部長は私が作ったレジメを「中卒の書類はゴミ同然」と捨てた。 その時は黙ってシュレッダーにかけたけど、心の中では確信してた。 「この人、絶対にこの資料を後悔する。」 そして一ヶ月後、その資料が原因で部長のキャリアは終わった。 私は何も言わなかった。ただ、作るべきものを作っただけ。 でも、彼女が気づいたときには、もう手遅れだった。 中卒の私がエリート部長より一枚上手だったと知った瞬間、…

部長は私が作ったレジメを「中卒の書類はゴミ同然」と捨てた。 その時は黙ってシュレッダーにかけたけど、心の中では確信してた。 「この人、絶対にこの資料を後悔する。」 そして一ヶ月後、その資料が原因で部長のキャリアは終わった。 私は何も言わなかった。ただ、作るべきものを作っただけ。 でも、彼女が気づいたときには、もう手遅れだった。 中卒の私がエリート部長より一枚上手だったと知った瞬間、...

北田部長は、データ会議用のレジメをまとめてほしいと言いながら、USBメモリーを机の上に投げた。
「今日の14時の会議に間に合わせてくれるかしらね。」
せをバリと食べながら、彼女はそう言った。

俺が「レジメが仕上がりましたので、会議室へお持ちしますね」と伝えると、北田部長は鼻で笑った。
「何言ってんの?中卒のくせに、仕事をやった気になってるの?」
「中卒が作った書類はゴミ同然って知らなかった?捨ててくれる?」
「レジメなら私がちゃんと作っているから。」
ああ、この人は敵だと、俺は確信した。

俺は北田部長の目の前でシュレッダーを稼働させ、30部のレジメを全て裁断した。
北田部長は気持ちよさそうに笑い、俺の姿を眺めている。

俺の名は東沢高一。地方の広告代理店で総務部に勤めている。
テレビやラジオのCM制作、地元企業へのフリーペーパー広告の営業を手がける会社だ。
俺はバックオフィス担当で、社員寮用のワンルームマンションの手配から、顧客からの依頼を対応部署へ引き継ぐ仕事まで、何でもこなしてきた。
書類のコピーや設備の整備も、俺の仕事だ。
いつでも呼ばれれば、その部署へ飛んでいく。
「東沢君、専用の車内PHSを持ってよ。いつに行っても捕まらないんだもの。」
企画部長の西野に皮肉を言われるほど、俺はデスクにいない。
でも、西野部長の頼み事のほとんどは、企画部で処理できることだった。

そんな中、年2回の人事移動の時期がやってきた。
前任の総務部長が病気で長期休職に入り、新しい総務部長として北田さんが着任したのだ。
北田部長は、うちの会社では数少ない女性管理職で、最年少で部長に昇進したエリートだ。
42歳独身だと噂で聞いたが、若々しく、立ち姿の美しい女性だった。
これまで地元テレビ局に出向していたが、本社に戻ってきたのだ。

着任早々、北田部長は総務部の壁に「総務部所」と書かれた貼り紙を掲げた。
「私がこの総務部に来たからには、私のやり方に従ってもらいます。」
「総務部長が言うことには絶対服従。遅刻禁止、残業上等。口答えは罰金。居眠りはスクワット300回。」
昭和の体育会系ノリだ。
時代にこれをやったら、パワハラだと言われるぞ。
俺は不平を口にしなかったが、他の連中も同じことを考えていただろう。
聞くところによると、北田部長はテレビ局に出向していた頃、ディレクター連中と毎日飲み歩き、周りのおじさんたちにちやほやされていたらしい。
「テレビ局での仕事が天職だ」と思い込んでいたが、本社に戻されてデスクワークをしなければならなくなった。
「ここで仕事ができなくなるなら、会社をやめます」と言ったとか言わないとか。
でも、やめていないということは、会社が何か条件を出して出向を終わらせたか、彼女自身が転職に失敗したか、どちらかだろう。

