夫が突然、義両親を連れて私の実家に現れ、「今日からここに住むから、お前と父さんは出て行け」と言い放った。私は呆然とした。父は病気を乗り越え、やっと手に入れたバリアフリーの家。なのに、なぜ私たちが追い出されなければならないのか。義母は「嫁のものは夫のものでしょ」と笑い、夫は勝ち誇っていた。しかし、その時、父が私にそっと囁いた言葉に、私は全てを悟った。彼らは自分たちが何に足を踏み入れたのか、まっ…

夫が突然、義両親を連れて私の実家に現れ、「今日からここに住むから、お前と父さんは出て行け」と言い放った。私は呆然とした。父は病気を乗り越え、やっと手に入れたバリアフリーの家。なのに、なぜ私たちが追い出されなければならないのか。義母は「嫁のものは夫のものでしょ」と笑い、夫は勝ち誇っていた。しかし、その時、父が私にそっと囁いた言葉に、私は全てを悟った。彼らは自分たちが何に足を踏み入れたのか、まっ...

実家のバリアフリー工事が終わった直後、玄関のチャイムが鳴った。扉を開けると、別居中の夫・啓介がふんぞり返って立ち、その後ろには義母と義父が並んでいた。

「今日から俺の両親をここに住ませるから、お前とお父さんは出て行けよ。」

啓介は勝ち誇った笑みを浮かべ、当然のように言い放った。義母も続く。

「そうよ。妻のものは夫のものでもあるんだから、この家は啓介のものよ。」

私は目の前が真っ白になった。父は病を経てようやく回復し、これから穏やかに暮らそうと話し合い、家をバリアフリーにしたばかりだ。なのに、なぜ私たちが追い出されなければならないのか。

「ひどいわ。嫁なんだから当然でしょ。」

義母と啓介は鼻で笑った。そんな中、父だけが冷静だった。

「いいんだ、ゆりか。お前は嫁なんだから、あちらの家族の言うことを聞くもんだぞ。」

父は柔らかな声で私の肩に手を置いた。

「お父様、さすが分かっていらっしゃるじゃない。」

義母が満足そうに微笑む。

「そんな、お父さん…」

私が戸惑うと、父はそっと耳打ちした。

「どうせこの家はな…」

その一言に私は耳を疑った。実は、この家には誰も知らない秘密があったのだ。

これから自分たちの身に振りかかる運命を知らずに、夫と義父母は満足げにニヤニヤと笑い続けていた。

私は王野ゆりか。大手IT企業で管理職を務め、収入は高く、同世代の男性社員をもしのぐ。一方、夫の啓介は営業職と名乗りながら、給与をほとんど家に入れず、飲み代や趣味で浪費していた。そのため、家計の大半は私の収入で成り立っている。

「妻が得たものや稼いだ金は、当然夫のものでもあるからな。」

啓介はこのような傲慢な価値観を当然のように口にした。それは、義両親の美代子と富明が長年息子に植えつけてきた思想だった。

私が意見すれば、義母と義父は面白くなさそうにこう言う。

「最近の女は口が立つね。嫁のくせに主張が強い。」

そして二人は眉をひそめた。実家では、私は「生意気な嫁」と呼ばれ、嫌われてしまう。特に義母は、息子の嫁が自分より高収入であることを快く思っていない。

断るたびに「孫のため」「老後のため」と私に金をせびった。義母は服もバッグも派手な色彩と装飾を好み、その美的感覚は上品さを欠いていた。

ある日、義母が私たちの家を訪れた。

「この部屋、地味ね。地味すぎて悪い気が漂っているから、もっと華やかにしないと。」

そう言うと、壁紙や家具を自分の趣味で統一するよう命じた。啓介は母の意見に逆らわない。それどころか、こんなことを言うのだ。

「母さんのセンスは最高だよ。」

家の中は、いつの間にか義母の悪趣味なインテリアで埋め尽くされ、私の安らげる空間ではなくなっていた。高収入であるがゆえに、私は家族の遺恨と支配の的となっていったのだ。

