葬儀の晩、私は息子を皆の前で叱りつけた。非正規の仕事、狭い部屋、結婚もしない。同じ三十五歳で家を建てた甥と比べて、「情けないと思わないのか」と。すると甥が皆の前で言ったんだ。「おじさんは、自分のことを幸せだと思ってみていますか?」あの瞬間、答えられなかった。そして後日、甥が語った真実が、私の価値観を根底から揺るがせた。私がどれだけ無知だったかを知った時、息子のアパートの前で、私は長い間ためら…
その十二月の終わり、雨が降っていた。大沼正幸は、母の葬儀の場で、自分の人生が何かから滑り落ちていくような感覚とともに立っていた。五年前に買った喪服は、体重が少し落ちたせいで、肩回りが余っていた。それが気になったが、どうしようもなかった。 控室で親族たちが集まる中、正幸は部屋の隅でお茶の入った紙コップを持って立っていた。声をかけられるたびに「ご丁寧にありがとうございます」と言った。何度言ったか数えていなかった。 控え室のドアが開き、冷たい空気とともに正斗が入ってきた。三十五歳になる妹の息子だ。脳根のスーツに、傷一つない革靴。腕時計もシンプルだが上質なものだった。顔には余裕があった。正幸はその姿を見た瞬間、何かが胸の中で動くのを感じた。 「おじさん、今日は本当にお疲れ様でした。」 「ああ。」 「少し前、駐車場で足を滑らせたように見えましたが、大丈夫でしたか?」 正幸の耳がじわりと熱くなった。確かに、最上の石段を降りていた時、正斗のアルファードに目が行き、それで足元がおろそかになった瞬間があった。ほんの一瞬のことだったが、周囲の数人がこちらを見た。六十五にもなって足元を滑らせるとは。正斗に見られていたということが、胸に刺さった。 その後の仮想の間、正幸は正斗の車のことを考えていた。自分には持てない車。あの年齢で、それだけの収入があるということだった。 国別の後、場所を移して解食になった。席は自然に年配の親族が一方に、若い世代がもう一方に別れた。正幸は上寄りの席に座った。日本酒が回ってきた。飲むつもりはなかったが、気づけば飲んでいた。 テーブルの向こう側に警戒がいた。正幸の一人息子だ。壁際の席に座っていた。隣に誰もいなかった。黒のジャケットを着ていたが、素材が違った。正斗のスーツと同じ黒でも、質感が全く違った。正幸はその違いを見た。見なければよかったと思いながら見た。警戒は今、埼玉の外れで一人暮らしだった。市の図書館で非正規の職員として働いていた。給料は高いとは言えず、車も持っていなかった。結婚もしていなかった。その事実が、今日のこの席で正幸の中で固まっていった。 酒が進むにつれ、堀内が正斗の仕事の話を始めた。食品メーカーで海外向けの営業を担当している。大変ですがやりがいはあります、と正斗は答えた。若いのに立派だと堀内は言った。家も買ったとか聞いたが、昨年、妻の実家の近くに一軒立てました、と正斗は言った。 正幸はその会話を聞いていた。家を建てた。三十四歳で家を建てた。正幸が家を買ったのは三十九歳の時だった。ローンを抱えながら、給料を切り詰めながら、やっと買った。それでも誇らしかった。でも今のこの感覚は、誇らしさではなかった。 テーブルの向こう側で、警戒が箸を置いた。誰とも話していなかった。 「警戒。」 警戒が顔を上げた。テーブル全体の声が少し下がった。 「お前はいい加減、自分の人生をちゃんと考えているのか。」 警戒は何も言わなかった。 「正斗を見ろ。同年だろう。家を建てて、奥さんもいて、仕事もちゃんとやっている。お前はどうだ? 図書館で非正規で、一人で狭い部屋に住んで、このまま何年過ごすつもりだ?」 テーブルが静かになった。警戒は視線を落とし、膝の上で右手がゆっくりと握られるのが見えた。 「三十五にもなって、情けないと思わないのか? 親の顔を潰しているとは思わないのか。