私は68歳。小さな骨董品店の2階で、貧乏暮らしを装って生きてきた。娘夫婦からは「臭い」と嫌われ、孫からは「汚い」と言われ、誕生日にケーキを持って行けば、嫁に「どうして私の誕生日に来るんですか?」とドアを閉められた。あの日、ベンチで涙を流しながら、私はケーキを食べた。そして、震える手で不動産屋に電話をかけた。「売買を進めてください」と言い放ったその瞬間、私の中の「黄金の女王」が目を覚ました。嫁…

私は68歳。小さな骨董品店の2階で、貧乏暮らしを装って生きてきた。娘夫婦からは「臭い」と嫌われ、孫からは「汚い」と言われ、誕生日にケーキを持って行けば、嫁に「どうして私の誕生日に来るんですか?」とドアを閉められた。あの日、ベンチで涙を流しながら、私はケーキを食べた。そして、震える手で不動産屋に電話をかけた。「売買を進めてください」と言い放ったその瞬間、私の中の「黄金の女王」が目を覚ました。嫁...

義母の声は氷のように冷たかった。ドアの向こう。私の手にはイチゴのケーキの箱。プレゼントには金のネックレス。嫁の誕生日を祝うために買ったものだった。

「お義母さんが、どうして私の誕生日に来るんですか? 」

その言葉が、耳の奥で何度も反響した。エレベーターの中。私は震える手で携帯電話を取り出した。画面に映る自分の顔は、見るも無惨だった。68歳。骨董品店の2階で静かに暮らす、ただの年老いた女。それが、私の「本当の姿」だと、家族は誰も知らない。

「山田署長、あのマンション、売買を進めてください」

その言葉を口にした瞬間、決意が固まった。もう我慢する必要はない。彼女に、真実を見せてやる時が来たのだ。

四十年前、私は東京の筑地で金属の卸売り業を営んでいた。当時の人々は私を「黄金の女王」と呼び、畏敬の念を込めて接した。私の手を通過した金は数十トン。不動産も株も、すべて現金化して蓄えた。その結果、私の骨董品店の地下には、特殊金庫に保管された五百本のゴールドバーがある。現在の相場で、およそ100億円。しかし、息子と嫁はこの事実を一切知らない。彼らが知っているのは、ただ一つ。骨董品の埃と古い木の匂いがする、貧乏臭い義母。そう、今日はその義母が、どのようにして嫁と息子に完璧な復讐を果たしたのか、その物語を最後までお聞かせしよう。

私の息子、鈴木順一は38歳。幼い頃から頭が良く、大学では情報科学を専攻した。起業したいと言い出した時、私は信じた。「母さん、必ず成功するから楽にさせてあげるからね」その言葉を信じて、第一次の事業資金として五千万円を支援した。しかし一年で会社は倒産した。

「母さん、ごめん。次は必ず成功するから」

再度三千万円、そしてまた失敗。三度目の二千万円。結局、一億円もの大金を失った。そんな時、息子が女性を連れてきた。田中弓。当時三十五歳の化粧品会社に勤める女性だった。初めて会った日から、何か引っかかるものがあった。挨拶は丁寧だったが、その目は冷たく、私の古びた服を舐め回すように見下していた。

結婚の条件として、港区のタワーマンションを要求された。息子は「母さんの骨董品店を売ればいいじゃないか」と平然と言った。私は四十年来守ってきた店を売る代わりに、二億五千万円のマンションを購入した。ただし万一に備えて、名義は私の名前にしておいた。

結婚式の日、私は精一杯のおめかしをした。三十年前の着物にアイロンをかけ、金の指輪を用意した。しかし、嫁はその指輪を見て顔をしかめた。「デザインが古すぎませんか? 」彼女は周りの目を気にしながら、指輪をバッグに放り込んだ。

新居への引っ越し祝いの日、嫁は私が座ったソファのクッションをわざわざ持ち上げて、匂いを嗅いだ。そして、別の場所にしまい直した。夜には「もう帰ったらどうですか」と冷たく言われた。玄関を出るとき、嫁の声が聞こえた。「あなた、家の中がなんか臭くない? もう家に変な匂いが染みついちゃったみたい」

私は凍りついた。自分の服の匂いを確認しても、何の匂いもしない。朝、シャワーを浴びて、綺麗な服を着てきたのに。それが、始まりに過ぎなかった。

結婚して半年後、嫁が妊娠した。私は嬉しくて、高級牛肉やアワビを買って、嫁の家を訪ねた。しかし、嫁は「今日は友達が来るんです」と、私を持て余したように帰そうとした。玄関の靴箱に、私が履いたスリッパがビニール袋に入れられているのが見えた。「捨てようと思って」と嫁は平然と言った。一度しか履いていないスリッパを。エレベーターが閉まる瞬間、家の中から女性たちの笑い声が聞こえた。友達は来る予定ではなかった。彼女は私を追い出すために嘘をついたのだ。

孫が生まれた。双子だ。私は堪らず病院に駆けつけた。しかし、嫁は私が赤ちゃんを抱くのを嫌がり、「今の育児法を知ってるんですか?

