結婚4年で3回の流産。医者は「運命」と言い、夫は「お前が弱いからだ」と冷たく言い放った。私は自分を責め続けた。でも、4回目の妊娠で、義母が毎回くれた「安産の漢方」に、ある疑念が湧いた。あの苦い飲み物を、私はこっそりトイレに流した。そして、夜中に義母が誰かに電話している声を聞いた。「やったわよ。量も増やしたし、これで本当に流産するわ。あなたは、玲花さんを迎える準備をしてなさい。」その瞬間、私の…

結婚4年で3回の流産。医者は「運命」と言い、夫は「お前が弱いからだ」と冷たく言い放った。私は自分を責め続けた。でも、4回目の妊娠で、義母が毎回くれた「安産の漢方」に、ある疑念が湧いた。あの苦い飲み物を、私はこっそりトイレに流した。そして、夜中に義母が誰かに電話している声を聞いた。「やったわよ。量も増やしたし、これで本当に流産するわ。あなたは、玲花さんを迎える準備をしてなさい。」その瞬間、私の...

病院の白い天井を見つめながら、私は冷たい現実を受け止めていた。4年間の結婚生活で、これが3回目の流産だった。まだ形も整わない小さな命を、これで3回も失ったのだ。下腹部の鈍い痛みよりも、心臓をえぐられるような悲しみの方がずっと苦しかった。

ベッドの脇では義母の洋子さんが、丁寧に果物の皮をむいていた。私が目を覚ましたのを見ると、涙声で言った。
「ああ、さやか、気がついたのね。体の具合はどう?体に良いと思って、じっくり煎じた漢方薬を持ってきたのよ。元気がつくように、少しでも飲んでみなさい。」

私は無言で頷いた。義母はいつもこうだ。私が辛い時は必ずそばにいて、漢方を飲ませ、ため息混じりの慰めをくれる。
「お医者様がおっしゃるには、当分は安静にしていなきゃいけないって。私が前から言ってたじゃない。あなたは生まれつき体が弱い星の下に生まれたんだから、気をつけなきゃいけないって。それが運命なのかもしれないわね。」

またその言葉だった。体が弱いから、運命だから。3回の流産の間、私はいつもそう言われ続けてきた。

その時、病室のドアが開き、夫の匠が入ってきた。きちんとしたスーツ姿で、髪は整っていたが、顔には疲労感が漂っていた。彼は私を直視せず、スマートフォンを覗き込みながら言った。
「目が覚めたか。重要な会議中だったんだけど、母さんから電話をもらって、何とか時間を作ってきたんだ。ゆっくり休めよ。」

彼の無関心な口調に、心臓が冷たく沈んでいった。彼は私の夫で、たった今失った子供の父親だ。しかし、彼の目には悲しみも喪失感もなかった。あるのは仕事への焦りだけだった。

義母が匠に言った。
「たくみったら、妻がこんなに衰弱しているのに、そばにいてあげなきゃ。仕事なんて後回しでいいじゃない。私ももう家に帰って夕食の支度をしなきゃいけないし。」

匠は頷いたが、視線は相変わらずスマートフォンに固定されていた。
「はい。母さん、早く行ってください。僕がいますから。」

義母は荷物をまとめながら、私に念を押した。
「さやか、ポットに漢方を入れておいたから、必ず全部飲むのよ。体をしっかり直して、またやり直しましょう。今度は必ず私の言うことをよく聞いてね。」

私は喉元まで込み上げる嗚咽を飲み込みながら頷いた。またやり直す?私にそんな力が残っているだろうか。

義母が去ると、病室は匠のキーボードを叩く音だけが残り、沈黙に包まれた。彼は部屋の隅の椅子に座り、私に背を向けていた。いつも見ている馴染みのある後ろ姿が、今日に限って他人のように感じられた。

この4年間、私は良い妻になるために絶えず努力してきた。温かい家庭と子供の笑い声を切実に願った。しかし、私に帰ってきたのは3度の恐ろしい苦痛と、夫の恐ろしいほどの冷淡さだけだった。

涙が頬を伝って流れ落ちた。彼に私の弱い姿を見せたくなくて、壁の方へ寝返りを打った。その時、キーボードの音が止まり、彼の足音が近づいてきた。彼が私の肩に手を置いたが、それは温かい慰めの手ではなかった。
「もう泣くなよ。もう失った子供はどうしようもないだろう。俺たちはまだ若い。チャンスはたくさんある。お前がそうやって弱音を吐くから、子供を守れないんだ。」

彼の言葉は、血を流している私の心臓に刃を突き刺した。私は寝返りを打ち、彼を睨みつけた。
「どうしてそんなことが言えるの?あなたの子供でもあるじゃない。1度や2度じゃない。3度よ。あなた、1度でも心から悲しんだことがあるの?あなたにとっては仕事が全てなんでしょう。」

匠はうつむき、手を離した。
「言葉を選べよ。俺が気にしてなかったら、ここに来てもいない。今会社がどれだけ重要な時期か分からないのか。俺まで倒れたら、俺たち家族は路頭に迷うことになるんだぞ。余計なことを考えずに寝ろ。」

彼は再び椅子に戻り、仕事に没頭した。私は虚ろな目で真っ白な天井を見つめた。涙さえ枯れ果ててしまった。ひどい孤独感が、病室の冷気よりも深く私を蝕んでいった。3度の流産よりも恐ろしいのは、私の最も近い人がこれほどまでに無関心な人間だったという事実に気づくことだった。

何かが間違っている。そう直感したが、それが何なのかは分からなかった。

2ヶ月後、退院した私の体の傷は癒えたが、心の傷は依然としてズキズキと痛んだ。私は無理やり気力を振り絞り、再び会社に出勤した。匠も申し訳なく思ったのか、以前より早く帰宅し、私の体調を尋ねることもあったが、私たちの間の亀裂はすでに大きくなりすぎていた。

そんなある日の朝、馴染みのある吐き気が込み上げてきた。心臓が狂ったように高鳴った。私は震える手で、救急箱に残っていた最後の妊娠検査薬を使った。はっきりとした陽性の線が現れた時、私は喜びで叫ぶ代わりに、冷たい浴室の床に座り込んだ。恐怖で胸が締めつけられた。

4度目の妊娠。喜びよりも恐怖の方がはるかに大きかった。

検査薬を握りしめたまま、過去3回の恐ろしい記憶が悪夢のように蘇ってきた。恐ろしい規則性があった。最初の妊娠時、義母は私の世話をすると言って我が家に入り浸り、毎日のように安産に良いと言って漢方を煎じてくれたが、子供は2ヶ月を超えなかった。その時、匠は急に地方へ長期出張に行った。2回目も同じだった。妊娠の知らせを伝えると、すぐに義母が荷物をまとめてやって来て、今度は体を温めると言って違う種類の漢方をくれた。そして私はまた3ヶ月を待たずに子供を失った。その時も匠は重要な取引先との会議で遠くに行っていた。そして最後の3回目。義母はやはりそばで漢方を飲ませ、匠は重要な会議中だった。

3回の妊娠、3回の義母の来訪、3回の夫の不在、そして3回の流産。この身の毛もよだつ偶然の一致。まさか義母がいつも言っていた私の体が弱いせいではないかもしれない。あの独特な漢方のせいではないか。

私は首を振り、恐ろしい想像を振り払おうとした。義母は匠の母親であり、誰よりも孫を待ち望んでいた方だ。まさか自分の孫を害するはずがない。私が過敏になっているせいだろう。

しかし、鼻をつく漢方の匂いと、その不快な味が脳裏から離れなかった。

私は検査薬を箪笥の奥深くに隠し、今回は少なくとも当分は誰にも言わないことに決めた。この子は私が自分の手で守らなければならない。しかし、いつまで隠せるだろうか。つわりは日に日にひどくなった。

その日の夕食中、結局我慢できずにトイレに駆け込んだ。私が戻った時、匠は複雑な目差しで私を見ていた。
「できたのか?」

私は嘘をつくことができなかった。小さく頷いた。しかし、彼の顔には喜びの代わりに微妙な表情が浮かんだ。
「ああ。」

彼は短く答えると、席を立ってベランダに出て、誰かに電話をかけた。緊張した彼の表情から、不吉な予感がした。

1時間もしないうちにチャイムが鳴った。ドアの外には、大きな旅行鞄とあらゆる薬草の包みを持った義母が立っていた。無理やり作った笑顔だったが、目は笑っていなかった。
「匠から電話をもらったわ。今度は本当に気をつけなきゃいけないから。私が泊まり込みで24時間ついていてあげる。」

私は玄関に棒立ちになったように立っていた。全身の血が冷たく凍りつくようだった。あの恐ろしいルーティンが再び始まったのだ。私が匠を見ると、彼は私の目を避けて言った。
「母さんが来てくれれば安心だろう。お前はゆっくり休んでなよ。」

