「他にも男子はいるのに、なんであんたなの?自分よりひょろひょろの人と組みたくない。」…

「他にも男子はいるのに、なんであんたなの?自分よりひょろひょろの人と組みたくない。」...

俺が高校1年の秋、体育祭の直前。クラスでは恒例の組体操のペアが発表される日だった。

先生は出席番号順に男子を並べ、女子の名前を読み上げていく。どのペアになるのか、教室中が静まり返っていた。俺は陰キャで、休み時間も一人で過ごすような生徒だ。友達もいない。この日の発表も、どうせ適当な相手と組まされるだけだと思っていた。

そして、俺の番が来た。

「うえ、相馬とペアになるのはさ。」

俺は思わず顔を引きつらせた。「さ」という女子は、この学校で知らない者がいないほど有名だった。金髪に染めた髪、耳にはたくさんのピアス。見るからにヤンキーで、近寄りがたいオーラを放っている。過去に少林寺拳法を習っていて喧嘩が強いという噂もある。

先生の指示で、男子が一斉にペアの女子のところへ向かう。俺は気まずい思いで彼女のそばへ歩いていった。

「ささん、よろしく。」

俺が挨拶すると、彼女は初対面の相手とは思えない言葉を返してきた。

「他にも男子はいるのに、なんであんたなの? 自分よりひょろひょろの人と組みたくない。」

「先生が決めたことだし、俺に文句を言われても困るよ。」

「えー、もっとがっしりした人が良かったな。」

「そんなこと言わなくたっていいだろ。俺だってもっと大人しい女子と組みたかったわ。」

「何それ? 私が大人しくないってこと? 」

「その見た目で大人しいわけないだろ。」

俺もついカッとなって言い返してしまった。クラスの奴らが驚いた顔で俺を見ている。いつも端っこで本を読んでいる陰キャが、金髪ピアスのヤンキーに立ち向かっているんだから、無理もない。

先生に「ペアの変更はしないから仲良くやるように」と言われ、その場は収まったが、練習が始まっても彼女は俺を睨みつけたままだった。このままじゃ組体操どころか、怪我をするかもしれない。俺は思い切って謝ることにした。

「さっきは言いすぎた。悪かったよ。」

「こちらこそ…ごめん。最初から否定するのは良くないよね。」

意外にも彼女は素直に謝ってくれた。まさか謝られるとは思っていなくて、俺はぽつりと本音を漏らしてしまった。

「ささんって、ちゃんと謝れるんだ。意外だね。」

「またそんなこと言ったら、許さないからね。」

からかうつもりが、なぜか彼女はクスッと笑い出した。

「面白い人なんだね。今まで私に反抗的な態度を取ってくる人なんて、ヤンキーしかいなかったから。ここまで私に真っ直ぐ向かってきたのは、相馬が初めてかも。」

そう言って笑う彼女の顔は、可愛くて綺麗で、周りの目が釘付けになるのも分かった。俺も同じように、彼女の笑顔にドキッとしていた。しかし、彼女の次の言葉で俺は心臓が止まる思いをした。

「ただの暗い陰キャかなって思ってたけど、もしかして前はやんちゃな陽キャだったとか?

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…そんなわけないよね。その見た目だもん。」

実際、俺は中学の頃、かなりやんちゃをしていた。喧嘩に明け暮れ、気づけば「伝説の番長」と呼ばれるまでになっていた。平和に過ごしたくて、地元から離れたこの高校に来たのに、足元を掬われるところだった。

あの日から、俺は彼女に正体がバレないように、真面目で陰キャな生徒を演じ続けた。しかし、彼女はなぜか俺に話しかけてくることが増え、以前よりも目立つようになってしまった。

「ねえ、相馬。組体操のことなんだけど、さやってくれる? やるからには全力出して欲しいの。私は1番になりたいの。いい? ちゃんとしてよね。」

彼女は真剣な顔でそう言った。見た目からして不真面目な彼女が、ここまで体育に力を入れるなんて、ギャップに驚かされた。

「放課後は特訓よ。絶対に来なさいね。」

一方的に話を進める彼女に言い返そうとしたが、タイミングよくチャイムが鳴ってしまった。放課後、彼女の特訓に付き合う気はなかった。平和な高校生活を送るためには、関わらないのが一番だ。俺はすぐに教室を飛び出し、学校の玄関へ向かった。

