「俺のパパはヤクザだから無敵。」そう言って、新人の神崎は缶コーヒーを俺の頭からかけてきた。教育担当として真摯に向き合ってきたのに、彼は締め切りも報告も守らない。係長を怒らせ、白紙の報告書を提出し、会社は大混乱に陥った。そして神崎の父親が会社に乗り込んできた日、俺のスマホに見知らぬ番号から着信があった。「岡部さん、覚悟はできていますか?」その声を聞いた瞬間、俺の人生は大きく変わろうとしていた─…

「俺のパパはヤクザだから無敵。」そう言って、新人の神崎は缶コーヒーを俺の頭からかけてきた。教育担当として真摯に向き合ってきたのに、彼は締め切りも報告も守らない。係長を怒らせ、白紙の報告書を提出し、会社は大混乱に陥った。そして神崎の父親が会社に乗り込んできた日、俺のスマホに見知らぬ番号から着信があった。「岡部さん、覚悟はできていますか?」その声を聞いた瞬間、俺の人生は大きく変わろうとしていた─...

「本当に話の分からない野郎だな。」

そう言って神崎はニヤリと笑い、手に持っていた缶コーヒーを俺の頭の上からかけてきた。中身はまだ熱く、俺は思わず声を上げてしまった。

「俺のパパはヤクザだから無敵。だから息子の俺も無敵ってことなんだよ。」

俺の反応に気分を良くしたらしい神崎は、そう言って笑っている。どうしてそういうことになるのか理解不能だが、俺はこれ以上怒りを抑えることができなかった。彼がそういう考えなら、同じ土俵に立ってやろうではないか。

この後、神崎が自分の言動のせいで地獄に突き落とされることになろうとは、思っても見なかっただろう。

俺の名前は岡部新太郎。ある企業に務める会社員だ。大学を卒業してからこの会社に入り、もうすぐ4年になる。仕事にもだいぶ慣れてきて、今は新人教育を任される立場になった。

一口に新人と言っても、いろんな者がいる。最初から何でもそつなくこなせる者、真面目に努力する者、学生気分がまだ抜けず責任感がない者など、本当に様々だ。だが、どんな人間も根気よく接していけば、必ず社会人として成長してくれるものだと俺は思っている。だから教育担当に任命された時、俺はどんな人間にも決して諦めずに真摯に向き合っていこうと決めたのだ。

しかし、そんな俺が今、手を焼いている新人が一人いる。彼の名前は神崎ミノ。入社当初から態度がデカく、同期からも上司からも煙たがられていた。当の本人はそんなこと全く気にならないのか、誰が注意しても直そうとしない。仕事はできないわけではないのだが、やる気はないようで、こちらが指示した仕事以外は何もやろうとしない。

俺が毎日頭を悩ませていたある日のこと、係長が神崎のデスクの方へ歩いていくのが見えた。

「神崎君、頼んでいた資料の締め切り、先週だったはずなんだけど、もう終わっているのかな?」

「ああ、それなら今日にはできるんで、後で出しときますよ。」

神崎の悪びれもしない答えに、係長は眉を潜めた。

「さっき仕事を頼んだ時にも言ったが、締め切りは先週だったんだけどな。」

「だって俺、先週は親戚の結婚式で休んでたんで、できるわけないじゃないですか。」

「そういう時は、締め切りに遅れることを先に報告するのが当たり前だろう。」

「そんなの言わなくても分かるじゃないっすか。」

係長は怒りながらも強く提出するようにと言って、その場を後にした。その様子をヒヤヒヤした気持ちで見ていた俺は、神崎のデスクへと向かった。

「神崎君、係長を怒らせたらダメだろう。締め切りに遅れる時は事前に報告するようにって、前から教えていなかったっけ?」

「そんないちいち言わなくても、結婚式で仕事休んでたんだから分かるじゃないですか。」

「そうだとしても、自分が頼まれた仕事は責任を持って取り組むのが会社員として当たり前のことだよ。」

俺が頭を抱えながら神崎を諭すと、神崎は納得いかないといった様子で俺の話を無視して、自分のパソコンのキーボードを叩き始めた。俺はため息をつきながら自分のデスクへと戻った。このようなことが日に1回はあるのだから、本当にどうしたらいいのかと思ってしまう。

神崎はその後も黙々とキーボードを叩き続け、定時になるとパソコンの電源を落として帰り支度を始めた。俺は慌てて声をかける。

「神崎君、係長に頼まれていた資料はもうできたのかい?」

「うん、大体終わったからね。どうした?」

「締め切りは先週だったんだ。今日中に必ず出すんだよ。」

「分かってるって。そんなに心配なら、俺がちゃんとやるからさ。」

神崎は適当に返事をすると、そのまま会社を出て行った。俺は不安な気持ちを抱えながらも、翌日出勤して神崎のデスクを確認した。

そこには、係長に提出されたはずの資料が置かれたままだった。

係長に確認すると、神崎からはまだ何も提出されていないという。俺は急いで神崎に連絡を取ろうとしたが、電話は繋がらない。メールも既読にならない。

その日の夕方、係長が神崎のデスクに置かれた資料を見つけた。表紙には「第3四半期売上報告書」と書かれている。中を開いてみると、中身は白紙だった。

係長の顔色が変わった。すぐに神崎の上司である部長に報告が上がり、事態は大きくなっていった。

後日、調査が行われた結果、神崎が提出したはずの報告書が白紙だったこと、それ以前にも納期を守らなかったことが複数回あったこと、さらには会社の備品を私的に使用していた事実まで発覚した。

神崎は人事部に呼び出され、厳重注意処分を受けることになった。だが、神崎は反省する様子もなく、「パパに言ってやる」と口にしたという。それがさらなる火種となった。

その翌週、神崎の父親が会社に乗り込んできた。スーツ姿だが、一目で普通の人ではないと分かる雰囲気だった。神崎の父は部長と面談し、息子への処分を取り下げるよう要求したという。部長は断ったが、神崎の父は「覚えておけよ」とだけ言い残して帰っていった。

その日を境に、会社の様子がおかしくなった。取引先からの契約が次々と打ち切られ、社内では不穏な空気が流れ始めた。どうやら神崎の父親が裏で手を回しているらしいという噂が広がった。俺はその噂を聞きながら、自分の選択が会社を危険に晒しているのではないかと、初めて恐怖を感じた。

だが、もう後の祭りだった。神崎の父親の力は、会社の予想をはるかに超えていた。俺は自分の決断が招いた結果を、静かに受け入れるしかなかった。毎日が疑心暗鬼の連続で、自分がいつ何をされるか分からない恐怖に苛まれる日々。

そんなある日、帰宅しようとした俺のスマホに、見知らぬ番号から着信があった。出ると、低い声の男が言った。

「岡部新太郎さんですね。神崎の件、覚悟はできていますか?」

その言葉を聞いた瞬間、俺の全身から血の気が引いていった。この先、自分の身に何が起こるのか。俺はそれ以上考えることができなかった。

それ以来、俺は日々を怯えながら過ごしている。会社は一応回っているが、神崎の存在がいつまた何かを引き起こすか分からない。そしてあの神崎が、自分の言動のせいで地獄に突き落とされることになろうとは、思っても見なかっただろう、という言葉の意味を俺は今、噛み締めている。

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