「離婚します。」
私の声がリビングに響いた瞬間、四周は凍りついた。正月のめでたい席で、私は義母と義姉に侮辱され続け、ついには夫・健二に髪を掴まれて揺さぶられた。その時、私は悟った。この人たちにとって私は家族ではなく、ただのお金を運ぶATMでしかなかったのだと。
結婚して3ヶ月目のこと、健二が突然「俺、会社を辞めて専業投資家になろうと思うんだ」と言い出した。彼は私の父から譲り受けたビルの賃貸収入を当てにしていた。私は彼の夢を信じて会社を辞めた。しかし5年間で、彼の投資はことごとく失敗し、実家から受け取った資金は消えていった。
それでも健二は「もうすぐ大当たりが出る」と繰り返すだけ。義母の良江は、私の実家の資産を探り、義姉の亜子は事業資金と称して何度もお金を引き出した。そして今日、正月の席で、健二が私の髪を掴んだ。
「少しはしっかりしろ!お前のせいでどんな恥ずかしい思いをさせられるんだ!」
その言葉で、私の中で何かが完全に切れた。私は震える声ではっきりと言い放った。
「手を離しなさい。……私の髪を掴む資格は、もうあなたにはない」
私は家を飛び出し、弁護士である兄の京兵に電話をかけた。兄は冷静に言った。
「証拠を集めるんだ。感情は法廷では何の力にもならない」
そして兄の知人から、録音機やカメラを渡された。私は義の実家に戻り、完璧な嫁の演技をしながら証拠を集めることにした。姑が「倒れた」と騒ぐ芝居にも乗った。ベッドに横たわる良江の目は、はっきりとしていた。
「小母様、私が看病します」
私はそう言って、彼らの家に潜り込んだ。夜中に録音機を仕掛け、夫の書斎にもカメラを設置した。
数日後、録音を確認していると、良江と亜子の声が聞こえてきた。
「このまま大人しくしてくれていれば、財産を奪いやすいわね」
「しおりは、アザブの商業ビルのことなんて知らないんだから安心だわ。あれ、最低でも50億円は超えるからね」
私は息をのんだ。父が私の名義で買っておいたビルのことだ。そして、健二の書斎の録音もあった。彼は「弓」という女と電話で愛をささやいていた。
「しおりから金をできるだけ巻き上げよう。弓、もう少しだけ待ってくれ」
私はさらに調べを進めた。小川弓という30歳の女がいた。ピラティススタジオのオーナーで…妊娠していた。健康で幸せな日々を、彼女はもう取り戻せないかもしれない。私は決意した。全てを終わらせるために、最も効果的な瞬間を狙うことを。
土曜日の午後、義の親戚が全員集まった。私はタブレットとスピーカーをリビングに持ち込み、証拠を再生した。姑と義姉の悪口、夫と弓の会話、妊娠の話、全てがスピーカーから流れ出した。
「家族の会話の録音は証拠として認められます。私の兄は弁護士ですから」
私は最後に、父がくれた古い契約書の話をした。良江が脱税のために父の名義を借りて買ったビルの件だ。私は国税庁への通報済みを告げた。
「これからは、全て取り返します。慰謝料5億円、財産分与、そして名義不動産の返還。あなたたちの人生は、これから無一文になるでしょう」
私はそう言って、玄関を出た。誰も止めなかった。
1週間後、国税庁の調査官が良江の家に押し寄せた。脱税額は10億円を超えると推定された。健二は会社を辞め、自己破産し、アパートの小さな部屋で配達の仕事をしていた。弓は自分の妊娠だけを理由に、健二から養育費を請求した。
そして3年後、私は都内のタワーマンションの最上階にいた。兄と一緒に会社を立ち上げ、成功していた。ある日、スーパーで健二を見かけた。彼は割引きコーナーで、150円のおにぎりを選んでいた。私はただ通り過ぎた。彼のことはどうでもよかった。
夜、私は展望台に立ち、夜景を見下ろした。君は、私の人生から永遠に消え去った。もう、振り返ることもない。私は自分の人生を、自分の力で築き始めたのだ。