その夜、予想通り義母は湯気が立つ漢方の器を持ってきた。不快な匂いが鼻をついた。
「ほら、早くお飲み。半日かけてじっくり煎じたのよ。今回は必ず守らなきゃね。」

私は真っ黒な漢方を見下ろした。スプーンを持つ手が細かく震えた。どうすればいい?飲むべきか、飲まざるべきか?飲まなければ疑われる。しかし、もし私の恐ろしい疑念が事実なら、私は再び子供を失うことになる。

もう耐えられなかった。私は深呼吸をして義母を見ながら、無理やり笑顔を作った。
「お義母さん、ごめんなさい。つわりがひどすぎて、最近は慣れない匂いを嗅ぐだけで胃がひっくり返りそうなんです。少し覚めたら、私が飲みますね。」

義母の眉間がわずかに動いた。
「あらまあ、本当に大げさなんだから。それでも安産に良い薬は、無理にでも飲まなきゃ。体が弱いのにどうするの?」

彼女は何か言いかけ、ため息をついた。
「分かったわ。じゃあ、後で必ず飲むのよ。」

言葉ではそう言ったが、彼女の視線は器に固定されていた。

義母と匠がそれぞれの部屋に入ったことを確認した後、私は慎重に漢方を持ってトイレに行き、ドロドロした液体を便器に流した。これは一時しのぎに過ぎない。明後日には義母はまた別の漢方を煎じるだろう。私はこれ以上、受動的にやられているわけにはいかなかった。何か行動を起こさなければ。

ふと、大学時代に1番仲の良かった友人の弓絵の顔が浮かんだ。弓絵は今、実力のある産婦人科医になり、隣町に個人病院を開業していた。公共の病院システムに記録が残らない個人病院の方が安全だと思った。

翌朝、私は義母にお腹の赤ちゃんのために神社に行って祈ってくると嘘をついた。義母は満足そうな表情で頷き、お賽銭にしなさいとお小遣いまで握らせてくれた。私は急いでタクシーに乗り、弓絵の病院に向かった。

小さくても温かく清潔な病院は、大病院の冷たい雰囲気とは違った。私を見た弓絵は明るく笑った。
「さやか、久しぶりじゃない。まさかおめでとう?」

しかし、私の青ざめた顔を見ると、弓絵の笑顔は次第に消えていった。彼女は私を診察室に導き、ドアを閉めた。
「どうしたの?さやか、顔色がひどいよ。」

その言葉に、これまで抑え込んできた全ての恐怖と悲しみが一度に溢れ出した。私は弓絵の手を握り、泣きじゃくりながら全てを打ち明けた。4年間の結婚生活、原因不明の3度の流産、義母が来るたびに繰り返される身の毛もよだつ偶然、そしてその正体不明の漢方のことまで。

全てを聞いた弓絵の顔が深刻に固まった。彼女は無言で私を超音波室に連れて行った。画面にはとても小さな点が1つ見え、すぐに静かな診察室にトクトクトクトンと規則正しい心音が響き渡った。弓絵が画面を私の方に向け、確信に満ちた声で言った。
「さやか、これを見て。心音がとても強い。胎児も子宮にしっかりと着床しているし、あなたの子供は極めて健康よ。」

私は呆然とした。じゃあ、過去の3回はなぜ?

弓絵の言葉が、私の心の中にある恐ろしい疑念に楔を打ち込んだ。私に問題がないなら、原因は外部要因しかあり得ない。

私が震えているのを見た弓絵が、検査を止めて私を支え起こした。
「ねえ、しっかりして。とりあえず、あなたと赤ちゃんを守らなきゃ。私が偽の診断書を1つ作ってあげる。胎児がとても弱くて流産の兆候があるっていう内容で。これを家に持ち帰って見せなさい。もしあなたのお義母さんが本当に何か企んでいるなら、胎児がもう弱いと知れば、安心して油断するはずよ。どうせ放っておいても流産するだろうって思うでしょうから。その間、あなたは私が処方する本物の流産防止薬をこっそり飲むの。普通のビタミンの瓶に入れてあげるから。言ってること分かるわよね。」

私は感動で喉が詰まった。これが私と子供を救う唯一の命の綱だった。

家に戻る道、鞄の中には弓絵がくれた薬と偽の診断書が入っていた。心が鉛のように重かった。温かい筈の家が、息苦しい空間になった。一歩一歩が白い紙の上を歩くようだった。

リビングでは匠と義母がテレビを見ていた。私を見た義母が問い詰めた。
「神社にどうしてこんなに長くいたの?顔色がもっと悪くなってるじゃない。」

私は深呼吸をして勇気を出し、診断書を取り出した。わざと震える声で言った。
「お義母さん、お義父さん、体調が悪くて友人の病院に寄ったんですが、医者が赤ちゃんがとても弱くて、流産するかもしれないって。」

スマートフォンを見ていた匠は顔を上げ、診断書にざっと目を通すと眉をひそめた。
「俺が言っただろう。体が弱いなら薬を飲めって。面倒だな、全く。そんなに弱いなら、どこも出歩かずに家でじっとしてろよ。」

彼の無関心に胸が痛んだが、もうそんなことで傷つく余力もなかった。

一方、義母の反応は全く違った。彼女は私の手から診断書をひったくるように奪い取り、じっと私を見つめ、紙に視線を移して文字を一文字一文字丁寧に読んだ。彼女の視線が「流産の危険」という単語で止まった時、私は彼女の手に力が入るのをはっきりと見た。そして、ほんの一瞬、彼女の目に奇妙な光がよぎるのを目撃した。それは心配でも残念さでもなかった。まるで計画がぴったり当てはまったというような満足感、あるいは計算高い目つきだった。

しかし、その光はまたたく間に消えた。彼女はすぐに心配そうな表情に戻り、長くため息をついた。
「ほら、見なさい。私が言ったでしょう。あなたの運勢が弱いってことを、私は最初から分かってたのよ。こんなに弱いのに、どうやって子供を守るの?ああ、私の運命だわ。前世でどんな罪を犯して、孫を見ることができないのかしら。」

彼女は哀れみに満ちた声で言ったが、私は背筋が凍った。彼女は偽の診断書を完全に信じているようだった。私が特別な世話を受けなくても、この子は自然に消えるだろうと信じているようだった。

弓絵の予想通り、その日の夕方から雰囲気が変わった。義母は漢方を煎じなかった。代わりに、薄い白粥をいっぱい差し出しながら言った。
「医者が赤ちゃんが弱いって言ってるんだから、むやみに薬のつく食べ物を食べちゃだめよ。漢方も当分飲むのはお休みなさい。病院の薬と混ざったら大変だから。」

私は小さな声で「はい」と答え、粥の器に顔を埋めた。何の味もしない粥だったが、どんな漢方よりも飲み込むのが楽だった。

弓絵の計画はひとまず成功した。義母は手を止めた。彼女はこの弱い胎児が、彼女の望み通り自然に消えるのを待っていた。

その夜、私は匠の横で寝たふりをした。彼が静かに起き上がり、スマートフォンを持ってベランダに出ていくのを感じた。私は薄目を開けて彼を見守った。彼はとても小さな声で話していたが、耳を澄ませば聞こえた。
「かなり弱いらしい。流産するかもしれないって。うん。母さんもそう言ってる。とりあえず様子を見よう。」

誰と電話しているのだろう?誰に私の状態を報告しているのだろう?心臓が冷たく沈み込んだ。この家で、私は完全に1人だった。

私は二重生活を始めた。昼間は今にも流産しそうな弱い嫁を演じ、夜には静まった隙を見て、弓絵がくれた流産防止剤をこっそり飲み、隠しておいた栄養剤を摂って子供を守るために闘いを繰り広げた。偽の診断書が数日の平和をもたらしてくれたが、私の中の恐怖は少しも減らなかった。義母は漢方を止めたが、幽霊のように私の周りをうろついた。彼女の目は私の平らな腹に向けられ、何かを探り、待っていた。彼女は悪い知らせを待っていた。

この平和はあまりにも脆いものだった。私はこれ以上防御だけしているわけにはいかなかった。弓絵が子供を守る時間を稼いでくれたが、私は真実を知らなければならなかった。なぜ彼女はそんなことをするのか。そして、匠はこの事実を知っているのか。私は彼らの仮面を剥がす、言い逃れできない証拠が必要だった。

翌朝、私は再び古い手を使った。義母にか細い声で言った。
「お義母さん、心がとても不安で、神社に行ってこようと思います。神様に祈って、弱い子ですが、1日でも長くお腹にいさせてくださいって。」

「気がかり」だの「神頼み」だのという言葉に、義母は即座に許可した。
「そうね。神社に行って、心でも落ち着かせてきなさい。もしかしたら神様が哀れんでくださるかもしれないわ。転ばないように気をつけて。」

