようになった。
「あまり無理をしないでね。」
「美咲のために、歩みのために俺が頑張らないと。」
直光は家族を守るために必死だったのだ。直光の努力が報われ、彼はその後も順調に出世を遂げ、美咲が小学校に上がる頃には課長になっていた。
管理職になった直光は残業も多くなり、疲れているのか休日になると遅くまで寝ていることが増え、以前は協力的だった家事や育児も全くやらなくなったのである。それでも家族のためにと頑張ってくれている直光に不満など起こるわけもなく、私は家庭を守ろうとパートをしながら美咲を育ててきた。
「いつも任せっきりで悪いな。」直光は仕事に追われる自分を労った。
しかし私は知っていたのだ。異例のスピード出世を遂げた直光は社内でのプレッシャーも多い。自分より先に入社した先輩たちを部下に持ち、仕事を進めていくことも気遣ってしまうだろう。そんな中でも家族のことを考え、辛いことも一人で耐え飲んでいるのだ。体を壊さないかと心配になることはあっても、家事や育児にも協力してくれとはとても言えなかったのである。
しかし結婚から10年が過ぎる頃から直光の様子がおかしくなっていった。
ある日、もうすぐ帰ってくる頃だと夕飯の支度をしながら待っていると、直光から「残業で遅くなる」とメッセージが送られてきた。突然の残業はよくあることだったため、その時は特に気にしていなかったのだが、その日を境に直光は毎日のように帰宅が遅くなっていったのだ。それに加え、休日出勤だと言って週末でさえも仕事に出かけるようになった。
「どうして急に忙しくなったの?」
「役職が上がって責任が増えたんだ。」直光は部長職に向けて佐として仕事をすることになったという。
「だけど休みも取らずに毎日遅くまで働いてたら倒れてしまうわ。」
「大丈夫だよ。ちゃんと気をつけるから。」
直光が出世するのは嬉しいが、過労で倒れてしまわないかと心配が大きかった。
しかしその1ヶ月後、夫婦共通の口座を確認すると毎月入金されているはずの生活費が減っていたのだ。その時は何かの手違いかとやり過ごしたのだが、翌月もさらに翌月も少しずつ入金額が減っていったのである。
「毎月の生活費だけど、ここのところ入金額が減っているのはどうして?」
「うん。この金額じゃ生活ができないのか?」
「そうじゃないけど、減った理由が知りたくて。」
直光は役職が上がったと言っていたはず。それなのに生活費を減らした理由が知りたかったのだ。
「別に生活に支障がないならいいだろう。付き合いも増えたから俺もお小遣いが必要なんだ。」
直光は取引先との接待や部下との付き合いのためだという。しかし言い訳をする直光の目はどこか泳いでいるようで、私は不審感を抱いたのだ。
それからは直光の行動を注意深く見るようになった。それまでの直光は見た目には全く無頓着だったのだが、突然高級な香水をつけ始め、ファッション雑誌を読むようになっている。
「どうして急に見た目に気をつけるようになったの?」
「管理職として取引先に会うことも多いからな。それなりに見える格好が必要だろう。」
直光は仕事のためだと言うが、それだけが理由だとはどうしても思えなかったのである。この頃には週末になると休日出勤だと言っては、鏡の前で念入りに自分の姿を確認してから出かけるようになった。
ある日、休日出勤から帰ってきた直光から自宅で使用しているものとは違うシャンプーの香りが漂ってきたのだ。
「どこかでお風呂に入ってきたの?」
「え?あ、ああ。部下に誘われてちょっとサウナに寄ってきたんだ。」直光は自分の匂いが変わっていることに気づいていなかったのだろう。
「どこのサウナ?」
「駅前にあるSTサウナだよ。部下があの店の常連なんだ。」
直光はとっさに言い訳をしたのだが、彼が言ったというサウナは改装工事中でこの時は閉店していたのだ。
また別のある日、直光のスーツをクリーニングに出そうと準備をしていると、彼のスーツに私のものでも美咲のものでもない髪の毛がついていたのである。職場で付着したのかもしれない。そう思ったのだが、スーツにはわずかに女性の口紅のような赤い跡がついていたのだ。
直光は浮気しているのかもしれない。私の中に疑念が湧き起こった。結婚して10年、私と直光の間に不穏な空気などなかった。直光は仕事で忙しくしているものの、夫婦仲は決して悪くなかったのだ。
