浴室のドアを開けた瞬間、私は足を何かにぶつけて大きな音を立ててしまった。その音で、脱衣所の裏口から裸の妹が外へ逃げていく気配がした。夫は平然とした顔で「覗きだよ、最近多いんだ」と言い、私が警察を呼ぼうとすると必死に止めてきた。私は振り切って外へ飛び出し、車庫の方から聞こえたトランクの閉まる音を聞いた。まさか、裸の妹がトランクに隠れているなんて。私は知らないふりをして夫に「お母さんの具合が悪い…

浴室のドアを開けた瞬間、私は足を何かにぶつけて大きな音を立ててしまった。その音で、脱衣所の裏口から裸の妹が外へ逃げていく気配がした。夫は平然とした顔で「覗きだよ、最近多いんだ」と言い、私が警察を呼ぼうとすると必死に止めてきた。私は振り切って外へ飛び出し、車庫の方から聞こえたトランクの閉まる音を聞いた。まさか、裸の妹がトランクに隠れているなんて。私は知らないふりをして夫に「お母さんの具合が悪い...

浴室のドアを開けた瞬間、私は妹のユナと夫のヨタの声が聞こえるかと思った。けれど、その前に私は足をぶつけてしまった。物音に気づいた二人は、私が帰ってきたと思ったらしい。ヨタはユナを脱衣所の裏口から外へ逃がしたようだった。

「ねえ、今誰かいた?」
「え? 覗きだよ。最近多いんだ」
「それは大変。すぐに警察を呼ばなきゃ」

スマホを取り出して通報しようとする私を、ヨタは必死に止めようとした。しかし、私は彼の静止を振り切って外へ飛び出した。玄関を出ると、車庫の方からトランクが閉まる音がした。どうやらユナは車のトランクに身を潜めたらしい。私は彼女が私のいない隙にトランクから出てくるつもりなのを見抜いていた。そうはさせない。私は裸でトランクに潜む妹を乗せたまま、一晩中山道を走り続けたのだ。

私は元橋綾音、三十二歳の会社員だ。四歳年上の夫ヨタと二人で暮らしている。私の育った家庭は、父が公務員、母が小学校の教師という真面目一筋の家だった。四歳年下の妹ユナと四人で暮らしてきた。大学を卒業して就職した先で、私はヨタと出会った。彼は私の教育係として色々なことを教えてくれた。そのうちにプライベートでも食事に行くようになり、同じ価値観を持つ彼に次第に心を惹かれていった。入社して一年が過ぎた頃、部署移動でヨタと離れることになったが、そのタイミングで彼から正式に交際を申し込まれた。私は迷うことなく受け入れ、二年ほど付き合って結婚することになった。

結婚の挨拶にヨタを実家に連れて行くと、両親は大喜びしてくれた。ヨタは見た目も爽やかで、丁寧に話す仕草が両親には高評価だったらしい。妹のユナも私の結婚をとても喜んでくれた。義両親も私を気に入ってくれて、私たちはみんなに祝福されて一緒になった。結婚してからもヨタは私を大切にしてくれていた。彼の部署は忙しいことで有名だったが、休みの日は必ず二人で過ごしていた。ヨタと結婚してよかった。私は心からそう思っていた。

結婚して三年が経ち、ヨタは係長に昇進することになった。お互いの家族を招待して昇進祝いを行うことになり、私は腕によりをかけて手料理を作って準備をした。みんなが集まり、和やかな雰囲気が漂う中、ヨタが重大発表があると言い出した。

「実はマイホームを購入することにしたんだ」

私は驚いた。結婚当初からいつかマイホームを購入したいとは言っていたが、まだ先の話だと思って何も期待していなかった。豪邸とはいかないが、家族で暮らすには十分な広さがある。そのサプライズが嬉しくて、私の目には涙が浮かんだ。ヨタはいつも私の願いを叶えてくれる。私たちの夫婦生活はまさに順風満帆だった。