今日みたいな席に来ても、あんな格好で誰とも話さないで隅に座って…」 「おじさん。」 正斗だった。テーブルの空気が止まった。正斗の顔は、さっきまでの穏やかな顔ではなかった。 「お兄さんを責めないでください。」 声は低かった。荒げてはいなかった。しかし静かすぎて、かえってテーブル全体に届いた。 「おじさん、一つだけ聞いていいですか?」 正幸は答えなかった。 「自分のことを、幸せだと思ってみていますか?」 テーブルに静寂が落ちた。正幸はその言葉の意味を、すぐには理解できなかった。幸せかどうかと聞いている。誰のことを? 正斗が自分自身のことを言っているのか、それとも別のことを言っているのか、一瞬分からなかった。 正斗は目を伏せた。今まで気づかなかった疲れが、その一瞬に顔の表面に出てきたようだった。 解食はその後も続いたが、誰も大きな声を出さなかった。正幸はそれ以上何も言えなかった。「幸せだと思ってみていますか?」という問いが、胸の中にそのまま残っていた。答えがなかったのではなかった。答えを探しているうちに、何が問われているのかが分からなくなっていた。 解食が終わり、店の外に出ると雨がまだ降っていた。正斗は別の親族と話しながら自分の車の方へ歩いていった。正幸は店の軒下で警戒を探した。警戒は少し離れたところに一人で立っていた。傘を持っていなかった。 「どうやって帰る。」 「電車で。」 「そうか。」 それだけだった。正幸は傘を開いて雨の中に歩き出した。振り返らなかった。駐車場で、正斗の大型右番が静かに出口へ向かうのを見た。テールランプが雨の中で赤く光り、曲がり角を過ぎて消えた。 駅まで歩きながら、雨音の中でその問いがまだ響いていた。 その翌朝、正幸は区役所の前に立っていた。受付で整理券を取り、役所の硬い椅子に座り、四十分近く待って、第三窓口に呼ばれた。 「戸籍東本はお持ちですか?」 「お母様の余貯金や不動産はございますか?」 「ありません。」 その言葉が空中に浮かんだまま消えていくような感覚を覚えた。手続きは一時間近くかかった。書き損じた用姿を書き直し、証明書類を出し直し、全てが終わったのは十一時を過ぎていた。 母が残したものは、小さなアパートの一室に置かれた家具と、数百円の残高が残った郵便貯金の通帳だけだった。それだけだった。 帰り道、スーパーに立ち寄った。白菜が百八十九円になっていた。先週は百四十九円だったはずだと思い、値札をもう一度確認した。正幸は白菜を棚に戻し、代わりに反玉の小さな袋を取った。それでも九十八円した。 自宅に戻り、一人で味噌汁を作って、昨日のご飯を温めて、静かに食べた。テレビはつけなかった。 食事を終えてから、迷彩書の入った引き出しを開けた。電気代、ガス代、水道代、それぞれの直近三ヶ月分の請求書を並べた。どれも去年よりわずかに上がっていた。電気代は二百円以上、ガス代は三百円近く上がっていた。金額としては小さい。しかし、それが毎月続いていた。 正幸は計算した。月の支出は、年金と夜間警備の収入を合わせて、ギリギリ賄える水準にある。何か一つ予定外のことが起きれば、その均衡はすぐに崩れる。母の葬儀と手続き関連の費用はすでに貯金から出した。残高は減った。 夕方、警備会社から翌月のシフト表がメールで届いた。来月は月二十八回の夜間勤務が入っていた。今月と同じだった。減りも増えもしない。 その夜、正幸は七時半に家を出た。制服にアイロンをかけ、靴を磨き、電車に乗って、駅から徒歩八分の場所にある七階建ての商業テナントビルに着いた。夜の九時から翌朝六時まで、エントランスと駐車場の巡回、合飯カメラの監視、トラブルへの対応。 ロッカーで同じ時間帯に勤務する田中という五十代の男と言葉を交わした。 「今日も寒いですね。」 「そうですね。」 それだけだった。 … Read more