「遅いぞ、橋本。何やってたんだ」って言われたのは、私が企画書を持って会議室に入った瞬間でした。部署の部長は真っ赤な顔で私を睨み、社長や他の部長たちも厳しい目で私を見ていました。……「お前、俺の企画を盗んだだろう?」って、部長が言ったんです。私は徹夜で作った企画書しか知らない。でも、自分のIDで、自分が知らないファイルへのアクセス記録が残っていたんです。ログの解明で、真犯人が見えてきました。そ…

「遅いぞ、橋本。何やってたんだ」って言われたのは、私が企画書を持って会議室に入った瞬間でした。部署の部長は真っ赤な顔で私を睨み、社長や他の部長たちも厳しい目で私を見ていました。……「お前、俺の企画を盗んだだろう?」って、部長が言ったんです。私は徹夜で作った企画書しか知らない。でも、自分のIDで、自分が知らないファイルへのアクセス記録が残っていたんです。ログの解明で、真犯人が見えてきました。そ...

「これは一体どういうことだ?」

社長の声に、俺は思わず驚いて視線を向けた。周りの社員たちも隣の人と顔を見合わせている。まさか、俺の企画書に何か問題があるのか?

会議室には、色崎社長や部長たちが並んでいた。だが、彼らの目は俺を評価しているようには見えなかった。困惑と、どこか非難めいた色を帯びている。

近くにいた木下部長が、さらに衝撃的な言葉を口にした。

「お前、俺の企画を盗んだだろう?」

俺は言葉を失った。何を言っているんだ?

俺は橋本。26歳の会社員で、「いろいろ物販」という会社の商品開発部に所属している。この会社は自社製品を作っていて、俺が開発した商品が売れ筋ランキングの上位に入ったこともある。お客さんが喜んでくれる姿を想像するだけで、仕事のやりがいを感じていた。

だが、一つだけ悩みがあった。それが木下部長だ。

彼は毎日のように、俺に山ほどの仕事を押し付けて、自分はタバコ休憩に行ってしまう。最近では、「ゴキブリが出た」と言って倉庫に俺を連れて行き、大量の虫と一緒に掃除をさせられたことだってある。意味のわからない雑用で、毎日へとへとになっていた。

それでも、この仕事が好きだからこそ、木下部長との関わりを我慢してきた。

そんなある日、木下部長に言われた。

「来週の9時から始まる大事な会議に出席しろ。社長が新しい目玉商品を作りたいらしい。お前のアイデアをそこで発表してほしいんだ」

急な話だったが、俺は「ついに認められたのか」と嬉しくなった。その夜は徹夜で企画書を作り上げた。自分でもいい出来だと思えた。社長たちもきっと満足してくれるはずだ。

前日の退社間際、最終チェックをして、不備がないことを確認してから、デスクの引き出しに企画書をしまった。

翌日の9時、俺は書き上げた企画書を手に、指定された会議室へ向かった。

ドアを開けた瞬間、木下部長の怒声が飛んできた。

「遅いぞ、橋本。何やってたんだ」

俺は驚いて目を見開き、呆然と立ち尽くした。会議室の中には色崎社長や部長たちが座っていて、全員が厳しい目で俺を見ていた。

椅子に座るよう指示され、俺は何が何だかわからないまま席に着いた。

「橋本君、君の企画書、見せてもらったよ」

社長が静かに言った。

「ちょっと待ってください。何がどうなっているんですか?」

俺は慌てて聞き返した。

「どうもこうもない。お前が俺の企画を盗んで真似したんだろう?」

木下部長が、怒りに満ちた真っ赤な顔で俺を睨みつけた。

「俺が企画書を盗む? そんなことするわけがない。昨日まで徹夜で作ったのは俺の企画です」

「ふざけるな。その企画は、俺が先週から温めていたものだ。お前、昨日こっそり俺のデスクからデータを盗んだだろう?」

俺は血の気が引くのを感じた。確かに昨日、企画書を確認するために、共有フォルダーや、木下部長が使っている資料室のデータベースを見たことがある。だが、それはあくまで参考にするためで、盗むつもりなんて一切なかった。

「違う! それは誤解です。俺はただ…」

「言い訳はいい。社長、この者を処分してください」

木下部長が社長に迫った。

社長が少し考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。

「橋本君。君には期待していたんだがな」

その一言で、周りの部長たちが一斉に俺を見た。軽蔑と失望の目だった。

「私は何も盗んでいません。私の企画書には、私が独自に考えたマーケティング戦略や、新商品のコンセプトが書いてあります。木下部長の企画書とどこが同じなんですか?」

「ああ、言い逃れしようってのか。いいだろう、具体的に説明してやる」

木下部長は、自分のタブレットを取り出し、画面を見せた。そこには、俺が徹夜で作った企画書と、ほぼ同じ内容の企画書が表示されていた。タイトルも、商品名も、戦略も、そっくりだった。

