「ねえ、お寺の前に、嫁の私が呼び出されて『お前みたいな嫁、うちにはいらない』って言われた日、私の結婚は終わったと思った。夫は何も言わず隣で黙ってた。私はただ涙をこらえて、自分たちで貯めたお金のことばかり考えてた。その夜、夫に『俺たちの家、買わない?』って言われて、何を言ってるのか分からなかった。あの家は、義両親と義兄夫婦の家だろ?それが、リフォームして俺たちが住むって…。私は返事をする代わり…

「ねえ、お寺の前に、嫁の私が呼び出されて『お前みたいな嫁、うちにはいらない』って言われた日、私の結婚は終わったと思った。夫は何も言わず隣で黙ってた。私はただ涙をこらえて、自分たちで貯めたお金のことばかり考えてた。その夜、夫に『俺たちの家、買わない?』って言われて、何を言ってるのか分からなかった。あの家は、義両親と義兄夫婦の家だろ?それが、リフォームして俺たちが住むって…。私は返事をする代わり...

「さやかさん、あの、私、ミカだけど、覚えてる?」
定休日の水曜日、家でくつろいでいた私の携帯が鳴った。
相手は義兄の妻、みかさんだった。
前に挨拶した時に連絡先を交換しただろうか。
「嫁同士、仲良くしましょうね」なんて言われたのは昨日のことのように思い出せる。
みかさんは物言いははっきりした私と違って、控えめで、人の話をじっと待つような人だ。
義兄は見るからに真面目で、遅くまで働く彼を心配するみかさんの声は、いつも小さくて、みんなの前でどもりながら話すのを、義兄が根気強く待っている姿に、ああ、愛されてるなあと微笑ましく思ったものだ。

それから特に絡みもなく過ごしてきたのに、急にどうしたのか。
「続き、どうしたの?」
私が促すと、絞り出すような声で、
「私、あの家、出たの…」
みかさんは実家を出たと繰り返した。
もう1ヶ月も前のことだという。

私は混乱した。
現在進行系で義実家の話が進んでいるようだが、何を言っているんだ?
嫌な予感がして、黙り込む私。
心配そうなみかさんに、また連絡すると告げて、一旦電話を切った。

その夜、夫が帰宅するのを玄関で待ち構えた。
「ねえ、お兄さんたち、家を出たって本当?」
夫はぎょっとした顔を見せたが、もう知らされていたのだろう。
目を泳がせる夫にもう一度鋭く問えば、
「母さんに、口止めされてたんだ…」
すねた子供のように、しぶしぶ白状した。

「それで、偽体住宅ってどういうことよ。義兄夫婦がいないのに、誰と住むの?」
「え、俺たちが一緒に住むんだよ」
「は?」
「兄さん夫婦が出てっちゃってさ、母さんたち、すごく落ち込んじゃって。まあ、嫁さんがひどかったらしいから、目が覚めたら兄さんも帰ってくるだろうけどね」
ヘラヘラと説明する夫。
私の唇が引きつった。

「最初は同居って言われたけど、夫婦のバシーも必要だろ。偽体住宅ならって言ってやったんだぜ」
「だぜ、じゃねえよ」
ドヤ顔の夫に、開いた口が塞がらない。
「まさかと思うけど、そのリフォーム代、お母さんたちが出してくれるのよね」
「まさかそんな。俺たちには貯金があるだろう。半分なら出すって言ったよ。母さん、すごく喜んでたし。半分の金額で俺たちの城が手に入るんだぜ。すげえ特した気分」

自慢げに言う夫に、私は足元から崩れ落ちそうだった。
何ヘラヘラ笑ってるのよ。
こんな大事なこと、勝手に決めて。
ぐっと歯を食い縛り、夫を睨みつける。
「いや、なんでそんなに怒るんだよ」
「怒るわよ。2人でコツコツ貯めてきたお金なのに。偽住住宅って何よ?一緒に住むって何よ?」
「俺たち、これから子供も欲しいんだろ?家が広くなったら、いいじゃないか」
「子供が欲しいのは私もよ。でも、マイホームの資金は、あと1年でようやく半分貯まるところだった。それを、どうして全部、義実家につぎ込むの?」
「半分だよ。俺たちの城が手に入るんだ。それで十分だろ」

