あの晩、倉の鍵を握る私の手は震えていました。外から誰かが戸を叩いていました。声を上げれば誰か来るでしょうか。しかし、私の言葉を信じる大人は一人もいませんでした。「この小僧、倉に何かあったと騒ぎ立てる者に限って、自分の手が汚れておらぬものなど見たことがない」と、番頭様は私を叱りつけたのです。五日間の留守を狙う盗人たち。私だけが気づいていたその罠。そして、最後の夜、私は大人たちが眠る中、ひとりで…
像に何かあったと騒ぎ立てる者に限って、自分の手が汚れておらぬものなど見たことがない。 鋭い怒鳴り声が屋敷中に響き渡ったのは、その朝のことでございます。倉の鍵穴には、黄色い蝋がべったりとこびりついておりました。 日頃はうるさいほど吠え続ける犬さえ、もう三晩も声を立てません。大きな屋敷が丸ごと五日も空になる日が、明日にまで迫っておりました。この屋敷に起こる恐ろしい罠に気づいていたのは、倉の前で眠るだけの十歳の子供、ただ一人だけでございました。けれども、大人たちの誰一人として、その小さな言葉に本気で耳を傾けようとはしなかったのでございます。 さて、話は少しばかり時を遡るところから始まります。 昔々、地方の国のとある村に、大国屋という具眼者が代々受け継いだ屋敷に住んでおりました。田畑から万国もの米が上がると表され、屋敷は二棟を超え、倉が三つございました。そのうちの一つ、表も近くの米倉、ただ一つがこの物語の舞台でございます。裏の鍵はいつも女将のお常の腰に下がり、お常が庭を横切るたび、チャラリチャラリと音が鳴りました。その音が鳴りますと、屋敷中が静かになるのでございます。 その米倉の脇に、物置きに扉を一枚つけただけの小さな部屋がございました。冬は息が凍りつき、夏は鼠が天井を駆け回る、そのような場所でございました。そこで眠る子供が一人おりました。服松、年は十でございます。幼い頃に親を失い、四つ五つの頃にこの家へ来て、それ以来ずっとその部屋で眠っておりました。奉公人受け場には、名前の代わりにただ「松」とだけ記されておりました。丸顔で、嬉しそうに笑うと目が三日月のようになる子供でございましたが、この家の大人たちは滅多に頭を撫でてはくれませんでした。 倉の前で眠る子供は、倉に付属する道具のようなものでございましたから、一日は他の者より二時ほど早く始まりました。まだ星の残る時刻に、子供は倉の隙間にまず目を当てるのでございました。暗くて何も見えぬはずでございますが、その目には見えるのでございます。俵の背にかかった縄の結び目がどちら側に倒れているか、俵と俵の間がどれほど開いているかまで。昨日と変わらなければ、頷いてまた横になります。日が登ると鼠取りの罠を取り替えました。縄は一筋と枝二本、拳ほどの石ころ一つ。それだけあれば罠を一つ、立ち所に作ってしまうのでございました。番頭が町で買ってきた罠よりも、松の罠の方がよほど鼠がかかりました。松は自分がこの屋敷の何であるかを、もう考えぬようにしておりました。夜のうちに倉を見張ること。それが自分の役目でございます。可愛がられるためにここにおるのではない。そう自分に言い聞かせて過ごしてまいりました。 ただ、この家で松は、叱られることだけはございました。布団を寄せて眠る時、松はよく、自分の輪郭がだんだんと薄くなっていくような心地がいたしました。それでも子供は、倉の隙間から差し込む星明かりを見るたび、少しだけ思うのでございました。見ておるものはある。数えておるものはある。それだけは誰にも奪えぬものでございました。 そこへ後ろから足音がいたしました。 「松」 と呼ぶ声がして振り返りますと、七つになる千代が立っておりました。この家の末娘でございます。 「お嬢様。また忍んでいらしたのですね」 「忍んで来ておらぬ。ただ歩いてきただけじゃ。それを忍んだと申すのでございます」 千代はちらりと倉の奥を眺め、声を低めました。 「あの中に星がない。あろう」 「あります。二十三でございます」 千代は目を丸くしました。 「そなた、どうしてそれが分かるのじゃ」 「数えておりますゆえ」 「なぜ数える?」 「数えねば、なくなっても気づきません」 千代はその答えが気に入った様子で、松の前にしゃがみ込みました。松がため息をついて倉へ入り、星書きを一つ持って出てまいりました。 「一つだけでございますよ」 千代はもぐもぐと噛みながら尋ねました。 