「あなた、終わりましたね。」義妹にそう言った瞬間、家の中が凍りついた。いつも私をこき使う義両親も、冷たい目で私を見下す夫も、何が起きたのか分からずに固まっていた。でも、私はもう何も怖くなかった。従姉から届いた一通のメッセージが、私の人生を大きく変えることになるなんて、その時はまだ知らなかった。
夢さんが涙をこぼしながら、私に問いかけた。「どうしてリクをあの人に渡したの?私たちが育てたのに!」 私は静かに言った。「リクが自分で選んだのよ。お父さんと暮らしたいって。」 夢さんの顔がみるみる青ざめていった。「そんな…あの人は昔、全然売れてなかったのに。今は有名な作曲家のかず彦さんでしょ?どうしてリクが…」 「かず彦さんがリクの存在を知って、会いに来てくれたの。YouTubeにリクの動画を載せたのは、お父さんを探すためだったのよ。リクはずっとお父さんの話をしていたから…」 リクは私たちと暮らし始めてから、よく父親の話をするようになった。ある日、私はリクに「お父さんに会いたい?」と聞くと、彼は笑顔で頷いた。それから私はリクの父親の名前を調べ、SNSで同じ名前の人を探した。そして、その人にYouTubeの動画を見てもらえないか連絡を取った。かず彦さんは動画を見て返信をくれた。彼もリクを探していたようで、リクが大事にしているペンダントが映った動画を見て確信したらしい。 夢さんはその場で泣き崩れた。そんな中、兄が私に土下座してきた。「金を貸してくれ!」 やっぱり会社はそこまでやばくなっているのか。私はため息をついた。「お父さんたちから引き継いだ遺産はどうしたの?」 兄は両親が亡くなるまで実家で暮らし、いい年をして親のすねをかじっていた。父の会社を引き継いだが、経営は素人同然で、この7年で会社を追い込まれていた。遺産は高級車やタワーマンションの購入費に消え、危ない投資話に乗って資金を全て巻き上げられてしまったという。 「人のお金を当てにしないで、自分で何とかしなさいよ。」私はそう告げて、2人を玄関から追い出した。それでも2人は玄関の前で騒ぎ続け、近所迷惑だと思った夫が警察に電話してくれた。2人は連行されていった。 その後、2人の間に生まれていた子供へのネグレクトも発覚し、子供は施設に引き取られ、2人は刑務所に入ったそうだ。 一方、リクはかず彦さんのもとで作曲を勉強し、高校生とピアニストの二足のわらじで頑張っている。リクと離れると決めた時は悲しかったが、毎月欠かさず手紙で近況を教えてくれる。たまに娘のモコにも会いに来てくれるので、ちっとも寂しくない。 リクが家を出る時、「僕はおじちゃんとおばちゃんのことをずっと本当の親だと思ってたよ。僕のことを引き取ってくれてありがとう」と泣きながら言われた。そんな言葉をもらった私たちもしばらく涙が止まらなかった。 今はリクが演奏する曲を子供たちからリクエストされ、私もリクの曲を勉強中だ。これからもたくさんの子供たちの成長を見届けていきたいと思う。 私の名前はしおり。33歳の専業主婦だ。夫とは結婚して6年で5歳の娘がいる。結婚当初から義実家で同居しているのだが、義両親は私を火夫婦のように使う毎日だ。 夫の地元であるこの地域は昔ながらの小さな町で、田畑を耕している人が多く暮らしている。田舎特有の住民同士の距離感が近いのも特徴だ。義両親も田畑で農作物を作っており、都会から来た私に農作業や家事全般、さらには義両親がやるべき町内会の仕事の多くを押し付けるようになった。 私が抗議しても「これも嫁の務め」の一点張り。特にきつかったのは田畑での農作業だ。コンバインなどの機械を覚えるのに苦労した。 「本当に覚えが悪いね。こんなに何もできないなんて。あんたはどこのお嬢様なんだい。」 「すみません。お母さん。」 「キビキビ動かんか。そんなへっぴり腰で草をむいていたら、いつまで立っても作業が終わらんわい。」 「すみません。お父さん。」 きつい物言いの義両親に私は毎日謝り続けた。時には「バカ」「能なし」と私の人格を否定するような言葉が飛んできて、心身ともに疲れ果てていた。 夫に義両親と話してほしいと頼んでも、夫はヘラヘラと笑いながら「母さんたちも年だしさ。家族なんだから助けてやってよ」と適当にあしらう。私が食い下がろうとすると、夫は急迫な笑顔から一変して真顔になる。 「バカなお前が役に立てることなんか、母さんたちが頼む用事くらいのものだろう。他には何の取り柄もないんだから、文句を言える立場か。」 私はその冷たい目と言葉に何も言えなくなり、「そうね。頑張るわ」とぎこちなく答えるしかできなかった。結婚前はいつも優しくニコニコしていて、この人ならと思ったのに、結婚した途端にこの豹変ぶりだ。夫の笑顔はただのお面に過ぎなかったと知った時にはもう遅すぎた。暴力こそ振われないものの、夫はいつも私を冷たく否定するようになり、私はまさに孤立していた。 娘を授かったことだけが結婚生活で唯一の幸運だったと思っている。 「ママ。」 