「逃げたな。」

しかし、彼女は全力で追いかけてきた。

「特訓するって言った。相馬が来ないと成立しないの。弟が俺の組体操を見たいって言ってるんだ。そのために、あんなに嫌がっていた薬もちゃんと飲むようになってさ。その気持ちに答えないわけにいかないでしょ。」

彼女の話を聞いて、俺は自分の考えが間違っていたことに気づいた。彼女には年の離れた弟がいて、体が弱く、ずっと入院を繰り返しているらしい。彼女は弟のために、本気で組体操を頑張りたかったんだ。

最初に言ってくれたら、こんなに嫌な思いをさせることもなかったのに。俺は彼女に謝り、放課後の特訓に付き合うことにした。

翌日から、俺たちは体育館で特訓を始めた。彼女はかなりの運動神経の持ち主で、個人の技は難なくこなしてしまう。それでも、自分の弟のためにもっと上手くなりたいと、彼女は練習を続けた。

特訓の休憩中、俺は自販機で飲み物を買って彼女に渡した。

「少し休んだ方がいいよ。さ、飲み物買ってきたぞ。」

「え、買ってきてくれたの? …そう。意外とそういうところに気がつくのね。」

喉が渇いていたのか、彼女は一気に飲み干した。その姿を見て、気になっていたことを聞いてみた。

「そんなに運動神経もいいし、センスもあるのに、なんで部活に入らないんだ?

「前までは少林寺拳法を習ってて、全国大会にも行ってたよ。でも、弟が生まれてから変わったの。弟の病気が発覚してから、両親は一度も大会を見に来てくれなかった。全国大会に出られることになっても、誰一人として来てくれなかったんだ。弟のためだし仕方ないって分かってるけど…そこで私は吹っ切れたんだよね。」

彼女は悲しそうな顔で話してくれた。でも、次の瞬間、優しい笑顔を見せてくれた。

「でも、弟のことを悪く思ったことはないよ。病室にあるテレビでヤンキーが青春するドラマを見て、弟が『お姉ちゃん、金髪似合いそうだね』って言ってくれたから、染めてみたりしたんだ。弟が喜んでくれるなら、私は何でもやってあげようと思ったの。」

彼女の弟への想いを聞いて、俺は胸が熱くなった。それまで彼女に対して持っていたイメージが、すべて覆された。彼女は、外見とは裏腹に、心の優しい人間だった。

「ささんってブラコンなんだな。想像していた人と違ったよ。」

「いいでしょ、別に。それを言ったら相馬だって、見た目は陰キャだけど、話した感じは陰キャじゃないじゃん。いつもはクラスの端っこにいるのに、私と話す時は口が悪くなるし。本当に地味で陰キャなの? 」

彼女の観察力に、俺はまた冷や汗をかいた。

「ああ、そうだよ。俺は暗くて地味な陰キャ男だ。ただ、さとはペアになってから気を許して話せるってだけだよ。」

無理のある言い訳だったが、彼女はそれ以上追及してこなかった。

「そうなんだ。それなら別にそれでいいよ。他のみんなは、私と話すのを怖がるし、いつも怯えたような目で見てくる。話したらそんなことないって、絶対分かるのに。私はね、相手の中身を見てから好きになりたいの。話したこともない人に告白されても、ただの迷惑だし。見た目で人を決める人って、あんまり好きじゃないんだよね。」

彼女と話していると、不思議と時間が経つのを忘れた。もし彼女が男だったら、親友になっていただろう。それくらい、魅力的な人だった。

体育祭前日の放課後。俺は日直の仕事があったため、彼女に先に体育館で練習していてもらうことにした。仕事を終えて体育館へ向かうと、彼女の姿がない。どこに行ったのかと学校中を探していると、正門の前に彼女に似た人影が見えた。近づいてみると、彼女の隣に制服の違う男が数人たむろしていた。