しかし、新居に引っ越して半年ほど経った頃から、ヨタの行動に異変が生じた。毎日夜七時には帰ってきていたはずの彼が、残業だと言って帰宅時間が遅くなるようになった。日によっては終電を回ることもある。それでも課長への昇進もかかっているからと、ヨタは前向きに捉えているようだった。休日になってもヨタは布団で寝ていることが増え、必然的に私との会話も減っていった。それまで協力してくれていた家事も私一人で行うようになり、どこか寂しさを感じていた。

ある日、仕事から帰ってきたヨタは疲れたと言って玄関を上がり、そのまま浴室へ向かった。心配になった私は浴室へ行って声をかけた。

「ねえ、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ」

ヨタの声にはどこか張りがなかったが、あまり心配しすぎても彼の負担になるではないか。そう思い、私は見守ることにした。しかし、ヨタが脱いだシャツを洗濯機に入れようと手に取った時、私は見慣れない匂いに気づいた。女性の香水のような甘い香りが漂う。まさかヨタは女性と浮気しているのではないか。私の中に一筋の不安がよぎった。しかし、ヨタに限ってそんなことはないとすぐに思い直した。毎日遅くまで仕事をして疲れて帰ってくる夫を疑うなど、妻として最低の行為だと自分を戒めた。

翌朝、いつもより早く起きてきたヨタが、今日は早く帰ると告げた。

「今日は俺たちの記念日だろ。だから綾音と一緒に過ごしたいんだ」

ヨタは今でも私を愛してくれている。二人が交際することになった記念日をちゃんと覚えてくれていたことに、私は感動した。その日は宣言通り早く帰ってきてくれたヨタと、久しぶりに外食を楽しみ、思い出の場所へのドライブを楽しんだ。翌日は休日で、日頃あまり会話ができないからとその日は遅くまで夫婦で語り合った。私は一瞬でもヨタを疑った自分を恥じた。

しかし、それから数日後、またヨタのシャツから女性の香水の香りがした。また私の中に不安がよぎった。それでもヨタを信じようと、必死に自分に言い聞かせていた。

一ヶ月後、車の点検でディーラーに車を持っていくと、走行距離がいつもより増えていることを指摘された。記念日のドライブ以外はヨタが通勤で使用しているだけなのに、特別走行距離が増えるようなことはない。まさかヨタは私に隠れて本当に浮気しているのではないか。抑え込んでいた不安が大きくなって私を襲った。その日から、私はヨタの浮気の証拠を探し始めた。この時は、ヨタが浮気していないと思いたかった。何も出てくることはない。そう信じて彼の持ち物や車の中を確認したが、その期待はもろく崩れ去った。

ヨタが普段着用しているコートのポケットから、高級レストランの領収書が何枚も出てきた。二人分の食事代と書かれた領収書は、ヨタが私以外の人と食事を楽しんだことを証明していた。しかし、それでも私はまだヨタを信じていた。もしかしたら職場の誰かと付き合いで行ったのかもしれない。そう思っていたのだが、決定的な証拠が出てきてしまった。

週末、ヨタがまだ寝ている間に車の中を掃除しようと掃除機をかけていた時だった。助手席からラブホテルのポイントカードが出てきたのだ。スマホで住所を検索すると、ヨタが日頃通勤で使うルートとは逆方向にあるホテルで、私とは一度も行ったことのない場所だった。ヨタが浮気している。その事実に胸が締め付けられた。同じ会社の女性社員だろうか。それとも私が全く知らない第三者なのか。私はそのポイントカードをポケットにしまい、部屋へ戻って一人ソファーで考え込んだ。

その日の深夜、私はヨタが寝た後に車のドライブレコーダーに入っているSDカードを回収し、記録された映像を確認することにした。ドライブレコーダーは車内の様子も録画するタイプで、エンジンを切っても録画し続けるタイプのものだった。ヨタが浮気相手を乗せていたのであれば、全てドライブレコーダーに写っているはず。パソコンにSDカードを差し込み、再生ボタンを押す手が震えた。映像を見ればヨタの浮気が確定してしまう。その時、私はどう行動するのだろうか。もしかしたらヨタが浮気をしていない事実が見えるかもしれないという淡い期待もあった。どちらにしても映像を確認するしかない。私は意を決して再生ボタンを押した。

