義妹が夕食の席で立ち上がり、お腹を撫でながら「子供ができました」と宣言した。つい数日前、私が流産したばかりだというのに。義母は「お姉さんが産めないおかげで、この子が後継ぎになれる」と嘲笑った。私は必死に笑顔を作り「おめでとう」と祝福した。すると義妹が勝ち誇ったように言った。「強がっちゃって、本当はすごく悔しいんでしょ」。私は静かに口を開いた。「いいえ。それより、その子……私の夫の子よね」。そ…

義妹が夕食の席で立ち上がり、お腹を撫でながら「子供ができました」と宣言した。つい数日前、私が流産したばかりだというのに。義母は「お姉さんが産めないおかげで、この子が後継ぎになれる」と嘲笑った。私は必死に笑顔を作り「おめでとう」と祝福した。すると義妹が勝ち誇ったように言った。「強がっちゃって、本当はすごく悔しいんでしょ」。私は静かに口を開いた。「いいえ。それより、その子……私の夫の子よね」。そ...

夕食の席で、ミチルが突然立ち上がった。義家族が全員揃った、いつもの晩餐の場だった。

「報告があります。実は私、子供ができました」

彼女は大げさに腹部を撫でながら、勝ち誇ったように言い放った。つい先日、私が流産したばかりだというのに。

「お姉さんより先に、私がお母さんね」

その言葉は、まるで私の心の傷口に塩を塗り込むかのようだった。ようやく宿った命を失った悲しみは、まだ胸の奥で燻っているというのに。

「子供を産めない人が悪いのよ」

義母がミチルを庇うように口を挟む。

「ミチルちゃんは立派ね。お姉さんが子供を産まないおかげで、この子がこの家の後継ぎになれるんです。お姉さんにも感謝しないとね」

二人は私を嘲笑うように、必要以上に持ち上げ合った。

それでも私は怒りも悲しみも押し殺し、必死に表情を崩さないよう耐えた。

「おめでとう。良かったわね」

精一杯の笑顔を作り、私はミチルを祝福した。

するとミチルはますます調子に乗ったのか、唇の端を持ち上げて私を見下すように言った。

「強がっちゃって。本当はすごく悔しいんでしょ」

しかし、その時の私はもう、傷つくだけで終わる私ではなかった。

「いいえ、悔しくなんてないわ。それより、ミチルさんが妊娠した子……私の夫の子よね」

私の言葉に、その場の空気が凍りついた。

――私は杉田知沙、三十歳。専業主婦として、夫の義実家で義両親、義弟夫婦と共に暮らしている。私が嫁いだ杉田家は、地元の名士と呼ばれる資産家で、義母はプライドの高い人だった。結婚の挨拶に訪れた時から、一般家庭出身の私のことが気に入らなかったらしい。

「どうして底辺家庭の娘と結婚するんだ」

義母は幸夫に詰め寄っていた。それでも幸夫が「自分で選んだ人だ」と強く言ってくれたため、私たちは結婚することができた。

しかし、結婚生活は私にとって過酷なものとなった。義母は私のことを「出来損ない」「底辺の娘」と罵倒し続けた。

「長男の嫁が底辺の娘だなんて。本当、幸夫は何を考えてるのかしら」

家事は全て私に押し付け、その一つ一つに文句をつけてくる。それでも私はどこの家庭にもある嫁姑問題だと思い、いつか分かり合える日が来ると自分に言い聞かせていた。

しかし、分かり合える日など、ついに来なかった。

義実家には私よりも先に結婚した義弟夫婦が住んでいたが、義母は義弟の嫁であるミチルのことを可愛がっていた。義弟の智彦は、華麗なる一族の中で唯一大学に入らず、漫画家として活動している。しかし出版しても鳴かず飛ばずで、売れない漫画家として見下されていた。