「俺、隣町の高校の大生って言うんだ。まあ、この辺りだと俺が一番喧嘩強いって言われてるよ。だからさ、さくちゃん、俺と付き合ってよ。こんな喧嘩の強い男、俺くらいしかいないよ。嬉しいだろ。」

「なんであなたと付き合うことが嬉しいの? 私、あなたのこと全然知らないし。付き合えない。ごめんなさい。」

彼女ははっきりと告白を断っていた。しかし、大生という男は引き下がらない。

「喧嘩がこの辺りで一番強いんだぜ。俺みたいな強い男がさくちゃんのタイプだろ。」

「喧嘩が強いとかどうでもいい。人間として終わってるような男と付き合っても、何も嬉しくないわ。話したこともない相手にそんなこと言えるの、正直ありえない。」

彼女は言い放ち、学校へ戻ろうとした。その時、彼女と目が合った。

「今の会話、聞こえてた? 」

「ごめん。盗み聞きするつもりはなかったんだけど…待ち合わせ場所の体育館にいなかったから、探しに来たんだ。さっきの男、隣町の大生だろ。」

「え、相馬の知り合いなの?

「知り合いってほどじゃない。名前を知ってるだけだよ。」

「あんな奴、一生無理。共通点も何もないのに、初対面であの態度。話すたびに鳥肌が止まらなかったわ。」

心の底から嫌そうな顔をする彼女を見て、俺は安心している自分がいた。もし彼女が大生と付き合っていたら、と思うと気が気ではなかった。

「明日は体育祭だし。さっきのことは忘れて、明日のことだけ考えよう。」

「そうね。弟もすごく楽しみにしてくれてるから、かっこいいお姉ちゃんを見せてあげないとね。」

やる気十分な彼女を見て、俺も自然と笑顔になった。

そして、体育祭当日。快晴の中、彼女の家族も応援に来ていた。車椅子に乗った小さな少年が、彼女に向かって手を振っている。彼女は弟のもとへ駆け寄り、嬉しそうに話しかけた。

「お姉ちゃん、見に来たよ。体育頑張ってね。」

「ありがとう。あ、この人は私と組体操のペアになる相馬だよ。」

「初めまして。相馬です。」

「初めまして。お姉ちゃんがお世話になっています。」

彼女の弟は、年齢の割に落ち着いた感じで、とても礼儀正しかった。俺は彼女の弟のために、絶対に最高の組体操を見せてやろうと心に誓った。

体育祭は順調に進み、彼女はリレーや綱引きなどの競技で次々と1位を獲得した。弟は大喜びで、彼女も照れくさそうに笑っていた。

そして、いよいよ組体操が始まる頃。後ろから聞き覚えのある声がした。

「めっちゃ盛り上がってんじゃん。俺たちも混ぜてくれない? 」

振り返ると、そこには大生とその仲間たちが立っていた。彼らは彼女の弟のもとへ歩み寄っていく。

「君、さくちゃんの弟なの? さくちゃんって可愛いよな。でもさ、君のお姉ちゃん、俺の告白を断ったんだよ。こっちはすっごい勇気を出して伝えたのに、ひどすぎるよな。」

大生が弟に話しかけると、彼女が割って入った。

「何してるの? 弟から離れて。」

「そんなに大声を出さなくたっていいじゃん。ただ、さくちゃんの弟と仲良くなりたかっただけだって。君も俺と仲良くなりたいだろ?

「お姉ちゃんには、もっと素敵な人が似合う。あなたみたいな強引で下品な人とは、僕は仲良くなりたいと思いません。」

弟ははっきりと大生の申し出を断った。すると、大生は大人げなく怒り出した。

「な、何なんだこいつら。兄弟揃って俺を侮辱しやがって。ただと思うなよ。年下だろうが子供だろうが、俺は手加減しねえからな。」

「弟は無関係だ。まだ言いたいことがあるなら、私に面と向かって言え。」

「よくも俺をこんな惨めな気持ちにさせやがって。この体育祭もめちゃくちゃにしてやっからな。全部お前のせいだからな。」

大生の言葉に、彼女はさすがに言葉を失っていた。俺は大生の態度に怒りが爆発した。

「ふざけんじゃねえ。お前の思い通りにならないからって、何をしてもいいと思ってるのか? まず、お前と仲良くなりたいなんて思う奴は一人もいない。分かるか? 喧嘩が強いことしか自慢できない奴に、人が集まるわけないだろ。」

「うるせえな。陰キャは黙ってろよ。それとも、俺と喧嘩でもする気か? 名前は?

