「おばあちゃん、いつこの家から追い出すの?」無邪気な孫のその一言に、私は凍りついた。しかし、我が息子夫婦は笑いながら「あと少しの辛抱よ」と平然と言い放った。私は半年間、毎日のように「老人ホームに行け」「仏壇を捨てろ」と罵られ、家事を押し付けられ、部屋まで追い出されそうになっていた。でも、私はずっと黙っていた。彼らがハワイ旅行に出かけた瞬間、私は動き出した。そして、彼らが帰国した日、その高級マ…
「ねえ、ママ、このおばあちゃん、いつこの家から追い出すの? 」 無邪気な、しかし氷のように冷たい子供の声が、港区の高級マンションの広いリビングに響きました。その一言で、ダイニングテーブルの空気は一瞬で凍りつきました。 本来なら、親が慌てて子供を叱り飛ばす場面でしょう。しかし、私の目の前に座る嫁は注意するどころか、くすっと意地悪な笑みを浮かべたのです。 「もうちょっとの辛抱よ、翔太。おばあちゃんはね、今新しいお家を探している最中だから」 だが彼女たちは知りませんでした。数日後、ハワイ旅行から帰国した彼らを待っているのが、人生最大の絶望だということを。 東京タワーを間近に望む港区のタワーマンションの最上階。ここは亡き夫と私の長年の努力の結晶であり、老後の住まいとして購入した大切な場所です。広々としたリビングの窓からは、まるで宝石箱をひっくり返したような美しい東京の夜景が広がっています。 しかし今の私にとって、この豪華な部屋はただの牢獄に等しい場所になり果てていました。 テーブルの上に並べられたのは、高級な国産和牛を使ったすき焼き。一人息子の康一と嫁の美穂、そして小学3年生になる孫の翔太は、湯気を立てる霜降り肉を我先にと放張っています。一方、テーブルの端に座る私の目の前に置かれているのは、昨日の残りのひじきの煮物と、少し黄色く変色したご飯だけ。 「おばあちゃんはもうお肉なんて胃がもたれるお年でしょう? だから体に優しい和食の残りにしておきましたから。フードロスにもなりますし、感謝してくださいね」 嫁の美穂は、美しく整えられたジェルネイルをキラキラと光らせながら、悪びれる様子もなくそう言い放ちます。息子の康一はといえば、スマートフォンの画面から目を離すことなく、私の惨めな食事には見向きもしません。 「ああ、肉うまいな。やっぱり高い肉は違うわ」 康一は、私がこのマンションの所有者であり、自分たちを住ませてやっているという事実をすっかり忘れてしまったかのようです。 彼らがこの家に転がり込んできたのは、半年ほど前のことでした。 「母さん、一人暮らしじゃ寂しいだろう。俺たちが一緒に住んで面倒を見るよ」 夫を亡くして3年。広いマンションで孤独を感じていた私は、息子の優しい言葉に涙を流して喜びました。しかし、それは地獄の始まりに過ぎなかったのです。 引っ越してきて数日も経たないうちに、美穂の本性が現れました。 「私は専業主婦でずっと暇だったんだから、家事くらい全部やってくださいよ。私、子育てと自分磨きで忙しいんだから」 掃除、洗濯、料理。全ての家事を私に押し付け、美穂は毎日エステやママ友とのランチに出かけていきます。さらに彼女は、私のクローゼットから勝手にブランド物のバッグを持ち出し、自分のもののように使い回す始末。 私が少しでも文句を言おうものなら、 「誰が一緒に住んでやってると思ってるんですか? 嫌ならとっととボロボロの老人ホームにでも行けばいいでしょう」 とヒステリックに怒鳴り散らすのです。そして、そんな妻の暴言を康一は、 「母さん、美穂を怒らせないでくれよ。俺が疲れるんだから」 と見て見ぬふりをしていました。 「ねえ、ママ、僕ハワイでイルカに乗りたい! 」 翔太の声で、私はハッとして過去の記憶から現実に戻りました。 「ええ、もちろんよ。パパのボーナスも出たし、今回は最高級ホテルに泊まってパーっと遊ぼうね」 美穂は甲高い声で笑い、康一も満足げに頷いています。来週から彼らは一週間のハワイ旅行に行く予定でした。