「そなたはなぜいつもここで眠るのじゃ」 「ここが私の場所でございますゆえ」 「冬は寒かろう」 「寒うございます」 「ならば私が出よう。私がここで眠り、そなたが奥の間で眠れば良い」 松が笑い出しました。 「それでは私はその日のうちに叱られましょう」 「なぜじゃ。私が出たのに」 「それも私が誘ったと言われましょう」 千代は眉をひそめました。十歳の子供に分かる話ではないはずでございますが、なぜか分かったような顔をしておりました。 「私はその話が気に入らぬ。私も嫌いじゃ」 それきり返事も聞かず、千代は奥の方へ駆けていきました。松は倉の前にしゃがみ込み、罠を仕上げました。縄の結び目が一つ、先ほどより少し緩くなっておりました。 この屋敷でただ一人、松を道具ではなく人として見ているものがあるとすれば、それはこの七つの子供だけでございました。千代は松に何かを頼む時、決して命じるような口を聞かず、いつも尋ねるように話しかけました。それがどれほど珍しいことか、千代自身は気づいておりませんでしたが、松はよく分かっておりました。 昼になりますと、松は台所の入り口に腰かけておりました。この屋敷の台所を三十年守ってきたお杉という者がおりました。皆に捨てられ、よその家の子供に飯を食わせながら年を重ねてきた人でございます。お杉が杓文字を手にしたまま振り返りました。 「食え」 松の前に、お焦げが一切れ置かれました。 「近頃、飯が半分になった気がするの」 「元から半分でございましたが」 「元は一つだった」 松が笑いました。目が三日月になりました。お杉は子供が台所の前を通るたび、何かしら手に握らせてやりました。口ぶりはけんか腰でも、手はそうではなかったのでございます。松にとって、お杉の台所はこの屋敷の中で唯一、倉の心配をせずとも良い場所でございました。誰も松に何かを尋ねず、誰も松の言葉を疑わない。そのわずかな間だけは、子供は道具ではなく、ただの十歳の子供に戻ることができたのでございます。 日が傾きますと、倉の鍵を下ろすものがございました。番頭の六兵衛でございます。年は五十。この家の倉を三十年、数え続けてきた人でございました。感情が細かく、仕事に抜かりがないので、人々も、六兵衛が数えたといえば二度は数え直しませんでした。三十年、一日も欠かさず鍵を下ろしてきたという自負が、六兵衛の背筋を伸ばしておりました。その自負故に、六兵衛は自分の目で見たものしか信じませんでした。六兵衛は松に興味を持っておらぬ様子でございましたが、ある冬の晩、倉の前の部屋に薄い布団しかないのを見かねてか、離れにあった古い綿入れが一枚、いつの間にか置かれていることがございました。当て木の悪くなった戸を、いつの間にか大工に直させていたこともございました。台所の残り飯が少ないと気づいたのも、口には出さぬまま、帳面の隅にそっと書き留めていたのも六兵衛でございました。それでも、誰が置いたか、誰が言いつけたかは、つい語られませんでした。朝、顔を合わせながらも、六年の間、六兵衛が松の名を呼んだことは一度もございませんでした。 村の四番の仕事は、鼠を追い、山猫を追い、かの日種を守ることでございました。松は屋敷に目を付けていても歩けるほどでございました。中庭はどの石が揺れること、縁側はどこを踏むと鳴ることも、六年、松とその上を通い続けて身についたことでございました。教わって知ったことではございません。ただ黙って、屋敷の呼吸を聞き続けてきただけでございました。 月に一度、六兵衛が倉の検分をする日がございました。 「三十三でございます」 と、戸口から言いますと、六兵衛の指が止まりました。 「三十三であったな」 「はい」 「そなた、それをどうして知った?」 「毎朝、倉の隙間から見ております」 六兵衛はちらりと子供を見やり、何も言わず、帳面を閉じて出ていきました。それでも六兵衛は、倉の中へ入れとは一度も言ってはくれませんでした。 朝の俵運びが始まりますと、この家で一番力の強い力松が俵を運び終えて庭に腰を下ろすのが、松にとって一日で一番良い時でございました。相撲一番、二人が腰紐を握りますと、力松がほんの少し力を込めるだけで、松は中に浮いて、畑の束の上に落ちてしまうのでございました。この家で松の頭を撫でる大人は、力ただ一人でございました。 … Read more