映像を見た私には大きな衝撃が走った。そこには妹のユナが映っていた。ヨタと手をつなぎ、寄り添い合いながら楽しそうに笑っているユナの姿は、私の怒りを掻き立てた。別の日の録画には、車内でヨタとユナが淫らな行為に及んでいる姿も映されていた。行為が終わった後、ユナは「車もいいけど次は家でしよう」と言い、ヨタは「そっちの方がスリルがあって興奮する」と笑っていた。私は静かにパソコンを閉じ、しばらく動けなくなってしまった。

私とヨタの結婚を喜んでくれていたはずの妹が、私に隠れて夫と関係を持っている事実に、虚しさばかりが浮かんでくる。考えてみればユナは小さい頃から私のものを欲しがった。私が気に入っている洋服もぬいぐるみも、両親に同じものをねだっていた。あの時は可愛い行動だと微笑ましく思っていたが、まさか夫を寝取られるとは思ってもみなかった。ヨタはユナを受け入れ、私に隠れて関係を持ち続け、私にバレないかとスリルを楽しんでいる。事実を知った私は、映像を見たことを後悔した。実の妹が相手じゃなければ、まだ気持ちの整理がついたかもしれない。私が全く知らない女性が相手だったら、ヨタが謝ってくれさえすれば許せたかもしれない。その日は込み上げる怒りで、私は一睡もすることができなかった。

翌日、私は実家に行き、両親にそのことを相談することにした。

「ヨタがね、浮気していたの」
「え、ちょっと待って。ヨタさんに限って浮気なんてありえないわ」

ヨタの人柄を信じている両親は、私の話を信じようとしない。私はドライブレコーダーの映像を両親に見せた。映像を見た両親は激しく怒り、私のことを哀れんだ。

「離婚だ。ユナのことも、今後は妹だと思わなくていい」

両親に離婚を勧められ、私は自分がどうしたいのか考えた。ヨタとこの先も一緒にいたい自分もいる。しかし、妹と関係を持っていた彼を許すことはできない。私は離婚を決意し、ヨタとユナに慰謝料を請求することにした。両親は私を抱きしめてくれた。それまで我慢していた涙が一気に溢れ出す。そのまましばらく声をあげて泣く私の背中を、母はずっと撫でてくれていた。ひとしきり泣いた私の気持ちは、自分でも不思議なくらい晴れやかだった。

「二人に仕返ししなくちゃね」

家に帰った私はある計画を立てた。ヨタとユナの浮気現場に踏み込んでやろうと思ったのだ。二人の前に私が現れたら、きっと慌てふためくだろう。浮気現場を作るのは簡単だった。家でしたいと望んでいる二人に、その機会を与えてやればいいだけなのだ。翌日の金曜日、私はヨタに今夜は遅くなると嘘を伝え、仕事に出かけるふりをした。その日仕事を定時で終え、夕方のうちに帰宅した私は、リビングにあるクローゼットに身を隠し、ヨタが帰ってくるのを待った。

しばらくして、ヨタがユナを連れて家に帰ってきた。予想通り、二人は私とヨタの家で行為に及ぶらしい。クローゼットの隙間から様子を見ていると、二人はリビングに入った途端にキスをし始め、そのまま抱き合った。

「ここにお姉ちゃんが帰ってきたら大変なことになるわね」
「友達と食事してくるって言ってたから、すぐには帰ってこないよ。それよりせっかくのチャンスを楽しもうぜ」

二人の会話に怒りで手が震える。その怒りを必死に抑えながら、私はスマホのカメラを起動させ、二人の様子を録画した。しばらくして、二人はシャワーを浴びようと浴室へ向かった。私は裸の二人の前に姿を表そうと、クローゼットから出て浴室へと向かうことにした。リビングには二人の洋服と下着が脱ぎ捨てられている。浴室の方からシャワーの音と共に、二人の嬌声が聞こえてきた。行為の真っ最中と判断した私は、気が焦ったのかリビングのドアに足をぶつけてしまった。物音に気づいた二人は、とっさに私が帰ってきたと思ったらしい。ヨタはユナを脱衣所の裏口から外へ脱出させたようだった。

