七五三の当日、義母は私の息子に枯れ葉を手渡し、「中卒嫁の息子の衣装は葉っぱ1枚で十分」と笑った。大卒の嫁の孫だけを可愛がり、私の父までも「どうせ中卒でしょう」と見下してきた。目の前で息子が泣き、父が怒りに震えるのを見て、私はもう黙っていられなかった。義母たちがまだ気づいていない、私の本当の姿を知った時、この人たちはどうするのだろう。私は静かに、決定的な一言を口にしようとしている。…
「中卒嫁の息子の衣装は葉っぱ1枚で十分よ」 義母はそう言って、枯れ葉のような葉っぱを私に手渡した。目の前で起きていることが信じられなかった。夫の克も、義母の言葉を聞いて驚愕している。この日は息子・かずきの七五三のお祝いのため、私の父も一緒に高級料亭に集まっていた。それなのに義母はお構いなしに好き放題言っている。それどころか、「やっぱり集一郎君は可愛いわね。大卒の嫁の子供はやっぱり違うわ」と言って、義兄夫婦の息子・一郎君だけを可愛がる始末だ。これには父も顔を歪め、怒りをこらえているようだった。さらに義母は、父を見下すような発言まで始めてしまった。私も父も、言葉を失ってしまった。だが、私の正体が明らかになった時、義母は膝から崩れ落ちることになるのだった。 私の名前は小寺美咲、31歳。夫の克と息子のかずきと3人で暮らしている。私は4年前、女性向け雑誌の編集者として働いていた。女性が多い職場に、転勤してきたのが克だった。女性社員たちの中で誰よりも一生懸命仕事をしていて、ハンサムな見た目に、女性以上に気配りができる克はすぐに人気者になった。一方の私は地味で、克に興味もなく、毎日仕事に専念する日々を過ごしていた。 ある日のこと、職場の飲み会に参加したところ、克の方から私に近づいてきた。そして驚くべきことを言ったのだ。 「やっとお話できましたね。ずっと美咲さんと話してみたいと思っていたんですよ」 私は驚いて、思わず笑ってしまった。 「私なんかと話したい人なんて、今までいませんでしたよ」 すると克は顔を歪めた。 「そんなこと言わないでください。美咲さんは誰よりも仕事を頑張っていて、笑顔も素敵だし、何より優しい。俺はそんな美咲さんのことが大好きなんです」 そう言いきると、克は顔を真っ赤にした。人気者の克が私に気持ちを伝えてくれている。信じられなかった。その後、克は私の目を見て告白してくれた。その日は返事をせずに終わったが、その日から私は克が気になって仕方なくなってしまい、やがて正式に交際を始めた。克はいつも優しく、私の味方だった。いつの間にか、克がそばにいる生活が当たり前になっていった。 プロポーズされたのは、付き合い始めて数ヶ月が経った頃だった。いつしか克との結婚生活を夢見ていた私にとっては、夢のような出来事だ。私はすぐにその申し出を受け入れ、私たちは夫婦になった。そしてすぐに一緒に住み始めた。 実は克には父親がいない。幼い頃に両親が離婚し、義母が女手一つで克と弟の翔太さんを育て上げたのだ。その事実を聞かされたのは結婚前だった。克は、私と結婚したら義母と同居したいと言い出した。女手一つで育ててくれた母を思う気持ちは、痛いほど分かる。なぜなら私も片親に育てられたからだ。私の母は私がまだ赤ちゃんの時に病気で亡くなり、父が一人で育ててくれた。働きながらの家事育児は本当に大変だったと思う。それでも父はいつも笑顔で私に接してくれた。義母もきっと同じような状況だったのだろう。数々の困難を乗り越えて、私たちは成長させてもらったのだ。克が大事にしている人は、私にとっても大事な人。克の母親なら、私も大切にしたい。そう思い、私は同居に快く同意した。 そんな私に、父は心配そうな顔をしていた。 「義母さんと同居するのは大変なことだぞ。大丈夫なのか?」 父は昔から、私のことになると極端に心配性になる。私は笑顔でこう答えた。 「克のお母さんだから大丈夫よ」 私がそう言っても、父は納得がいかないようだった。またいつもの父の心配が始まったと、その時は思っていたが、後に父の不安が的中してしまうことになるなど、この時の私はまだ何も知らなかった。 私たちは同居するために用意した綺麗な家に、一緒に住み始めた。私は会社を辞めて専業主婦になった。 「あなたたちと一緒に、こんなにも素敵な家に住めるなんて夢のようだわ。ありがとうね」 義母は最初のうちは私に優しく接してくれて、まるで本当の母親のようだった。家事も分担制で、どちらか一方の負担が重くならないようにと義母は配慮してくれた。母の愛情を知らない私は、義母との生活が楽しくて仕方がなかった。 それから数ヶ月が経過した頃、私たちの生活を一変させる出来事が起こった。一人暮らしをしていた克の弟・翔太さんが結婚したのだ。翔太さんは有名大学を卒業し、一流企業で働くエリート。その結婚相手になったのは、翔太さんが大学生の時の同級生であるエリだった。