夜道で蹲る同級生を見つけて声をかけた瞬間、人生が変わった。同じクラスの斎藤七、有名な不良少女が顔中傷だらけでうずくまっていた。「殴られたのかよ。警察に行くか」と言うと、七は睨みながら言った。「やめろよ。私が勝手に殴られに行っただけだよ」。こんな風に彼女と関わるつもりはなかったのに、私は彼女を家に連れて帰り、翌朝、彼女を送ることにした。そこから毎日、一緒に登校することになるなんて、考えもしなか…

夜道で蹲る同級生を見つけて声をかけた瞬間、人生が変わった。同じクラスの斎藤七、有名な不良少女が顔中傷だらけでうずくまっていた。「殴られたのかよ。警察に行くか」と言うと、七は睨みながら言った。「やめろよ。私が勝手に殴られに行っただけだよ」。こんな風に彼女と関わるつもりはなかったのに、私は彼女を家に連れて帰り、翌朝、彼女を送ることにした。そこから毎日、一緒に登校することになるなんて、考えもしなか...

夜道で蹲る人影を見つけたのは、塾からの帰り道だった。もう数メートルで家という場所で、私は足を止めた。近づいてみると、それは制服を着た女子生徒で、顔中に傷を作っていた。同じクラスの斎藤七だった。昔から有名な不良少女で、それなのに勉強ができてこの進学校に合格した珍しい奴だ。

「おい、殴られたのかよ。警察に行くか」

「やめろよ。そう言うんじゃない。私が勝手に殴られに行っただけだよ」

そう言うと、七はまた蹲ったまま動かなくなった。このままじゃまずいと思い、私は彼女の腕を取って引きずるように自宅まで運んだ。インターホンを鳴らすと、母が驚いた顔でドアを開けた。母は看護師で、こういう時はやはり落ち着いている。

処置をしながら、母は淡々と指示を出した。私はリビングの隣の和室に布団を敷き、七を寝かせた。ほとんどが擦り傷で、骨は折れていないらしい。一晩置いて、翌朝動けるようになったら帰らせようということになった。

翌朝、リビングに行くと七と母が何か言い合っていた。母の作った朝ご飯を食べるか食べないかで揉めているらしい。父はニコニコしながらその様子を眺めていた。結局七は渋々ご飯を受け取り、黙って食べた。私は母の命令で七を家まで送ることになった。

「もう不良は卒業しようと思ったんだけどな」

「なんで急に?」

「せっかく新学校に入ったのに意味ないだろう」

七の家は私の家からそう遠くなかった。別れ際、何か手伝えることがあったら言えよと言ったが、七は「お前には何もできねえよ」と言い放った。

数日後、七は学校に来た。教室に入ると、みんながひそひそと噂話をした。また暴れたのだろうと。私は気になって声をかけたが、七は鬱陶しそうに「ほっとけよ」と言って席を立ってしまった。隣の席の長瀬には「関わってもろくなことないぜ」と忠告された。私は七がうちに来たことは言わなかった。

それでも私は心配で、昼休みにも帰り際にも声をかけた。七はうるさいと言いながらも、少しずつ傷が良くなっていることは教えてくれた。

塾の帰り道、また同じ場所で蹲る人影を見つけた。まさかと思って近づくと、また七だった。今度は顔が赤く腫れ、足首を引きずっている。

「お前、またかよ」

「今回は喧嘩じゃねえよ。一方的にやられたんだ。あいつら、私のことが許せないらしい」

私は七の肩を貸して家に連れて行った。母は夜勤でいなかったので、今日は私が手当てすることにした。足首を冷やし、包帯を巻く。

「包帯巻くのうまいな」

「一応これでも看護師目指してるからな」

七は驚いた顔をした。「でもビビリだから無理だろう」と言うので、「看護師は別に喧嘩できなくても大丈夫だよ」と笑って返した。母が作っておいたおにぎりと、私が適当に作った味噌汁で夜食を食べた。

「でも案外向いてるのかもな。看護師」

「なんだよ、急に」

「お前、母親に似てるからさ」

照れ隠しにそう言ったが、七に「向いている」と言われたのは正直嬉しかった。

次の日の朝、七を家に送りながら私は提案した。「誰かに襲われるなら、一人でいる時間を作らなきゃいいんじゃないか」と。そして「頼りないかもだけど、俺がついてれば違うんじゃないか」と言った。七は「ビリでもいないよりはましかな」と渋々ながらも受け入れてくれた。

そこから私たちは一緒に登下校するようになった。しばらくは誰にも襲われなかった。ある日、七がぼそっと「私も元宮みたいに勉強してみようかな」と言った。私は勉強を教えることになった。塾の日以外は図書館で勉強して帰るようになり、七は親に頼んで私と同じ塾にも通い始めた。

七はどんどん勉強を取り戻していった。もともと頭が良かったのだろう、何週間かで今の授業の内容に追いついてしまった。長瀬も途中から勉強会に加わり、最初は関わらない方がいいと言っていたくせに、七の真っ直ぐな努力に心を動かされたらしい。

期末テストを終え、七はついに全科目平均点以上を取ることができた。もう私が教えなくても大丈夫だなと思った。それでも、七を家に送ることは習慣になっていて、やめられなかった。

その日も七を家の前まで送った。別れ際、私はなぜかこんなことを言っていた。

「お前、来年俺と同じ大学受けろよ」

「そんなの無理だろう」

私は七の面倒を見なくて済むようになったら、もう七は離れていってしまうような気がしたのだ。続けてこう言った。

「来年も一緒に受験勉強できるだろう。あと学校へも一緒に登校するからな」

「なんでだよ。もうその必要もねえだろう」

私は七の鈍感さに、秘めていた感情が爆発した。

「お前、こういうのは頭悪いんだな。俺はお前のことが好きなんだよ」

七は言葉を失い、私をじっと見ていた。「それって女としてってことか?」と聞いてきた。

「それ以外何があんだよ」

私は恥ずかしくて早口で続けた。ビビリで平凡だけど、お前を守れる自信はある。夢も叶えるし、その姿をお前に見ていてほしい。七は驚いていたが、やがて強がった声で言った。

「あ、私を守るなんてお前には無理だよ。だから変な奴に絡まれたら私がお前を守ってやる」

私は七がたまらなく可愛く思えて、そのまま抱きしめた。こうして私たちは交際を始めた。

元ヤンキーと地味なガリ勉が付き合い始めたと知って、周りは驚愕し、変な噂もされた。しかし長瀬だけは祝福してくれた。「まさか付き合うとは思わなかったが、ま、お似合いだ」と。

受験生だったから、デートといえば勉強ばかりだった。それでも私たちは順調に付き合いを続け、結局同じ大学に合格した。私は看護学部、七は教育学部。あんなに教師に迷惑をかけていた七が教師を目指すなんて、誰も考えなかっただろう。

それから時は流れ、私は看護師の国家試験に合格した。合格が分かった日、私は七にプロポーズした。

「俺と結婚してください」

「しゃあな。してやるか」

七はあの頃と変わらずツンデレで、すぐ喧嘩を吹っかけてくるところも変わらない。でも一つ違うのは、歩く時は絶対に私の手を繋いでくるところだ。七だけが見せる可愛いところを、私は誰にも教えたくないと思いながら過ごしている。母と七は今でも遠慮なく言い合いをするが、二人とも元ヤンキーなだけあって、根本的にすごく気が合うらしい。強い女性に囲まれて、私はこれからも幸せに生きていくのだろう。

Thumbnail