「お前が今から作った料理を食うと思うなよ。俺たちはもう、お前の面倒なんて見てられないんだよ。」…

「お前が今から作った料理を食うと思うなよ。俺たちはもう、お前の面倒なんて見てられないんだよ。」...

「俺が他の奴らみたいにまともな後ろ盾でもあれば、こんな苦労はしなかったんだ。」

息子の正斗が、夕食の席で妻の弓と一緒に、母親の福子に向かってそう言い放った。福子が生涯をかけて働き続けてきた手で作った料理は、弓に「今時誰がこんな臭いもの食べるんですか」と鼻をつまんで拒否されていた。

「母さんに少しでも能力があったら、俺がこんな苦労することはなかったんだ。」

福子は何も言い返せなかった。長年耐えてきたことが、この日の夕食の場で全て壊れていくのが分かった。息子夫婦の目は、もはや自分を「親」として見てはいなかった。

その数日後、夫の会社が倒産の危機に瀕していると知り、正斗は家の中で暴れ始めた。ソファのクッションを叩きつけ、植木鉢を蹴飛ばし、テレビのリモコンを壁に投げつけた。割れたガラスと飛び散った土がリビング中に散らばる中、正斗は福子に指を突きつけた。

「全部母さんのせいだ。」

そして、弓が冷たく言い放った。

「私たち、もうお母さんと一緒には暮らせません。」

冬の夜だった。身を切るような風が吹く中、福子は古びた鞄一つを手に、息子夫婦のマンションから追い出された。玄関のドアが重い音を立てて閉まる。冷たい廊下に一人残された福子の目に、涙はなかった。

彼女の足取りは、追い詰められた老婆のものではなかった。福子は古い公衆電話ボックスに入り、コートの内ポケットから手垢のついた手帳を取り出した。震える指で一つの番号を押す。数回の呼び出し音の後、電話の向こうから若い男の声がした。

「木村秘書かね。私だ。もうその時が来たようだ。」

それは弱々しい老人の声ではなかった。低く、力強く、聞く者を圧倒する声だった。電話の向こうで一瞬の沈黙があり、そして木村秘書の震える声が返ってきた。

「会長…!本当に鈴木福会長でいらっしゃいますか?」

翌朝、帝国ホテルのペントハウス。福子は鏡の前に座り、スタイリストチームの手によって、その姿を変貌させていった。白髪は深みのあるダークブラウンのショートヘアに。ボロボロの肌は手入れが行き届き、鋭い眼光は一層際立っていた。彼女はかつて日本の経済界を牛耳った「鉄の女」、明城グループの鈴木福会長に戻っていた。

弁護士と税理士が持ってきた資産報告書にはこうあった。

「銀座一体の不動産資産は約470億円、銀行預金が80億円、株式及びファンド資産が150億円。現在までの総資産は698億円でございます。」

福子は眉一つ動かさず、「それだけか」と呟いた。彼女の頭の中には、ある計画があった。

「財団を設立する。金がなくて学べない子供たち、食事にも事欠く老人たち。私が全て面倒を見る。まずは100億から始めよう。」

そして記者会見を開き、こう宣言するつもりだった。
「明城グループの鈴木福が、20年ぶりに帰ってきた。」

その頃、正斗と弓は、幸せだった日々とは全く別の世界にいた。会社は倒産し、家は差し押さえられた。高級ブランド品は全てなくなり、二人は一泊3000円のボロボロのビジネスホテルに身を寄せていた。互いに責任をなすりつけ合い、罵り合う毎日。華やかだった過去は全て消え去り、カビ臭い現実だけが彼らを押し潰していた。

数日後、当てもなく街を歩いていた正斗は、地下鉄の新聞スタンドの前で足を止めた。一面の見出しが目に飛び込んできた。

「帰ってきた鉄の女。明城グループ鈴木副会長、資産700億、当時設立へ寄付。」

正斗は信じられない思いで写真を見た。そこには、高級スーツを身にまとい、気品溢れる姿で微笑む母親がいた。彼が知っている、見窄らしく、気の弱そうな母親の面影はどこにもなかった。手入れの行き届いた髪、穏やかだが揺るぎない眼差し。全てが見慣れないものだった。

手が震えた。ポケットの1000円札で新聞を買い、その場で記事を読む。彼が一生かけて稼いでも手にすることのできない金額。想像すらできない数字。そして、その大富豪を「厄介者」と追い出した自分たちの愚かさに、正斗は全身の力が抜けていくのを感じた。

