「うるせえんだよ、ババア。若い子がモテてるからって嫉妬してんのか?」…
「さっきからうるせえんだよ、ババア。せっかく俺たちが気持ちよく飲んでいるのに、いちいち文句をつけてくるんじゃねえ」 片岡はそう言うと、今にも殴りかかるような勢いで私を睨みつけた。 その日、私は行きつけの居酒屋で酒と食事を楽しんでいた。すると、ヤクザの組長である片岡が大勢の部下と共に下品に騒ぎ始めたのだ。うるさいと思いながらも様子を見ていると、片岡たちはまだ若いバイトの女の子に直接声をかけ始める。さすがに見ていられなくなって注意したところ、片岡は私を怒鳴りつけてきた。 この直後、片岡の運命は一気に転落していくことになるのだった。 私の名前はゆかり。大学生の息子がいる普通の主婦だ。子供の頃から社交的な性格だった私は、昔からたくさんの友達がいた。だが一番の親友は幼馴染みの伊藤り子だ。 り子はヤクザの家の出身で、小さい頃は周囲から腫れ物扱いされ、一人でポツンと過ごしていることが多かった。私はそんなり子を放っておくことができず、彼女に声をかけ、遊んでいるうちに親友と呼べる間柄になっていたのだ。 卒業後、り子は家の跡を継ぐためヤクザになり、私は普通の会社員になって結婚をした。それでも私とり子は唯一無二の親友として付き合いが続いており、今は私が行きつけにしている居酒屋で顔を合わせて一緒に飲む仲だ。 その日、私がいつもの居酒屋に行くと、店長が困った様子で声をかけてきた。 「川さん、今日は伊藤さんと一緒じゃないんだね」 「ええ、別にり子と待ち合わせをして一緒に来てるわけじゃないもの。私は週に数回この店に来ていて、り子とはいつも偶然店で会うってだけなの。店長、り子に何か用があったのかしら?」 「実は最近この店にヤクザらしい連中が来るようになってね。金を支払わないとか、しめ料を請求されるようなことはないんだが、酒癖も悪ければマナーも悪くて、どうしたもんかと困っているんだよ」 「それは大変ね。分かったわ。ヤクザが相手なら、り子に話を通した方が良さそうだし。私からり子に連絡しておくわね」 私たちがそんな話をしていると、居酒屋のドアが乱暴に開く。 「ああ、邪魔するぜ」 そう言いながら現れたのは、いかにもヤクザといった風体の男と、五十人近い部下らしい集団だった。男たちは若がえる顔で広い席に陣取り、ふんぞり返ってメニューを眺める。その様子を見た他の客たちは、明らかに迷惑そうな顔をすると早々に会計を済ませ、全員が出ていってしまった。 「川さん、さっき話したヤクザのような連中ってのは、あいつらのことだよ。真ん中で一番偉そうにしている男が片岡で、周囲から組長と呼ばれている。他の奴らは多分片岡の部下だろうな」 「なるほど。確かにかにも片着じゃなさそうな雰囲気ね。しかも組長なんて呼ばれているなら、ヤクザで確定よ」 「やっぱりそうだよな。あいつらいつも大人数で押しかけてくる上、散々騒ぐから、他の客たちはあいつらを見るとすぐに帰っちまうんだ。このままじゃ常連客が離れちまうよ」 店長は男たちを見ながら小声でそう告げる。一方の片岡はと言うと、早くも部下たちと大声で騒いでいた。 「おい、この店には綺麗な姉ちゃんはいねえのか? 誰か俺たちに尺をしてくれよなあ」 「そっちの姉ちゃん、若くて美人じゃねえか。ほら、もっとこっちに来てビールをついでくれよ」 片岡はアルバイトの女子大生を見ると、ニヤニヤしながら声をかける。店長はすぐさまバイトの好棒の方に下がった。 「お酌なら私がしますよ。はい、どうぞ」 そう言ってバイトの子の代わりに片岡たちの対応をする。 「なんだよ。店長が酌してもつまらねえだろうが。さっきの可愛い子はどこ行った?」 「まあ、そう言わずに。どうぞ。ビールだけでいいですか? 他のお酒も注文しますか?」 「そうだな。今日は部下たちもいるからな。ビールをたっぷり持ってきてくれ。それからつまみもたんまりよこせよな。他の客なんて後でいい。俺たちを最優先にしろ」 片岡たちはその後も大声で騒ぎながら酒を飲む。そうして一時間ほど経った頃だろうか。店長が「すいませんが、ちょっと席を外しますね。すぐに戻ってきますから」と告げ、店から出る。 店長の代わりにバイトの子がフロアに戻った途端、片岡たちはいやらしい笑みを浮かべながらバイトの子を呼び止めた。 「姉ちゃん、本当に可愛いな。今日は何時頃にバイトが終わるんだ?」 「バイトが終わったら、ちょっと俺たちに付き合ってくれねえかな? 何? 怖いことなんか何もしねえよ。姉ちゃんが今まで体験できなかったような面白い遊びを俺たちが教えてやるぜ」 片岡は部下たち数人でバイトの子を取り囲み、下心丸出しの口説き文句で迫る。さすがに見ていられなくなった私は、片岡たちに向かって声をあげた。 「ちょっと、あなたたち、いい加減にしなさい。その子は明らかに困っているでしょ。大の男が一人の女の子に強引に迫るなんて、見苦しいわよ」 「なんだよババア。若い子がモテてるからって嫉妬してんのか? ババアの嫉妬は見苦しいぜ」 「嫉妬じゃないわよ。明らかにその子が迷惑そうにしているから注意してあげたの。それとも、あなた、女の子が嫌がってるのが分からないほど空気読めないのかしら? だとしたら、あなたってよっぽどモテない男ね」 「うるせえ、ババア。余計なこと言うんじゃねえよ。せっかくこっちはいい気分で飲んでるってのに、ババアのせいで台無しだぜ」 片岡は怒りの形相で私を睨みつける。そこに戻ってきた店長が慌てて私たちの間に入ってくれた。 「落ち着いてください。店内で喧嘩されたら困りますから」 「止めるんじゃねえ。あのババアが余計な因縁つけてきたから、こっちはむしゃくしゃしてんだよ。一発ぶん殴ってやらないと、腹の虫が収まらねえ」 「それは申し訳ありませんでした。お酒を一本サービスしますから、どうか音便に済ませてはくれませんか?」 「はっ、だったら一番いい酒を頼むぜ」 片岡は吐き捨てるように言うと席に戻る。私はすぐに店長へ頭を下げた。 「ごめんなさい店長。私が余計なことを言ったから、大事になっちゃったわね。バイトの子をかばおうとしてくれたんだろう」 「川さんのせいじゃないよ。それにしても、本当に質の悪い連中だよなあ」 店長がサービスに出す酒を吟味している間も、片岡はバイトの子にしつこく絡んでいた。 「それにしても、あのババアの態度、本当にむかつくぜ。おい、姉ちゃん。このイライラを解消するため、今日は俺に付き合ってもらうぜ」 片岡はそう言うと、バイトの子の腕を強引に掴む。 「怖がらなくても、たっぷり俺たちが可愛がってやるよ」 全く反省していないその態度に腹が立った私は、再度声をあげた。 … Read more