彼女は私が依然として運命や迷信を信じているという事実に、非常に満足しているようだった。しかし、私は神社には行かなかった。マンションを出るなり、私はタクシーを拾って秋葉原へ向かった。数日間、昼夜を問わずインターネットで検索しておいたものがある。世界で最も小さい証拠型隠しカメラだ。

私はこれまで匠に内緒でへそくりとして貯めていた最後の貯金を全部はたいて、バッテリーで作動し、スマートフォンでリアルタイム確認が可能なカメラを2台買った。昼食の時間前に家に戻り、鞄の中に小さな箱2つを隠した。心臓が張り裂けそうだった。緊張と恐怖で手のひらがじっとりと濡れてきた。私は自分の家で、犯罪者のように息を潜めていた。

機会を待たなければならなかった。ずっと義母はリビングのソファに座ってテレビを見ていて、身動きが取れなかった。ついに4時近くになり、彼女が買い物籠を持ってスーパーへ行った。匠はまだ帰宅前だった。まさに今だった。

私は急いでカメラを取り出した。1台目はリビングの隅にある観葉植物の葉陰に隠した。葉が茂っていて小さなレンズを隠すのに完璧だった。この角度からはリビング全体と食卓、玄関のドアまで見ることができた。2台目はもっと難しかった。キッチンが見える角度が必要だった。義母はいつもそこで漢方を煎じ、料理をしていたから。悩んだ末、私たち夫婦の寝室にある本棚の上に設置することにした。分厚い辞書たちの間に巧妙に挟み込んだ。少し遠いが、キッチンの入り口と廊下の一部が正面に見えた。

手が震えてカメラを落としそうになった。スマートフォンと接続し、角度を確認した。全て完璧だった。私はベッドに座り込んで息を整えた。真実を知りたいと思いながらも、その真実があまりにも怖かった。もし彼女が本当に恐ろしいことをしている場面を見ることになったら、私はどうすればいい?私は急いで全ての痕跡を消した。仕上げを終えた時、外から鍵の音が聞こえた。義母が戻ってきたのだ。

私は慌ててベッドに横になり、疲れたふりをした。心臓が喉から飛び出しそうだった。私は餌を撒いた。あとは魚がかかるのを待つしかなかった。小さな2つの目が、この恐ろしい陰謀を暴いてくれる唯一の希望だった。

地獄のように長い3日が過ぎた。私は隙があるたびにスマートフォンの画面に顔を近づけ、家の中の全ての動きを監視した。自分で自分に幻滅感さえ覚えたが、止めることはできなかった。最初の数日間、映像に写っていたのは退屈なほど平凡な日常だった。義母は掃除をし、テレビを見、友人と電話して「運勢が弱い嫁」に対する愚痴を並べていた。匠は相変わらず早く出勤し、遅く帰宅し、家に帰ればパソコンやスマートフォンばかり覗いていた。全てが怖いほど平穏だった。

そして、私と弓絵の予想通り、義母は漢方を完全に止めた。私が流産の危険があるという診断書を見せた日から、あの黒くて不快な匂いがする液体は食卓から消えた。代わりに私の食事は薄い白粥、たまに澄んだ吸い物のようなものが全てだった。食事を持ってくるたびに、彼女はため息をつきながら言った。
「医者が弱いって言うんだから仕方ないわね。あっさりしたものを食べなきゃ。下手に良いものを食べてお腹を壊したら大変だから。」

彼女が何気なく言ったその言葉に、私の心臓が凍った。「大変」とは何だろう?この子を失うことだろうか?しかし、彼女の油断は私にとっては絶好の機会だった。彼女が私がどんどん衰弱し、子供が自然に消えると信じている間、私は子供を守るために必死に戦った。弓絵がくれたビタミンは、実際は最高の流産防止薬だった。私は彼女が見ていない時に欠かさず飲み、クローゼットの奥深くに隠しておいた妊婦用の栄養剤とナッツ類を、皆が寝静まった真夜中に音を立てずに噛みしめ、子供に栄養を送り続けた。

この二重生活をしなければならなかった。昼間は「つわりで何も食べられない」青白くてか弱い嫁を演じ、夜になれば狂ったように子を守る母となって、昼の間に不足した栄養を補った。鏡の中の私の姿はストレスでやつれていたが、目だけは決意に満ちていた。

時々、私が穿ちすぎなのではないか。本当に医者の言葉を信じて心配してくれているのかもしれない。過去の3回はただの不幸な偶然だっただけだという、弱い考えが浮かぶこともあった。私の家族が平穏であってほしいと願う、愚かな心だった。

しかし、4日目になった日、義母の忍耐力が尽きたようだった。私は部屋で昼寝をするふりをしていたが、スマートフォンはリビングのカメラの録画モードをオンにした状態だった。彼女が誰かと電話する声が聞こえた。声に焦りが滲んでいた。
「ええ、とても弱々しいわよ。毎日寝てばかりで、医者も流産するかもしれないって言ってるのに。」

彼女は少し言葉を切り、ほとんど囁くように苛立ち混じりの声で言った。
「どうしてこんなにフラフラしてるのに、終わらないのかしら。一体、いつまでこうしているつもり?」

心臓が止まるようだった。「終わる」。彼女は何が終わるのを待っている?数日間の平和は全て偽りだった。彼女は油断したのではなく、自分が望む結末が来るのを待っていたのだ。弓絵が正しかった。そして、私は悟った。彼女はこれ以上待たないだろう。もしこの子が彼女の望み通り自然に消えないなら、彼女は別の方法を使うだろう。

偽りの平和は1週間近く続いた。妊娠8週目。私は依然として病気の嫁を演じ、義母は忍耐強く待った。しかし、私は彼女の忍耐が尽きかけているのを感じることができた。「こんなに弱くて、いつまで持つか分からないわね」といった独り言をつぶやく回数が増えた。その度に、私は頭を下げながら、爪が皮膚に食い込むほど拳を強く握り締めるだけだった。

おそらく、私の「弱い胎児」がなかなか消えないため、彼女はもはや運命だけに任せることはできないと判断したようだ。

その日の夜、私は眠れなかった。つわりは収まっていたが、不安感はどんどん大きくなるばかりだった。横からは匠の規則正しい寝息が聞こえてきた。深夜1時近くになった時、私は習慣のようにスマートフォンを手に取り、カメラアプリを起動した。リビングは暗く、全てが静まり返っていた。今夜も無事に過ぎるだろうと思いながら、アプリを閉じようとした瞬間、寝室に設置されたカメラ、つまりキッチンの方を映すカメラに動きが捉えられた。

心臓が止まるようだった。義母の部屋のドアが非常に慎重に開き、黒い影が忍び足で出てきた。彼女は電気をつけず、スマートフォンのぼんやりとした明かりに頼っていた。彼女はキッチンではなく、リビングの方へ向かった。私は慌ててリビングのカメラに画面を切り替えた。

彼女はリビングの隅にある小さな木製の収納棚の前に立っていた。普段、彼女が書類やごまかしたものを入れておき、いつも固く鍵をかけていたその収納棚だった。彼女がパジャマのポケットから小さな鍵束を取り出した。カチャっという音と共に扉が開いた。私は息を殺して画面を見守った。彼女は少し何かを探すと、漢方薬局で使うような四角く畳まれた小さな紙包みを1つ、慎重に取り出した。家の中に誰もいないにも関わらず、彼女の全ての行動は極めて隠密的だった。

あの紙包みは一体何だろう?なぜ真夜中に取り出さなければならないのか?なぜ鍵のかかった収納に隠しておく必要があるのか?