娘のマリは5歳になり、来年には小学1年生になる。幼稚園が終わって駆け寄ってきた娘を抱き止め、私は娘の頭を撫でた。ぼんやりと物思いにふけっていた頭を切り替える。 「今日ね、幼稚園でね…」 娘の話を聞きながら幼稚園から一緒に歩いて帰る時間が、1日の中で一番穏やかな時間だ。 「ママ、お手、痛い。」 不意に娘が心配そうに私を見上げてくる。娘と繋いだ方の手には田畑仕事でできた傷があり、絆創膏が張ってあった。 「ありがとう。でも大丈夫よ。」 私がそう笑いかけると、娘は安心したように表情を柔らげた。 「遅いじゃないか。子供一人迎えに行くだけに時間を使ってるんじゃないよ。」 帰宅するなり義母の鋭い声が飛んできて、私と娘は肩をすくめる。私はともかく、娘に対してくらい「お帰り」と笑いかけてあげてほしい。義両親は私だけでなく娘に対しても何かと冷たい。私に隠れている娘に「手洗いうがいをしてらっしゃい」と優しく声をかけると、義母から逃げるように洗面所に向かう娘を見送った。義母が鼻を鳴らす。 「ふ、しおりさん。あんた、もう子供を産むつもりはないのかね?マリももう5歳だろ。そろそろ男の子を産んでもらわないと。」 また始まった。私は内心大きなため息をつく。義両親は昔ながらの考え方の典型で、嫁は男の子を生むべきだと以前から口うるさく言われていた。 私が何も言わずに堪えていると、義母は「ああ、そうそう」と何か思い出したように声をあげた。「今年のお盆はリリコが家族みんなで一緒に帰ってくるって連絡が来たんだよ。あんたと違って男の子を2人も産んでいるんだから、経緯を持ってお世話しな。」 リリコさんは夫の妹で私にとっては義妹に当たる人だ。旦那さんと2人の息子、義妹の4人で都会で暮らしている。義両親のように自己中心的で、私はとても苦手だ。息子たちも血を色濃く受け継いでいるのか、しつけがなっていない。義妹はいつも年末年始くらいしか帰ってこないのに珍しいなと思った。何にせよお盆のことを考えると頭が痛い。義妹の息子たちと私の娘の相性の悪さも心配の種だった。旦那さんがまともな人なのでそれが唯一の救いだ。 「わかりました。お布団など干して用意しておきます。」 私は適当に返事をして2階に着替えに行こうとすると、義母の声が私の後を追ってくる。 「いい機会だからリリコに小作りのコツでも聞いてみたらどうだい?」 途端にカッと頭が熱くなり、デリカシーのなさに目前がした。振り返ると義母はニヤニヤとしていて気色が悪い。曖昧に笑い、私はさっと寝室にしている部屋に入るとスマホのロックを解除。 実を言うと私にはもう一つ楽しみがあった。それは子供の時から姉妹同然に仲良くしていた従姉(いとこ)とのメッセージのやり取りだ。従姉は私と同じく専業主婦で都会で暮らしている。お互いの家庭の愚痴を話せる唯一の存在で、従姉も家庭についてかなり苦労しているようだ。私も従姉も義両親と同居している身なので、長い間スマホをいじることはできないが、こうした隙間時間に返事のやり取りをするのがストレス解消法の一つになっていた。 私はたった今起きた義母とのやり取りの愚痴を聞いてもらおうとメッセージアプリを開こうとして指を止めた。すでに従姉から新着のメッセージが届いていたのだ。私はそのメッセージを読んで驚愕することになった。 それからおよそ1ヶ月後、お盆初日に義妹が子供2人を連れて義実家へと寄制した。息子たちしか連れていない義妹に、義母は首をかしげる。 「おや、旦那はどうしたんだい?」 「ああ、なんか仕事が忙しくなっちゃったみたい。」 義妹の返事に、「ああ、そうなのかい。残念だね。まあ、あんたたちはしっかり骨休めしなさいよ。」と義母は納得したように頷いた。 「庭で水遊びしようぜ!」 義妹の息子たちが玄関に荷物を投げ外へ駆け出していく。覗いてみると庭のホースをつないだ水道の蛇口を目いっぱい開き、大量の水を岩先にぶち負けて遊び始めていた。あんなに乱暴に水を巻いたら壁が汚れて掃除が大変だ。そばには義父が大事にしている盆栽もあるというのに。そんなことは気にもせず、義妹の息子たちはお互いギャーギャーと楽しそうに水と泥を浴びている。娘はどこだろうと目で探すと、上の部屋から義妹の息子たちが騒いでいる様子を眺めていた。 「はあ、疲れた。か、政府ご飯とお茶まだ?相変わらず気が効かないんだから。」 今に荷物を置き、ドカッと座布団に腰を下ろすとエアコンの温度をガンガン下げながら義妹は言った。どうせ火(私)とは私のことでしょうね。私は黙ってお茶を湯呑みに注ぎ、音を立てて義妹の前に置いた。乱暴に置かれた湯呑みからわずかにお茶がこぼれる。普段の私からは考えられない行動に驚いたのか、一瞬シンと室内が静まった。 「は、あんた、自分の立場分かってんの?」 ややあって義妹は眉を吊り上げた。そばにいた夫は目を丸くし、義両親も義妹用に怒りを競わにしている。いつもの私ならすぐに謝っていただろう。しかしこの日の私は違った。座った義妹を見下ろして私は口を開いた。 … Read more