いつもの朝食の席で、養子のように育て上げた息子が、まるで他人を見るような目で私に言った。「母さん、もう親子じゃない。明日の朝までに出て行ってくれ」四十二年間、女手ひとつで育ててきた恩を、妻の前で全部なかったことにされた瞬間、私は静かに微笑みながら「わかりました」と答えた。でも、彼らが知らないことがある。この家の土地は私の名義だ。契約も保険も、すべて私の名前で動いている。そして何より、私には彼…
朝の五時半、私はいつものようにキッチンに立っていました。出汁の香りが家中に広がり、玉子焼きを丁寧に焼いていると、すべてがいつも通りの朝だと思えました。六十五歳になった今も、息子夫婦のために朝食を作るのが私の日課です。三十五年前に夫を亡くし、女手ひとつで息子を育て上げ、今は家族と同居しながら家事のすべてを担ってきました。 その日も食卓に並べた料理を見て、息子の健二も妻の美香さんも、何か違う様子でした。私が「おはよう」と声をかけても、二人は目を合わせようとしません。美香さんはスマートフォンをいじり、健二は新聞に視線を落としたまま。重い沈黙の中、箸の音だけが響いていました。 朝食が終わりに近づいた時、健二が顔を上げました。 「母さん、話があるんだ」 その瞳は、これまで見たことのないほど冷たく光っていました。私は胸の奥で嫌な予感がするのを感じながら、箸を置きました。 「母さん、俺たちも自立したいんだ」 「自立?どういう意味かしら」 美香さんが初めて顔を上げました。その表情は、まるで汚いものでも見るかのような軽蔑に満ちていました。 「私たちももう四十を過ぎました。いつまでも親に頼っているわけにはいかないんです」 「それで、具体的にはどうしたいの?」 二人は顔を見合わせ、健二が決心したように言いました。 「実は、ミカの両親をこの家に呼びたいんだ。向こうも高齢になってきたし、一緒に暮らした方がいいと思って」 私は言葉を失いました。この家に、義理の両親を? 「でも、この家は私たち三人で暮らすので精一杯じゃないの」 「だから、母さんには別の場所に移ってもらおうと思って」 健二はまるで当然のことのように言いました。 「別の場所って、つまり近くのアパートを借りて、そこで暮らせということ?」 「もちろん、完全に縁を切るわけじゃないさ。週に一回か二回は会えるし」 週に一回か二回。まるで他人のような扱いです。私は震える手を膝の上で握りしめました。 「でも、生活費はどうするの?私の年金だけでは……」 「それなら、僕たちが月に十万円は援助するよ。それで十分だろう」 月十万円。私がこれまで費やしてきた労力と時間、そしてお金を思えば、あんまりにも情けない提案でした。 しかし、美香さんがさらに追い打ちをかけました。 「ただし、条件があります。お義母さんには引き続き、週に数回こちらに来て掃除と洗濯をしていただきます。もちろん、友人の面倒も見てくださいね」 私は耳を疑いました。家から追い出しておいて、都合のいい時だけ家政婦のように働けというのでしょうか。 「それは、ちょっと……」 「何か問題でも?今まで通りのことをお願いしているだけです。ただ寝泊まりする場所が変わるだけでしょう」 美香さんの言い方は、まるで私の方が理不尽なことを言っているかのようでした。健二も同調します。 「母さん、これは家族みんなのためなんだ。ミカの両親も、母さんと同じように大切な家族だから」 大切な家族。そう言いながら、扱いは天と地ほどの差があります。 さらに美香さんが続けました。 「お義母さんも、もういい年なんだから私たちの生活に干渉しすぎです。食事の味付けにしても掃除の仕方にしても、いちいち口を出されるのは正直迷惑なんです」 迷惑。五年間、毎日家族の健康を考えて作り続けた食事が、迷惑だったというのですか? 「それに、最近物忘れも増えてきたみたいですし。この前も醤油と味噌を間違えていましたよ」 そんな事実は一度もありません。美香さんの明らかな作り話です。しかし、健二は妻の言葉を鵜呑みにしているようでした。 「確かに母さんも昔とは違うよな。同じ話を何度もするし、認知症の始まりかもしれない。一度病院で検査を受けた方がいいんじゃないか」 私は元銀行員として、数字や細かいことには誰よりも正確でした。今でも記憶力には自信があります。 「私は大丈夫です。心配しないでください」 「違いますよ、お義母さん。私たちが心配なんです。もし認知症になったら、責任を取らされるのは私たちなんですから」 私は、厄介者扱いされているのだと理解しました。健二が最後通告のように告げました。 「とにかく来月までには引っ越してもらいたい。アパートは自分で探してくれ。保証人にはなってやるから」 保証人になってやる、と。まるで恩を着せるような言い方に、私の心は凍りつきました。 「あ、それと」美香さんが思い出したように付け加えました。「外出は週に二回までにしてください。私たちがいない時に、勝手に人を家に入れられても困りますから。鍵も返してもらいます。老人会の集まりとか、そんな時代遅れの付き合いももう必要ないでしょう。お義母さんの友達がうちに来られるのも、正直迷惑なんです」 私は来客の際、いつも自分でお茶を出していました。美香さんが横取りしただけです。 「母さん、わかってくれるよな。俺たちだって苦渋の決断なんだ」 苦渋の決断。私を追い出すことが。 「それに最近の母さんは、少し身だしなみにも気を使わなくなったというか。お義母さんの部屋からする匂いも気になります。加齢臭って言うんですか?友人も嫌がっているんです」 嘘です。友人は昨日も「おばあちゃん、いい匂い」と言って抱きついてきました。 「だから、別々に暮らした方がお互いのためなんです。距離を置いた方が、良い関係でいられますから」 美香さんの言葉は表向きは私を気遣っているようでしたが、その目は冷たく「早く出ていけ」と物語っていました。 「老人ホームのパンフレットも集めておきました。まだ入れる年齢じゃないですけど、将来的にはそっちの方がお義母さんも楽でしょう」 美香さんがテーブルに、見たこともないような高級老人ホームのパンフレットを並べました。どれも月額三十万円以上です。 「でも、これは……費用が……」 「ああ、費用は母さんの貯金と退職金で何とかなるだろう。元銀行員だったんだから、それなりに貯めているはずだし」 私の老後資金を当てにしているのです。そして、ついに決定的な一言が放たれました。 … Read more