私は何食わぬ顔で浴室のドアを開け、裸のヨタに尋ねた。

「今誰かいた?」
「覗きだよ。最近多いんだ」
「へえ、そうなの? それは大変だわ。すぐに警察に連絡しないと」

スマホを取り出して通報しようとすると、ヨタは「大げさだ」と私を静止した。しかし私は彼の静止を振り切って外へ飛び出した。ユナをこのまま逃すわけにはいかない。全裸の状態でどこかに逃走するとも思えない。玄関を出ると、車庫の方からトランクが閉まる音がした。どうやらユナは車のトランクに身を潜めたらしい。そこにヨタがやってきた。

「今、トランクに誰か入ったみたいなの?」
「え? そんなわけないだろ。きっと野良猫の仕業だ」

ヨタは必死にごまかそうとしている。私はわざと騙されたふりをした。ユナは私が立ち去るのを待ってトランクから出てくるつもりだろうが、そうはさせない。

「実はお母さんが風邪で寝込んでるみたいなの。お父さん一人じゃ何もできないから、手伝いに行ってあげたいんだけど、ヨタも一緒に来てくれないかしら」
「あ、ああ、もちろんいいと思う」
「ありがとう。それじゃあ私はここで待ってるから、出かける準備をしてきて」

ヨタが部屋に戻って着替えている間、私は車から離れず、ユナが出てくる隙を作らないようにした。同時に両親に口裏を合わせてもらえるようメッセージを送った。数分後、準備ができたヨタと共に、ユナをトランクに乗せたまま実家へ向かう。

「今トランクから何か聞こえなかった?」
「気のせいだよ。きっと中に入れてあるものが動いたんだ」
「そう、それならいいけど」

ヨタは気が気ではないだろう。額には脂汗が流れ、私にばれることを恐れているようだった。しばらくして実家に到着すると、玄関の前で父が待っていた。

「母さんの具合は良くなったし、こっちは俺に任せておいて大丈夫だ」

父はうまく話を合わせてくれている。

「それより今夜は星が綺麗に見えるらしい。せっかくだから二人で見に行ってきたらどうだ」

父は実家の近くにある、夜空が綺麗だと有名なデートスポットを勧めてきた。

「あ、でも……そうするわ。ヨタとドライブするのも久しぶりだし、星空なんて素敵だわ」

おそらくヨタは断って帰りたかっただろう。しかし私はヨタが断る前に、即座に父の提案を受け入れた。

「ヨタは疲れているだろうから、ここからは私が運転するわね」

私はヨタから車の鍵を受け取り、運転席へと乗り込んだ。星空のスポットは昔から家族で訪れていた場所なだけに、道順もしっかり覚えている。しかし、私はわざと道を間違えたふりをした。

「あれ? おかしいなあ。確かこっちだったはずだけど」
「運転変わろうか」
「大丈夫よ。きっとこっちの道ね。もうすぐ到着するはずだから任せて」

ヨタは途中何度も運転を変わると言ってきたが、私は大丈夫と言い続け、ハンドルを渡さなかった。ヨタに運転を任せたら、途中でユナを脱出させてしまうかもしれない。そう思ったのだ。

二時間ほど経っただろうか。ヨタが諦めて家に帰ろうと言い出した。

「ここまで来て引き返すなんて嫌よ。明日は休みだし、時間は気にしなくても大丈夫でしょう」
「それはそうだけど」
「だけど何? 家に帰りたい理由でもあるの?」

ユナのことが気になるヨタは、一刻も早く家に帰りたいだろう。しかし私は、わざと道に迷いながら、一晩中山道を走り続けた。裸でトランクに潜んでいるユナはどんな気持ちだろうか。想像すると笑いが込み上げてくる。その笑いを必死にこらえながら走っていると、遠くの空が白み始めた。