ある朝、私のスマートフォンが激しく鳴った。画面には母の文字。

「お父さんが急に倒れたの。」

不安そうな母の声だ。私は勤務先の会議を途中で抜け、救急病院へ駆けつけた。

白髪交じりの父はベッドの上で酸素マスクをつけ、辛そうに目を閉じていた。

「お父さん…」

「大丈夫だ。ちょっと目まいがしただけだ。」

幸い会話はできるようだ。診断は軽い脳梗塞で、数日間の入院で済むという。それでも私は会社に休みを申請し、母と交代で看病に通った。父のことが心配だったからだ。

少しの間、病院と実家を往復する日々を送る。だが、その数日後、義実家から電話が入った。発信者は義母・美代子だ。

「ちょっと、あんた。嫁が何日も家を開けるだなんて、どういうつもり?主婦としての自覚が足りないんじゃないの?」

もしかすると義母は事情を知らないのかもしれない。そう考えた私は理由を説明した。

「申し訳ありません。父が倒れまして、今は入院中なんです。」

「だから何?誰が啓介のご飯を用意するのよ。息子がかわいそうだわ。嫁の義務を忘れないでよね。」

電話口からは義父の低い声も聞こえる。

「全く、働いてるからと言って家庭をないがしろにするとはな。昔の女はな、夫を立てて家を守るのが当たり前だったんだ。」

私は何度も謝ったが、胸の奥には悲しい気持ちが溢れていた。なぜ誰も病床の父のことを心配してくれないのだろうか。そして、家にも帰らずに看病を続ける私を気遣ってくれないのだろうか。