もちろん、私の旅費など出してくれるはずもなく、私はただの留守番兼無料の家政婦です。 「あ、そうだ。おばあちゃん」 美穂が、獲物を見つけた蛇のような冷たい目で私を見下ろしました。 「私たちがハワイに行っている間、おばあちゃんの部屋の荷物、全部まとめておいてくださいね。いえ、翔太が大きくなってきたから、おばあちゃんの部屋を翔太の専用プレイルームにしようと思うんです。だからおばあちゃんは、そうね、あの北側の窓のない物置みたいな部屋に移ってください。どうせ寝るだけなんだし、十分でしょう」 私の大切な夫との思い出が詰まった日当たりの良い部屋から、薄暗い物置き部屋へ追いやろうというのです。 私は膝の上でギュッと拳を握りしめ、ただ黙って俯きました。ここで怒ってはいけない。今騒ぎ立てては、私の計画が台無しになる。 私の沈黙を完全な屈服と捉えた美穂は、勝ち誇ったように笑いました。 「それから、私たちが帰ってくるまでに自分の身の振り方もちゃんと考えておいてくださいね。いつまでもこの家にいられたら、私たちも迷惑なんですから」 どこまでも私を見下し、私自身の家から私を追い出そうとする嫁。私はゆっくりと顔を上げ、心からの穏やかな笑顔を作って答えました。 「ええ、分かったわ。あなたたちが帰ってくるまでに、綺麗さっぱり片付けておくわね」 その言葉の恐ろしい真意を、愚かな彼らは知るよしもありませんでした。 翌朝、港区のマンションは朝から戦場のような騒ぎになっていました。 「ちょっとおばあちゃん、私のシルクのカーディガン、ちゃんとアイロンかけてないじゃないですか。ハワイのディナーで着るって言ったでしょう」 パッキングで散らかったリビングに、美穂の金切り声が響き渡ります。彼女はすでに大きな麦わら帽子に南国を思わせる派手な花柄のワンピースという、浮かれたリゾートファッションに身を包んでいました。 「ごめんなさいね。今すぐにかけるわ」 私がアイロンを出そうとすると、息子の康一が遮りました。 「もういいよ、母さん。時間がないんだ。向こうでクリーニングに出すから。全く、朝から俺をイライラさせないでくれよ。俺まで疲れるだろう」 康一はそう吐き捨てながら、新品の高級ブランドのサングラスを磨いています。孫の翔太はと言うと、ソファーに寝転がって携帯ゲームに夢中で、私におはようの挨拶すらしません。 私は何も言い返さず、ただ静かにアイロンを片付けました。これも今日までの辛抱。あの子たちが家を出るまでの、ほんのわずかな時間の我慢よ。そう心の中で唱えながら、私は彼らが散らかしたゴミをゴミ袋にまとめていきました。 なぜ私が自分の家でこんな惨めな扱いを受けているのか。実は、息子夫婦は大きな勘違いをしているのです。 彼らはこの一等地にある億を超える高級タワーマンションを、亡き父親が残した遺産で購入したと思い込んでいます。康一の父親、つまり私の夫・誠一は名の知れた大企業の部長まで務め上げました。だからその退職金と生命保険でこの家を買ったのだと、康一も美穂も信じて疑っていません。 しかし、現実は違います。夫の誠一は外では立派なエリートサラリーマンを演じていましたが、実は見栄っ張りで虚言癖でした。後輩に奢っては毎晩のように飲み歩き、退職金は彼が内緒で作っていた多額の借金の返済でほぼ消えてしまったのです。 私が途方に暮れていた時、私を救ってくれたのは私自身の秘密の蓄えでした。私は専業主婦として夫を支える傍ら、趣味で始めた投資や実家から相続した小さな土地の運用を、何十年もかけて地道に続けていたのです。夫の死後、私はその資金を元手に、自分自身の老後の安心のためにこのマンションを購入しました。 つまり、このマンションは100%私・静子の名義なのです。しかし、プライドの高かった亡き夫の名誉を守るため、私は康一に「お父さんの遺産で買ったのよ」と嘘をついてしまいました。それがこれほどの地獄を招くことになるとは、想像もせずに。 「おばあちゃん、聞いてます? … Read more