翌日、私は友人に相談を持ちかけた。最近の直光の変化を話すと、友人は「100%浮気だ」と断言している。しかし証拠がなければ追求しても言い逃れられてしまう。そこで私は友人に協力してもらいながら直光の浮気の証拠を集めることにしたのだ。
「だけど証拠が出たらどうするつもり?」
「分からない。個人的には離婚も考えてるけど、美咲のことを思うとそう簡単に離婚するわけにもいかないし。」
友人は直光との離婚を躊躇するのであれば、むやみに証拠を集めない方がいいというが、事実を明らかにしないままモヤモヤした気持ちを抱えていたくはない。
「どうなるか分からないけど、今のまま何も知らないふりをしている方が嫌なの。」
直光が浮気していることは紛れもない事実。それに気づきながら何事もなかったかのように振る舞うことなどできない。証拠を突きつけた結果直光と離婚することになるのかもしれないが、それでも真実を明らかにしたかったのだ。
数日後、私は直光の車にGPS発信機を設置した。仕事の終業時間後や休日など直光の行動を監視するためだ。友人に協力してもらい、GPSが示す場所に出向き、そこで直光の行動を確認していると、彼は連日定時になると会社を出て駅前にあるマンションへと向かった。どうやらそのマンションに住む女性と付き合っているようだ。友人はそのマンションに出入りする直光を尾行し、部屋番号を突き止めた。そしてそこに住んでいる女性を見て驚いたという。
直光が会っていたのは友人の学生時代の後輩で、平野さやかと言うらしい。さやかは学生時代から様々な噂が絶えない人物で、彼女がいる男性でも一切気にすることなくアピールしていくのだとか。さらに調べていくと、さやかが務めている会社と直光の会社とは取引関係があり、2人は仕事の関係で出会ったと想像できた。直光の車に仕掛けたGPSは彼が毎日のようにさやかのマンションを訪れていることを証明していたのだ。
さやかと浮気していることは間違いない。直光の浮気を確信した私は絶望感に襲われた。
その日家に帰ってきた直光は「手土産を買ってきた」と笑顔を見せている。「前から食べたがってただろう。」
「え、ありがとう。」
直光がさやかとの浮気がバレないように私の機嫌を取っていると思うと腹がえぐり返りそうなほど怒りが込み上げた。しかし決定的な証拠がない。私は怒りをぐっとこらえ、平常心でいるように心がけたのだ。
その週末、直光は「取引先とのゴルフだ」と言って外出した。GPSを確認すると、彼の車は駅前にあるマンションに停車した後、ゴルフ場とは違う方向にある観光名所へと向かったのだ。その後、車は郊外にあるレストランに向かい、1時間ほど滞在した後、再び動き出した。一体今度はどこに向かうのか。スマホの画面を食い入るように見つめていると、美咲が声をかけてきた。
「ママ、何を見てるの?」
「なんでもないよ。」
「パパのこと?」
美咲には何も言っていないというのに、彼女は何かを察知しているようだ。
「美咲は、パパが浮気してたらどうする?」
「絶対許さない。」
美咲は私をまっすぐ見つめ、浮気している父親などいらないと言ったのだ。その言葉に勇気をもらった私は戦う覚悟を決めたのである。
GPSに目をやると、直光の車は郊外にあるホテルへと向かっていた。友人に連絡するとタイミングよく直光が向かったホテルの近くにいるという。友人にGPSの位置を伝え向かってもらうと、信号待ちをしていた直光の車を発見したと連絡があった。そのまま追跡してもらうと、直光は若い女性と共にホテルへと入っていったのだ。女性の顔ははっきりと見えなかったそうだが、おそらくさやかで間違いない。そう思って見ていると、直光は女性の腰に手を回し、周りの目も気にせずキスをしたらしい。
数分後、友人から送られてきた動画には寄り添い合っている2人の姿が映し出されていた。それを見た瞬間、私の中には言葉では言い表せられないほどの怒りが込み上がったのだ。直光は私や美咲に嘘をつき、若いさやかと夜を重ねていた。その事実が私は許せなかったのである。
すぐに私は直光に「何時に帰ってくるの?」とメッセージを送った。すると彼から「取引先の社長たちに飲みに誘われてるから遅くなる」と返事があったのだ。
結局その日直光が帰ってきたのは深夜0時前だった。
「随分遅かったのね。」
「付き合いだから仕方ない。」
飲みに行ったと言いながら、直光は酒の匂いはせず、代わりにシャンプーの香りが漂ってきた。
「飲み屋さんにシャワーがあるのね?」
「あるわけないだろ。ゴルフ場でシャワーした匂いだ。」