私はこの4年間「お義母さん」と呼び、私を娘のように思うと言っていたその女を見つめた。微かな明かりに照らされた彼女の顔は、見知らぬ人のように恐ろしかった。彼女は紙包みを持ったまま収納を再び施錠し、すぐにキッチンの方へ向かった。手のひらが汗でびっしりだった。私が最も恐れていた、決して事実であって欲しくなかったことが、すぐに起ころうとしていた。

私は震える手で再び寝室のカメラ画面に切り替えた。彼女がキッチンの微かな明かりをつけた。彼女は土鍋の近くに近づいた。この中には鶏のスープ、サムゲタン風のスープが入っていた。彼女が今日の午後、明日の朝に私が食べるようにと煮込んでおいたものだった。心臓が崩れ落ちるようだった。このシナリオはあまりにも馴染み深いものだった。

彼女は土鍋の蓋を開け、ゆっくりと紙包みを広げた。中には茶色い漢方薬ではなく、極め細かい白い粉が入っていた。薄明かりの下、私は彼女が紙包みを傾け、その白い粉をスープの中に慎重に入れるのをはっきりと見た。まるで正確な量を測るように、とても少しずつ、ゆっくりと。

叫び声をあげたかった。飛び出してあの鍋をひっくり返してやりたかった。しかし、体が麻痺したように動かなかった。熱い涙が頬を伝ったが、悲しみのためではなく恐怖のためだった。過去3回の流産、多くの漢方薬、私の運勢が弱いからだという慰め。全てが頭の中で絡み合った。これが理由だった。これが真実だった。私のせいでも運命のせいでもなかった。まさに、あの女のせいだった。

私は彼女を見た。もう「お義母さん」と呼ぶことはできなかった。彼女は悪魔だった。

彼女は大きなスプーンでスープをとてもゆっくりと何度もかき混ぜた。粉が完全に溶けるように。そしてスプーンを綺麗に洗い、元の場所に戻して土鍋の蓋を閉めた。空の紙包みはゴミ箱ではなく、パジャマのポケットにねじ込んだ。おそらく別の場所に捨てるつもりだろう。全ての行動があまりにも手慣れていて落ち着いており、まるで何度もやったことのある仕事のようだった。

私は溢れる嗚咽を防ぐために、手で口を塞いだ。私は私の子供を殺そうとする人と、1つ屋根の下で暮らしていた。私の3人の子供は守れなかったのではなかった。実の祖母の手によって殺害されたのだ。

彼女はキッチンの電気を消して出てきたが、すぐに部屋には戻らなかった。彼女はスマートフォンを取り出し、どこかに電話をかけた。心臓が再び締めつけられた。こんな時間に、誰に?彼女の声はとても小さかったが、静まり返った夜中にははっきりと聞こえた。
「もしもし。うん。寝てるわ。」

私の心臓が冷たく沈んだ。夫の匠の声だった。なぜ彼がこの時間に電話に出る?

「うん。やったわ。全部やったわよ。」

「やった」って、何を?まさか、あのスープ?

私の全身が震えた。彼女は受話器の向こうの言葉を聞くと、苛立ちと満足感が入り混じった声で言った。
「今回は確実よ。量を増やしたから。数日間、痛がるふりばかりして何の知らせもないから、じれったくて死ぬかと思ったわ。」

「痛がるふり」?私は呆然とした。彼女が言葉を続けた。
「あの流産の診断書も偽物かもしれないわ。でも関係ない。これでもう本当に流産することになるから、あなたは離婚する準備をしておきなさい。玲花さんを迎える席を作らなきゃ。」

玲花。その名前が私の耳に雷のように突き刺さった。玲花、西城玲花。匠の大学時代の初恋の人。彼がいつも「昔のただの友人だ」と言っていた女性。

信じられなかった。このことは義母1人がしたことではなかった。私の夫、匠も共犯だった。彼が知っていた。私が流産するたびにあった突然の出張。彼の冷たい無関心。病院で「会議中だ」と言った彼の言葉。全てが偶然ではなかった。全部が計画された芝居だった。

彼と彼の母親、2人は共に計画を立てたのだ。彼らはただ私と離婚したかっただけではなかった。私が「子供を産めない女」だという理由で追い出されることを望んでいた。彼らは私の子供たちを殺し、今4人目の子供まで殺そうとしている。彼が堂々と離婚し、初恋の人に戻るために。

スマートフォンが手から滑り落ち、ふかふかのマットレスの上に落ちた。もう持っている力もなかった。私は枕に顔を埋め、声を出さずに泣いた。悲しみではなく、怒りと裏切りに満ちた涙だった。私は悪魔と結婚し、魔女と共に暮らしていた。この4年間は、彼らが監督した一本の残酷な芝居だった。

横でぐっすり眠る匠を見た。自分と母親が犯した恐ろしい罪など知らないというように、彼は安らかな寝息を立てていた。

玲花。離婚。という単語が頭の中を駆け巡った。しかし、なぜ?単に昔の恋人が忘れられないから?それとも、別の理由があるのか?

ふと、匠の会社に関する微かな記憶が蘇った。最初の衝撃が過ぎると、怖いほど冷たい理性が頭をもたげた。私はもう眠れなかった。暗闇の中で天井を見つめながら、全てのピースを合わせ始めた。

玲花。彼女はいわゆる財閥の娘だった。彼女の父親は国内有数の建設グループ、竜王グループの会長だった。彼らはビジネス界のサメだった。一方、匠は自分で立ち上げた小さな建設会社を運営していた。ここ半年間、匠はやたらと神経質になっていた。「会社のせいでストレスがひどい」と口癖のように言っていた。私はただの仕事のストレスだと思っていた。しかし、何度か彼が誰かと怒鳴り合った声で電話しているのを立ち聞きしたことがある。借金問題や融資について叫んでいた。私が心配して尋ねた時、彼は「男の仕事に女が何が分かるんだ。家事でも気にしていろ」と怒った。

今、全てが明確になった。匠の会社は破産寸前で、彼には救世主が必要だった。そして、玲花。正確には彼女の父親のグループが唯一の命綱だった。しかし、すでに妻がいる男がどうやってその命綱を掴むことができる?玲花の家柄で離婚歴のある男、それも破産寸前の男を無条件で受け入れるはずがない。たった1つの可能性があるとすれば、その男が「悲劇の主人公」である場合だ。家庭に献身したが、子供を産めない妻のために不幸を経験した男。同情を集めることができれば、玲花の家族も渋々ながら受け入れるかもしれない。

私は失笑を漏らした。彼らの陰謀は私の想像よりもはるかに恐ろしいものだった。彼らは単に離婚を望んだのではなかった。彼らは私が「不妊」というレッテルを押されて去ることを望んでいた。過去3回の流産は「失敗」ではなく、彼らの計画のための成功した3段階だった。彼らは私に完璧な「不妊」というレッテルを作ってくれていたのだ。そして今回の4回目の流産は、彼らの計画に止めを刺す最後の一滴になるはずだった。匠は私と離婚する完璧な大義名分を得ることになり、玲花の家族の前には「最善を尽くしたが、前妻との間で子供を持つことができなかった男」として現れるだろう。そして、私は子供と夫を全て失い、「子供が産めない女」という屈辱の中で追い出されるはずだった。

怒りが全身を包んだ。彼らは私の子供たちを殺しただけでなく、私の人格まで踏みにじろうとした。彼らは私を踏み台にして匠の事業を救い、彼の新しい人生を開いてやろうとしたのだ。

私は拳を強く握り締めた。絶対に彼らの思い通りにはさせない。私はこの4番目の子供を守るだけでなく、無念の死を遂げた私の子供たちの復讐をしなければならない。

私はゆっくりと体を起こした。夜が明け始めていた。行動しなければならなかった。私はスマートフォンを手に取り、昨夜の映像を3箇所に分けて保存した。1つはスマートフォンに、1つはクラウドに、最後の1つは緊急用メールアカウントに送った。

次は物的証拠。まさに、あの鶏のスープだ。あのスープのサンプルを採取して、弓絵のところに持っていかなければならなかった。

一晩中、私は死体のように横たわっていた。私の隣に横たわる男は、もはや夫ではなかった。彼は敵だった。私は泣かなかった。涙はすでに枯れ果てていた。ただ冷たい怒りと理性だけが残った。真実は確認した。あとは物理的な証拠が必要だった。キッチンにある、あの鶏のスープの鍋。

夜が明ける頃、義母ががさごそと起きる音が聞こえた。その音はもはや平和な朝の騒音ではなかった。あれは武器を準備する音だった。

私は目を閉じ、安らかな寝息を吐きながら寝たふりをした。彼女がキッチンに入り、器をカチャカチャと鳴らす音、そしてスープを温める音が聞こえた。しばらくして、彼女がスープの器を持って寝室に入ってきた。鶏とキノコの匂いが漂ってきた。私には、それは甘美な匂いではなく、毒薬の匂いだけだった。

「さやか、起きて。朝ご飯を食べなさい。じっくり温めたから、熱いうちに食べて。」

彼女の声はいつものように優しかった。私はゆっくりと目を開け、ひどく疲れて具合が悪い人のように演じた。スープの器を見るなり、口を塞いで吐き気をもよおした。
「お義母さん、胃がすごく気持ち悪いです。肉の匂いを嗅ぐだけでも吐き気がして。」

彼女の目によぎる苛立ちを、私ははっきりと見た。彼女は忍耐を失いつつあった。彼女は私がこのスープを飲んで、計画通り早く流産することを望んでいた。しかし、彼女もやはり演技を続けなければならなかった。
「あらまあ、本当に大げさなんだから。それでも無理にでも食べなきゃ。全部高い漢方薬なのに。」

私は顔をしかめて首を横に振った。
「いいえ、お義母さん。吐きそうなんです。そのままそこに置いておいてください。少し休んで、めまいがしたら、もしかしたら食べられるかもしれません。」