しばらくして、父は無事に回復し退院した。退院祝いの席で、父は笑いながら言う。

「今回の件で俺も年を感じたよ。今後のことを考えて、思い切って家をバリアフリー化しようと思うんだ。」

母も頷いた。

「そうね。これを機に安心できる家にしましょう。」

私はその言葉に安堵を覚える。父の前向きな決断が、久しぶりに家族を明るくしたのだ。

ところが、家の工事が進む中でも啓介は変わらなかった。

「お前さ、最近俺の母さんに冷たいよな。」

「そんなことないわよ。」

だが正直なところ、父の看病に理解を示してもらえないことで、義母との関わりを避けている部分はあった。

「ただ、お母さんと少し距離を置きたいだけなの。」

夫にも理解してほしいと考え、私は正直な気持ちを打ち明ける。だが、私の言葉は啓介の機嫌を損ねてしまったようだ。

「はっ、金は出してやるけど口は出すなってか。偉そうに。」

啓介の怒りの矛先は常に私の経済力にある。自分より稼ぐ妻を、彼は心の底で受け入れられないでいたのだ。

夫は自分の味方になってくれないと悟り、私はため息をつく。

そんな折、私は退院祝いと両親の結婚記念日を兼ね、高級レストランのペアディナー券を送ることにした。

「お父さんとお母さんに、たまには二人で外出してもらおう。」

そう考えた私はディナー券を用意し、自分の机の上に置いておく。しかし、その週末、帰宅した私の目に飛び込んできたのは義母の笑顔だった。

「このチケット、ありがとうね。啓介が私たちにくれたのよ。」

義母が手にしていたのは、まさに私が両親に渡そうと用意したチケットではないか。

啓介が得意気に言う。

「お前、うちの両親にも感謝の気持ちくらい見せろよな。俺が代わりにプレゼントしたんだ。」

「それ、私が自分のお父さんとお母さんに渡そうと思ってたの。」

私が悲しそうに言うと、啓介は反論する。

「はっ、そんなもん誰に渡そうが俺の勝手だろ。夫婦の財産は共有なんだよ。」

義母が笑いながら口を挟んだ。

「でも、もう私たちがもらっちゃったから。それに、あんた、嫁のくせに金の出所を偉そうに言うもんじゃないわよ。」

「そうだ、そうだ。」

義父も加わる。

「昔の女はな、黙って夫に従ったもんだ。最近の女は小賢しい。」

義家族に一斉に攻められ、私の手が震えた。

「あなたたち、それは本気で言ってるの?」

悔しさと悲しさに震える私の気持ちも知らずに、義母はさらに私を責める。

「本当に生意気な嫁だね。うちの家に来てから、口ばっかり達者になっちゃって。」

結局、私は両親のために用意したチケットを取られてしまい、おまけに文句を言われて終わった。

その夜、私は耐え切れずに啓介を責める。

「あなた、私が生活費のほとんどを払ってるのに、どうして義両親ばかり優先するの?」

「うるせえな。金のことばっか言いやがって。お前のそういうところがむかつくんだよ。」

啓介はテーブルを叩きつけた。

「俺は別居する。お前なんかに指図されるくらいなら、一人で暮らす。」

そう吐き捨て、ドアを乱暴に閉めて出て行ってしまった。

私は一人ため息をつく。どうやら啓介は義実家にいるようだ。そのため、私も自分の実家へ行くことにした。

数日後、実家のバリアフリー化工事が無事に完了する。私はようやく落ち着いた気持ちで実家を訪ね、清潔な廊下と新しい手すりに目を細めた。

「綺麗になったね。」

「そうだろう。これでしばらく安心だ。」

父の笑顔に、私もようやく心が和んだ。

しかし、穏やかな日々は長く続かない。ある土曜の午後、私が実家で過ごしていると玄関のチャイムが鳴った。扉を開けると、別居中の啓介がいる。その背後には義母と義父が立っていた。

「何の用?」

啓介は鼻で笑った。

「俺たち、ここで暮らすから。」

啓介は続ける。

「俺と両親でこの家に住むから。もう決めたんだ。」

「勝手にそんなこと…」

そこに義母が割って入ってきた。

「あんたの父親から聞いたわよ。もう工事も終わったんでしょ。広くて綺麗な家なんだから、みんなで住ませてもらうわ。」

「そんな勝手に…」

義父が冷たく言った。

「何が勝手だ?昔から決まっていることだが、嫁のものは夫のものでもあるだろう。俺たち、自分の家はもう処分したんだ。」

「え、処分?」

彼らは先走って、自分たちが住んでいた家の処分の手続きを完了したらしい。

「そうよ。啓介が言ったのよ。ここに住めばいいじゃないかってね。だから売ったのよ。文句ある?」

啓介はふんぞり返って腕を組んでいる。

「そういうわけだから、あんたら親子はさっさと出ていくんだ。」

そう言い放った。

「嫁のものは夫のものだからな。」

私は呆然としてしまう。

「どういうこと?お父さん…」

助けを求めるように父の方を見た。黙っていた父は静かに立ち上がり、三人を見据える。

「そうですか。お好きにどうぞ。」

「父さん、そんな…」

思わず叫ぶと、父は穏やかに私の肩を叩いた。

「大丈夫だ、ゆりか。」

父は小さく微笑み、耳元で囁いた。

「だって、この家は…」

父の言葉を聞き、私は目を見開く。義両親と啓介はその意味をまだ理解していなかった。

三人に聞こえるように、父はわざと大きな声で言う。

「お前は嫁なんだから、あちらの家族の言う通りにしないとな。」

「あら、お父様は分かっていらっしゃるじゃないの?」

母は何も知らずに父の言葉を聞いて満足げな顔をしていた。私と父は互いにそっと顔を見合わせる。

「ただ、準備の関係があるので、少しだけ時間をください。」

その言葉に義家族は一度退散した。

あの時、父が私に囁いた内容はこうだ。父はリフォーム直前から、実家を不動産投資会社にリースバック形式で売却する計画を進めていた。そのため、実家はすでに不動産投資会社の所有物件となり、父は賃貸契約で居住している状況だったのだ。

