夜遅く、夫が泥酔して帰ってきた。介抱していたのは、私の高校時代の後輩だった。彼女は夫が通うキャバクラで働いていると言い、それからなぜか頻繁に我が家を訪れるようになった。ある日、リビングで抱き合っている2人を見つけた。夫は悪びれもせず「俺たちは愛し合ってる」と言い放った。家を出ていった夫の口座からは数百万円が消え、母から譲り受けた宝石もすべてなくなっていた。そして半年後、音信不通だった夫から突…

夜遅く、夫が泥酔して帰ってきた。介抱していたのは、私の高校時代の後輩だった。彼女は夫が通うキャバクラで働いていると言い、それからなぜか頻繁に我が家を訪れるようになった。ある日、リビングで抱き合っている2人を見つけた。夫は悪びれもせず「俺たちは愛し合ってる」と言い放った。家を出ていった夫の口座からは数百万円が消え、母から譲り受けた宝石もすべてなくなっていた。そして半年後、音信不通だった夫から突...

夫の純平から突然電話がかかってきたのは、あの日から半年後のことだった。

「話がしたいんだ」

音信不通で家を出ていった男が、今さら何を言うつもりなのか。私は怒りで手が震えたが、こちらにも言いたいことは山ほどあった。駅前の喫茶店を指定し、ドアを開けると、そこには見るも無惨な姿の純平がいた。髪はぼさぼさで、服は薄汚れている。

「何があったらそんなに見すぼらしくなるの?」

私の問いに、純平は安心したように笑いながら、こう言ったのだ。

「やっぱあいつは無理だったわ。収入もないっていうのに贅沢ばっかで、ただの金食い虫だったんだよ」

高校時代の後輩だったリナと駆け落ちしたはずの夫が、たった半年でリナの悪口を言い始めたのである。

私は高校時代、父が経営する電気メーカー・木さぎ電気グループの社長令嬢として育った。父は礼儀作法に厳しく、人を大切にできない者が上に立つ資格はないと、耳にタコができるほど言い聞かせてきた。私もその教えを守り、謙虚に生きてきたつもりだった。偉大なのは自分の実力ではなく父であって、私ではないと理解していたからだ。

今から8年前、大学卒業を控えた私は友人たちと卒業旅行に出かけていた。卒業後は父の会社で経営を学びながら資金を貯め、やがて自分の会社を起業する予定だった。しばらく旅行もできなくなると思い、初日の夜は友人たちと飲みすぎてしまった。酔いを覚まそうと夜風に当たりながら散歩をしていると、前方に数人の男性グループがいた。かなり酔っているのか、大声で騒いでいる。横を通り過ぎようとすると、一人の男が私を呼び止めた。

「俺らと一緒に飲みに行こう」

「結構です」

私は断ったが、男たちは行く手を阻み、執拗に絡んできた。「ちょっとくらいいいじゃん。俺らと楽しもう」と腕を掴まれ、強引に連れて行かれそうになった。必死に抵抗しても男の力は強く、どうしようもなくなりかけたその時、後ろから声が聞こえた。

「やめないか。警察に通報した。捕まりたくなかったら、その子を解放しろ」

その一言で酔っ払いたちは慌てて逃げ去っていった。私は助けてくれた男性に何度もお礼を言った。男性は「気にしないでください。困っている人を助けるのは当然のことです」と優しく微笑み、怪我はないかと気遣ってくれた。後日改めてお礼をしたいと言うと、彼は「お礼なんていいよ」と断ったが、私は気が済まず連絡先を教えてもらった。

「僕は純平。剣の町に住んでる」

「剣の町なら私と同じですね」

純平は私と同じ町に住む会社員だった。父が贔屓にしているレストランを予約してお礼の食事をすると、純平は少し驚いた様子でこう言った。

「こんな素敵なレストランなんて初めてで緊張するよ」

「父の行きつけなんです。私も特別な時しか来ませんよ」

食事をしながら旅行の時の話をしていると、純平の緊張もほぐれたようで、自分の趣味や家族の話をしてくれた。純平は早くに両親を亡くし、今は中小企業で働きながら一人暮らしをしているという。

