妹が上場企業の内定式に行ったのは、午前中の早い時間だった。俺が身長を合わせてやったスーツをきっちり着こなし、自信に満ちた笑顔で家を出たのは、つい一時間前のことだ。その姿を見送りながら、俺は胸を張る気持ちだった。中卒のレッテルを物ともせず、実力で掴み取った内定。妹は独学で国家資格を取り、学歴不問を掲げるあの会社に挑戦して勝ち取ったのだ。これからは何も心配いらない。そう思っていた。
ところが、一時間も経たないうちに玄関のドアが開いた。戻ってきたのは、出ていく時とは別人のように暗い表情をした妹だった。俺の心臓が一気に冷える。何があったのかと問い詰めると、彼女は俯いたまま、絞り出すような声で言った。
「低学歴は入室禁止だって。受付で入れてもらえなかった」
一瞬、意味が理解できなかった。内定式に参加するために会社へ向かったはずなのに、入室すら許されなかったという。俺は怒りで頭に血が上るのを感じた。そんな馬鹿な話があるはずがない。確認のため電話を入れようとしたが、妹の話でさらに事態は悪化した。対応したのは人事部長の金子という女で、彼女は妹に向かって、内定は実質無効だと言い放ったらしい。「あなたみたいな中卒が内定をもらったことなんて、うちでは前例がないの」と、嘲笑うように言ったというのだ。妹の期待はその一言で粉々に砕け散り、不安と屈辱で震えていた。
俺は震える手で電話を握りしめた。妹をここまで頑張らせたのは、両親を失った後に俺たちを育ててくれた祖母と、家計を支えるために学校を諦めた自分自身の選択だ。俺は妹にだけは普通の生活を送らせてやりたかった。そのために、俺は夜間の定時制高校に通いながら、昼間は工事現場で働いてきた。妹もそんな俺の負担を思って、高校には行かず独学を選んだ。それでも彼女は才能を開花させ、俺たち兄妹はようやく光が見えたと思ったのに。この会社は、その努力を無駄にしたのだ。
俺は電話をかけるべく、受話器を握り直した。怒りと悲しみで感情はぐちゃぐちゃだったが、はっきりしていることが一つだけある。俺はこの会社に、妹にしてくれた仕打ちを必ず思い知らせるつもりだった。