その智彦と結婚してくれたミチルのことが、義母は可愛くて仕方ないらしい。何をするにも私とは真逆の対応をしていた。

義母がこれほどまでに私を嫌う理由は、他にもあった。幸夫と結婚して三年が経っても、私は子供に恵まれなかったのだ。それがさらに私の立場を追い詰めていく。

義母は親戚の前でも平気で「長男の嫁としての勤めを果たせない無能」と嘲笑し続けた。

「底辺な上に子供も産めない役立たずだなんて、恥ずかしいったらありゃしない」

子供のことを責められると、何も言い返せない。しかし、子供ができないのは私だけの問題ではない。

「お母さんに子供のことで攻められるのは辛いわ」

「何を言ってるんだ?母さんの言う通りじゃないか。お前の努力が足りないから子供ができない」

幸夫は私の味方にならないばかりか、義母に同調して私を攻め立てた。

どうして私に子供ができないのか。悩んだ私は、ある日産婦人科を受診してみることにした。

しかし結果は異常なし。医師に問い合わせても、「原因は様々ある」というだけで明確な答えは得られなかった。

「もしかしたらご主人に問題があるのかもしれませんね」

医師にそう言われ、私は幸夫に相談してみることにした。

「子供ができない原因を調べたいから、一度病院で検査を受けてもらえないかな」

「んで俺が?俺はどこも悪くない」

幸夫は自分には問題がないと検査を拒んだ。

「子供ができないことを幸夫の責任にしようだなんて、どこまで恥知らずな嫁なんだい?」

義母は激しく私を罵倒した。ミチルも義母と一緒になって私を避難する。義母が気に入っているミチルに意見することなどできるはずもなく、私は黙り込むしかなかった。

この家に私の居場所はない。この頃には私は完全に孤立していた。家の中に味方はおらず、親戚たちからも冷たい視線を送られる。普段から何かにつけて私に子供はまだかと詰め寄ってきて、それを面白がるかのようにミチルが嫌味を言ってくるのだ。

とはいえ、誰に相談することもできなかった。実家の両親は私が資産家に嫁いで幸せに暮らしていると信じている。友人たちでさえ、「地元の名士に嫁いだ私の贅沢な悩みだ」とまともに話を聞いてくれなかった。

子供を産むための道具として扱われることに黙って耐えるしかない毎日は、苦痛でしかなかった。

――しかし、そんな日々に転機が訪れた。第一子となる子供を妊娠したのだ。

ある日、いつものように家事を行っていると、突然吐き気に襲われた。考えてみれば、毎月来るはずのものも来ていない。もしかしたらとクリニックを訪れると、「おめでとうございます」と告げられた。

これで嘲笑され続けてきた日々も終わる。私は晴れやかな気持ちで家に帰り、妊娠を報告した。

「なんだって?本当に俺の子なのか?」

「あなた以外に誰がいるっていうの?」

幸夫は喜ぶどころか、私の浮気を疑った。

「これまで全くできなかったっていうのに、急に子供ができるなんておかしいわ」

義母も幸夫に同調し、私が云々するつもりではないかと疑ってかかってきた。

「お腹の子は幸夫の子供に間違いないわ」

「そんなこと分かったものじゃないわ。底辺家庭の人は何をするか分からないもの。人のものだって平気で奪う。そうでしょ」

「子供は幸夫の子です」

「生まれたらDNA鑑定してやる。浮気だと分かったら、ただじゃ済まさないからな」

あくまで疑ってくる二人だが、子供が生まれたらきっと変わってくれる。そう信じていた。

――しかし、それからというもの、私の妊婦生活は過酷なものとなった。

義母とミチルは「妊娠は病気じゃない」と言い、連日私に重労働を課してくる。数ヶ月後に法事があるからと口実を作って、広間の大掃除や庭の手入れ、物置の片付けまで私に命令してくるのだ。

重い荷物を持ったり、過度な運動は流産の危険を高めると医師からは無理をしないように言われていたが、私に拒否権などない。

それでもようやく授かった子を危険に晒したくない私は、ある日二人に少し家事を手伝ってもらえないかと相談してみることにした。

「私は大好きな旅行に行くのを我慢して、家のことをやってるのよ。それなのに妊娠したくらいで偉そうに」

「医者は大げさに言うものよ。妊娠したからって、あなただけ特別扱いなんてできないわ」

二人は必要以上に私を追い込み、体も心もボロボロだった。朝早くから夜遅くまで一日中こき使われ、つわりのせいで食事もまともに食べられない。それでも誰一人私を気遣ってくれる者もおらず、無理をして二人の命令に従うしかなかった。