「お仕事はどんなこと?」

「今はKY伝説で働いてるよ。働き始めて随分立つけど、未だに中間管理職から抜け出せない」

KY伝説といえば、父の会社の子会社だった。遠い旅先で出会った純平が同じ町に住んでいて、さらに父の会社とも繋がっている。何かの縁かもしれないと私は思った。

純平との出会いが単なる偶然とは思えず、その後も連絡を取り合い、やがて交際に発展した。7歳年上の純平は大人の余裕があり、デートの時はいつもレディファーストで紳士的だった。仕事が多忙なのにいつも私を気遣ってくれる純平のことが、私は大好きだった。

交際から3年が経った頃、純平から海沿いのイタリアンバルに来てほしいと言われた。普段は大衆向けのお店が多い中、珍しくおしゃれな店を選んだ純平に驚きながら、何かあるのかもしれないと期待が膨らんだ。メインを食べ終えた頃、店内の照明が暗転し、静かな音楽が流れた。ウェイターがスイーツを運んでくる。ガラスの蓋を開けると、チョコレートのオブジェの上にプレートが置かれていた。

『結婚しよう』

その直後、純平が私の前に膝まづき、指輪を差し出した。

「僕と結婚してください」

「もちろんよ。よろしくお願いします」

嬉しくて涙が溢れた。数日後、結婚の挨拶に純平を家へ連れて行くと、父は「お前が決めた相手だ」と一切反対せず、結婚を許してくれた。安心した純平は家を出るなり大きなため息をついた。

「はあ、緊張した。反対されたらどうしようかと思ったよ」

それから半年後、私たちは結婚した。結婚式は父が全面的に資金援助し、豪華なものとなった。木さぎグループの幹部たちに加え、各業界の重鎮たちが顔を並べる。その中には純平が勤めるKY伝説の社長の姿もあった。式の後、純平は父に何度も感謝の気持ちを伝えた。

「これからは君がやよいさんを守っていってやってくれ」

「はい。必ずやよいさんを幸せにします」

家族4人で夕食を囲みながら、私は幸せを噛みしめていた。

しかし結婚した途端、純平は毎日帰りが遅くなり、酒の匂いをさせて帰ってくるようになった。

「毎日飲み歩いてるの?」

「取引先との付き合いだよ。俺だって結婚早々飲みにばかり行きたいわけじゃない。父さんの期待に答えたいと仕事を頑張っているんだ」

「やよいさんに不自由な思いをさせないように俺だって必死なんだ」

純平の気持ちが嬉しかった。仕事でも父に認めてもらえる成果を出し、社長令嬢としてではなく私を妻として幸せにしたいと言ってくれているのだ。

「あまり無理しすぎないでね」

「ああ、分かってるよ」

その数日後、父の用事で純平の勤める会社を訪れた時のことだった。エレベーターで純平の同僚と一緒になると、同僚から「同期の純平が次期社長だなんて羨ましい限りです」と言われた。

「え?それはいつもキャバクラで自慢してますよ。よほど嬉しいんでしょうね」

純平は木さぎ電気を父から受け継ぎ、自分が社長になるのだと自慢しているという。父はまだ後継者を決めていない。大きなグループなだけに父の一存で決められることでもないし、私の夫というだけで社長になれるわけがない。それでも純平が毎日遅くまで頑張っていることを考えると、可能性を否定することもできなかった。私は純平の頑張りを支えようと誓った。

結婚から1年が経った頃、夜遅くにインターホンが鳴った。モニターには泥酔した純平を抱えたリナが映っている。リナは私の高校時代の後輩だ。なぜ彼女が純平と一緒にいるのか。玄関を開けると、リナは「純平さんが飲みすぎて潰れたから送ってきた」という。

「純平と一緒だったの?」

「私が働いてるキャバクラのお客さんのよ」

リナは高校卒業後、モデルとして活動していると聞いていたが、実際にはそれだけでは食べていけずキャバクラでアルバイトをしていたらしい。純平はリナが働くキャバクラの常連で、彼の話から私の夫だと分かったのだという。

数日後、私はリナを食事に招待した。手料理を囲みながら昔の話に花を咲かせる。リナは高校時代から周囲の人気を独り占めしていたのに、どういうわけか私に懐いて、休み時間になるたび私の教室を訪れてきたのだ。