私はわざと弱々しい声で、最大限か弱そうに言った。彼女が部屋から出て行かなければならなかった。彼女は私とスープの器を交互に見た。どうせ毒はスープに全部入っているから、今飲まなくても後で飲むだろう、と考えたようだ。彼女は不満な表情で言った。
「分かったわ。じゃあ、後で必ず飲みなさいよ。飲まなかったら、捨てるからね。」

彼女はリビングに出て、うるさくテレビをつけた。彼女は私がベッドから降りる元気もないと思っているようだった。

リビングの物音が落ち着いた瞬間、私は驚くほど機敏にベッドから跳ねた。化粧台に駆け寄り、使い終わった小さなクリームの容器を取り出した。これはあらかじめ綺麗に洗っておいたものだった。スープの器に近づき、スープと具を容器いっぱいに詰め、蓋をしっかりと閉めた。ティッシュで周りの汁を綺麗に拭き取り、小さな容器をティッシュで何重にも包んで鞄の奥深くに隠した。

器に残ったスープを、憎しみに満ちた目つきで睨みつけた。これが、私の3人の子供を殺した毒薬だった。私はスープの器を持って静かにトイレに行った。もしかしたら水を流す音が聞こえるかと思い、寝室のトイレではなくリビングのトイレに行った。黒い液体を便器に注ぎ、それが渦を巻いて消えていくのを見た。過去4年間の地獄を洗い流すように、水を3回も流した。器を綺麗に洗って元の場所に戻し、再びベッドに戻って布団を被った。心臓が張り裂けそうだった。証拠は確保した。あとはこれを弓絵に持っていかなければならなかった。

1時間くらい経っただろうか。私はゆっくりとリビングに出た。手荷物を抱えて家の中をうろついた。義母が私を見た。
「スープは飲んだの?」

私は力なく首を横に振った。
「半分くらい飲んだんですが、全部吐いてしまいました。とても怖いです。お義母さん、どうしても友人の病院にもう一度行かなきゃいけない気がします。このままだと、本当に子供を失いそうで。」

私はわざと「子供を失う」という言葉を強調した。その言葉を聞くと、義母の態度が即座に変わった。彼女は満足そうな表情を隠しきれなかった。
「そう。そんなに具合が悪いなら、病院に行ってみなきゃね。早く行っておいで。気をつけてね。」

彼女は私を簡単に行かせてくれた。おそらく、弓絵が「胎児が本当に流産した」というニュースを伝えてくれることを望んだのだろう。

私は急いでタクシーを拾い、弓絵の病院に向かった。今回は泣くことも、怖がることもなかった。私は冷たい顔で診療室に入り、机の上にガラス瓶を置いた。
「弓絵、これ、成分検査を緊急でお願い。これはただの鶏のスープじゃないの。私の考えでは、流産誘導剤が入っていると思う。」

弓絵は私の態度に驚いたようだった。彼女はガラス瓶を見ると、私に尋ねた。
「さやか、突き止めたの?」

私は頷いた。
「昨日の夜、見たの。義母がこのスープに白い粉を入れるのを。」

弓絵の顔が真っ青になった。彼女は怒りに震えて言った。
「なんてこと?どうしてこんな…分かった。私の名前や病院の名前では依頼しない。独立した検査機関に、食品サンプル分析として緊急依頼するわ。食中毒の疑いがあるサンプルだと言えばいい。」

彼女は手袋をはめ、慎重に瓶を密封した。
「さやか、あなたはすぐに家に帰って、結果が出るまで義母がくれるものは、水1杯も飲まないで。分かった?ずっと具合が悪いふりをして。」

私は頷いた。
「分かってる。」

その後の3日間は、私の人生で最も長い時間だった。私は完璧な女優にならなければならなかった。寝室を要塞にして、「つわりがひどすぎて何も食べられない」と耐えた。隠しておいたビスケットとナッツで命をつないだ。義母は日に日に青白くなる私を見て、満足しているようだった。彼女の計画が成功していると信じているようだった。

3日目になった日の午後、弓絵から電話が来た。私はトイレに駆け込み、鍵をかけた。震える手で電話に出た。受話器の向こうの弓絵の声は、医者の声ではなかった。怒りに震える友人の声だった。
「さやか、結果が出たわ。」

彼女は深呼吸をした。
「さやか、落ち着いて聞いて。スープからジャコウが検出されたわ。とても高い濃度で。」

時代劇でしか聞いたことがない名前だった。でも、弓絵は泣きそうになりながら言葉を続けた。
「調べてみたんだけど、この程度の濃度を持続的に服用したら、いくら健康な胎児でも絶対に耐えられない。さやか、彼らは人間じゃない。獣よ。」

私は冷たい浴室の床に座り込んだ。涙が出なかった。ただ全身が寒かった。骨の髄まで染みる寒さだった。私の3人の子供は、実の祖母と実の父親の手によって、この残忍な毒薬で犠牲になったのだ。

私は爪が食い込んで血が出るまで、拳を強く握り締めた。冷たい怒りが全身を支配した。

私が4年間愛した夫。彼の残忍さがどこまでなのか、確認しなければならなかった。私は彼に最後の機会を与えることにした。彼に残った一片の人間性を試してみることにした。

夕方になるのを待った。義母はリビングでうるさくテレビを見ていて、今がチャンスだった。私は寝室のドアをロックし、深呼吸をした後、匠に電話をかけた。彼が出るとすぐに、苛立ち混じりの声が聞こえてきた。
「なんだよ、俺は忙しいんだ。」

私は即座に嗚咽を漏らした。失われた3人の子供のために、そして私の愚かさのために絶叫するように泣いた。
「あなた、早く家に帰ってきて、今すぐよ。お腹が、お腹がすごく痛いの。怖いの。」

劇的な効果のために、嘘を付け加えた。
「血が、血が出てるの。あなた、怖い。また子供を失いそうなの。お願い、聞いて。」

私は息を殺して待った。彼が少しでも人間なら、夫として、父親として一片の良心でもあるなら、全てを投げ打って駆けつけてくるはずだった。少なくとも心配するふりくらいはするはずだった。

しかし、受話器の向こうでは、身の毛もよだつような沈黙だけが流れた。やがて、氷のように冷たい声が聞こえてきた。
「何言ってるんだ。俺は今、大事な会議中なんだ。」

彼の答えは、3回目の流産の時と全く同じだった。私は演技を続けた。
「でも、本当に血が出てるのよ。怖いの。もしもし。この前みたいになったらどうしよう。」

今回は、彼も我慢できなかった。彼は電話に向かって怒鳴った。苛立ちを少しも隠さなかった。
「血が出たなら、母さんに電話しろよ。俺に電話してどうしろって言うんだ。母さんが家にいるだろう。子供じゃあるまいし、すぐに泣き喚いて、仕事してる人間を邪魔するな。切るぞ。」

プツッ。

電話が切れた。私は呆然とスマートフォンを見つめた。妻が出血をして、子供を失いそうだと言っているのに、彼は電話を切ってしまった。彼は私に「母さんに電話しろ」と言った。私に毒を盛った女に。

その瞬間、悟った。匠は単なる共犯ではなかった。主犯だった。彼はこの子が死ぬことを望んでいた。そして、その知らせに「忙しい」と煩わしさを感じていた。

涙が止まった。彼に対する最後の希望、最後の未練が粉々に砕け散った。4年間の愛、夫婦の縁。全てが私の3人の子供と共に死んだ。この瞬間から、彼はもはや私の夫ではなかった。彼は敵だった。

心臓の鼓動が、静かに全身に広がっていった。もう恐ろしくも痛くもなかった。ただ、冷たい怒りと緻密な計画だけが残った。

この悪魔の家で1人で戦うことはできなかった。私には援軍が必要だった。まずは証拠から。私は落ち着いて立ち上がり、義母が白い粉を入れる映像、彼女と匠が玲花について通話する録音ファイルをUSBメモリ3つに分けてコピーした。弓絵が送ってくれた毒物の検出結果報告書も一緒に保存した。1つはいつも持ち歩く鞄に、1つは古い本の中に、最後の1つは最も信頼する人のところに。

武器を準備した。次は、軍隊を集めなければならなかった。これ以上、弓絵だけに頼ることはできなかった。これは医学の問題ではなく、家族間の戦争だった。そして、この戦争で私の味方はただ1箇所だけだった。まさに、私の実家、両親だった。