――そんな中、ある日。二階で洗濯物を干し終え、夕飯の準備をしようと一階に降りるため階段に足をかけた時だった。

急に目の前が真っ暗になり、私の世界が揺れた。

次の瞬間、私は階段の下まで転落した。激しい痛みがお腹に走り、生暖かいものが足を伝う。

焦った私は痛みに耐えながらスマホを取り出し、救急要請した。その直後、自分がどうなったのか分からない。

気づけば病室のベッドに寝かされていた。看護師に「階段から転落して意識を失っていましたよ」と教えてもらい、状況が蘇ってくる。

「赤ちゃんは……お腹の子は無事なのか」

近くにいた看護師に問いかけると、彼女は「残念ですが」と言って、私の流産を告げた。

悲しくて仕方なかった。ようやく宿った命を守れなかった罪悪感に襲われ、私は取り乱してしまった。

どれくらい経っただろうか。涙で腫れた目を気にする余裕もなく、私は病室のベッドで呆然と過ごしていた。そこに義母と幸夫がやってくる。

「無能の不注意で後継を失った。無責任だ」

「長男の俺と結婚しておいて、子供一人守れないのか」

二人は私を労わるどころか、激しく罵倒してきた。

医師の話では、私が目まいを起こした原因は過労とのことだった。義家族たちがもっと私を気遣ってくれたなら、子供を失うこともなかっただろう。そう思うと悔しさばかりが込み上げる。

「お前にはもう期待しない」

幸夫は私に見切りをつけたと宣言し、離婚も考えると言い放った。

退院し、家に帰ってからは幸夫と寝室を共にすることもない。幸夫は私を避けるようになり、夜な夜な外出を繰り返していた。

――ある日、朝方帰ってきた幸夫から女性の香水の匂いがした。その匂いに私は覚えがあった。

ミチルの香水と同じ匂い。

まさか、幸夫は実の弟の嫁であるミチルと不倫関係にあるというのか。にわかには信じがたいことではあったが、それからも度々ミチルの香水と同じ匂いをまとって帰ってくる幸夫に、不審感ばかりが募っていく。

ミチルと同じストラップをつけ始め、ミチルが選んだスーツを着る幸夫。さらに幸夫のスーツのポケットから、ミチルが愛用しているリップが出てきたこともあり、やがて疑いは確信へと変わっていった。