「あの頃から先輩は私の憧れだったんですよ」

「どうして私を?」

「だって学校中の男子が狙っている美人令嬢だったんですよ。先輩の周りにはいつも人がいっぱいで本当に羨ましかったんです」

リナの憧れは卒業後も続き、少しでも私に追いつこうとモデルになったという。それほど慕ってくれる後輩に、私は悪い気はしなかった。それからというもの、時々リナを食事に招待するようになった。モデルとして成功したいと夢を追いかけ努力している彼女を、少しでも応援してあげたくなったのだ。

「先輩は本当に料理上手ですね」

「そう言ってもらえると嬉しいわ」

リナが遊びに来る日は、普段帰りの遅い純平が早く帰宅するようになった。最初は単なる偶然だと思っていたが、どうも怪しい。

「毎日こんな美味しい料理が食べられるなんて純平さんは幸せですね」

「週末くらいしか食べられないけどな」

ある日、トイレからリビングに戻ろうとすると、純平とリナの話し声が聞こえてきた。

「先輩にバレてない?」

「大丈夫だ。あいつは俺の言葉を信じてるから」

「よかった。大富豪の先輩を敵に回したくないから十分気をつけてよ」

私はリビングのドアを開けた。

「何がバレたら困るの?」

2人は焦ったように顔を見合わせ、「実は今度の先輩の誕生日にサプライズしようとして」と言い訳をした。しかし私の誕生日はまだ3ヶ月以上先で、仮にそれがバレたとしても私が怒ることではない。2人が嘘をついているのは間違いなかった。

さらに数日後、そろそろ帰ると言ったリナに、純平は「送ってくよ」と腰を上げた。それまでは「気をつけて」と見送るだけだった男が、一体どうしたのか。純平は「最近変なやつにつけられている気がするとリナが言っていたから」と説明したが、リナからそんな話を聞いたことはなかった。

「先輩に心配かけたくなくて黙ってたんですけど」

リナは不安な表情を浮かべるが、私の中の疑念は大きくなるばかりだった。

それ以降、リナが遊びに来るたび純平は彼女を送りに出かけるようになった。家から30分程度の道のりだというのに、1時間半を過ぎても帰ってこない。何をしていたのか尋ねると、純平は「特に何も」と答えるだけだった。

しかしある日、決定的な場面に出くわしてしまった。仕事から家に帰ると、玄関に純平の靴と一緒にリナの靴が置かれている。また遊びに来たのかと思いリビングに向かうと、ソファーで抱き合っている2人がいた。

「何してるの?」

「あっ、これはその…落とし物を取ろうとしたはずみで…そういう関係では…」

リナは必死に苦しい言い訳を繰り返した。

「どういうことかしら?純平」

「ああ、そうだよ。俺たちは愛し合ってる」

純平は悪びれる様子もなく、あっさり不倫を認めた。信じられなかった。私の家で夫に手を出したリナも、後輩に手を出した純平も最低だ。私は2人を家から追い出した。純平は私という存在がありながらリナと関係を持ち、挙げ句の果てに堂々と愛してると言い放った。その事実が私の中に重くのしかかり、純平との将来を考えられなくなった。純平は仕事の付き合いだと偽り、キャバクラに通ってリナに会いに行っていた。リナが家に来るたび「送っていく」という紳士的な行動を見せていたのも、私の目を逃れて2人で結ばれるためだったのだろう。底知れぬ怒りが湧き上がり、涙が止まらなかった。

「純平と離婚しよう」

離婚を決めた私は翌日、弁護士事務所を訪れた。純平と直接話したくない。慰謝料の問題や財産分与もしっかり専門家に任せた方がいいと思った。しかしその日家に帰ると、リビングのテーブルに手紙と一緒に離婚届が置かれていた。

『本物の愛を見つけた。探さないでくれ』

純平の部屋を確認すると、洋服とスーツケースが消えていた。夫婦の共同口座からは数百万円が引き出され、私が母から譲り受けた宝石が全てなくなっていた。2人は私と話し合うこともなく、リナと駆け落ちしたのだ。リナのアルバイト先であるキャバクラに問い合わせると、彼女は急に辞めると告げ姿を見せていないという。2人のスマホに電話しても応答はない。飲み込み先のKY伝説に連絡すると、前日のうちに退職すると連絡があり出社していないという。その後も2人の行方は分からなかった。