私は時計を見た。遅い午後だった。私はもう震えることなく、母の番号を押した。
「もしもし。さやか?どうしたの?」

母の温かい声を聞くと、喉が詰まった。本当の涙、悲しみに込み上げた娘の涙が溢れ出した。私は泣き声を飲み込みながら、やっと言った。
「お母さん、お母さん。」

母は私の声を聞いただけで、異常があることに気づいた。
「どうしたの?娘よ。どうして泣いてるの?たくみがまた何かしたの?」

私は首を横に振った。今すぐ両親に来てもらう理由が必要だった。
「ううん。そうじゃなくて…お母さんが作る肉じゃがが、すごく食べたくて。」

「あらまあ、この子ったら。言えばいいのに。明日、宅配便で送るわよ。」

「ううん。」私は急いで言った。「宅配便じゃなくて。お母さんが直接作った肉じゃがが食べたいの。明日、明日お父さんと2人で私に会いに来てくれない?私、お父さんとお母さんにすごく会いたいの。」

最後の文章で、私の声は涙声で割れた。それは本心だった。私はこの地獄で、あまりにも孤独で怖かった。私の切羽詰まった声に、母も何か深刻なことがあると直感した。
「分かった、分かったわ。泣かないで、さやか。明日、お父さんと朝早く行くから。肉じゃがを美味しく作っていくから、大丈夫、待ってなさい。」

「うん。」

電話を切った。明日、明日になれば両親が来る。明日になれば、私はもう1人ではない。

私はその夜、ほとんど一睡もできなかった。私の隣に横たわっている彼は、もはや夫ではなかった。見知らぬ人、共犯者でしかなかった。彼の体から発せられる熱が、冬よりも寒く感じられた。

私は夜が明けるのを、チャイムが鳴るのを待った。

朝早く、私はつわりのために何も食べたくないと、最後の演技をした。義母は焦った目つきだったが、努めて優しいふりをした。
「それじゃあ、どうするの?体が弱いのに、無理にでも食べなきゃ。」

その時、チャイムが鳴った。心臓が跳ねた。いらっしゃったんだ。

義母が「どなたですか?こんな朝から」と文句を言いながらドアを開けた。ドアが開くなり、母の温かい声が聞こえてきた。
「ああ、お義母さん。私たち、さやかを見舞いに来ました。この子、つわりがひどいのか、私の作る肉じゃがが食べたいって言うものですから。」

私は部屋から出て、わざとゆっくりと歩いた。湯気の立つ鍋を持った母と、果物籠を持った父が見えた。両親を見ると、涙がどっと溢れそうだった。この方たちこそが、私の本当の家族だった。

義母は、不機嫌そうな表情だったが、無理やり笑って言った。
「あらまあ、ご両親とも。わざわざこんなに早くいらしてくださればいいのに。さやかが体調が悪くて…どうぞ、お入りください。」

匠も部屋から出てきて、両親に挨拶した。相変わらず、平然とした表情だった。

私たちはリビングに座った。両親の心配そうな挨拶に、私は頭を下げているだけだった。その時、突然義母がキッチンから小さな土鍋を1つ持って出てきた。湯気が立ち、あの不快な漢方の匂いがした。
「さやか、お母様が作ってくださったご飯を食べる前に、これを飲みなさい。私があなたのために特別に煎じたのよ。胎児をしっかり守ってくれる漢方だから。これを飲んで、ご飯を食べましょう。」

彼女は私の前に器を置いた。まさに、それだった。ジャコウを入れた鶏のスープ。匠も口を添えた。
「母さんがお前を思って作ったんだ。飲めよ。そうしてこそ、子供を守れるんだ。」

両親は黒っぽいスープを見て、不思議そうにしていた。母が何か言いかけたが、私が目配せで止めた。

よし。まさに、この瞬間だ。殺人者と共犯者。そして、私を守ってくれる人々。全員が集まった。

私はスープの器を見た。そして、義母と匠を。最後に、目頭が赤くなった両親を見た。私は深呼吸をして、大きくはないが全員が聞ける声で言った。
「これを飲む前に、みんなで一緒に見たいものがあります。」

リビングは瞬間に静まった。私にスープを飲ませようとしていた義母の手が、空中で止まった。匠は苛立たしげに言った。
「また何のいたずらだよ。母さんのご厚意を無視して、飲みたくないなら、やめとけ。」

私は彼の言葉に答えなかった。両親の心配そうな視線を背に、私はゆっくりとリビングの大きなテレビの前へ歩いていった。怒りで手が震えた。私はパジャマのポケットに準備しておいたUSBを取り出した。

父が心配そうに尋ねた。
「さやか、どうしたんだ?体調も悪いのに、部屋で休んでいなさい。」

私は父を見て、努めて微笑んだ。
「お父さん、お母さん。私がこの4年間、この家でどうやって生きてきたか、2人にも知ってもらわなきゃいけないと思って。」

私はUSBをテレビに差し込み、再生ボタンを押した。

画面には、暗くて静かな寝室の隅が映し出された。キッチンが見える角度だった。
「これは何?」と義母がつぶやいたが、すぐに言葉を失った。画面で、彼女の部屋のドアが開き、彼女の影が忍び足で出てきたからだ。深夜1時の、彼女だった。

匠が飛び起きて叫んだ。
「おい、さやか!お前、今何してるんだ?今すぐ消せ!」

しかし、私は消さなかった。私は2番目のカメラ映像に切り替えた。リビングの葉上に隠しておいたカメラだった。画面はもっと鮮明だった。彼女が鍵のかかった収納を開け、白い粉が入った紙包みを取り出す場面が、そのまま収められていた。

義母の呼吸が荒くなった。画面は再びキッチンに変わった。彼女が鶏のスープの鍋に白い粉を入れ、念入りにかき混ぜ、スプーンを洗う。全ての行動が、赤裸々に再生された。

カシャーン。

テーブルの上にあったスープの器が床に落ちて、粉々に砕けた。黒い汁が四方に飛び散った。義母は顔が真っ青になり、後ずさった。彼女は私に向かって指をさして金切り声をあげた。
「あんた、あんた、私を罠にはめたのね!この恩知らず!」

私は彼女を冷たく見つめながら、リモコンでボリュームを上げた。今度は音が流れた。彼女の通話録音だった。
「私が全部やったわ。量も増やしたし、これでもう本当に流産することになるから、あなたは玲花さんを迎える準備をしておきなさい。」

義母の声がリビング全体に響き渡った。両親の耳に、そして匠の耳にはっきりと刺さった。

映像で義母が驚かされたなら、この録音は匠をソファに打ちのめした。彼は信じられないというように私を見た。両親は呆然とした表情だった。母は手で口を覆い、全身を震わせていた。全てを理解したのだ。

窮地に追い込まれた義母は、狂った人のように叫び始めた。
「あれは全部嘘よ!あれはでっち上げだわ!元々子供も産めない女が、嫉妬して私を落とし入れようとしてるのよ!」

「子供が産めないですって?」

私が復唱した。その瞬間、母が先に動いた。母は泣かなかった。ただ私を1度、義母を1度、そして匠を1度見た。私はあんなに怖い母の顔を見たことがなかった。

義母は母の反応にさらに慌てて、床を転がりながら泣き叫んだ。
「ああ、私がどんな罪を犯して、こんな嫁を迎えたのかしら!あれが悪魔じゃなくて何なの?ご両親、これを見てください!あれが私を盗撮したんですよ!」

しかし、母は彼女の言葉に関心がなかった。母の視線は、ソファで固まっている匠に向けられた。母がゆっくりと彼に近づいた。

バチン!

リビングに響く鋭い音。母が匠の頬を張った。
「この、獣にも劣る男!」
バチン!
「お前は悪魔だ!お前とお前の母親は、2人とも悪魔だ!私が大事に育てた娘をお前にやったのに、どうして私の娘に、私の孫たちにそんなことができるの?この外道め!」

母は理性を失い、匠の胸を何度も張った。
「私の娘の人生を返せ!私の孫たちの命を返せ!」

「た、ただの母さん!違うんです。僕は知らなかったんです!」匠は殴られながら、言い訳するのに必死だった。

息子が叩かれるのを見た義母は、母を突き飛ばそうと突進した。
「今、何をするの?あんたの娘が子供を産めないんでしょ!どうして私の息子に八つ当たりするの?」

「子供が産めない?」私は叫んだ。私の叫びに、騒然としていたリビングが瞬時に静まり返った。私は鞄から書類の束を取り出した。弓絵が送ってくれた検査結果報告書だった。私はその書類を、義母の顔に投げつけた。
「目を見開いて、読んでみなさいよ。誰が子供を産めないのか。」

書類が舞い散りながら床に落ちた。彼女が震える手で紙を拾った。私ははっきりと、全員が聞けるように言った。
「ジャコウって文字、読めますよね?とても高い濃度で検出されたそうです。医者の話では、いくら健康な胎児でも、これを継続的に飲めば、絶対に生き残れないそうです。さあ、教えてください。誰が悪魔で、誰が殺人者なのか。」

ジャコウという2文字に、ずっと沈黙を守っていた父の顔が固まった。父は、その漢方薬の危険性を知っていた。義母は手から書類を落とした。彼女は後ずさりして、割れた器の破片に足を取られて転んだ。今度は泣き叫ぶこともできず、ただ恐怖に満ちた目で私を見つめるだけだった。もはや言い逃れできないと悟ったのだ。