二人の関係を明らかにする必要がある。そう思った私は密かに探偵を雇い、幸夫とミチルの浮気調査を依頼した。それと同時に、ミチルの夫である智彦を訪ねた。

「二人が不倫関係にあるようだと」

打ち明けても、智彦は動揺した様子がない。

「……気づいてたの?」

「うん、気づいてたよ」

智彦はミチルの裏切りに気づきながらも、何も言えないという。

「どうして?あなたはこの家の正当な息子でしょ」

「ミチルがいるから、僕は漫画家を続けていられるんだ。母さんもミチルのことを気に入ってる。僕が何か意見できる立場じゃないんだ」

「だから不倫を黙認するの?相手はあなたの兄なのよ」

「ミチルの浮気は許せないけど、相手が兄さんだったらなおさら何も言えない」

智彦は自分には何もできないと煮え切らない態度を取った。実の弟である智彦なら幸夫にも強く言えるかもしれないと思っていた私の期待は、裏切られたのである。

――一ヶ月後。義家族が揃った夕飯の席で、ミチルが報告があると立ち上がった。

「実は私、子供ができました」

ミチルは大げさにお腹を撫でながら妊娠したと告げたのだ。

「お姉さんより先に私がお母さんね」

傷も癒えていない私に自慢するかのようなミチルに腹が立つ。義母もミチルを褒め称え、私の心を抉っていく。

「お姉さんが子供を産まないおかげで、この子がこの家の後継ぎになれるんです。お姉さんにも感謝ですよ」

「底辺の女が産んだ子が後継ぎにならなくてよかったわ」

二人は必要以上に私を嘲笑した。

「おめでとう。良かったわね」

私は精一杯の笑顔を見せ、ミチルを祝った。

「強がっちゃって。本当はすごく悔しいんでしょ」

「いいえ、悔しくなんてないわ。それより、ミチルさんが妊娠した子……幸夫の子よね」

私の言葉に、その場が凍りついた。

「何を言うの?智彦の妻であるミチルが、義理の兄と不倫したとでも言いたいわけ?」

「ええ、そうですよ」

私は探偵から受け取った調査報告書を差し出した。そこには幸夫とミチルが密会していた事実を映した写真も添付されている。

「嘘よ。こんなの出鱈目だわ」

義母は自慢の息子である幸夫が弟の妻と不倫するはずがないと激しく抵抗して見せた。

「これは正当な調査の結果です」

「信じないわ。出前DNA鑑定で白黒つけてやる」

義母はミチルのお腹の子のDNA鑑定を行うと言い、自ら高額な費用を支払って鑑定を強行した。

数日後、鑑定結果が送られてきた。しかし、幸夫との親子関係は認められなかったのだ。

「ほら見なさい。幸夫は無実よ」

鑑定の結果に義母は鼻を高くして私を見下していた。しかし、それに幸夫が反論したのだ。

「そんなはずはない。ミチルは俺の子だって言ったんだ」

幸夫は自ら、ミチルとの不倫を告白したのだ。

「やっぱり二人は不倫関係にあったのね」

「それがどうした?子供も産めないお前なんて必要ない。俺はミチルと一緒になる。ミチルの子供を作ったのも、そのためだ」

幸夫は一年ほど前からミチルと不倫関係にあったという。私と離婚し、ミチルと再婚するには義母を納得させる必要がある。ミチルが自分の子を産めば、間違いなく義母は幸夫とミチルの結婚を後押しするだろう。そう踏んでいたのだ。

しかし、幸夫の宣言にミチルは慌てた様子を見せた。

「嘘よ。この子は間違いなく智彦の子です」

ミチルは不倫を否定した。杉田家の嫁としての立場を危うくしたくなかったのだろう。自分の夫の兄と不倫していたことが事実だと判明すれば、厳格な義母の怒りを買うことにもなる。そうなればミチル自身の立場も悪くなってしまう。

「何を言ってるんだ。子供ができたらお互いに離婚して一緒になろうって約束しただろう」

「そんな約束ないわ。この子は智彦と愛し合ってできた子よ」

ミチルは必死に抵抗して見せた。

その時、それまで沈黙していた智彦が口を開いた。

「……僕の子なんてありえない」

「ちょっと、何言ってるの?ありえないことなんてないわ」

「いや、100%無理なんだ」

智彦は自身が無精子症という病気であることを明かし、ミチルが自分の子を妊娠するのは不可能だと言った。

――ちょっと待って。それじゃあ、ミチルは一体誰の子を妊娠したというの?

ミチルが妊娠した子の父親が幸夫でも智彦でもないとしたら、彼女は幸夫以外にも肉体関係を持っている男性がいることになる。

「待ってよ。そんなはずないじゃない」

ミチルは動揺した様子を見せた。

その時、静かに話を聞いていた義父が、なぜか突然出かけると立ち上がった。

「ゲートボールに行ってくる」

「空気読んでよ、あなた」

「約束してたのを思い出したんだ」

義父はそそくさとしようとしたが、そこに音声が流れた。どうやら智彦が流したようだ。

「こんなこと、お母さんに知られたら……」

「なあに、あいつは何も疑ってない。大丈夫だ」

「あ、でもダメです……」

――その声は、間違いなくミチルと義父のものだった。

「何よ、これ」

義母は驚きを隠せないようだ。続け様に、今度は義父と智彦の会話が流れた。

「父さん、ミチルと浮気するなんて、あんまりだ」

「いいか、この家にいたかったら、このことは絶対に母さんに言うな」

驚いたことに、家長である義父までもがミチルと不倫関係にあったのだ。

智彦はミチルが幸夫だけでなく、父とも関係を持っていることに気づいていた。それでも、無職の自分が悪いと思い、何も言ってこなかったらしい。しかし、家族である父と兄が自分の妻と不倫している事実は、大きな苦痛だった。なんとか不倫をやめさせようと義父に話をしても、義父は鼻で笑い、智彦の立場が弱いことをいいことに強く口止めしていたのだ。