父はひどく憤慨したようだが、それでも「前を向くしかない」と私の背中を押してくれた。それからというもの、私は純平のことを忘れるように仕事に没頭した。父の会社で新規事業の立ち上げに邁進し、すべてを取引先との商談に捧げるうち、自然と心も落ち着いていった。

しかし半年ほど経った頃、音信不通だった純平から突然電話がかかってきたのだ。

「話がしたいんだ」

今さら何の用だと怒りが込み上げた。手紙一つで家を出ていったのに、謝罪の言葉もなく会いたいと言うのか。私も彼に言いたいことは山ほどある。数日後、私は駅前の喫茶店を指定し、純平と待ち合わせた。

時間通りに店を訪れると、すでに純平が待っていた。髪の毛はぼさぼさで、身につけている服も薄汚れている。

「やっぱあいつは無理だったわ。収入もないっていうのに贅沢ばっかで、ただの金食い虫だったんだよ」

純平は私の顔を見ると、安心したようにリナの悪口を言い始めた。リナは純平が社長に気に入られるほど優秀なエリートだと勘違いしていて、彼ならどんな会社でも高い給料で受け入れてもらえると考えていたらしい。しかし業界で純平を雇ってくれる会社はなく、日払いのアルバイトで食いつぐしかなかった。それでもリナの浪費は止まらず、あっという間に純平の貯金は底をついた。

「俺に金がなくなった途端、あいつはいなくなったんだ。リナは稼げない男は不要だと言い家から出ていった」

正直なところ、純平とリナがどんな生活を送っていたのかなどどうでもよかった。身勝手に駆け落ちした2人なのだから不幸になるのは当然だ。

「今までどこにいたの?」

「リナのマンションだよ。でもあいつがいなくなったら、すぐに追い出される」

純平は困った顔を見せた。

「それは大変ね。それで話って何?」

「金がないから、元さやで一緒に暮らそう」

「は?何を言ってるの?」

純平は平然とした顔で、私に復縁を求めてきた。

「まだ俺のことが好きだろ。だったら元に戻れるよ」

「呆れたわね。悪いけど、あなたに未練なんかないわ」

私の言葉に純平は動揺を見せた。

「今日ここに来たのは、正式に慰謝料を請求するってことを伝えたかったからよ」

「おい脅すなよ。やよいは俺がいなきゃダメだったじゃないか」

「いつまでも昔のままだなんて思わないで」

私はテーブルに自分のコーヒー代だけを置き、今後は二度と近寄らないでと忠告し、店を後にした。

しかしその直後から、純平は矢継ぎ早にメッセージを送ってきた。

『親父に頼んで元の職場で働けるように取り計らってくれ』

純平はどれだけ図々しいのか。呆れながらも、私は「子会社とはいえ社員の人事を父が取り計らう立場にありませんし、私も無関係です」と要求を拒否した。

『だったら俺に親父さんの会社を継がせてくれ』

さらに図々しいメッセージが届いたが、私は既読スルーすることにした。

しかし純平はしつこく連絡してきた。『俺を上にさせる気はないのか』と怒りマークを多用したメッセージが連日連夜送られてくるようになり、スマホの充電はすぐになくなってしまう。仕事中でも通知音が鳴り止まず、私は弁護士に対応を依頼することにした。その上で、純平に財産と宝石の返還、そして不貞行為に対する慰謝料を請求し、今後の交渉は弁護士を通すように通告した。

ようやく純平からの連絡が途絶えたかと思うと、今度はリナからメッセージが届くようになった。

『ケチな男なんてこっちから願い下げです。誰か素敵な人を紹介してください』

何事もなかったかのように送られてくるメッセージに、怒りを通り越して呆れてしまう。おそらくリナは、社長令嬢の私であれば収入のいい男性が大勢寄ってくるとでも思っているのだろう。私は「あなたに対しても慰謝料を請求します」とだけ返信し、今後の連絡は弁護士を通すようにと冷たく突き放した。