翌朝、私の携帯に父からメッセージが届く。

「旅行券、準備できたよ。彼らへのサプライズプレゼントだ。」

添付されていたのは、ハワイの往復チケットの写真だった。

「俺は福引きで当たったことにしておこうか。俺は体が良くないから海外旅行は辞退して、そちらのご家族に行ってもらうということで話を進めるのはどうだ?」

「オッケー。」

そして計画通り、父がハワイ旅行のチケットを手渡す。チケットを手に、啓介は嬉しそうだ。

「お父さん、これ、ハワイ旅行のチケット。ゆり香の父さんが福引きで当たったんだってさ。俺たち、日頃の行いがいいんだよ。」

「まあ、嬉しい。ゆり香かさんはどうせ行けないんでしょ。仕事が忙しくて休みが取れないんだから。」

義母が鼻で笑い、義父も満足に頷いた。

「ちょうどチケットは三人分だしな。」

「息子がしっかりしてると、福も回ってくるもんだ。」

「そして、ハワイ旅行から戻ったら、新居での生活がスタートするのよね。」

三人は何も知らずに浮かれたまま、成田空港へ向かった。

啓介たちは青い空の下でハワイを満喫する。一方、その頃、父は静かに不動産会社へ連絡を入れた。

「本日を持って、賃貸契約の解除と鍵の引き渡しをお願いします。」

担当者の鈴木という男は淡々と答えた。

「確かに確認しました。これで物件の明け渡しは完了です。小賀様、ご対応ありがとうございました。」

そして数日後、ハワイから帰国した啓介たちは、まさか自分たちの家が別人の所有になっているとは夢にも思っていない。

「さあ、今日から新しい暮らしが始まるわよ。」

そう言いながらドアに鍵を差し込んでも、鍵は回らなかった。

「何これ?鍵が変わってるじゃない。」

玄関のドアノブをガチャガチャ揺らしながら義母が怒鳴る。

「親父、鍵を貸してみろ。おかしいな。ちゃんと入るはずなんだが。」

そう言いながら義父が古びた鍵を差し込み、無理やり力を入れると、ガチャンと音を立てて鍵が壊れた。啓介は得意げに笑う。

「よし、開いた。なんだよ、驚かせやがって。」

彼らは堂々と靴を脱ぎ捨て、ハワイ旅行の大荷物を家に入れる。

「新しい家はいいわね。でも、ちょっと地味だわ。」

派手好きな義母は家の中を見渡した。さらに外にも回り込み、壁や屋根をチェックする。

「ねえ、この家の壁紙、地味すぎない?せっかくだし、派手にしましょうよ。金で統一したら絶対映えるわ。」

義父はそれを聞いて笑う。

「もう自由にやればいい。どうせあの女の親父も文句言わんだろう。」

その夜から、義母たちによる暴走リフォームが始まった。義母は近所のリフォーム業者を呼びつけ、そして命令する。

「すぐに実施して。母の趣味により、ビビッドな壁はシンク。玄関ドアは金色。屋根にはピンクの塗装が施された。」

「どう?まるで海外の別荘みたいでしょ?幸運も舞い込みそうでしょ。」

「最高だよ、母さん。写真撮っと。」

「ほうほう。若者らしくていいなあ。」

義父も得意げに笑った。だが、近所の住民たちは軽蔑の表情で啓介たちの家を眺める。

工事のトラックが朝早くから止まり、電動ドリルの音が鳴り響いた。そして完成した外観は、金色の門に真っ赤な外壁、ピンクの屋根に青い窓枠。それはまるで絵本から飛び出した悪夢のような家だった。

