しげが、秘書を連れて家に帰ってきたのは、娘の就職が決まった日のことだった。ミカのお腹は、大きく膨らんでいた。「彼女が俺の子を妊娠した。今後はミカがこの家の奥様だ」と、しげは悪びれる様子もなく言った。しかも、「子供が生まれたら、お前らが育てろ」と、私と愛に押し付けてきたのだ。22年間、義家族の嫌がらせに耐え、娘・愛のためだけに生きてきた私に、残っていたのは、夫の愛人と、その子の世話役という役目…
あろうことか、しげは秘書のミカを連れて家に帰ってきた。ミカのお腹は大きく膨らんでいる。彼女が俺の子を妊娠した。今後はミカがこの家の奥様だ。デリケートな時期なので家事と子育てはお前らに任せるわね。心配しなくてもお前とはまだ離婚しない。ただし火政府として役に立たないならすぐに出て行ってもらう。 しげは悪びれる様子もなく、私と愛に、生まれてくる子を育てろと言い放った。これまでしげや義両親の嫌がらせに耐えてきたが、もう我慢ならなかった。その夜、私は愛と共にわずかな荷物をまとめ、誰にも気づかれないように家を出た。 玄関の外には、高級車が待機していた。少し前に、私と愛を助けてくれるという協力者が現れたのだ。その協力者のおかげで、私は実家の酒蔵のことも心配する必要がなくなった。そして密かに、しげとの決別に向けて準備を進めてきたのである。 私は野中幸、46歳の専業主婦だ。私の実家は代々続く酒蔵で、子供の頃から酒作りに励む祖父や父の姿を見て育った。毎年冬が近づくと、蔵人たちの声で活気が溢れ、日本酒の仕込みが始まる。米が蒸される匂い、熱気。そのどれもが冬の訪れを知らせる高齢行事だった。 当主を務める父は、待っている人のために最高の日本酒を作りたいと、惜しみない愛情を注いでいた。母は事務として働きながら、懸命に父を支えていた。こんな家庭に育った私は、大人になったら父の後を継ぎ、酒蔵を守っていくのが当然だと、子供の頃から父に酒作りの色派を学んでいたのである。 しかし私が大学に入学した頃、大手メーカーの勢いに押され、父の酒蔵は苦しい経営を強いられることとなった。大手メーカーの作る日本酒は、クオリティが高いだけでなく、価格も比較的安価で、広く一般に販売される。それに比べ、我が家の酒は材料にもこだわっていたため手間がかかり、製造本数も限られてしまう。その上、価格も高くなってしまうことで、手に取りにくいものだった。それでも本物にこだわり続けた父は、日本古来の米を使い続け、伝統を守り続けたのだ。その結果、私が大学を卒業する頃には経営が悪化し、酒蔵を維持していくことが困難になっていたのである。酒蔵を続けていくため、両親は毎晩のように頭を悩ませていた。 そんな時、後に私の夫となる、大手メーカーの温蔵師である野中しげが接触してきた。しげは父の酒蔵に金銭的支援をしてくれるという。しかしその条件として、私との結婚を望んだのだ。両親は、酒蔵を守りたいとはいえ、私を瞳悟空に出すことなどできないと、一度はしげの申し出を断った。しかし他に酒蔵を守る方法が見つからず、閉鎖するか私の結婚かと、苦重の決断に迫られていた。その姿を見ていた私は、自らしげとの結婚を受け入れたのである。私がしげと結婚すれば、代々続く酒蔵は守られ、祖父や父が愛した酒を広く世に知ってもらうこともできるだろう。7歳も年上のしげとの結婚に乗り気にはなれなかったが、酒蔵にとってはプラスになることは間違いない。私自身も酒蔵を守りたかったのだ。そのためなら、制略結婚も区ではなかったのである。 しかしながら、しげとの結婚生活は苦痛の積み重ねばかりだった。 結婚してから分かったことだが、しげは私を味めたのではなく、実家が保有する独自の酒像特許を格安で手に入れるために私に目をつけたのだ。経営に陥っている中、資金支援の交換条件とすれば、断ることもできないだろう。