直光は私が何も知らないとをくり、適当な言い訳をしてきた。その姿を見ていたら無性に虚しくなった私は、直光との離婚を決意したのである。
美咲から父親を奪ってしまうかもしれない。しかし平気な顔で家族を裏切り続ける父親など不要だと思ったのだ。離婚を決めた私は直光の浮気の証拠を徹底的に集めようと思い、彼のスマホを覗いてみることにした。直光のスマホのピンコードは分かっている。すぐに忘れてしまうからと彼はピンコードを変えるたび私のLINEに送ってくるのだ。
出会ってからこれまで直光のスマホを覗き見たことは一度もない。そのことで彼も私のことを信用しきっていたのだろう。その夜、直光が熟睡したのを確認した私は彼のスマホを開いてみた。するとさやかと頻繁にやり取りをしていることが分かったのだ。そのメッセージには「もうすぐ妻とは離婚します」とも書かれている。「早くさやかと一緒になりたいよ」と愛の言葉を交わし合う内容に私は吐き気を覚えた。
数日後、直光は韓国出張に行くと荷造りを始めた。しかし直光の会社は海外との取引をしていないはず。不審に思った私はそのことを直光に問いかけたのだ。
「韓国に取引先なんてないでしょ?」
「新たな販路を見つけるためだ。」
直光は会社の繁栄のため仕方なく出張に行くという。
「出張って何日くらい行くの?」
「2週間だ。」
直光はさも本当のことのように話しているが、私はそれが嘘であることを知っていたのだ。ここ数日、直光はハワイの観光動画やハワイのパンフレットを見ていることが多い。私にバレないように細心の注意を払っていたようだが、パソコンの検索履歴を消すことまで頭が回らなかったらしい。直光が使用した後には必ず「ハワイ挙式」「ハワイ名物」と検索履歴が並んでいたのだ。
「出発は明後日だ。今回の出張は社運がかかっているんだ。間違っても邪魔するようなことはしないでくれよ。」
「分かった。」
その夜、私は改めて直光のスマホを覗いてみた。すると直光はさやかとその両親を連れてハワイで結婚式をあげる計画を立てていたのである。まだ私と離婚の話もしていないというのに、愛人と挙式するなど許せるはずがない。私は直光とさやかのメッセージのやり取りをスクショし、その全てを義父に送信した。それを見た義父からすぐに連絡があり、私はこれまでの直光の不倫の経緯を報告したのである。
義両親とは結婚して以来良好な関係を築いていた。美咲が生まれてからは孫のためにと様々な支援も行ってくれている。義両親は私のことを本当の娘のように可愛がってくれ、直光のことも度々相談に乗ってもらっていたのだ。
「あゆみさんと美咲がいるっていうのに、あいつは何を考えているんだ?」
義父が大激怒するのも無理はない。直光は義父に対し「出張費用が自己負担になった」と嘘をつき、渡航費用や滞在費用など数百万に及ぶ費用を無心していたのである。
「直光の会社の社長は俺の幼馴染みなんだ。この件は彼にも伝える。」
義父は知らず知らずのうちに直光の浮気の片棒を担がされたことをひどく悔んでいたのだ。
そして迎えた直光の出発日。彼は「韓国のり買ってくるぜ」と張り切って家を出た。その直後、父が迎えに来てくれ、私と美咲は空港へと向かったのだ。
空港のロビーでは直光がさやかと共にハワイの飛行機への搭乗を待っている。さやかは直光の肩に頭を預け、固く手をつないでいる様子は恋人にしか見えない。私は怒りを抑えながら彼らに見つからないように搭乗手続きを済ませ、父が手配してくれたチャーター機に乗り込んだ。
飛行機の中で私は美咲の気持ちを聞いてみた。私と直光が離婚してしまえば美咲にも苦労をかけてしまうかもしれない。もしも美咲が私と直光の離婚に反対するのであれば、考え直す必要がある。
「美咲は、パパがいなくなったら嫌?」
「うん。私はママがいてくれたらそれでいい。これまでだってパパはいないのと同じだったし。」
美咲が物心ついた時には直光は仕事に明け暮れ、家族サービスもしてこなかった。そのせいか、美咲にとっては不在も同然の存在になっていたらしい。
「それにね、浮気する男って最低。」
まだ小学生だと美咲は大人の顔をして怒り出したのだ。その言葉を聞いて私の決意は固いものとなったのである。
ハワイに直光たちよりも早く到着した私たちは、まず直光とさやかのやり取りの中にあった教会を尋ねてみることにした。2人が結婚式をあげるであろう教会に行き、「サプライズでお祝いしたい」と挙式の時間を確認すると、翌日の10時に始まるという。その日は美咲と義父と一緒に教会近くのホテルに泊まり、翌日に備えることにした。