数日も経たないうちに、周辺から不動産会社への苦情が殺到する。

「景観を壊している。」

「誰が住んでるのか怖い。」

「あの趣味は普通の人間じゃない。」

住民の声を受けて、不動産会社は疑問に思った。担当の鈴木は不思議そうにつぶやく。

「あそこは、誰も住んでいないはずだが。」

そして鈴木は現地確認に向かった。スーツ姿で門前に立ち、チャイムを押す。

「はい。どうなった?」

扉を開けたのは義母だった。ド派手な紫の服に金のイヤリングが揺れる。

「不動産の鈴木と申します。こちらの物件の現況確認に参りました。」

「不動産?何それ?営業なら間に合ってるわよ。」

そう言うと義母は営業を追い出そうとした。

「営業ではございません。こちらは当社の管理物件ですので。」

「はあ?ここはうちの家よ。」

反抗する義母に、鈴木は淡々と伝える。

「当物件の所有者は弊社ですが、ご入居の契約書を拝見できますか?」

声を聞きつけた啓介が奥から出てきた。

「契約書?そんなもんねえよ。ここは妻の実家だ。俺たちは家族だぞ。」

「失礼ですが、現在の契約者は小賀様ではなく弊社となっております。無断居住は不法占拠に該当します。」

「ふっ、不法?何?」

富明が立ち上がり、声をあげた。

「おい、なんだその言い草は?俺たちがここで暮らして何が悪い?」

二人は鈴木に詰め寄る。だが鈴木は冷静に対処した。

「本件はすでに近隣から苦情が多数寄せられています。加えて、無断改築も確認しております。」

「改築って、リフォームのこと?あれは善意なのよ。あまりに地味な家だったから。」

悪びれもせずに義母が言った。

「家を綺麗にして何が悪いのよ。」

「弊社の資産価値を著しく損ねております。」

「ちっ、あんたセンスないのね。これが映えるってやつよ。」

これ以上話しても無駄だと思ったのか、鈴木は軽く頭を下げる。

「後日、正式に書面をお送りします。」

とだけ告げて立ち去った。

翌日、ポストに届いた内容を見た啓介の顔は真っ青になる。

「不法占拠及び無断改築により、即時退去並びに損害賠償、現状回復費用を請求いたします。」

「な、なんだこれは?訴えるって書いてあるぞ。」

義母は髪を掴みつぶし、顔を真っ赤にした。

「詐欺よ。あの男が最初から仕組んでたのよ。嫁の実家だからって調子に乗って。」

義父がため息をつく。

「おい、啓介、どうするんだ?もう俺たちの家も売っちまったんだぞ。」

「だからって、ここから出て行けって?ふざけるな。」

しかし、どうすることもできず、結局三人は退去命令を受け、泣く泣く荷物をまとめた。不動産会社から委託を受けた業者が現場に入り、現状の回復を始める。義母の趣味である派手な外壁の一部が剥がれ落ち、金色のフェンスが撤去されていった。

「ちょっと、勝手に壊さないで。」

義母が悲鳴のような声で叫ぶ。

「こちらが元の状態ですので。」

そう言うと作業員は淡々と作業を続けた。義母は泣き叫び、啓介は唸る。その様子を見て、近隣の人々が顔を見合わせ、小声で囁き合った。

「あの人たち、勝手に住んでたんですって。」

「なんだ、ホームレスか。通りで変な色の家だと思ったわ。」

啓介たちは結局、投資会社との訴訟を恐れて即座に退去した。

彼らは行く当てもなくスーツケースを抱え、タクシーで向かった先は私のマンションだ。夜八時、インターホンが鳴り、私がドアを開けると啓介が立っていた。義父と義母の姿もある。三人とも顔を真っ赤にしていた。