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」と怒鳴った。嫁の母親が来ると、嫁は嬉しそうに「お母さん、最子」と声を上げた。「お義母さまは何もしてくれなかったのに」と笑いながら言う。私は涙を飲み込んだ。あんなに買っていったのに、それすらも「友達が食べちゃいました」と済まされた。

孫が一歳の誕生日を迎えた。ホテルでのパーティー。私は金の指輪を二つ用意した。しかし、嫁は私が孫に触れようとすると「化粧が落ちちゃいますから」と奪い取った。私は隅の席に追いやられた。嫁は友達に向かって、わざわざ聞こえるように言っていた。

「うちの義母さん、骨董品店やってるんですけど、人と付き合うのが苦手みたいで」「義母さんから、なんかカビ臭いような匂いしない? 」「うちに来るたびに空気清浄機を三時間は回さないと」「子供たちには絶対触らせませんよ。あの汚い手で」

その言葉に、私は息が止まるかと思った。汚い手。四十年間、金を扱ってきたこの手が。私は用意してきた指輪を、孫たちに渡すことができなかった。

その夜、酔った息子が私に詰め寄った。「骨董品店を売ればいいじゃないか。俺の借金を少しでも返してくれよ」と。私の手を掴んで激しく揺さぶった。私は振り払った。「この店は私の人生よ」すると、嫁が寄ってきて、私をホールの外へ押し出した。「雰囲気を壊さないでいただけますか? どこか他へ行ってください」

廊下で座り込んだ。中からは楽しげな音楽が聞こえてくる。私の孫たちの誕生日パーティーなのに、私は追い出されたのだった。

孫たちが五歳になった。保育園に通い始めた。私は会いたくて、嫁に電話した。「迎えに行ってもいいかしら? 」嫁はきっぱりと断った。「子供たちが、あなたを嫌がっています」と。「おばあちゃんは臭いから嫌だ」と、匠が言ったらしい。世界が崩れ落ちるような思いだった。

次の日、遠くからでいいから孫の姿が見たくて、保育園に行った。そして、匠と美咲に手を振った。しかし、二人は笑わなかった。匠が叫んだ。「嫌だ、おばあちゃん臭い。ママがおばあちゃんは汚いって言ってた」美咲も続けて言った。「おばあちゃんは骨董品でも磨いてなよ。私たちに触らないで」

その時、タクシーから嫁が降りてきた。私を怒鳴りつけ、子供たちを連れ去った。私は保育園の前で座り込んだ。涙が止まらなかった。あの夜、私はようやく悟った。匂いは存在しない。嫁はただ、私を嫌っているだけだ。貧乏で、趣味の悪い、役立たずの義母。それが彼女の私に対する見方だった。

私は決心した。もうがまんするのはやめよう。

地下の金庫へ降りた。キラキラと輝く五百本のゴールドバー。一本手に取ると、ずっしりと重い。四十年前、金の女王と呼ばれていた頃の誇りが、そこにはあった。「もう見せてやる時が来たんだ」と私は呟いた。

そして、今日。三月十五日。嫁の誕生日。私はイチゴのケーキと、金のネックレスを持って、彼女の家を訪れた。

「お義母さんが、どうして私の誕生日に来るんですか?

ドアは最後まで開かれることはなかった。隙間から覗く嫁の顔は、驚きと拒絶に歪んでいた。

「お義母さんが来ると、雰囲気が壊れるんです。その骨董品の匂い、どうにかならないんですか? 」

私は急いでレジ袋を差し出した。しかし、嫁は怒鳴った。「いりません! 」

その瞬間、中から女性たちの笑い声が聞こえた。友達はもう来ていたのだ。彼女は私を家に入れないために嘘をついた。

私はドアの隙間に手を入れた。「お義母様、何するんですか! 」

嫁は力の限りドアを閉めた。私の指が挟まれ、痛みで悲鳴が上がる。そして、バタンと大きな音を立てて、ドアは完全に閉まった。

私はマンションのベンチに座り込んだ。震える手で、ケーキの箱を開けた。イチゴのショートケーキ。「ハッピーバースデー」の文字。一口食べた。甘かったけど、口の中は苦かった。涙を拭い、携帯電話を取り出した。

「山田署長。アザブのマンション、売買を進めてください」

電話の向こうが静まり返った。「奥様、あのマンションは息子さんがお住まいの…

」「ええ、分かっています。でももういいんです。売らなければなりません」

契約はすぐに成立した。二億六千万円。買い手は大企業の役員。決済は来週。所有権移転登記の書類が届けば、嫁と息子は知ることになるだろう。自分たちが住んでいる家の名義が、ずっと「嫁に嫌われている義母」のものだったという事実を。

私は約束の日、運命の一日、そのマンションへ行った。スーツを着て、夫からもらった金のネックレスをつけて。インターホンを押すと、嫁が驚いた顔で出てきた。しかし、私の姿を見て、彼女の目は丸くなった。私は家に上がり込んだ。リビングのソファに堂々と座った。