美咲にとっては初めての海外旅行であることを考慮し、義父は観光名所を巡ってくれ、美咲は目を輝かせている。
「直光と離婚しても美咲は俺の大事な孫だ。決して見捨てたりはしない。」
義父は離婚後も私たち親子を見守ってくれると約束してくれたのだ。
そして迎えた翌日。教会に到着すると、ちょうど直光とさやかが誓いの言葉を交わそうとしているところだった。神父の問いかけに直光が答えようとした瞬間、私は教会の扉を開いた。その場にいた全員が私の方を振り返る。
「その結婚に異議を申し立てるわ。」
「ど、どうしてここに?」
顔を真っ赤にしながら動揺する直光の横で、さやかは軽蔑そうに私を見つめている。私はここにいる直光の妻です。その瞬間、大きな騒ぎが起こったのだ。
「これは一体どういうことだ?」
さやかの両親は直光が既婚者だということを知らなかったのだろう。顔を真っ赤にして結婚式を騒ぎ立てている。私は祭壇に歩みより、記入済みの離婚届を突きつけたのである。
「待ってくれ。こ、これには訳が…」
「言い訳は結構よ。願いが叶ってよかったわね。」
言い逃れができないと悟った直光はとっさに走り出し、教会の外へ逃亡を図った。しかし扉の向こうには義父と美咲が待ち構えている。
「どこに行こうって言うんだ?」
「親父、どうして…」
「お前の嘘を暴くためだ。」
義父の横で美咲も直光を睨みつけていた。
「残念ね。彼女と結婚したいなら、まず私たちにちゃんと責任を取ってからにしてちょうだい。」
状況を理解したさやかの父はその場で挙式中止を叫んだ。
「本当に申し訳ありません。まさか既婚者だったとは。」
「謝るべきは直光とさやかさんです。」
さやかの両親は常識人らしい。私と美咲に丁寧に謝罪してくれたのだ。
「娘にはきちんと反省させます。今後、直光君に近づかせることもしません。」
「ちょっと、勝手なこと言わないで。愛があれば結婚してるかどうかなんて関係ないわ。どうせ奥さんも離婚するつもりだったんでしょ。」
さやかは開き直ったように直光の腕にしがみついた。
「そうね。直光と離婚するから、後は好きにしてくれて結構よ。そうそう。直光の結婚を知った会社の同僚たちからお祝いのメッセージも預かってるのよ。」
私はお祝いメッセージと称し、直光の会社の社長と同僚たちによる批判コメントを再生したのだ。「人として最低だ」「恥を知れ」と厳しいコメントが続く中、最後に会社の社長が現れた。
「家族サービスの旅行だと長期休暇を取ったにも関わらず、不倫旅行に興じるとは…。その上、既婚者でありながら別の女性と挙式するとは思いの外だ。」
社長は厳しい言葉で怒りをぶつけたのだ。
「帰国次第、君には地方に行ってもらう。当然、役職も剥奪する。覚悟しておけ。」
社長の言葉に直光は頭を抱えて震えていた。
「終わりだ…。俺の出世が…。」
直光は決してバレないと思っていたのだろう。しかし全てが露呈し、これまで培ってきた経歴の全てが泡となった現実に打ちひしがれている。
「もう1つあるのよ。」
私はもう1つの動画を再生してみせた。そこには日本に残っている義母がコミック本やトレーディングカードを近所の子供たちに配っている姿が映し出されていたのだ。
「これがどうしたって言うんだ?」
「よく見てみなさい。」
画面を食い入るように見つめた直光は、直後に顔を真っ赤に染めた。
「これは俺が大事にしている…」
義母が配っていたのは、直光が数千万の借金をしてまで手に入れたレアなトレーディングカードや、有名漫画家の直筆サイン入りのコミックボックスなどのコレクションだったのだ。
「いくら親子でも、勝手に処分するのは犯罪だ!」
直光は悲愴な顔で叫んでいる。
「不倫も立派な犯罪だ。それに、これはお前に騙し取られた金の担保だ。権利はすでに俺たちに移っている。」
義父は直光に渡航費用を渡す際、誓約書を書かせていたそうだ。その中に「万が一返済が滞った場合は、直光のコレクションを処分する」と記載があった。
「まだ返済日まで期間があるだろう!」
「詐欺を働いたお前に拒否権はない。」
義父は誓約書に書かれている一節を指示した。そこには「虚偽や犯罪があった場合、即座に担保を換金し、弁済金とする」と書かれていたのである。誓約書にはしっかりと直光の直筆サインがあり、言い逃れはできない状況だった。
「今後、お前への経済的援助は一切行わない。」
義父は直光を絶縁し、親子の縁を切ると宣言したのだ。
