あなたの名前を見た時、私は本当に驚いた。お見合いで会ったばかりの人を調査することになるなんて、思ってもみなかったから。
「俺も驚いたよ。お見合いの日、味方になって俺の話を聞いてくれたみかさんに救われた気がしてたけど、ここでまたみかさんに助けられるとはね」
逆下。お前は付けでしばらく自宅待機だ。場合によっては会処分もありうる。分かってるな。
俺の名前は下り涼介。32歳。中堅商事で営業職として働いている。
実を言うと、俺の実家は業界では知られた企業の創業家で、父は会長、兄はその後を継いで現在40代にして社長。だが俺はと言うと、そんな家柄に反発して、まるで別の道を選んだ。
就職活動を始めたのは大学3年の時だ。両親は兄と同じ道を歩くようにと、俺を後期にねじ込もうとした。
「兄貴を見習ってうちで働けばいいじゃないか。わざわざ苦労を選ばんでも、うちにいれば安泰だぞ」
父も母もそう言って俺を説得するが、兄貴のコピーになれるか。そんなの嫌だ。俺は俺でやるんだ。そう言って俺は家を飛び出した。
元々学業成績はパッとしなかった。入試でどうにか大学には入ったが、講義はサボりがちで単位はギリギリ。就活を始めても面接で話せるような経験は皆無。親の言う通りにしていれば、逆下やその関係会社に入ることもできたが、それだけは嫌だった。
親に敷かれたレールに乗るのはごめんだ。クソ暗えだよ、そんな人生。そう思っていた。きっと他人から見ればバカみたいに青臭くて現実知らずの理想主義者に映ってたと思う。けど俺にはそれしか選べなかったんだ。自分の足で立たなきゃ生きてる意味がないように感じてた。
でもそんな中での就職活動はやっぱりなかなかハードな道だった。バイトで食いつなぎながらハローワークにも通い、ブラックっぽい会社に面接で落とされ散々な目にあった。
「面白い経歴ですね。親が有名だからって甘えないとこは評価しますが、正直あなたに何ができるのか」
そんなことを何度言われたかわからない。でも自分の足で立ちたいんです。それだけはどんなことがあっても曲げません。ある会社の採用担当者にそう言った時、そんなことを言われて浮き足だっていた。それがちょうど先月のこと。なのに。
「ど、どういうことすかそれ?」
飛び出して別のとこで働いてたんですよね。結局うまくいかなくて戻ってきたんですけど、社長の息子さんが優秀なあなたを寝たんですね。



