姉はいつもクラスで一番だった。成績表を見せられても、俺には何がすごいのかさっぱり分からない。でも、その「すごさ」が姉を学校で苦しめていることだけは、嫌というほど分かっていた。
姉は俺と違っておとなしくて、勉強ができる。そんな姉を、クラスの女子が目の敵にし始めたのは中学に入ってからだ。姉は社交的じゃないから、どんどん孤立していった。挙句の果てには、ありもしない噂まで流されて、毎日思い悩んでいた。
家ではレストランを経営している両親も、姉の体型を気にしていた。姉はぽっちゃりしていて、それをからかわれることもあった。両親に相談してダイエットも始めたけど、なかなか結果が出ない。勉強だけは意地でも続けて、成績を落とさなかった。塾に通い始めたのも、学校の空気が嫌だったからだ。姉は学校に行かなくなって、塾で勉強するようになった。それでも成績は学年で一番のままだ。姉のそういうところは、本当にすごいと思う。
俺は姉の通っていた中学に入学した。俺は勉強はできないけど、社交性はある方だ。いわゆる「陽キャ」ってやつだ。姉が苦労していた姿を見ていたから、身構えていたけど、全く心配はいらなかった。姉のことで親も何も言わない。俺は部活と遊びに明け暮れて、勉強はおろそかにした。そのせいで受験では泣くことになったけど、それでも地元で一番頭が悪いと言われることはなかった。
ある日、クラスに転校生がやってきた。ちょっと太めの外国人の女の子で、英語が堪能だった。名前はリサという。リサは一部の女子から、姉と同じように馬鹿にされるようになった。そういうのが俺は大嫌いだった。
「楽しくやってるんだから、邪魔すんなよ」
俺はリサに話しかけて、一緒にいるようになった。リサは英語が得意だから、俺の苦手な英語もちょっとできるようになった。ある日、リサが言った。
「日本語の勉強、もっと上手くならないと。学校の授業についていけない」
それを聞いて、ふと思いついた。姉の英語は得意だ。姉に頼めば、リサの助けになるんじゃないか。しかも姉は塾に通っているから、家にいる時間も限られているけど、それでも学校よりはマシだろう。
次の日、俺は姉に相談した。
「今度の土曜日、リサと一緒に服を買いに行かない? リサは日本語に困ってるんだけど、姉が英語で手伝ってくれたら助かるんだ」
姉は少し驚いた顔をしたけど、すぐに笑って頷いた。
「うん、いいよ。でも、私が英語で話しても大丈夫かな」
「大丈夫だって。リサも喜ぶよ」
土曜日、三人で駅前に出かけた。リサは姉に英語で話しかけて、姉もゆっくりとした英語で答えていた。俺は二人のやり取りを見ながら、思った。姉もリサも、学校で馬鹿にされている者同士だ。もしかしたら、二人は分かり合えるかもしれない。
しばらくして、リサが俺に言った。
「裕二の姉さん、すごく優しいね。私、学校で馬鹿にされてるのが嫌で、転校したんだ」
姉もリサも、同じような思いをしている。俺はそれが分かって、何かできることはないかと考えた。
でも、それからすぐに、学校でリサが泣いているのを見た。クラスの女子が陰口を叩いているのが聞こえた。
「あの転校生、太ってるくせに英語ができるって、自慢してるんだって」
俺は怒りがこみ上げてきた。しかし、何を言えばいいのか分からず、その場を離れた。そして、家に帰って姉に話した。
「リサがまた馬鹿にされてた」
姉は黙って、うつむいた。そして、ポツリと言った。
「私も、同じだったから。何も言えない」
その時、俺ははっきりと思った。このまま何もしなかったら、リサも姉と同じようになってしまう。今度こそ、俺が何とかしなきゃいけない。でも、どうやって?