「そろそろ夜明けね。星空は諦めるしかないわね」

私の言葉にヨタは安堵の表情を見せる。

「残念だけど、また今度見に来よう。それより喉が乾いたからコンビニに行ってくれないか?」
「そうね。小腹も空いたし、何か食べるものも買いましょう」

ヨタの提案に乗り、私は麓にあるコンビニへと車を走らせた。コンビニに到着した私は、わざと中にいる店員から車が見える位置に駐車し、店内へ入っていった。その直後、ヨタは急いでトランクへ回った。トランクが開くと、全裸のユナが飛び出し、コンビニのトイレへと駆け込んだ。私は何も気づかないふりをして買い物を済ませ、レジへ向かった。全裸の女性が駆け込むのを見た店員は、事件を疑って通報したようだ。私は会計をわざと遅らせ、時間を稼いでいた。そこにヨタがやってくる。

「まだ会計が終わらないのか」
「機械のトラブルみたいよ。もうすぐだろうから、車で待ってていいわよ」

ヨタは私の目をユナからそらしたいのだろう。しかし、全裸のユナはトイレから出てくることはできないはず。コンビニで下着は購入できるが、女性の下着を購入すれば私にバレてしまうと悟ったヨタは、ユナに下着を届けることもできない。それでもなんとかユナを脱出させようと、頭をフル回転させているようだった。

しばらくして、数名の警察官がコンビニにやってきた。店員に事情を聞き、トイレへ向かう。警察官が中に向かって声をかけるも、ユナは返事をしなかった。

「何かあったのかしら」
「さ、さあ。それより早く帰ろう」
「もう少し待って。まだ会計の途中なのよ」

警察官の姿を見て、ヨタは大いに焦っているようだった。何も買わずに店から出ようと私を促してきたが、私はその場に留まることを選択した。警察官はトイレの鍵がかかっているにも関わらず、何度声をかけても返事がないことを不審に思い、店長を呼び寄せ、ドアを壊すことを提案した。店長がそれを承諾し、トイレのドアが開けられることになった。数分後、ドアが開くと、片隅で小さくうずくまっているユナが発見された。コンビニは一時閉鎖されることとなり、続々と応援の警察官がやってくる。店員から事情を聞いた警察官は、私とヨタにそれぞれ事情を確認してきたが、ヨタは何も言えず黙り込んでいた。

「奥様の車のトランクから出てきたことを店員が目撃している。知らないってことはないでしょう」

警察官はヨタが女性を誘拐したのではないかと疑っているようだった。

「奥様は何かご存知ですか?」
「あの女性は私の妹です。でもどうして全裸でトランクに潜んでいたのかは、全くわからないわ」

私はユナの身元を明らかにしつつも、トランクに入った経緯については知らないと言いはった。警察官がドライブレコーダーの映像を確認したいと言い出した。

「もちろん、いいですよ」

私が求めに応じてドライブレコーダーの映像を提出しようとしたのだが、ヨタはそれを阻止したいらしい。

「最近調子が悪いから、録画されてないと思うんだ。だから見てもしょうがないよ」
「それは警察が確認するでしょ。変に断ったら本当に誘拐にされちゃうわよ。それともユナがトランクにいた理由をあなたは知ってるの?」
「そ、そんなわけ……」

ヨタは何も言い返せず、警察官と私のやり取りを見つめるしかなかった。そして数分後、警察官はユナが自らの意思でトランクに入り込んだことを確認した。

「家から全裸で飛び出してきて、トランクに入ったって一体どういうことかしら?」
「俺にも意味が分からないよ。だけど、あなたがトランクを開けたのよね。ユナがトランクにいるって知ってたんじゃないの?」

ヨタはあくまで何も知らないと白を切っているが、映像が全てを物語っていた。

「この映像によれば、ユナさんとヨタさん、二人一緒にご自宅に入っていますよね。その数分後に裸で出てきたユナさんがトランクに入った。これがどういうことなのか説明してもらえますか?」