「そんな大げさに騒がなくてもいいじゃない。直光は奥さんと別れて私と一緒になる。ちょっと式が早かっただけで結果は同じだわ。」
さやかは何一つ反省せず、大声で持論を語っている。それを聞いたさやかの両親は彼女に向かい「二度と家の敷居をまたぐな」と絶縁を申し渡した。
「別にいいわよ。2人でいられるならそれで幸せだものね。」
さやかは直光にしがみつきながら彼の同意を求めたのだ。
「待ってくれ!」
義父に見放された直光はさやかを突き飛ばし、私と義父の前で土下座を始めた。
「どうかしてたんだ。頼む。許してくれ。」
必死に土下座をしながら私と義父に許しを請う直光を、私は冷たく見下ろした。
「自分の発言に責任を持ちなさい。」
私は直光とさやかのLINEのスクショを見せつけ、願い通り離婚してあげると言い放ったのだ。
「違う。それは本心じゃない。本当だ。」
「冗談でハワイ挙式までする人がどこにいるのよ。」
直光は仕事を左遷され、収入が大幅に減るというのに、義父に見放されてしまったら自分の生活も成り立たないと思ったのだろう。「さやかのことは全て遊びだった」と言い放ち、私の足元にすがりついている。その様子を見たさやかは直光に怒りをぶつけた。
「私とのことが遊びだったってどういうことよ。結婚したいって言ったのは直光でしょ。」
さやかに殴られても、直光は土下座をやめなかった。
「さやかとは別れる。だから頼む。もう一度俺とやり直してくれ。」
「諦めなさい。全ては自業自得よ。」
私はすがりつく直光を振り払い、美咲と共に教会を後にした。
帰国後、直光は社長の宣言通り地方の物流倉庫へと移動となった。かつての部下たちは一様に直光を見下し、周囲から孤立しているらしい。
私は義父に紹介してもらった弁護士を通じて直光と離婚調停を開いた。その場でも直光は全ての事実を認めつつも、私との離婚はしないと言い張ったのだ。しかし裁判所は私の主張を全面的に認めてくれ、その結果直光との離婚が成立したのである。その後、裁判所は直光に慰謝料と養育費の支払いを命じた。同時に義父は直光がこれまで借用した金銭の全てを返還するよう請求したのだ。直光は渡航費以外にも度々義父に借金を申し出、その金額は2000万近くになるという。
困り果てた直光は会社社長に頼み込み、退職金を前借りしたようだ。しかしそれを持ってしても多額の借金が残ってしまう。なんとか逃れる方法はないものかと、直光は裁判所に自己破産を申し出たようだ。しかし、直光が借金した理由は全て愛人との交際や自身のコレクションのためで、本来であれば免責不許可事由に該当するという。その上、私への慰謝料は離婚の理由が直光の不貞であることから免責が認められず、養育費に関してはそもそも免責事由に該当しないそうだ。自己破産したとしても、多額の支払いが残ると分かった直光は私の弁護士に慰謝料の減額を訴えてきた。しかし、私は「1円も譲る気がない」と跳ねのけたのだ。
その結果、直光は前借りした退職金と合わせて、住んでいたマンションと車を売り払い、その売却金で支払いをした。義父への借金はまだ残っているそうだが、収入の中から分割返済をすると約束しているらしい。その後は月2万円の自己所有のアパートに引っ越し、本業とは別にアルバイトをしながらなんとか生活を繋いでいるそうだ。
愛人のさやかは不倫の事実が職場に露呈し、周囲から白い目で見られることに耐えられなくなったようで、自ら退職願を書いて退職したらしい。実家からも絶縁されたさやかは、私への慰謝料を支払うため消費者金融から借金をしたのだとか。その返済のため夜の街で働き始めた彼女だが、浪費癖が抜けず、せっかく得た報酬もすぐに使ってしまったらしい。今は消費者金融からの取り立てに追われる毎日を送っているそうだ。
その後、私は美咲と共に義父のバックアップを受けながら新居で新たな生活を始めている。義父は「孫に不自由はさせない」と美咲の教育資金を全て負担してくれ、月に一度は食事会に誘ってくれるのだ。さらに義父は私が正社員で働けるようにと、自身が経営する関連会社に声をかけてくれた。直光と離婚した後の生活を心配していた私だが、義父のおかげで安定した収入が得られるようになり、私と美咲の新たな暮らしは穏やかなものとなっているのだ。
これからは美咲を守り、親子2人で笑顔の絶えない家庭を作っていこう。そう心に誓い、今日も私は前に進んでいくのである。

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