「司法、今すぐ出て行け。息子夫婦が同居するから部屋が要るんだ」
夫の言葉に、私は一瞬言葉を失った。同居?私はどうなるの?
「決まってるだろう。お前は用済みなんだよ。捨てるんだ。この家にはもう必要ない。寄生中に拒否権はないぞ」
寄生中。その一言が、これまでの人生を全て否定した。朝から晩まで家事に追われ、夫と息子のために尽くしてきた日々が、たった一言で踏みにじられたのだ。
隣では息子の健太と嫁のあずさが、獲物を見つけた獣のような目で私を見下ろしている。
「母さんって本当に惨めだよな。父さんに食わせてもらってるだけの無能が」
「待ってもらえただけありがたく思えよ。犬の方がまだ役に立つぜ」
「専業主婦って言い方変えただけのニートですよね。プライドだけは一人前みたいですけど」
心ない言葉が次々と降り注ぐ。だが不思議なことに、私の心は恐ろしいほど冷静だった。怒りも悲しみも、全てが氷のように固まっていく。なぜなら私は知っている。彼らが思い描く未来が決して訪れないことを。すでに水面下で動いていた計画が、着実に形になっていることを。
「ふうん。そうなのね。分かったわ。お望み通り出ていってあげる」
三人の顔に勝利の笑みが広がる。その愚かな表情を見ながら、私は静かに続けた。
「だけど一つだけ約束して。将来、私に頼るのはなしよ」
「はあ?それこっちのセリフだ。無職無収入のお前が誰に頼るつもりだ?公園のダンボールハウスから泣きついてきても、玄関すら開けないからな」
「あ、そうそう。私たち明日から海外旅行なんです。その間、赤ちゃんの世話はしてもらいますから」
生まれたばかりの孫が私の腕に押し付けられる。小さな命の温もりが、私の決意をさらに固くした。
「命令ですから逆らわないでくださいね。無能な寄生主でも赤ちゃんの世話くらいできるでしょう。でも虐待したら訴えますよ。あなたみたいな人、信用できませんし」
「俺たちが帰ってくるまでに荷物まとめてうせろ。家を汚すなよ。あと旅行中に連絡してきたら即ブロックするからな。邪魔すんじゃねえぞ」
「じゃあね、寄生中の母さん。路上生活頑張れよ。次会う時は土下座して小銭にでも恵んでもらえ」
最後の侮辱を投げつけ、三人は息揃えて出ていった。ドアが閉まる音が、まるで私の人生に幕を下ろすかのように響く。静寂の中、私は孫を抱きながら窓の外を見つめた。青空が皮肉なほど美しい。
見てなさい。あなたたちには必ず責任を取らせる。どんな手を使ってでも、絶対に。私の復讐はもう始まっているのだから。
それから約一ヶ月が過ぎた。新居での生活にも慣れ、穏やかな時間を過ごしていると、ポケットの中でスマホが振動した。ディスプレイに表示された名前は夫の京介。予定通りの展開に、私の口元に冷たい笑みが浮かぶ。通話ボタンを押すと、耳に飛び込んできたのは、普段の傲慢さなど微塵もない、惨めな声だった。
「おい、司法、ふざけんなよ。家が空っぽじゃねえか。家具も家電も全部なくなってるぞ。どういうことだ?」
途中で言葉が途切れた。彼の視線は、私の隣に立つ男性に釘付けになっている。
「え、ど、どういうことですか?なぜ加木さんがうちに?」
自分のためだけの時間を過ごすことの幸せを、改めて噛みしめる日々。そのまま一週間が経過した頃、携帯電話が鳴り始めた。京介からの着信だった。最初は出なかったが、着信は止まらない。留守電にもLINEにもメッセージが溢れていく。二十回目の着信で、私は渋々電話に出た。指が震えるのを感じながら、通話ボタンを押す。
「もしもし」
「やっと出たな。どこにいるんだ?」
「兄の家にいるわ。どうしたの?」