「どういうことだよ。」

啓介が怒鳴った。

「お前の親父、俺たちを騙したんだ。勝手に家を売って、俺らを追い出したんだぞ。あんたもグルだったんでしょ?」

みんなが口をまくし立てる。

「ゆりかさん、あんたって人は冷たいね。嫁が義を騙すなんて聞いたことないぞ。」

しかし、私は無表情で彼らを見つめた。

「まさか知らなかったの?あの家はもう父さんの家じゃないのよ。登記を確認してご覧なさい。」

「知らなかったって当たり前だろ。なんで俺が自分の住む家の登記なんて調べなきゃならねえんだ。」

「早い話が、あなたたちは他人の家に住んでたのよ。」

私は説明を始めた。

「お父さんはリースバックの契約を結んでいたの。つまり、あなたたちが入った時点で不法占拠なのよ。工事だって全部違法。」

「うるせえ。そんな難しい話をされたって知らねえよ。」

義母が腕を組みながら睨む。

「どうせあんたが仕組んだんでしょ。ハワイに行かせてる間に全部乗っ取ったんだわ。」

「面白い解釈ね。」

私は冷静に言った。

「でも、法律はあなたたちの味方じゃないわ。」

その言葉に沈黙が流れる。

「もし法廷で戦えば、どんな結末になるのかしらね。」

啓介は拳を握りしめたが、法律という言葉に何も言い返せなかった。気まずそうに、啓介たちはとりあえず退散する。

だが、その翌朝、マンションのインターホンが鳴り続け、私は眉をひそめた。

「もうこんな時間から、誰よ。」

扉を開けると、またしても啓介の姿がある。そして、その背後には義父と義母が並び、不気味に立っていた。

「おい、昨日の話の続きだ。」

啓介は偉そうに腕を組んだまま、ずかずかと上がり込む。義母は相変わらずの服装で、今回は強烈な赤のワンピースに金のバッグを抱え、息を荒くして続いた。

「ゆりかさん、昨夜は取り乱しちゃったけど、私、あれから冷静に考えたのよ。やっぱりあんたが悪いわ。」

「そうだな。」

義父も頷く。

「嫁が余計な知恵をつけたから、俺たちは家を失った。」

私は静かにテーブルへ湯呑みを並べた。そして淡々と言う。

「どうぞ、話すなら座ってください。」

三人は私の言葉通り腰を下ろし、揃って私を睨みつけた。

「昨日言ったこと、覚えてるわよね。私たちは家を追い出された。全部、あんたが父親とグルになって仕組んだことでしょ。」

「そうだ。だから慰謝料を払ってもらうぞ。」

啓介が不敵に笑った。

「不法占拠だなんて難しい言葉で脅して、俺たちを落とし入れたんだ。訴えてやる。」

「そうよ。家の改築だって善意でやったのに。」

その言葉に、私は思わず小さく笑う。

「善意?あれが?そうよ。あの赤い壁にピンクの屋根。見るだけで元気になれるでしょ。おまけに幸運が舞い込むような色合いよ。あれの良さが分からないなんて、センスがないのよ。」