私と結婚し、義理の家族になってしまえば、実家の酒像を使うこともできる。それを目論でのことだった。それでもお互いの理害関係が一致したのであれば問題ない。そう思っていた。 当時のしげは、バ一で全は愛人を作って家を出て行ったのだという。同居する義両親は、断るごとに前妻の悪口を私に聞かせた。前の嫁は受けた恩も忘れて男と逃げた不定女なの。やり直したいって頭を下げてきても、2度とこの家の式はまたせないわよ。野中家の核を汚した届き物だ。君がもし前の嫁のようになるなら、容赦なく実家の酒像を潰す。それをちゃんと覚えておくことだ。 酒蔵のことを思えば、何があってもしげと離婚することは考えられない。しかしそれをいいことに、しげと義両親は私に冷たく当たったのだ。特に日中ずっと家にいる義母は、必要に嫌がらせをしてきた。家事の1つ1つに文句をつけ、料理の味が薄い、掃除が雑だと、何かにつけて出来底ない嫁だとしってきたのだ。しげは義母の嫁いりを見ても、何ひとつ助けてくれず、嫌ならいつでも離婚してやると言い放つだけだった。 ここに私の居場所はない。疑実家での生活は、私にとって牢獄とかしていたのである。 しかし結婚から1年が経った頃、状況が一変した。私のお腹に、しげの子が宿ったのだ。妊娠が分かると、義家族たちから嫌がらせを受けることもなくなり、平穏な日常が訪れた。義母は初孫の誕生を心待ちにしているようで、それまで私に丸投げしていた家事でさえ、手伝ってくれるようになったのである。元気な子供を産むまでは油断せずに、ちゃんと体を大事にしなきゃだめよ。嘘のように手のひらを返す義家族たちに呆れながらも、明るくなった未来を喜んでいた。 ただ1つ気がかりだったのは、義家族たちは生まれてくる子が男の子だと決めつけていたことだ。野中家の後として、俺が立派な男に育ててやる。父さんに世話してもらったら、息子の将来も安泰だな。生まれてくる子の性別も分からないうちから男の子と決めつけ、勝手に話を進めていく義家族たちに、不安しか生まれなかった。生まれてくる子が女の子だったとしたら、彼らはそれでも可愛がってくれるのだろうかとも考えた。野中家の嫁に来たんだから、元気な男の子を生むのよ。お腹が大きくなるにつれ、義家族たちの期待は大きくなっていった。それと比例するように、私の中の不安も大きく膨らんでいったのである。 私の不安よそに、お腹の子はスクスクと育っていき、やがて月を迎えた。もうすぐ会えるんだな。え?いつ生まれてもおかしくないわよ。子供が生まれたら、野中家の安泰だ。それまで私に冷たかったしげでさえ、毎日のように早く帰宅するようになり、出産を心待ちにしているようだ。 そして迎えた出産の日、3時頃に気づいた私は、義家族に付き添われながら病院へと向かった。立派な男の子を産んでくるのよ。義家族たちは、私が男の子を生むと信じてやまなかったのだろう。数時間後、生まれた子供を見て、義家族たちはがっかりした顔を見せた。生まれてきたのは、女の子だったのだから。妖夢の勤めを果たせないなんて、あなたに期待した私たちがバカだったわよ。役立たずが、結婚してやった恩を忘れたのか。 しげと義両親は、私に暴言を吐きかけ、家に帰ってしまったのだ。生まれたばかりの我が子を見つめながら、悲しくて仕方なかった。しげと義両親に嫁として失格と楽園をされ、私の未来が閉ざされたのだと思った。それでも、生まれてきた子は無邪気に笑っている。小さな手をぎゅっと握りしめ、必死に乳を吸う我が子は、私に勇気を与えてくれた。 この子を一生守って見せる。娘に愛と名付け、私はどんな状況になっても彼女の盾になると決めたのだ。 それからの毎日は、悲惨なものとなった。退院して愛と共に疑実家に戻った私に待っていたのは、奴隷のように扱われる日々だったのだ。義家族たちは、私のことをしげの妻としても見なくなり、無級の火政府として接するようになった。 