警察官に詰め寄られても、ヨタとユナは無言を貫いていた。

「もう本当のことを話したらどう?」

私はスマホを取り出し、その場でヨタとユナの不倫の現場を再生して見せた。

「ねえ、あなたたちは私の帰りが遅いと分かって家で楽しんでたのよね。だけど予想外に私が早く帰ってきて焦って、慌てて逃げたのがトランクだった。そうでしょ?」
「全部知ってたのか?」
「ドライブレコーダーに全部映ってたもの。バレてないと思う方がおかしいわ」

その後、警察官はヨタとユナを厳重注意の上、罪はないとして引き上げていった。コンビニの店長からはトイレのドアの修理代を請求されることになったが、それ以上に、騒ぎを聞きつけて集まっている野次馬たちが裸のユナにカメラを向けていることの方が恥ずかしかったらしい。

「どうしても一つ持ってこなかったのよ」
「そんなことしたら綾音に怪しまれるだろう。まあ、結果的にバレてたんだけど」

ユナはヨタに苛立ちながら、群衆のカメラを避けるように車の後部座席へと乗り込んだ。トランクの中で一晩中全裸で過ごしたユナは風邪を引いたようで、くしゃみが止まらない。しかしヨタはユナの様子よりも私への言い訳で頭がいっぱいのようだった。無言のまま自宅へと戻ると、二人して私に土下座してきた。

「本当にすまなかった。だけど、俺が本気で愛しているのは綾音だけだ」
「じゃあなんで浮気なんてしたの? それも妹と」
「魔が差したんだ。ユナに誘われてつい……」

ヨタとユナの関係は一年ほど続いていたらしい。ユナは幸せそうな私を見て羨ましくなったそうだ。

「だからって、浮気していい理由にはならないわ」
「本当にすまない。この通りだ。許してくれ」
「いいえ、許せない」

私は記入済みの離婚届をヨタに突きつけた。離婚届を見たユナは顔を青く染めた。それもそのはず、離婚届の証人欄には両親の名前が記入されていたのだ。

「人生終わった」

両親に不倫がバレていることを悟ったユナは、絶望したようにその場にへたり込んでしまった。

「二人には慰謝料をきっちり支払ってもらうわ」

ヨタは慰謝料は払うと言ったが、離婚には応じなかった。私は離婚調停を申し立てることにした。その結果、私の言い分が全面的に支持され、離婚が成立することになった。

その後、ヨタとユナの不倫騒動はSNSで拡散され、ヨタの務める会社にも知られることとなった。ヨタの会社は家族の幸せを理念に掲げ、様々な事業を展開している。そんな会社にしてみれば、ヨタの不倫騒動は信用問題に関わる事態だった。会社は対応の一環として、ヨタを窓際部署へと左遷した。ヨタは周囲から白い目で見られるようになり、その視線に耐えきれなくなったのだろう。しばらくして会社に退職届を提出した。ユナは両親から勘当を言い渡され、それまで務めていた会社も首になったようだ。

私が家を出て実家に戻ってしばらくは、ヨタとユナで暮らしていたようだが、私への慰謝料を支払い、お金のない二人は仕事も難しく、アルバイトをしながら生活を立てていたらしい。しかし、元々ヨタと結婚を望んでいたわけではなかったユナは、お金のないヨタに愛想を尽かし、いつしか姿を消したのだとか。一人残されたヨタは、自分のしたことの大きさを知り、家に引きこもるようになった。

私はその後、新しいマンションを借りて暮らしている。職場ではしばらく噂が耐えなかったが、それでも週末に趣味の演芸仲間とバーベキューを楽しんだり、友人と旅行に行ったりして、充実した独身生活を送っている。一人になった私の元には再婚話もやってくるが、今のところ誰とも再婚するつもりはない。ひどい裏切りをされたとはいえ、私はまだヨタを愛している。いつかヨタのことを許せる自分になったら、その時は再婚を考えてもいいのかもしれない。そう思いながら、私は新しい人生を楽しんでいる。

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