「ちょっとそこ、コーヒーくらい出しなさいよ。」
北田部長は、デスクにいる後輩の女性社員に向かって叫んだ。
彼女は慌てて立ち上がり、給湯室へ走った。
コーヒーを差し出すと、北田部長はカップを一瞥し、
「こんな薄いコーヒー、飲めると思ってるの?」
と言って、そのまま捨てた。
後輩は何も言えず、うつむいて自分の席に戻った。

次の日、北田部長は俺を呼びつけた。
「東沢君、この資料を10時までにコピーして、会議室に置いておいて。」
「かしこまりました。」
俺は指示通りコピーを済ませ、会議室のテーブルに並べた。
10時になり、北田部長が会議室に入っていった。
しばらくすると、中から怒鳴り声が聞こえてきた。
「誰だ、こんな資料を並べたのは!」
俺のコピーした資料は、間違った順番で並んでいたらしい。
北田部長は会議室から出てきて、俺を見つけた瞬間、
「中卒はやっぱり使えないわね。」
と吐き捨てた。
俺は謝ったが、彼女は聞く耳を持たなかった。

その日の午後、俺は総務部のデスクで書類を整理していた。
そこへ、北田部長がやってきて、俺の机の上に書類の束を置いた。
「これ、全部シュレッダーにかけて。終わったら報告して。」
俺は書類の束を確認した。
そこには、北田部長が作ったレジメの原稿が含まれていた。
俺は何も言わず、シュレッダーのスイッチを入れた。
書類が一枚ずつ裁断されていく。
北田部長は満足そうに笑って、自分の部屋へ戻っていった。

一週間後、会社で大きな発表があった。
来月から、この支社は閉鎖され、本社に統合されることが決まったのだ。
総務部の仕事は本社に引き継がれる。
つまり、俺たち総務部の人間は、全員クビになる。
社内は騒然とした。
北田部長は、顔を真っ赤にして、経理部長に詰め寄った。
「こんな話、聞いてないわよ!」
経理部長は冷静に答えた。
「先月の本社との会議で決まったことです。あなたも出席していたはずですが。」
北田部長の顔色が一瞬で青ざめた。
俺はその時、ようやく思い出した。
先月、北田部長が俺に「会議の資料をまとめておいて」と頼んできたことがあった。
俺は資料をまとめたが、北田部長はそれを確認せず、会議に持っていった。
その資料には、支社統合の議題が含まれていたのだ。
北田部長は、その重要事項を読み飛ばしていた。

「あなた、知ってたの?」
北田部長が俺を睨みつけた。
「いいえ。私は言われた通りに資料をまとめただけです。」
俺は知らぬ顔で答えた。
北田部長は歯ぎしりしながら、自分の席に戻っていった。

その夜、俺は支社の最終勤務日まで、静かに仕事を続けた。
北田部長の態度は、少しだけ柔らかくなっていた。
だが、それはもう手遅れだった。
支社の閉鎖が決まった以上、俺たちの仕事はあと一ヶ月で終わる。
北田部長は、本社への異動を打診されたが、断ったという。
「ここで失敗した以上、戻る資格はない。」
そう言ったらしい。

最終勤務日、俺はデスクの荷物をまとめた。
北田部長も、同じタイミングで支社を去る。
彼女は、自分の段ボール箱を抱えて、エレベーターへ向かうところだった。
俺は彼女に一言、声をかけた。
「お疲れ様でした。」
北田部長は、一瞬だけ立ち止まり、
「…あなたもね。」
そう言って、エレベーターに乗り込んだ。
ドアが閉まる瞬間、彼女の目は少し潤んでいたように見えた。

俺は、自分が作ったレジメのコピーを一枚、バッグにしまった。
それは、北田部長が「ゴミ同然」と捨てた、あの資料の一部だった。
俺はそれを、次の職場で使うかもしれない。
中卒の俺が、彼女より一枚も二枚も上手だったかもしれない。
そう思ったら、少しだけ気分が良かった。

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