私は義家族が起きるよりも早くに起きなければならず、夜は皆が寝静まるまでベッドに入ることも許されない。愛を抱えながら家事の全てをこなさなければならず、愛が泣くことさえも避難される。食事は同じ食卓につくことを許されず、自由に食べることもできない。私と愛の食事の量は極端に減らされ、義家族たちと同じものを食べることも禁止された。そのため食事はいつも、義家族の残り物か漬け物と白米のみという失素なものとなったのだ。 外出する際も、家の買い出し以外は義母の許可がない限り許されず、たまにかかってくる電話も、誰から何の用事だったのかも報告しなければならなかった。 どうしてこんな仕打ちを受けなければならないんですか? 被害者なんだから、文句を言う権利はないわよ。離婚せずに火政府として置いてやってるんだ。ありがたいと思え。 しげたちに意見しようものなら、容赦なく暴言が飛んできた。しいげられ続ける毎日は、私の心をむしばみ、精神的に私を追い込んでいったのだ。 そんな中、唯一の救いは愛の存在だった。どんな状況に置かれていても、愛は無邪気に笑いかけてくれる。願りを打てるようになり、立ち上がり歩けるようになって、愛の成長が私に希望を持たせてくれたのだ。実家の酒像を守るため、愛の笑顔を守るため、私は耐えなければならない。そう自分を噴気させることができたのだ。 しかし、義家族たちの理不尽は、やがて愛にも及ぶようになった。 ある夜、3歳になった愛が夜泣きをした日があったのだが、その声で起こされたと激怒した義母が、部屋に乗り込んできた。 何時だと思ってるのよ。すみません。すぐに泣きませますから。いいえ、ご近所に迷惑をかける子には、きっちりお仕置きが必要よ。義母はそう言うと、泣いてる愛の手を引っ張り、無理やりリビングにあるベランダへと連れて行ったのだ。 何をするんですか? 反省するまで、部屋に入れることは許さないわよ。あろうことか、義母はまだ小さな愛を、冬のサム空の下に追い出したのだ。 寒さと恐怖で泣き裂叫ぶ愛は、必死に助けを求めている。それでも義母は、私が愛に近づけないように、部屋に鍵をかけてしまった。 お願いします。愛を許してやってください。お願いします。うるさい。これ以上騒ぐなら、本当に追い出すわよ。 いくら頼んでも義母は許してくれず、部屋の鍵を開けることはなかった。窓の外からは愛の泣き叫ぶ声が聞こえ続けているが、どうすることもできない。もかしさと悔しさで涙が溢れた。ただ願うのは、愛の無事ばかりだった。 助けを呼ぼうとスマホを手にしても、どこにかけていいのかも分からない。警察や消防に通報すれば、義家族の嫌がらせは一層ひどくなるだろう。だからと言って実家の両親に連絡するわけにもいかず、私は自分の不害なさに打ちひしがれたのだが ようやく義母が鍵を開けてくれた時には、外は白じみ始めていた。大急ぎで愛の元に駆けつけると、彼女は唇を青くしながらぐったりしていたのだが、あい、大丈夫。意識はあるものの、愛の体は冷え切っていて震えている。愛を抱き抱え、温かい毛布で包み、病院へ連れて行こうとしていると、そこにしげがやってきた 病院に行くことは許さない。 愛が死んでしまったらどうするの? 他人の精士よりも、野中家の恥を世間にさらす方が問題だ。しげは私から、スマホと財布を取り上げたのだが、そんな愛はあなたの子よよ。女を梅と誰が言った? 俺たちの期待にも答えず、無駄飯を食うだけのやつは俺の子じゃない。 しげから放たれた言葉は、耳を疑うものだった。どんなに冷たく扱われていても、実の我が子であることに変わりはない。愛が成長するのと同時に、いつかしげも愛情を持ってくれるのではないかと、心のどこかで淡い期待をしていたのだが、しかしその期待はもろく打ち砕かれてしまったのである。 