名前は何て言うんだよ、お前。」

大生が俺に絡んでくる。それを見た俺は、もう隠すのをやめた。

「俺と喧嘩するの? いいよ。俺ね、相馬そう言うんだけど。聞いたことある? 」

俺の名前を聞き、大生は面白いくらいにフリーズした。

「伝説の番長と呼ばれた男が…この学校に?

絶対嘘だろ。」

最初は信じていなかった大生だったが、学校に数台のバイクが集まってくると、態度が激変した。俺の先輩たちが駆けつけてくれたんだった。

「おう、相馬。久しぶり。お前なんだよ、その見た目。まるで陰キャじゃねえか。伝説の番長はどこに行ったんだよ。」

「先輩、それ以上言うなら、ただじゃ済まなくなりますよ。」

「やっべ、ごめんごめん。あ、そこのヤンキーども。相馬には気をつけろよ。こいつを敵にしたら、平和な生活できなくなるぞ。」

大生と仲間たちは、先輩たちの言葉にビビったのか、すぐに学校を去っていった。俺は大生がまた来るかもしれないと思い、事前に先輩たちに連絡して学校の周りを走ってもらっていたんだ。

「やっぱり相馬は元ヤンキーだったのね。弟を守ってくれてありがとう。」

「実は中学の頃にちょっとだけな。でも今は一切喧嘩もしてないし、変な奴らともつるんでないから、怖がらないで欲しい。」

「怖いわけないじゃん。むしろ尊敬するよ。私と弟を守ってくれたヒーローだしね。」

「相馬さん、とてもかっこよかったです。守ってくれてありがとうございました。」

彼女と弟は、俺のことを怖がるどころか、前よりも信頼してくれているようだった。クラスの人たちも、俺が2人を助けたことで、むしろ褒めてくれた。

その後、体育祭は続行し、組体操も無事に終わった。彼女の組は特訓の成果を発揮し、弟にかっこいい姿を見せられたに違いない。結果は惜しくも2位だったが、1年生としてはかなり良い成績だった。

放課後、教室でみんなで打ち上げをした。みんなが体育祭の思い出を語り合う中、俺は一人静かにその様子を見ていた。まさか自分がこんなに学校生活を楽しむことになるとは思わなかった。

「何日も特訓に付き合ってくれてありがとう。相馬が私のペアで良かった。じゃあ、話を戻すけど…まさか相馬が私に隠し事をしてたなんてね。」

「違うって。番長なんて言ったら、みんな怖がると思ったから。俺は平和で静かな生活が送りたいんだ。」

「ふーん。そうなんだ。でもね、今日でその平和な生活もおしまいよ。あのさ…私、相馬のことが好きなの。付き合ってください。」

突然の告白に、俺は驚きを隠せなかったが、心の底から嬉しかった。

「俺も、さのことが好きだ。よろしくお願いします。」

「よかった。心臓バクバク。緊張した。」

「さでも緊張することあるんだな。」

「当たり前でしょ。大好きな人を目の前にして伝えるんだから。」

彼女は耳まで真っ赤にして顔を背けた。教室のみんなからは、拍手が沸き起こり、カップルの誕生だと囃し立てられた。彼女は嬉しそうに笑っていたが、俺は恥ずかしくてどうしたらいいか分からなかった。

こうして俺たちは交際を始めた。そこから約10年の交際を経て、記念日に彼女にプロポーズした。無事に婚約し、翌年には2人の子供にも恵まれた。まさか、体育祭の組体操のペアが結婚することになるなんて、あの頃の俺には想像もできなかっただろう。

偶然だろうが必然だろうが、俺は彼女と出会えて本当に幸せ者だ。