続けて啓介は自信ありげに言った。

「それに、あれは本当は俺の家でもある。ゆりの実家なんだから、俺が住んで当然だろ。」

「当然よね。」

義母が啓介に同調する。

「嫁の家は息子の家。常識でしょ。」

彼らはまるで、世界中が自分たちに味方すべきだと信じて疑わない。

「ゆりかさん。」

義父が言葉を区切る。

「俺たちは騙されて放り出された。老夫婦が路頭に迷ってるんだぞ。人として恥ずかしくないのか?」

「恥ずかしいのはそっちでしょ。」

私は穏やかに言った。

「いい年をして、契約書も読まずに家を占拠して、好き勝手に改築して、最低限の法律すら知らない。恥じるべきはあなたたちでしょ。」

私の言葉に、啓介が立ち上がる。

「はっ、誰に向かって口聞いてんだ?」

「あなたに。」

私は冷たく返す。

「お前は俺の妻だろ。夫に逆らうなんて。妻の稼ぎは夫のものでもあるって、母さんがいつも言っていた。」

義母が得意気に頷く。

「そうよ、そうよ。女は稼いで夫に従ってりゃいいのよ。だからね、ゆりかさん。そういうことは、夫としての義務を果たしてから言ってほしいわね。」

啓介が口を開きかけ、言葉をつまらせた。

「はっ…」

私はテーブルの上に一通の封筒を置いた。

「これは、あなたが家にほとんどお金を入れていない証拠よ。会社の給与振り込み記録と、あなたの使ったカード明細。」

そして、もう一通の封筒が置かれる。

「愛人とのホテル履歴、それと交際費の明細、チャット履歴も添えてあるわよ。」

啓介の顔がみるみる青ざめた。

「な、なんだよ、これは。」

「あなた、浮気してたわよね。半年以上。」

義母が声を荒げる。

「嘘よ。啓介に限ってそんな…」

「証拠は揃っているわよ。探偵を雇って調べてもらったから。」

そう言うと、私はさらに資料を並べた。

「ホテル利用履歴、交通情報、GPSログ、メッセージ記録。全て法的に取得可能な範囲で確認済み。反論があればどうぞ。」

義母は震え、声を失う。義父がわめく。

「こんなの偽造よ。」

「偽造なら、裁判で争えばいいわ。」

私は静かに言った。

義父が吠える。

「嫁が夫の荒探しなんて、俺の時代じゃありえねえ。」

「だから、時代が違うって言ってるの。」

沈黙が流れた。女が黙って耐える時代は、もう終わったのだ。

私はすっと離婚届を差し出した。そこには私の署名が書かれている。

「離婚しましょう。」

啓介は力が抜けたように座り込んだ。

「な、なんで?なんで?」

「理由は、今ここに山ほどあるじゃない?」

「俺は…俺は悪くない。」

頭を振る啓介に、私は冷たく告げた。

「責任も金も愛情もないあなたと、どうして一緒にいる必要があるの?」

啓介はなおも幼稚な抵抗を続ける。

「俺たちは夫婦だろう。夫婦は支え合うもんだろう。」

「あなたに支えてもらった記憶はないわ。」

反論できずに啓介は沈黙した。

「離婚に伴う慰謝料、損害賠償は請求するからね。もちろん、不法占拠及び無断改築の責任もしっかり取ってもらうわよ。」

義父が声を張り上げる。

「ふざけるな。金なんか払えるか?」

「払えないなら、差し押さえになるんじゃないの?」

義母が叫んだ。

「あんた、どこまで息子を追い詰める気なのよ?」

「追い詰めたのは、あなたたち自身よ。」

私は小さくため息をついた。

「愛人のホテル代、ゴルフ代、カードローン。誰のお金で払ってたんだっけ?」

啓介は唇を噛んだ。

「俺は…俺は…」

「あなたが『夫のものは妻のもの、妻のものは夫のもの』って言ってたから、私、全部払ってあげてた。」

「でも…」

そう言って、私は静かに微笑む。

「今日で終わり。」

啓介は呆然と離婚届を見つめていた。

「さあ、サインをして。」

私はペンを差し出した。

「あんた、親を捨てる気?」

義母は怒鳴り続ける。

「お母さんやお父さんの暴言の数々も記録済みです。そして、しかるべき場所にも相談しています。」

そう告げると、義母の動きが止まった。

「離婚に応じてもらえなければ、この件でも戦うことになりますよ。そして、おそらくですが、高確率で私が勝ちます。」

義父と義母は口をパクパクと動かしたが、身に覚えがありすぎて反論はできなかった。

「もし今すぐ素直に離婚に応じてもらえれば、そうね、浮気の慰謝料について考えてあげていいわ。」

さらに私は続ける。

「ただし、応じてもらえないのであれば、宣言通り不倫の慰謝料、そしてお母さんたちから受けた精神的苦痛についても慰謝料を請求することになります。」

だが、私の発言に啓介が逆切れした。

「女のくせに偉そうに。」

しかし、そんな啓介を義父母が止める。

「や、やめろ、啓介。これ以上はやめるんだ。」

「そうよ。お願いだから、素直に離婚に応じてちょうだい。」

二人はこれ以上の支払いをしたくないとばかりに、啓介に離婚を迫った。

「ちっ、分かったよ。」

義母たちに逆らえない啓介は、しぶしぶ離婚届にサインをした。

これでやっと全てが終わる。私は静かに書類を回収した。

「ありがとう。お疲れ様。これで私たちは完全に他人ね。」

三人は面白くなさそうに玄関へ向かった。そして、玄関の扉が閉まる。やっと静寂が流れた。

私は深く息を吸った。これで終わり。ようやく自由になれたのだ。

離婚が成立すると同時に、あれだけ偉そうにしていた啓介たちは一気に奈落へ落ちていった。啓介は浪費で貯蓄を持たず、不動産投資会社への莫大な損害賠償は義両親の退職金と年金で賄うしかなかった。残ったのは借金だけ。彼らの評判は近隣一体に知れ渡り、親戚も友人も距離を置いた。生活保護申請を巡って役所で揉めたという噂が聞こえてきたが、詳細はどうでも良かった。彼らは自らの手で、自分たちの誇りも暮らしも壊したのだから。

一方、私は晴れやかな気持ちで新生活を迎えた。父はリースバック売却で得た資金と私の援助を合わせ、バリアフリー仕様の平屋住宅を郊外に購入。大きな窓から優しい光が差し込み、余計な装飾のない穏やかな空間が広がる。休日には親子でゆっくりコーヒーを入れ、静かな午後を楽しんだ。

「ゆりか。やっと自分らしく生きていける場所に帰ってこられたな。」

父の言葉に、私は微笑んだ。

「うん。ここが私の家だからね。」

家族という呪縛から解き放たれ、私はようやく自分の人生を歩き始めるのであった。

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