夫は全く理解していない。
私の反応に、むしろ不満そうだ。
「お前はいつもそうだ。俺の話を聞かない」
「あんたこそ、私に一言も相談しなかったじゃない。それで、もう決定してるの?」
「ああ、もう母さんには言ってある。来月からリフォーム始めるから」
私は言葉を失った。

翌日、私は義実家に直接乗り込んだ。
義母は、私が怒っているのを見て、しれっとした顔をしていた。
「さやかさん、よく考えてみなさいよ。お義兄さんたちが家を出て、あの家が空いてるんだから。私たちだけじゃ広すぎるし、お前さんたちが来てくれたら、寂しくもないしね」
「でも、勝手に決めるのは…」
「決めたんじゃなくて、提案したのよ。あの子が(夫)が、自分から言い出したのよ」
義母の言葉に、私はさらに凍りついた。
夫は自分の判断で、私を差し置いて、この話を進めていたのか。

みかさんに電話をかけ直して、詳しい話を聞こうとした。
でも、みかさんはなかなか話さなかった。
「私、もう行くとこないの。実家にも、もう迷惑かけられないし…」
「みかさん、何があったの?本当に教えて」
しばらく沈黙があった後、みかさんはぽつりと語り出した。
「義父さんに、言われたの。『お前みたいな嫁、うちにはいらない。2人目、産む気もないんだろ?どうせ跡取りもいらないって言ってたじゃないか』って…」
私は絶句した。
そして、さらに驚く事実を聞かされた。
「義父さん、前にね、若い頃、会社を失敗して借金まみれになったことがあるんだって。今は何とか返してるけど、家は義父さんの名義のままなの。で、今度、その家を担保に、頭金なしで、あの家を買い取ろうとしてるみたい」
「頭金なしで?」
「うん。私、偶然、書類を見ちゃったの。義父さんの名前で、銀行から申し込みの書類がきてて…」

私は背筋が凍った。
夫は、その事実を知っているのか?
義母は?
私が何も知らないと思って、全部、夫たちが仕組んでる?
私が貯めてきたお金、私の将来の夢、全部、義実家のために使われる?

夫に問い詰めた。
「義父さんの借金って、知ってる?」
夫は一瞬固まり、目をそらした。
「…知らないよ。何言ってんだよ」
「嘘よ。みかさんが見たって言ってた。あの家、担保に入ってるんじゃないの?」
「そんなの、みかさんの勘違いだよ。あの人はヒステリックなんだよ。兄貴も、それで目が覚めたんだろ」
私は夫の顔をまっすぐ見つめた。
「あんた、私とお金、どっちが大事なの?」
「お金は家のためだろ。俺たちの未来のためじゃないか」

私は、その夜、家を出た。
実家に帰るわけにもいかず、しばらくは安いビジネスホテルに泊まった。
夫からの連絡は、最初は何度かあったが、私が冷たく対応すると、すぐに諦めたようだった。
「お前、そんなことしてると、義両親にも義兄にも顔向けできないぞ」
最後のメッセージは、そんな脅しだった。

私は弁護士に相談した。
離婚も視野に入れて、婚姻費用の請求も考えた。
でも、その前に、どうしても知りたかった。
あの家は、一体誰のものになる気だったのか。
そして、夫は何を知っていて、何を隠しているのか。
私は、調査会社に依頼した。
数週間後、届いた報告書を見て、私は愕然とした。
義父の借金は、想像を絶する額だった。
そして、あの家が、すでに担保に入れられ、差し押さえ寸前だったことを知った。
夫は、それを全部知っていた上で、私に内緒で、あの家に住もうとしていたのだ。
「俺たちの城」だと?
夫の顔が、それから二度と、思い出せなくなった瞬間だった。

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