母がよろめき、父が支えた。母は私を見て号泣した。
「さやか、さやか。どうして、こんな苦しみを1人で?」

私は両親を見て、床に倒れた2人の罪人を見て言った。
「お父さん、お母さん。まだ終わってないよ。そこの匠に聞くことが残ってるから。玲花さんが誰なのかって。」

玲花という名前に、ソファで縮こまっていた匠がびくっとして私を見た。義母も、その事実まで私が知っていることに驚愕したようだった。

父が匠を見て、低く厳しい声で尋ねた。
「匠君。これは一体どういうことだ?玲花とは誰だ?」

窮地に追い込まれた匠は、ソファから滑り落ちた。彼は私のところへは来なかった。父の足にすがりつき、土下座した。
「お義父さん、お義父さん、僕が間違っていました。どうか、許してください!」

母が軽蔑に満ちた声で言った。
「あんたに、うちの人を『お義父さん』と呼ぶ資格はない。」

匠は父の足にしがみついて泣き叫んだ。
「僕は、僕は本当に知らなかったんです!母さんがジャコウを使ったなんて、本当に知らなかったんです!」

私は復唱した。
「知らなかったですって?知らないのにお母さんに電話して『玲花さんを迎える準備をしろ』って言ったの?嘘も大概にしてよ。」

私の言葉に、匠は口を閉ざした。録音ファイルの前では、言い訳できないと知ったのだろう。

父が「一体、なぜそんなことをしたんだ」と迫ると、ついに匠は全てを白状した。
「会社が…会社がもうすぐ破綻する寸前だったんです。」

彼はすすり泣きながら言った。
「私は初めて聞く話でした。数ヶ月間、持ちこたえましたが、もう方法がありませんでした。借金の山に積まれて、路頭に迷うことになったんです。」

「それが、玲花という女と何の関係があるの?」母が叫んだ。

匠が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。
「玲花は、竜王グループの西城会長の娘です。会長が僕の会社に投資してくださることになりました。でも、条件があったんです。さやかと離婚するという。」

「離婚と、子供を殺すことは別の問題よ。」私が冷たく言った。

「違うんだ、俺は子供たちを殺すつもりはなかった。ただ、母さんがそう言ったんだ。『さやかが体が弱くて子供をうまく守れないから、何度か流産すれば、自分から疲れて離婚しようと言うだろう。そうすれば話が簡単に運ぶ』って。俺は、本当に母さんがただの普通の漢方を使っていると思っていたんだ。頼む、信じてくれ。俺も被害者なんだ。」

「被害者?」私は失笑を漏らした。
「あなたが被害者?あなたの妻が毒殺されかけて、あなたの子供たちが死んでいくのを沈黙しながら、自分の事業を救って金持ちの女と再婚する算段をしていたあなたが、被害者?」

私は4年間愛した男が、床に這いつくばって泣く姿を、軽蔑に満ちた目で見下ろした。そして、両親に言った。
「お父さん、お母さん。私、ここに一秒もいたくない。家に帰りたい。」

「家に帰りたい」という私の言葉に、母はすぐに私の手を握った。
「そうね。家に帰ろう。今すぐ帰ろう。これ以上、こんな場所に私の娘を置いておけない。」

母が私を立たせると、匠がはっとしたように私の服の裾を掴んだ。
「さやか、行くな!頼む!俺が全部悪かった!」

私は汚いものを避けるように、彼の手を振り払った。
「私の体に触らないで。吐き気がするから。」

その時、床に座り込んでいた義母が、突然、金切り声をあげ始めた。ショックで気が狂ったようだった。
「どこへ行くの?あんたはこの家の嫁でしょ!私の孫を、お腹に抱えて、どこへ逃げようっていうの!」

その瞬間、ずっと沈黙を守っていた父が口を開いた。声が氷のように冷たかった。
「今、何と言った?『私の孫』だと?」

父は私を1度、床に散らばった割れた器を1度、そしてテレビ画面を1度見た。そして、無言でスマートフォンを取り出した。その行動に、匠の顔が真っ青になった。
「お義父さん、頼みます、やめてください!家族同士で、どうしてこんなこと!」

父は自分にすがりつく匠を、見下ろすように言った。
「家族を殺そうとするものは、私の家族ではない。」

匠は父のスマートフォンを奪おうと飛びかかったが、父は軽く彼を突き飛ばした。そして、明確で断固とした声で言った。
「もしもし。警察署ですね。殺人未遂事件を通報します。」

父は壁に貼られた住所を、はっきりと読み上げた。
「はい。被害者は私の娘で、現在妊娠中です。犯人は、今ここにいます。」

父が電話を切った時、全てが決まった。殺人未遂という言葉に、義母は悲鳴を上げてその場で気絶し、匠は「終わった…全部終わった…」とつぶやきながら座り込んだ。

母が私を支えながら言った。
「行こう、さやか。残りは、法がやってくれるわ。」

間もなく、外から救急車とパトカーのサイレンの音が、緊迫して響き渡った。私が4年間暮らした、私の3人の子供を失ったその家は、またたく間に事件現場になった。義母は病院へ。匠は警察署へ連行された。

実家の、私の子供の頃の部屋に戻って、ようやく私は我慢していた嗚咽をあげた。母は何も言わずに、私の背中をさすってくれた。弓絵も知らせを聞いて、一目散に駆けつけてくれた。幸いなことに、お腹の子は、私の3人の子供の分まで生きようとするかのように、依然として力強く心臓を動かしていた。

その後の日々は大変だった。私は警察にUSBと検査結果報告書を含む全ての証拠を提出し、過去4年間のことを詳細に陳述した。義母は最初は「私を落とし入れようとした」と主張したが、家から追加で発見されたジャコウの包みと映像証拠の前で、結局、犯行を自白した。

2ヶ月後、裁判が開かれた。義母は「嫁の安産のために民間療法を使っただけで、ジャコウだとは知らなかった」と主張したが、「玲花さんを迎える準備をしろ」という通話録音が、彼女の全ての言い訳を崩した。検察は、これが無知ではなく、明確な動機を持った計画的犯罪であることを強調した。匠は「母親に騙されただけであり、事業失敗のプレッシャーで心身耗弱状態だった」と涙で訴えた。

法廷に立った私は、彼を見なかった。裁判官に向かって、はっきりと言った。
「尊敬する裁判長。私が出血をして子供を失いそうだと泣き叫んだ時、彼は『忙しい』と言って電話を切りました。彼は無罪ではありません。彼は私の子供の死を待ち望んでいました。」

ついに判決が下された。義母は傷害及び殺人未遂の疑いで懲役3年、匠は離婚教唆の疑いで懲役1年、執行猶予2年を宣告された。

3年の懲役が、3人の子供の命と引き換えになるだろうか?私はこれ以上戦う力がなかった。ただ、全てを終わらせたかった。

裁判が終わると、この事件は「財閥との再婚のために嫁を毒殺しようとした義母」という刺激的な見出しで、マスコミに大々的に報じられた。匠と義母、そして西城玲花と竜王グループの名前が、新聞の1面を飾った。余波は思ったよりも巨大だった。竜王グループは即座に匠との全ての関係を否定し、むしろ彼が詐欺を働いたと主張して、全ての投資計画を撤回した。匠が3人の子供の命と引き換えに掴もうとした最後の命綱は、そうして切れた。取引先たちは破産寸前の彼から背を向け、彼の小さな建設会社は結局、破産した。

私はそのニュースを、3婦人家の定期検診に行く途中で、記事で知った。何の感情も湧かなかった。彼は、自分の貪欲さと卑怯さに対する代償を払っただけだ。

私は弓絵を見て微笑んだ。
「弓絵、今日、うちの赤ちゃん、よく動くの。」

弓絵が笑って答えた。
「じゃあ、すごくキックしてるね。あなたに似て、ファイターみたい。」

私は微笑んだ。涙が流れたが、今回は幸せの涙だった。私は全てを失ったが、同時に、全てを持っていた。私の子供、両親、そして良い友人。彼は全てを持っていたが、自分の手で全てを破壊した。

離婚裁判で、私たちは再開した。ある肌寒い夕方だった。私は6ヶ月になったお腹を隠すために、ゆったりとしたコートを着ていた。匠は1人だった。彼は10歳は老けて見えた。窶れた顔、乱れた髪。彼は私のお腹を見ると、複雑な目差しで近づこうとしたが、父が立ちはだかった。

裁判は迅速に進んだ。私は子供の親権を持ち、彼には接近禁止命令が下された。私の弁護士は、過去4年間の精神的・身体的被害に対する慰謝料として5000万円を請求した。その言葉を聞くと、匠は突然、狂った人のように笑った。
「5000万?俺には今、500円もないよ。一括じゃ无理だ。俺の命を取れ。」