「無職のくせに、出鱈目言わないで」

真実を知った義母は激しく怒り狂い、溜め込んでいたへそくりを全額投入して、義父のDNA鑑定を行った。

結果を待つ間、義実家には重苦しい空気が流れた。幸夫は家に帰って来なくなり、義父母と顔を合わせても口も聞かず目も合わせようとしない。義母もあれほど可愛がっていたミチルを避けるようになり、智彦とミチルも無言の時を過ごしていた。

――二週間後、鑑定結果が届いた。

そこには、義父の親子関係が認められると書かれていたのだ。

杉田家の家長が、次男の嫁を妊娠させていた。その事実は義家族にとって受け入れがたいことだったのだろう。しかし、科学的に証明されてしまっては、誰も反論することができない。

鑑定結果を見つめたまま、義母は放心状態に陥っていた。

「どうして……どうしてこんな……」

「ちょっと禍が差しただけだ。男なら誰でも若い女がいいもんだろ」

義父とミチルの関係は数年前から始まったらしい。当初はバレるかと肝を冷やしていた義父だったようだが、智彦の知る事実となってからは、義母の不在を狙って堂々と関係を持つようになった。

「そうだ。バレちゃったらしょうがないわね」

ミチルは開き直ったように、全ての事実を認めたのである。

ミチルが智彦と結婚した理由は、杉田家の財産だった。資産家の次男とはいえ、売れない漫画家をしている智彦と結婚すれば、必然的に自分の株は上がる。家を仕切っている義母の心を掴んでしまえば、長男がいても財産は思い通りになると思っていたようだ。

しかし、義実家で過ごしているうちに、杉田家の資産の全てを手に入れたいと思うようになった。そこで義父に目をつけたというわけだ。

ミチルに言い寄られた義父は、義母の目を気にしながらもまんまと誘惑に乗った。関係を持つ中で、義父は自分に万が一のことがあったらミチルに財産の分け与えることを約束したらしい。

それでも、ミチルの欲は止まらなかった。杉田家の財産を全て手に入れるためには、まだ一人存在が邪魔だった。長男の幸夫。彼が手にする財産も我が物にしようと考えたミチルは、私を貶め、幸夫を誘惑することにした。