正斗は携帯で弓に電話をかけた。

「ゆみ、今すぐ出てきてくれ。俺たちの母さんが、新聞に出てる。明城グループの会長だって。」

「はあ?頭おかしくなったの?寝言はいいから、お金を用意してきなさいよ。」

「本当なんだ!資産が700億だって!」

その瞬間、電話の向こうの弓の息遣いが止まった。

帝国ホテルのロビーに、正斗と弓は現れた。二人はフロントで「鈴木福会長に会いたい」と告げたが、従業員に冷たく拒否された。警備員が近づき、「会長はお会いになりたくないとのことです」と伝える。

その瞬間、正斗はその場に音を立てて膝をついた。

「母さん!この親不幸な息子が参りました!私が全て悪うございました!」

弓も隣で膝をつき、滝のように涙を流し始めた。

「小姑様!私たちが死んでお詫び申し上げます!」

ロビーはあっという間に見物人で一杯になった。人々はスマートフォンでこの光景を撮影し、ひそひそと話し始めた。二人の泣き声が響き渡る中、ロビー二階の手すりの向こうに、黒いスーツを着た福子が現れた。かつての見窄らしい姿は影も形もなく、その眼差しには冷たい諦念と完全な断絶の色だけがあった。

福子は隣に立っていた伊藤弁護士に、極僅かに頷いた。それが合図だった。伊藤弁護士が書類鞄を手に階段を下り、膝をついた二人の前に立ち止まる。彼は何の感情もない顔で、書類封筒を床に投げ捨てた。

「鈴木副会長の最終的なご意思をお伝えに参りました。これは親子関係不存在確認の訴状です。そして、こちらはお二方に対する接近禁止命令の申立書です。本日を持って、あなた方は鈴木会長の半径100m以内に接近することが禁止されます。」

弓の顔から血の気が引いた。

「また、会長の全財産は社会に還元される予定であり、あなた方には1円とも相続されないことを公式に通知いたします。」

「1円も…くださらないって…。」

弓がその場に崩れ落ちた。正斗が顔を上げ、二階に向かって絶叫した。

「母さん!どうして私たちにこんなことが…!それでも私たちは母さんの子供じゃないですか!」

しかし、二階の手すりはすでに空だった。伊藤弁護士の声は氷よりも冷たかった。

「会長は、あなた方のことなど、昨日を持ってすでに亡くなった子供だと見なしておいでです。二度とお越しにならないでください。」

数週間後、都内のホテルで明学財団の設立記者会見が開かれた。福子は壇上に立ち、静かに語り始めた。

「私は貧しい家庭に生まれ、学ぶ機会には恵まれませんでした。夫と共に銀座で小さな定食屋を始め、懸命に働きました。財産は築きましたが、お金が幸福を保証してくれるわけではないということを、最近になってようやく悟りました。」

ある記者が鋭く質問した。「会長のご決心に影響を与えた、特別な個人的な事情でもあったのでしょうか?」

福子はカメラをまっすぐ見つめ、答えた。

「詳しいお話は差し控えますが、見捨てられ、孤独になった老人たちの悲しみを、私自身も骨身に染みて感じる機会がございました。」

そして、決して強くはないが、その場の誰もが聞き逃さない声で、こう付け加えた。

「私に家族はおりません。今は私一人です。」

それは、日本全国に生中継された、公式の絶縁宣言だった。

その頃、東京の最も寂れた地区の、古い集合住宅の一室で、正斗と弓は冷たい床に横たわっていた。窓の隙間からは冷たい風が吹き込み、部屋の中には二人の重い沈黙が満ちていた。正斗の目尻から熱い涙が一筋、音もなく流れ落ちる。彼の頭の中では、過ぎ去った日々が繰り返し再生されていた。母親の人生そのものを踏みにじった残酷な言葉、今時誰がこんな臭いもの食べるかと母親の真心を踏みにじった瞬間。その全てが、自分がこれほどまでに軽蔑していた姑の金で贖っていた贅沢だったという事実が、今になって耐え難い苦しみとなって襲いかかってきていた。

「母さん…。」

その三文字を、彼は心の中だけで何千回、何万回と繰り返した。しかし、その言葉が届くことは、もう二度とないのだった。
彼らの後悔は、行き場もなく冷たい部屋の中を彷徨い、やがて彼ら自身を蝕んでいくのだった。

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