私はそのお金を受け取れないことは知っていたが、関係なかった。私が欲しかったのは、お金ではなく正義と自由だったから。

私は裁判が終わるや否や、後ろも振り向かずに法廷を出た。冷たい秋の空気が肺の奥まで入ってきたが、不思議と、精神が澄んでいく気分だった。

その日、法廷を出ながら、私は完全な自由を得たと思った。過去4年間、私の人生を蝕んでいた悪性腫瘍を、完全に切除したと信じた。私は実家の温かい世話の中で、安定を取り戻した。お腹の子はすくすくと育ち、私の人生は再び平和を取り戻すようだった。

しかし、私は全てを失った男の「未練」を過小評価していた。

会社、妻、母親、名誉まで、全てを失った匠は、別人になっていた。彼はある日の午後、私が母と近所を散歩している時に現れた。彼は見すぼらしい身なりで、私の前に膝まづき、許しを乞うた。
「さやか、俺が悪かった。頼むから、1度だけチャンスをくれ。俺たちの子供には、父親が必要だろう。」

私は恐怖で後ずさった。母が叫んだ。
「この、獣にも劣る男!さっさと失せなさい!」

哀願が通じないと、彼は暴力的に変わった。夜を問わず訪ねてきて、ドアを叩き、暴言を吐き、ひどい時には酒に酔って瓶を投げつけたりもした。彼は泣き叫んだ。
「お前が、俺をダメにしたんだ!お前も幸せに生きられると思うなよ!一緒に地獄に落ちるんだ!」

その夜、父はこれ以上我慢しなかった。父は静かに警察に通報し、匠は現行犯で逮捕された。そして、父は直接裁判所に接近禁止命令を申請した。
「あいつはもう人間じゃなくて獣だ。私の娘と孫を、あんな風に恐怖に震えさせるわけにはいかない。」

その後、彼は姿を消した。しかし、彼の狂気に満ちた姿は、私の心の中に深い傷として残った。

離婚後、私は陣痛の末、息子を産んだ。10時間の闘いを乗り越え、力強い赤ちゃんの産声が分娩室に響き渡った。弓絵が涙声で言った。
「さやか、男の子よ。3200グラム、とても健康よ。」

看護師が小さくて赤い命を私の胸の上に乗せてくれた時、過去4年間の全ての苦痛と怒りが、雪解けのように消えた。この子は私の息子だ。必死に私のそばに残ってくれた、大切な息子。私は子供の額に口付けをした。そして、子供の名前はレンと名付けた。これからの人生が、泥の中でも清らかに咲く蓮の花のように美しくありますように、と願いを込めて。

子供を育てる幸せに浸って過ごしていたある日、警察官が2人、家を訪ねてきた。父が出ていって、しばらく話をして戻ってきた。父の表情は複雑だった。
「さやか。匠の…匠が死んだそうだ。」

「え?どこで?」

「自ら命を絶ったそうだ。みすぼらしい旅館の部屋で発見されたそうだ。」

私は何も言えなかった。嬉しくも、悲しくもなかった。ただ、虚しい気分だった。彼は全てを失い、結局、自ら自分の罪の代償を払ったのだ。

警察は、彼が残した古い手帳を父に渡したと言った。父が私に渡してくれた手帳には、彼の下手くそな字で、書き残した言葉が綴られていた。自分の卑怯さ、母親に振り回されたこと、そして失われた3人の子供に対する罪悪感。最後のページには、こう書かれていた。

「もし、この文章を読むことになったら、俺たちの子供に、父親は罪人だったと伝えてくれ。そして、どうか、私を許してくれることを願う。」

私は手帳を閉じた。熱い涙が一滴、眠っているレンの頬の上に落ちた。彼を同情してではない。長い、長い悪縁がついに終わったという、安堵感のためだった。

「時間が最高の薬だ」という言葉がある。私には、その言葉が当てはまった。3年という時間は、恐ろしかった記憶を洗い流し、壊れていた私の心を再び満たすのに十分だった。

私の息子、レンはもう2歳半になった。あの子は私の目に似ているが、笑う時は日差しのようだった。私は小さな花屋を開いた。店の名前は「レンア」。私の息子の名前と「平穏」を意味する単語を合わせた名前だ。朝、レンを保育園に連れて行き、花の手入れをして1日を過ごし、午後に子供を迎えに行って、両親と一緒に夕食を食べる。平凡な日常。それが、私には何者にも代えがたい幸福だった。

私はもはや、誰も憎んでいなかった。彼らを許したのではなく、私自身のために、過去を手放したのだ。

しかし、過去の亡霊は、思ったよりしつこかった。

ある日、花屋に立ち寄った昔の友人が、義母のニュースを教えてくれた。
「さやかさん、聞いた?お義母さん、出所したって。模範囚で減刑されて、早く出てきたらしいわよ。」

手に持っていたハサミが、床に落ちた。出所。その言葉が、私の心臓を凍りつかせた。私は不安に震えた。彼女が、私をそしてレンを探しに来るのではないか。怖かった。

そして、彼女は本当に、私を訪ねてきた。雨が降っていた、ある遅い午後だった。ずぶ濡れになった、骨と皮ばかりの老婆が、店の前に立っていた。義母だった。数年の収監生活は、彼女を完全に別人に変えていた。彼女の目はくぼみ、その中には狂気ではなく、虚しさと哀願が込められていた。彼女の視線は、私の後ろに隠れているレンに固定された。彼女は雨の中に膝まづいた。
「さやか、私が悪かった。私には、もう何もないの。頼むから、私の孫の顔を、1度だけ見せておくれ。1度だけでいいから。」

「孫」という言葉に、私の中の怒りが再び煮えくり返った。
「あなたの孫?あなたは、みんな殺したじゃないですか。それなのに、今さら面の皮を下げて孫を探すんですか?」

彼女は、私が全てを知っているという事実に、絶望した。
「私の息子、レンは、私の息子です。あなたの、その汚い家とは、何の関係もありません。」

その時、ちょうど買い物から戻ってきた両親が、その光景を目撃した。父は無言で彼女に近づき、山のように私の前に立ちふさがった。
「誰の許可を得て、ここに来たんだ。私の孫まで害するつもりか。今すぐ失せろ。2度と私の家族の前に現れたら、その時は、今よりもっときつい目に合わせてやるからな。」

父の断固とした言葉に、彼女はついに希望を捨てたようだった。彼女はよろめきながら立ち上がり、雨の中に消えていった。私はその後ろ姿を見ながら、嫌な予感との完全な終わりを直感した。

その後、私の人生には、本当に平和が訪れた。レンはすくすくと育ち、保育園に入園した。子供を連れて行った初日、私は偶然、1人の男性と出くわした。落とした鍵を拾ってくれた、優しい声。
「大丈夫ですか?」

顔を上げた時、私は自分の目を疑った。
「健太…先輩?」

彼は大学時代、私が密かに憧れていた法学部の先輩、健太だった。10年以上が経ったが、彼は相変わらず温かい笑顔を浮かべていた。彼も、娘を迎えに来たところだった。彼も、妻と離婚したシングルファザーだった。

偶然の出会いは、縁になった。私たちは子供たちを連れて頻繁に会い、お互いの痛みを共有し、慰め合った。レンと健太先輩の娘、直緒は、すぐに本当の兄妹のように仲良くなった。子供たちは、磁石のように、傷ついた2人の大人を、お互いに引き寄せてくれた。

ある週末の午後、我が家の庭で眠る子供たちを見ながら、健太先輩が慎重に口を開いた。
「さやか。僕たちの子供たちに、完全な家庭をプレゼントしてあげるのは、どう思う?」

彼は、大学時代から私のことが好きだったけれど、貧しい苦学生で、告白する勇気がなかったと言った。
「僕はまだ大金持ちじゃないけど、君とレンに、平穏な生活をプレゼントしてあげたいんだ。そして、君が、うちの直緒のお母さんになってくれたら、嬉しい。」

彼の真心のこもった告白に、涙が流れた。私は過去4年の地獄を、1人で子供を産んだ絶望の瞬間を思い出した。2度と、誰かに心を開くことはできないと思っていた。しかし、彼は私の傷を無理に直そうとはしなかった。ただ、私のそばに座り、私の全ての傷を、ありのまま受け入れてくれた。

私は涙を拭い、彼を見て微笑んだ。
「はい。先輩、私たち、やってみましょう。」

健太先輩は、私の手を温かく握ってくれた。私たちは無言で、眠る子供たちを見つめた。これからどんな日々が広がるかは分からないが、私は、もはや1人ではなかった。

ひどい嵐が過ぎ去った後、ついに私の人生にも、温かい日差しが差し込み始めた。

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