そして、見事に成功した。後は子供さえ産めば、杉田家での自身の立場は不動のものとなる。そう考えたミチルは、智彦と幸夫の両方を騙し続けたのだ。

そんな中、タイミングよく妊娠が分かり、その直後に私が流産した。もはや杉田家の財産は全て自分のものと確信したミチルは、勝ち誇った顔で妊娠を報告したのである。

「ありえない!こんなことありえないわよ」

義母はその場で発狂し始め、義父に対して手当たり次第に物を投げつけた。

「ひどいわ。長年あなたを支えてきた私を裏切っていたなんて」

「お前のそういうところが前々から不満だったんだ。妻ならもっと淑やかにあれ」

「不倫を私のせいにするの?」

怒り狂った義母は、その場で離婚を宣言した。

「きっちり慰謝料を支払ってもらうわ。鑑定に使ったへそくりも全額返してもらいますから」

義母は義父に激しく詰め寄り、ミチルにも慰謝料を請求すると言いまいている。

私は静かに口を開いた。

「そのへそくりですけど、私の私物を勝手に売ったものですよね」

その瞬間、義母の顔色が変わった。義母が盗みを働いていたことが私にバレていると悟り、焦っているのだろう。

「何を言ってるの?あれは私が生活費を節約して貯めたものよ」

義母は私に隠れて、度々私の部屋からブランドのバッグやアクセサリーを盗み出していた。それを売却したお金を、へそくりとして溜め込んでいたのだ。

私はスマホを開き、自分の部屋に仕掛けておいた監視カメラの映像を流した。そこには、義母が私のものを盗み出す姿がはっきりと写っていた。

「これが動かぬ証拠です」

証拠を突きつけられ、義母は何も言い返せないようだ。唇を噛みしめ、私を睨みつけている。これまで底辺と見下してきた私に足元を救われたことが、よほど悔しいのだろう。

「盗んだのは私の意思じゃない。全部ミチルにそそのかされたのよ」

義母は私を追い出そうと考えていたミチルの口車に乗り、盗みを働いていたという。

「喜んで実行したのはどこのババアだよ」

ミチルはあくまで自分はアドバイスをしただけだと言い放った。

「あんたって人は、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むの?」

義母は大粒の涙を流しながら、ミチルに掴みかかった。

「俺のミチルによくも手を出したな」

幸夫は義父に殴りかかっていた。

「彼女が俺を乗せたんだ。文句があるなら彼女に言え」

「お父さんもお兄さんもひどいよ」

義家族たちは、互いに罵り合い、物が飛び交う修羅場と化していた。

その様子を見ながら、私は冷たい感情が湧き起こった。誰一人自分の行動を反省することもなく、互いに責任を擦り付け合う姿は、醜いとしか思えない。信じていたはずの幸夫にさえも、嫌悪感が湧き起こる。

「離婚しましょう」

私は記入済みの離婚届を置いて、一人で家を出ていった。

――その後、義父と義母は離婚し、義父は多額の慰謝料を義母に支払ったらしい。しかし、義母が受け取った慰謝料は、そのまま私への示談金と損害賠償として支払うことになったのだ。

ミチルにそそのかされたとはいえ、義母が私に対して行ってきた嫌がらせの数々や、流産の原因となった過労を許せるはずがない。義実家を出た後、私は弁護士を訪ね、正式に訴える準備を整えたのだ。

弁護士から連絡を受けた義母は、杉田家の名前に傷をつけたくないと私の主張を全面的に受け入れ、支払いに応じたのである。

その結果、義母の手元には一円のお金も残らなかった。

義父母と離婚し、家を出た義母は、その後小さなアパートで暮らし始めたようだが、生活は困窮するばかり。生活のためパートを始めたようだが、長年贅沢に暮らしてきたためか、浪費癖が抜けなかったのだとか。

ミチルは智彦に離婚を言い渡され、義母と智彦、そして私に慰謝料を支払うことになった。義実家から追い出されたミチルは、お腹の子を抱えながら実家を頼ったそうだが、すでに私から彼女の悪業の数々を聞かされていた両親は、玄関にさえも入れてくれなかったらしい。

実の両親に見放されたミチルは、泣く泣く一人で出産したそうだ。その後は小さなアパートに身を寄せ、義父の子を一人で育てているらしい。しかし、多額の慰謝料を支払いながら昼夜問わず泣き叫ぶ子供の声に苛立ったミチルは、いつしか家に帰らなくなっていた。

連日激しい勢いで泣く赤ん坊の声を異常に感じた隣人の通報により事態が発覚したのだが、ミチルは育児放棄してホストクラブに通っていたそうだ。その結果、ミチルは保護責任者遺棄の罪で逮捕され、子供は児童相談所が保護することになった。

義父との関係がこじれた幸夫は、不倫していたことが会社にばれ、周囲から白い目を向けられたのだとか。プライドの高い幸夫にはそれが耐えられなかったらしい。その後、自ら退職願を出して会社をやめてしまったのだとか。収入がなくなった幸夫は、多額の慰謝料の支払いができなくなり、人知れず姿を消してしまった。その後はどうしているのか、誰にも分からない。

ミチルと離婚した智彦は、その後家を出て一人暮らしを始めたようだ。今回の義実家での騒動をネタに新作漫画を書き上げた。その漫画がSNSで大ヒットしたのだ。

ようやく一流漫画家の仲間入りを果たした智彦に、ミチルはよりを戻そうと言い寄ったそうだが、彼はそれを拒否し、今でも一人で創作活動を続けている。杉田家とも縁を切り、自立した生活を手に入れた智彦は、すっかり自信を取り戻し、今までには見せたことのない笑顔を見せて新作漫画の記者会見に臨んでいた。

「僕を変えてくれた姉さんには、感謝してもしきれない」

私の行動が智彦の勇気になったと感謝され、私も誇らしい気持ちでいっぱいになった。

その後、私は手にした慰謝料をもとに、長年の夢だったブックカフェを開店した。智彦とはあれからも良好な友人関係を築いており、店では時々彼のサイン会も開いている。

亡くなってしまった我が子を思うと、今でも胸が痛む。だが、それでも前に進むしかない。

生まれることもできなかった小さな命を思いながら、私は強く逞しく生きていくと心に誓っている。

これからは誰かの言いなりになんてならない。自分の守りたいものをしっかり守れるように、強く生きていくのだ。

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