エリは私より二歳年上だ。二人はこの家に挨拶に来てくれた。最初は他愛もない話で盛り上がっていたのだが、エリが突然私に出身大学を尋ねてきたのだ。初めて会った人に学歴を聞かれてしまうなんて驚いたが、私は正直に話すことにした。 「中学までしか出ていないので、大学には行っていないんです」 私の話を聞いたエリも義母も、驚愕した。私は自分が中卒だということを、克以外誰にも話したことがない。二人が驚くのも当然のことだと思った。すると克が、驚く二人を前に私をフォローしてくれた。 「美咲はやりたいことがあって、大学に行く必要はなかったんだよ」 するとエリは笑い出した。 「今時中卒なんてありえないわ。いくらやりたいことがあると言っても、せめて高校は出るわよね」 エリの突然の言葉に困惑した。どうして私のことを何も知らない人に、そんなことを言われなければいけないのか理解できない。エリの隣に座っている翔太さんは、彼女を睨みつけた。それでもエリの嫌みは止まらない。 「じゃあ、高校数学とか何も分からないということでしょう。よくそんなので働けたわよね」 私は下を向いて、エリが黙るのを待った。克が私の手を力強く握りながら、エリの方を見た。 「美咲は才能に溢れていて、職場では誰よりも仕事ができていたよ。だから学歴なんて関係ないと思う」 克の言葉で胸が熱くなった。その言葉を聞いたエリも、少し静かになった。翔太さんは立ち上がり、頭を下げてきた。 「姉さん、この度はエリが失礼なことを言ってしまって、すみませんでした」 翔太さんは心からの謝罪をしてくれた。だが隣に座っているエリはそれを見て、機嫌を悪くしてしまったようだ。どうしてエリがふてくされているのか分からない。次の瞬間、義母が大きな声を出したのだ。 「あら、エリさんは本当のことを言っていただけじゃない。どうして翔太が謝るの?」 克も翔太も凍りついた。まさか優しい義母の口から、そのような言葉が出てくるとは思ってもみなかった。エリは得意げな顔をしている。義母は私の味方ではなく、エリの味方をしたのだ。 「お母さん、何を言っているんだよ」 「翔太も一流大学を卒業しているのよ。それなのに嫁が中卒だなんて、世間にバレてしまったら私が恥をかくことになってしまうわ。どうして結婚前に確認しなかったのかしら。後悔してもしきれないわ」 まさか義母がここまで学歴にこだわる人だったなんて、全く知らなかった。ショックで体が震え始めた。克はそんな義母にため息をついた。 「俺は学歴なんて関係ないと思っているよ。そもそも才能があれば、学歴なんて必要ないんだ。今時学歴にこだわる人の方が少ないよ。もう学歴の話はやめよう。楽しい話をしようぜ」 翔太さんの言葉もあり、話題は変わったが、その後も義母とエリの態度は変わらなかった。 二人が帰って行った後、克はジムに行くと言って家を出て行った。一方の私は、モヤモヤしながらも後片付けを始めた。義母はソファーに座り、テレビを見始めた。そして、後片付けをしている私に衝撃の言葉を放った。 「あなた、中卒だということをわざと黙っていたのね。それって結婚詐欺じゃない?今すぐ克と離婚しなさいよ」 私は義母の言葉を聞いて、目の前が真っ暗になってしまった。昨日までの義母はそこにはおらず、まるで別人がいるようだ。 「うちはね、高学歴の家庭なの。あなたみたいな中卒がいるだけで、周りからは好奇の目で見られることになるのよ。美咲が可哀想だと思わないの?」 義母はそう言って私を責め立てた。 「中卒のことを黙っていたことは、すみませんでした。私、そこまで学歴が大事なことを分かっていなくて、伝えそびれていました」 「それを詐欺って言うのよ。もういいから、早く出ていって」 義母の言葉に耳を疑った。同時に、どうしてそこまで学歴にこだわるのか、信じられない気持ちでいっぱいになった。私は克を愛しているし、克も私を愛してくれている。義母の言葉だけで出ていくわけにはいかない。それに、もう一つ、伝えなければいけないことがあった。 「あの……落ち着かれてから報告しようと思っていたのですが、お腹の中に克さんとの赤ちゃんがいるんです。学歴はないですが、克さんに対しての愛情は誰にも負けていません。これから家事や育児を頑張っていくので、どうか認めてもらえませんか?」 私がそう言うと、義母は驚愕した顔で私を見てきた。 「全部、計算済みということなのね。信じられないわ」 義母はそう言うと、自分の部屋へと行ってしまった。 その数十分後、手にたくさんの袋を持っている克が家に帰ってきた。 「可愛いベビー用品がたくさんセールになっていたから、つい沢山買ってしまったよ」 克はそう言うと、元気がない私に購入品を見せてくれた。まだ性別が分からないというのに、克は青いものをたくさん購入していた。 … Read more