愛に温かい飲み物を飲ませ、ベッドに寝かせると、安心したように眠り始めたが、時折、悲しそうに涙を流していた。その姿を見つめ、ただ謝るしかできない自分が情けない。 数時間後、玄関のチャイムが鳴り、児童相談所の職員が訪ねてきた。どうやら夜中に泣き裂けば愛の声を聞きつけた近所の人が、通報したらしい。事実確認をしたいと、愛に面会を求める職員を招き入れると、義母が、必要そうな表情を浮かべながら、嫁が育児の色になっているようだと訴えたのだ 昨夜は子供の鳴き声に嫌気がさしたようで、ベランダに締め出してしまって、ご近所に迷惑をかけたことは申し訳ないわよ。しげは職員に、今後は自分たちがしっかり支えていくと約束し、ベッドで眠る愛の姿を確認した職員は、そのまま帰ってしまったのだが、愛を助けることができるかもしれないと期待した私は、絶望官に襲われた 助けてもらえるなんて思わないでよ。あんたたちに逃げ場はないのよ。嫌味な笑みを見せる義母に、殺意さえ湧いてくる。それでも私は、愛と実家のために、耐えるしかなかったのだが、その日以降、私が娘を虐待しているという噂が近所に広まり、周囲から白い目をを向けられるようになり、買い物に出ることさえ苦痛になった。 そんな日々が続く中、いつしか私の心は限界を迎えていた。命じられた仕事をこなし、呆然と過ごすだけの日々。家族たちの嫌がらせでさえ、何も感じなくなり、心を閉ざしてしまったのだが、愛以外とは言葉を交わすこともなくなり、義家族たちの奴隷と化したのである。 月日は流れ、愛は中学生になった。不遇な環境にも負けず、彼女はしっかりと自分の意思を持って前を向いてくれている。その姿が私に勇気を与えてくれた。 中学を卒業する頃には、愛は義家族たちが私に嫌がらせを行うたび、抗議するようになり、度々怒鳴り合うようになったが、どうしてママにそんなことをするの? 口応えするなよ。誰のおかげで飯が食えているか考えろよ。嫌なら出ていけよ。そしたら、大好きなママの実家もおしまいだぞ。 下家族たちは、無能な私が悪いと愛に吹き込んだ。 しかし愛は、理不尽な扱いを受ける理由が分からないと、抗議をやめなかった。それに腹を立てた義家族は、愛の教育費でさえ最低限に絞り、塾や参考書購入の費用でさえも無駄だと出しをしんだのである。 愛は将来弁護士になりたいと頑張っているんです。父親としての責任くらいは果たしてください。だめだよ。必要な義務教育は受けさせてやってるんだからなよ。それ以上は、一の金も出さんぞ。 義家族たちは、愛が勉強することももったいないと言い放ったのだが、それじゃ、私がパートに出ることを許してくださいよ。そんなこと認めるわけないでしょ。大体、経営者の身内がパートだなんて、世間定が悪すぎるわよ 愛の夢を応援したい気持ちがあっても、何もしてやれない自分が情けない。義家族たちは、愛の教育費だけでなく、部活動をすることも禁じ、修学旅行でさえも、お金の無駄だと認めなかった。多感な時期に、友達との交流も満足にできず、愛のフラストレーションはたまりに溜まっていっただろう。自分の置かれた教遇を嘆き、時折、思い悩む姿を目にした。それでも愛は、決して私を責めなかったのだが、学校が終わってすぐ家事に追われる日々が続いても、ママのせいじゃないと、懸命に耐えてくれた。 当然のことながら、愛が大学に行くことも許されない。女に共養は必要ないと言われ、仕方なく愛は高校を卒業して就職する道を選んだのである。このままでは、愛が野中家の火政府としてこき使われる道は避けられない。愛にだけは私と同じ道を選ばせたくないと思った私は、どうにか現状を打破できる道はないものかと模索したのだが、そんな中、愛が二十歳を迎えた頃、しげが秘書のミカを連れて帰ってきた。よく見ると、ミカのお腹が大きく膨らんでいる。 妊娠されてるんですか? … Read more