「これは…」

「驚いたか? お前が昨日、資料室でコピーしただろう?」

「そんなこと、していません!」

「なら、このデータ共有の履歴は何だ?」

木下部長はさらに、共有フォルダーのログを見せた。確かに、昨日の夜、俺のIDで、木下部長の作成したフォルダーへアクセスした記録があった。

「これは、俺のIDだけど…俺はそんな操作をしていない!」

「嘘をつくな! お前がやったんだろう! この嘘つき!」

木下部長の怒声が会議室に響き渡る。俺は頭が真っ白になった。確かに俺のIDでアクセスされていたが、それは俺がやったことではない。しかし、それを証明する方法はなかった。

「解雇だ」

社長が冷たく言い放った。

「ちょっと待ってください! 真実を調べてください! 誤解です!」

「いいえ。不正が明らかだ。今日をもって、お前はクビだ」

俺は何度も何度も否定したが、社長は聞く耳を持たなかった。木下部長は、ニヤリと笑っているように見えた。

その後、俺は会社から追い出されることになった。私物をまとめて、同僚たちの言葉もなく、静かにビルを後にした。

悔しさで頭が回った。どうしてこうなった? 誰かに嵌められたのか? それとも、木下部長が俺を追い出すために、最初から罠を張っていたのか?

家に帰っても、怒りと無力感で一日中眠れなかった。

翌日、何気なくスマホを見ると、木下部長からメッセージが届いていた。

「残念だったな。まあ、お前には価値がなかったってことだ」

その言葉に、俺の中で何かが切れた。

今まで我慢してきたことが、全部フラッシュバックした。俺はおとなしく辞めるわけにはいかない。何とかして、この汚名を晴らしてやろう。

俺は、会社の資料室に残っているデータを思い出した。あの日、確かに俺は、新商品の企画書を作るために、データの一部を参考にした。だが、あの共有フォルダーへのアクセスは、本当に俺じゃない。誰かが俺のIDを勝手に使ったのだ。

調べる方法はいくつかある。ログの記録から、本当に俺の操作だったのかどうか、時間を照合すれば……。

俺は、まず会社のネットワーク管理者だった同期の塚本に連絡を取ることにした。

「塚本、お願いがあるんだ。昨日の夜、俺のIDでアクセスした記録って、ちゃんと確認できる?」

「橋本? 何で?」

「説明は後でする。とにかく、俺が冤罪だって立証したいんだ」

「わかった。ちょっと調べてみるよ」

数時間後、塚本から折り返しの連絡がきた。

「橋本、ちょっと変だぞ。確かに君のIDでアクセスしてるけど、その時間、君は確か、君の席から動いてなかったはずだ。自席のPCからログインした記録はないんだ」

「どういうこと?」

「つまり、誰かが君のIDを別の端末から使った可能性があるってことだ。君のIDを使えるのは、君と、管理者権限を持っている人間だけだ」

俺は背筋が凍る思いがした。管理者権限を持っているのは、情報システム部の人間と、部長クラス……。まさか、木下部長?

俺は、その証拠を掴むために、もう一歩踏み込むことにした。木下部長のPCに、俺の企画書を送信した痕跡が残っていないか。それと、彼が俺のIDを不正に使用したログを。

塚本は、いくつかのログを解析してくれた。

「やっぱり、君のIDでログインして、資料室のフォルダーをコピーした後、一度ログアウトしている。その直後に、木下部長のIDで、同じフォルダーを開いているんだ」

「つまり、木下部長が犯人だってことか…」

「多分な。うまくいけば、動かぬ証拠になる」

俺は、そのデータを手に、再び会社へ行くことにした。今回は、直接社長に会うために。

「社長、お時間をいただきたいんです。真実が分かりました」

社長は、渋々と応じた。俺は、ログの記録や、塚本の解析結果を見せた。

「これは…。木下部長、これは本当なのか?」

木下部長の顔色が変わり、汗をかき始めた。

「こ、こんなの捏造だ! 橋本がウソをついているんです!」

「私が捏造すると思いますか? これは会社のネットワークログです。誰が何をしたか、全部記録されています」

木下部長は何も言い返せず、うつむいた。

社長は深くため息をつくと、「木下君。君に辞めてもらう」と告げた。

「どうか。私の潔白を証明したいんです。その上で、まだこの会社で働きたいとは思いません。ですが、私の疑いは晴れました。それで十分です」

俺は、静かにそう言った。社長は、「すまなかった」と一言、謝罪してくれた。

その後、木下部長は会社を辞め、俺は自分の力で新しい仕事を見つけた。あの経験は辛かったが、自分は何もしていないという揺るぎない自信が、今の俺を支えている。

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