それから数日後、仕事帰りに駅へ向かうと純平が待ち伏せしていた。

「慰謝料なんて大げさだ。考え直せ」

何も言わず通り過ぎようとする私の前に立ちふさがり、一方的に話し始める純平。慰謝料の支払いを冗談のように笑ってやり過ごそうとしている。私は無言のまま弁護士に電話をかけ、状況を説明して電話を純平に代わった。弁護士から「今後接近するなら法的措置も辞さない」と言われた純平は、すごすごと退散していった。

私との復縁も叶わず、慰謝料に加えて持ち出した財産の返還も免れないと焦った純平は、木さぎ家の本宅を訪れた。父に泣きついて助けてもらうつもりだったのだろう。しかしかつて豪邸のあった場所は、遺構もなく更地になっていた。実は純平が逃亡した直後、父は会社を信頼できる後継に託して自身は会長職となり、兼ねてより願っていた沖縄への移住を果たしていたのだ。それを機に私は父の会社から独立し、スタートアップ企業を立ち上げた。

1ヶ月後、注目すべき経営者として私のことが雑誌で取り上げられた。それを見た純平は、図々しくも私の会社に押しかけてきた。

「立ち上げたばかりで人手不足だろ。俺を雇え。もちろん役員待遇で」

純平は元夫の自分であれば役員が当然だと居丈高だが、聞くつもりなどない。私は何も言わず警備員を呼び、純平を出入り禁止者として追い出してもらった。

しばらくして、今度はリナからも助けを求めるメッセージが送られてきた。リナの実家は地方で小さな飲食店を営んでいたが、来客のほとんどが木さぎ電気関連の会社で働く社員たちだったのだ。間接的とはいえ父からの恩恵を受けていたリナの両親は、娘が社長令嬢の夫を奪い恩を仇で返すような真似をしたと周囲から白い目を向けられ孤立していった。その結果客は遠のき、店は経営を継続するのが困難になるほど追い込まれていた。純平の元を去ったリナは実家を頼ったが、両親は「お前のような恥知らずな娘はいらん」とリナを勘当したという。両親の気持ちを考えれば当然のことだ。しかしリナは自分のしたことを棚に上げて、「ひどい親だと思いませんか?先輩」と泣きついてきたのである。

純平といいリナといい、似た者同士とはよく言ったものだ。長文でだらだらと書かれたメッセージを見た私は、そのままリナの連絡先をブロックした。

その後、弁護士を通じて純平とリナの両名に慰謝料を請求する裁判を行った。私が当然無条件で勝利し、2人の財産は差し押さえられることとなった。しかしすでに貯金も底をついていた2人からはわずかなお金しか得られない。そこで弁護士は、今後の収入から支払いをするよう差し押さえをかけたのだという。どこまで行っても慰謝料の支払いから逃れられないと悟った純平は、その場しのぎで借金をしたらしい。2人は取り急ぎ再就職をしようとしたようだが、木さぎ電気を敵に回した2人がまともな仕事に就くことは絶望的だった。純平は日払いのアルバイトを転々としながら、連日借金の取り立てに遭っているという。リナはモデルとしての仕事は皆無となり、業界からも追放されてしまったようだ。仕方なく生活のため夜の街で働き始めたが、客の男性から金銭を騙し取ったらしく、夜の街からも追放された。その後は住み込みの風俗店で働いたそうだが、あまりの過酷さに夜逃げ同然で逃げていったという。

私はと言うと、自分で立ち上げた会社を信頼できる仲間たちと育て上げ、順調に実績を積み上げている。両親は移住先の沖縄で優雅な老後生活を満喫し、私も仕事の休みを利用して時々顔を出している。純平はしつこく私に接触しようとしてきたが、その度に警察に通報し、最近になって逮捕されたと連絡があった。しばらく勾留されることとなった純平に、私は心のどこかで安堵したのだろう。釈放された後も軽犯罪を繰り返しては度々警察のお世話になっているらしい。どこまで行っても自分勝手さは治らないようだ。

私は2年後に会社を売却することを計画し、次なる事業の立ち上げに奔走している。父にどこまで追いつけるか分からないが、私なりにやれる限りのことをやっていこうと思っている。独り身になった私の元に交際を申し込んでくる男性もいないわけではないが、今は仕事に集中し、父の背中を追いかけていきたい。

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