「この家の持ち主が誰か知ってる? 」

嫁は言葉を失っていた。私は続けた。「私の名義よ。そして、もうすぐあなたはこの家から出て行かなければならないわ」

その時、インターホンが鳴った。配達員。掛け止めの郵便。嫁が受け取り、差出人を見て手が震えた。裁判所。彼女は私を責めるように見つめたが、私は「開けてご覧なさい」と冷たく促した。

嫁が封筒を破ると、中からは「所有権移転登記」の書類が出てきた。「これは!? 一体… 」

私はゆっくりと立ち上がり、バッグから一本のゴールドバーを取り出した。テーブルの上に置くと、重たい音が響いた。キラキラと輝く金色。

「ゴールドバーよ。あの『骨董品の匂いがする店』の地下に、これが五百本あるの」

嫁は息を飲み、その場にへたり込んだ。「100億円…?

「あなたが、骨董品でも磨いてろと言ったあの義母が、100億円の資産家なのよ」

嫁は床に膝まづいて謝罪した。しかし、私は耳を貸さなかった。「五年間、私を無視し、侮辱し、孫たちにまで私を嫌わせた。今更謝っても遅いわ」

その時、玄関が開き、孫たちが帰ってきた。「おばあちゃん! どうしてここにいるの? 臭いのに」と、匠が無邪気に言った。私はその言葉に心を抉られた。そして、事実を突きつけた。嫁は子供たちに嘘を教えた。私を悪者にした。それは決して許せることではなかった。

私は「一ヶ月以内に出ていきなさい」とだけ言い残して、その場を去った。嫁の泣き叫ぶ声が聞こえたが、振り返らなかった。

数日後の夜十一時、今度は私の店に息子が殴り込んできた。酒に酔って、私の胸ぐらを掴み、「よくもやってくれたな! 」と怒鳴った。彼は床にあった骨董品を次々と投げつけた。割れる音。ガラスが飛び散る。「このゴミみたいな骨董品を売って、俺の借金を返せよ!

」私は彼の腕を掴んだ。

「この店は私の人生よ。あなたのお父さんの思い出が詰まった場所なの」「思い出へ! 思い出がなんだ! 」

私は叫んだ。「あなたはこの五年間、妻が私をどう扱っていたか見ていたでしょう。何も言わなかった。妻の味方ばかりしていた。あなたは私の息子じゃない。私のお金が必要だっただけなのよ」

息子は泣き叫んだが、私は「もう出ていきなさい。二度と来ないで。あなたはもう私の息子じゃない」と突き放した。

それから裁判があった。嫁は私の店から品物を盗んで売っていた行為で、窃盗罪で起訴された。私は調停室で、嫁が友達に私を貶めていた録音データを提出した。嫁は「処罰をお願いします」と訴え、判決は懲役六ヶ月、執行猶予二年。彼女は完全に打ちのめされた。

あの日から二週間が過ぎた。ある日、息子が店に現れた。以前の彼ではなかった。髪は綺麗に整えられ、清潔なスーツを着ていた。深く頭を下げて謝罪した。

「母さん、僕は38年間、分別のない息子でした。お金を要求してばかりで、弓が母さんをいじめるのを黙って見ていました。今になって、母さんがどれほど辛かったか分かりました」

息子は仕事を見つけ、借金の返済計画書を持ってきた。月々60万円ずつ、20年かけて返済するという。「母さん、僕はもう大人になりました。どうか一度だけチャンスをください」

私は彼の目を見つめた。そこには真剣な決意があった。「分かったわ。ただし、20年間滞りなく返済し終えたら、あなたを本当の息子として認めてあげる」

また数ヶ月後、今度は社会福祉士の女性が訪ねてきた。嫁が子供たちとシェルターにいるという。匠は「おばあちゃんに謝りたい」と言い、美咲は毎日泣いていると。私は孫たちに会いに行った。相談室で、二人は泣きながら抱きついてきた。「おばあちゃん、ごめんね。悪いこと言った」と。

嫁もそこにいた。痩せ細り、目は窪んでいた。「お義母様、本当に申し訳ありませんでした」と、膝まづいて謝った。私は決して許したわけではない。しかし、子供たちのために、彼女に仕事を紹介し、賃貸の頭金を渡した。「ちゃんとしたお母さんになりなさい」と。

それから一年が経った。私は「希望の光 高齢者保護財団」を設立した。虐待された高齢者のためのシェルターを作り、法律支援も行っている。これまでに三百人以上のお年寄りを助けてきた。息子は毎月欠かさず借金を返済している。嫁も子供たちを立派に育てながら、毎月五万円ずつ、借金を返してくれている。

孫たちは毎週土曜日、骨董品店に遊びに来る。今では「おばあちゃんの店、いい匂い」と笑ってくれる。私は幸せだ。昔のような、純粋な幸せではないかもしれない。傷跡は残っている。しかし、それでも前に進んでいる。私の人生は、ここからもう一度始まったのだ。